ケルウスの日本漫遊記1
すみません、本当は昨日投稿したかったのですが、急に仕事が入ってしまって朝から晩まで仕事場にカンヅメでした……
今回はダークエルフ一行に日本各地を巡ってもらう1話目です。
――西暦2024年 10月2日 日本国 青森県 三沢市
東京を出発したダークエルフ一行は、北海道でグルメと原生林を旅した後、青森県にある航空自衛隊の三沢基地を訪れていた。
今回はここで、特別に航空自衛隊によるショーを行うことが決定したのである。ちなみに、これを一般に報道したところ、『9月にも航空祭が行われたのにまたF―35や米軍機が見られるぜヒャッハー!』と、多くの航空機マニアとミリタリーマニアが押し寄せていた。
ダークエルフ一行に日本各地を見てもらう計画を練った際に、日本でも米軍機と自衛隊機の両方が平和裏に見られるということもあってこの三沢基地の準備を進めてもらっていたのだ。
「確か、日本と、その同盟国の航空機が見られるのだったな」
ケルウスは出店で買った唐揚げ……『空揚げ』をつまみながら美月に聞いた。
「はい。こちらでは日本の航空自衛隊に加えて、日本が転移前に同盟を組んでいた世界最大の国が保有していた航空機も飛行を披露するんですよ」
国内を移動するのにも航空機を使用していたが、戦闘用の航空機と聞いて、どのような物が現れるのだろうかと楽しみにしていた。
「(旅客用の航空機ですら飛龍や巨鳥などとはまるで比べ物にならないほどの速度を出していたのだ。戦闘用ともなればどれほどの物か……)」
すると『ピンポンパンポーン』という音と共にアナウンスが始まる。
『本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。ただいまより、三沢基地第二次航空祭を開始いたします。右手をご覧ください。航空自衛隊所属の『F―35』と、在日米軍の『F―16』が、並んで飛行してまいります』
アナウンスから少し時間が経過した時、雷鳴のような轟音を上げて何かが近づいてきた。
「な、なんの音だ!?」
直後、濃い灰色の矢じりのような物体と、淡い灰色の物体が上空を通り過ぎていく。
呆然とするケルウスたちに、隣に座っている服部が説明を始めた。
「あれは、『F―35』と言いまして、我が国にわずかしか配備されていない貴重な能力を有する戦闘機なのです。また、隣を飛行しているのは『F―16』、またの名をファイティング・ファルコンとも呼ばれる戦闘機です」
『F―16』
開発段階ではドッグファイトに特化した戦闘機であったにもかかわらず、潜在能力の高さから攻撃機の能力も与えられたマルチロール・ファイターのはしりと呼ばれる戦闘機である。
アメリカ空軍において、当時強力だった『F―15』があまりに高価であったことを受け、『ハイ&ロー』の思想から『ロー』の部分を受け持たせるためにと開発された戦闘機である。
最初こそ精密誘導爆撃能力の不足など様々な能力不足が挙げられていたが、年月が経過するにつれてそれらを改良していった点が特徴である。
各種対空誘導弾はもちろん、誘導爆弾、対レーダーミサイルなど、様々な兵器を運用できることも特徴である。
余談だが、航空自衛隊の『F―2』戦闘機の外観上のモデルになった戦闘機であることは軍事に疎い方々にはあまり知られていない。
もっとも、『F―2』は様々な日本流の改造や開発技術が施されているため、『見た目だけ似ている魔改造物』と言っても過言ではないのだが。
日本ではこの米軍三沢基地を中心に配備されており、航空祭の度にマニアの目を楽しませている。
そして、この戦闘機について紹介をした最も重要な点としては、この『F―16』戦闘機の内、数機を米軍から『購入』していることであった。
その理由は、『F―3』及び『F―5』に続く更なる新規戦闘機『F―6』の開発・大量生産が目的であった。
新型戦闘機の内、『F―35』をベースにして艦上戦闘機としての運用が想定されている『F―3』はもちろんだが、『F―22』をベースにした『F―5』は非常に高価になると予測されていた。
そのため、大陸各地を防衛することを考えると必要な数を配備できそうにないというのが日本政府及び防衛省・防衛装備庁などの考えであった。
論議の結果、発想を変えて今ある戦闘機をベースに、安価でありながら優秀で、量産しやすい戦闘機を米国のように作ってしまえばいいという結論に至り、そのベースとして『F―16』及び形状の類似する『F―2』が指名された。
結果、現在規模を拡大した防衛装備庁及び石川島播磨重工業(IHI)などの関連企業が協力して製造を始めているという状況であった。
ちなみに、『購入』に使用された金銭は在日米軍のために全て使われることになっている。
「あのような……あのような凄まじい速さで移動できる物体があるとは……あれならば、イタリシア王国の巨鳥はもちろんだが、グランドラゴ王国のワイバーンもまるで恐れることはあるまい」
攻撃手段はまるで予想できないが、見る限り、世界最強と言えるイエティスク帝国の飛行機を凌駕しているように思える。
つまり、それほどの軍事力を有しているということだ。しかも、今は広大な大陸を有しているという。
少なくとも軍事面において、日本はこの世界でも隔絶した技術を持っているようだと、ケルウスは実感した。
「美月殿は警察機構の人間だったな? こういうことには詳しいのか?」
「いえ。私は医務官だったので軍事系の知識はそれほど……」
「そうか……では、こういう物を見るのは初めてなのか?」
「はい。ほとんど小笠原諸島にいましたから、こういうイベントに参加するのは初めてです」
ニコリと笑う美月を見て、ケルウスも嬉しそうであった。
その後も地上での対空機関砲『VADS』の演習、更に『SH―60』救難ヘリコプターの機動飛行など、目を見張る光景が続々と彼に飛び込んできた。
更には展示場において各種兵器の簡単な説明などもされていた。
「誘導弾? まるでバリスタの矢のような形状だが……どういった兵器なのだ?」
「簡単に申し上げれば、狙った敵を追いかけて接近し、内部に仕込まれている炸薬で爆破して撃墜する目的で作られた兵器です。対空用のみならず、『F―2』のように対艦誘導弾を搭載できる物もあれば、対地攻撃用に作られた物もあります」
実際のところ、日本では転移前まで対地攻撃誘導弾の類はほぼ存在していなかった。
2018年にノルウェーが開発した対地攻撃誘導弾(ASGM)を導入したことをきっかけに、転移後は自分たちでも安定して運用できるようにと開発を進めていた。
また同じ誘導弾という分類では、在日米軍のイージス艦から『購入』した巡航ミサイル『トマホーク』についても既に研究が進んでおり、少し前にかなり近い能力を有する巡航ミサイルの開発に成功している。
閑話休題。
そして、航空祭の極めつけは、メインイベントであるブルーインパルスの曲技飛行であった。
まるで鳥が空を舞うように自由自在に動き回るその姿は、白を中心とした機体配色も相まって、青空によく映えていた。
機体同士があまりに接近しすぎていて、ぶつかるのではないかと最初は思っていたが、滑らかで統率の取れた動きに、ケルウスはもちろん、日本人である美月や他のダークエルフたちも魅入っていた。
「素晴らしい……日本はこれほどに技術が成熟しているのだな。各人の技量も非常に高い。羨ましいな……」
航空祭が終了した後も、ケルウスは出店で『F―16』と『F―2』の簡単なプラモデルを買っていた。どうやら、この2機がとても気に入ったらしい。
「本国に帰ったら早速組み立ててみよう。技師たちに見せれば、航空研究の役に立つかもしれないな」
自分が楽しむばかりが目的ではなかったことを聞き、服部は改めて目の前の人物が自分の下にいる人々のことを思って行動できる人物なのだと実感したのだった。
「(我が国の与野党の一部議員たちに、爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだな……)」
よく見れば、他にも様々な本を買い込んでいる。将来的に自分たちで技術開発をしたいという意思があるようで、高い向上心を垣間見た服部であった。
「(後で政府に、今後神王国がどのような物を欲しがりそうか、多角的な調査を依頼しておくべきかもな……)」
その夜は八戸のホテルに宿泊し、皆疲れを癒したのだった。
――10月3日 石川県 輪島市
北陸における高名な工芸品の産地、輪島に到着した一行は、輪島の漆器制作の現場を見学していた。
そこではウサギの耳を持った若い女性や、イノシシのような牙を持った獣人が細工の勉強をしていた。
「ここは日本でも有数の芸術的食器を作り出す産地なのですが、残念なことに後継者不足が否めませんでした。しかし、大陸で取り込んだ現地民の中から、『こういう仕事をしたい』という人が現れましてね。今では多くの亜人類の方が工芸品制作に携わるようになっているのですよ」
ケルウスも、その細かい細工を見て感嘆した。
「元の文明水準は原始的でも、それだけに綺麗なモノを綺麗と素直に言える感性があるのだな。そんな純粋な思いで作られれば、美しい物は更に美しくなる」
見事な金細工を施された、華美ではないが気品にあふれる美しさを持つお椀を持ちあげながらケルウスは惚れ惚れする。
「これも父上や家族にお土産として買っていきたいのだが、構わないだろうか?」
「もちろんです。是非、日本の物をたくさん持ち帰ってください」
服部も政府から『彼らに日本をよく知ってもらうために、彼らが欲しいという物は可能な限り購入して持ち帰らせるように』と指示を受けているため、その財布はとても紐が緩くなっている。
もちろん、銃器などの類は危険なので書籍にとどめさせてはいるが、それだけでも彼らの文明水準からすればとてつもない話であろう。
だがケルウスのほうもそれを承知しているのか、ほとんどそういう話はしてこない。察しのいい人物だと服部の中で更にケルウスへの評価が上がるのだった。
――10月4日 岐阜県 関市
ダークエルフ一行はここで、刀鍛冶の仕事を見学していた。
刀鍛冶たちはフランシェスカ共和国と国交を結んでから非常に多忙になっている。フランシェスカ共和国の上級士官たちが、日本の優れた刀を求めているために注文が殺到しているのだ。
鍛冶師たちはその要望を1つ1つ聞き、個人のデータに合わせた一品物を拵えるために、日夜鎚を振るっている。
こちらにも熊のような耳を持った亜人族や猿に近い姿をした男たちがその作業を手伝っている。
いまや日本の様々な伝統産業は、亜人類たちなくして継続は不可能となっているのだ。
師匠である鍛冶師に倣い、重そうな鎚を振るう人々を見たケルウスは胸が熱くなるのを感じた。
「この国は凄い。多くの種族が争うことなく共に働いている……世界も、このようになればどれほど素晴らしいだろうか」
日本からすればとにかく人手がまるで足りていないのが原因でもあるのだが、それは黙っておく。
すると、ケルウスは壁に立てかけてある1本の刀が目に入った。
彼の基準からすると、アヌビシャス神王国の北東に位置するシンドヴァン共同体という国が警備兵に持たせている曲刀に似ていた。
「なんとも美しいな……そしてこの刃、とても薄い。これでは、重装歩兵などを相手にした時にはまるで役に立ちそうもないように思えるが……」
服部に問いかけると、服部も頷いた。
「我が国は高温多湿な夏季が存在しているため、どうしてもフランシェスカ共和国のようなプレートアーマーの類は発達しなかったのですよ。なので、武器にも自然と切れ味の鋭さと扱いやすさが求められたのです」
高温多湿な夏場には、西洋のプレートアーマーのように全身を覆う鎧では蒸し焼きになってしまう。
日本はそんな事情があったからこそ、兜や一部にこそ鉄をあしらってはいたが、全身を覆うような鎧は存在しなかったのだ。
「なるほど、我が国も湿度はそれほどではありませんが、気温が基本的に高い。それに、機動力を武器とするダークエルフ族にとって、その速度を殺してしまうことはよろしくない……そう考えれば、実に合理的ですね」
ケルウスは壁に掛けられていた刀を、鍛冶師の許可を得て手に取る。
「うむ。やはり美しいな。それに、我が国のサーベルよりも遥かに鋭い。これならば、達人は石すら切り裂くかもしれんな」
実際、日本の優れた剣術家の中には『斬鉄』を可能にする者がいるという噂がある。
剣技に優れたエルフ族では、日本刀を得たことでこれが可能になる者が多いという。実際、薄い鉄板並みの強度を持つスペルニーノ王国の蜥蜴人の鱗を切り裂く者もいるのだからその腕前が窺える。
関鍛冶の腕前に感服したケルウスは、是非この刀を持ち帰りたいと服部に交渉した。
「いいですよ。日本刀は既にフランシェスカ共和国にも輸出しているものですし、既製品でよろしければ」
先程手に取った日本刀は注文されていたものではなかった。なので、持ち帰っても構わないと言ったのである。
「感謝する!」
――10月4日 京都府 清水寺
一行は岐阜県で一泊した後、ついに京都府へと入っていた。
金閣寺や銀閣寺、東寺など様々な寺社仏閣を見た一行は、その作りの故郷、同時に漂う上品さに驚かされる。
だが何よりも驚いたのが、その寺社仏閣に関わる建築物のほぼ全てが、木材でできているという点であった。
森林豊かなフランシェスカ共和国では木造に石を組み合わせた建築法は普通であった。
大陸南部に広大な緑地地帯を抱えているアヌビシャス神王国でも、手間はかかるが木材は使用されている。軍船などはまさにそうだ。
だが、目の前にある寺社仏閣は、ほぼ全ての構造物に木材を使用している。中には、釘を使ってない工法も見受けられた。
「かすがい、と言いまして、これで木材を固定するんですよ」
驚くべき方法であった。彼らの基準及び常識では、木材を固定するには主に釘を使う。日本ではアイドルという名の職人兼農家兼漁師とも言われる男たちのお陰でそれなりに有名だが……。
日本は1千年以上前に、この工法を得ていたというのだ。とても研究熱心な大工や工夫がいたに違いないとケルウスは感心する。
「日本は転移国家で、我々とは違った種族のヒト種だというが……ドワーフ族の名大工ですら、このような芸術的作品が作れるかどうかわからない」
グランドラゴ王国のドワーフ族は非常に手先が器用で技術に長けているが、これほど木材をうまく扱えるという話は聞いたことがなかった。
「木造建築はさすがに我が国ではあまり役立ちそうにないが……それでも、この進んだ工法は発想の転換次第で大きな発展につながるだろう」
そして、京野菜を中心にした懐石料理を中心とする和食にまた舌鼓を打つ一行なのであった。
「それにしても、本当に美月殿はよく食べるな?」
「はい。昔から運動が好きだったこともあってご飯はいっぱい食べていたんですよ」
「よく食ベることは健康な証。いいことだと思うぞ」
ケルウスと美月は相も変わらず初々しい感じで会話している。もはやダークエルフ一行も服部も、彼らを見守る親戚のような目をしているのだった。
余談だが、宿泊施設にも大陸原住民の亜人類たちが就職を始めている。また、転移時に在日していた旧世界の外国人の多くも、既に多くが日本の永住権を取得して日本で働いていた。
そのためか、転移直後から現在にかけて亜人類たちとの婚姻はもちろん、旧世界のハーフ系の日本人が多く見られるようになっている。
余談は続くが、アメリカ大陸の原住民たちと接触した時、様々な検疫を行なったのだが、なぜかその免疫系統は人間の物とほぼ同じであり、感染症などの類も人間がかかる物と大差ないことが明らかになっていた。
また、それに伴い動物がかかるような病気にも彼ら亜人類が罹患するのかどうかを調査したところ、そちらも十分に可能性があるという結果が出たのであった。
例えば、蜥蜴人や竜人族は鱗を持っている。
その鱗の隙間に寄生虫が入り込めば、それに伴う感染症や皮膚炎などが引き起こされるのである。
同じように、犬の耳を持つ獣人には犬系の寄生虫が、豚のような耳を持つオーク族は豚系の寄生虫に寄生されがちであることが既に明らかになっていた。
政府は各種機関に命じてそれら特有の病気や寄生虫に対する特効薬の開発を急がせている。
もちろん、亜人類たちの体質に伴う副作用なども研究する必要があるため、実用化はまだまだ先だと考えられているが、それでもあと10年以内に幾分かは実用化ができるだろうと言われているのだった。
ちなみにグランドラゴ王国やフランシェスカ共和国、そして戦争が終わり講和した今となってはスペルニーノ王国やイタリシア王国からも様々なサンプルを回収し、疫病などの流出が起きないようにと配慮がなされているのだった。
転移から既に6年と3分の2ほどが経過しているが、まだまだ日本の労働状況は『黒』を通り越して『ダーク』と言わざるを得ないほど目まぐるしいのだ。
閑話休題。
ケルウスは外務省から譲り受けた『デジタルカメラ』を用いて、日本のあちこちを写真に収めていた。
アヌビシャス神王国でもグランドラゴ王国や、最強の国・イエティスク帝国からカメラという道具は入ってきていたが、日本のデジタルカメラの使い勝手の良さはそれらとは比べ物にならない。
イエティスク帝国は全くと言ってよいほどに他国と交易をしない国なのだが、カメラなど一部の品をわずかに輸出していた。それらの性能の高さはこの世界でも指折りの性能を誇っていた。
「(しかし、これはなんだ?)」
イエティスク帝国のカメラはもっと武骨で重く、撮った写真は現像するまではまるで詳細が分らない物であった。
しかし、日本のデジタルカメラは撮影した直後に内蔵されている精密機器によって保存され、確認し残しておくか削除するべきかを選択することができるのだ。
この時点で、イエティスク帝国と比較して電子技術の類が大幅に進歩していることが窺える。
「(いずれにせよ、日本の様々な文物を持ち帰り、我が国の発展に寄与せねば。日本と結べれば、もしかしたら……)」
彼はその日も様々なことを考えながら夢の世界へと旅立った。
――10月5日 広島県 呉市
この日も朝から新幹線で移動し、港町である呉市へと入っていた。
まずは、海上自衛隊の歴史を辿る『鉄のくじら館』へと案内した。
「す、すごい! 鋼鉄のクジラだ!」
鉄のくじら館は、海上自衛隊で使用していた本物の潜水艦の内部を博物館に改修した物である。潜水艦などという兵器を見たことのない彼らは、名前にもある『鉄のクジラ』という表現をしたのだ。
中に入った一行は、服部の説明を聞きながら展示を見る。
第二次世界大戦後、朝鮮戦争の折に機雷処理のために出動し、殉職者も出したことや、それから軍事組織として防衛力を担うまでに至った様々な経緯を見せられ、一行は思わず息をのむほど聞き入っていた。
2時間ほど展示を見終わった後、今度はすぐ近くの別の建物へと入った。
中では、巨大な船の模型が鎮座していた。
「こ、この船は……?」
隣では美月も口に手を当てていた。
「これは、日本にかつて存在した最強の船、『戦艦大和』です」
そう、今彼らがいるのは、日本人の魂にまで刻み込まれた最強の戦艦、大和について展示している『大和ミュージアム』だったのだ。
「これは……グランドラゴ王国やフィンウェデン海王国の所有している戦艦に似ているな」
「はい。フィンウェデン海王国という国がどのような国かは存じ上げませんが……グランドラゴ王国で『戦艦』と呼ばれている兵器の、発展版と思ってくだされば分かりやすいと思います」
ケルウスも王族として、グランドラゴ王国の戦艦は見たことがあった。だが、目の前に模型として存在している戦艦の存在感たるや、小さな模型であるにもかかわらずとてつもない威圧感を覚えたのだ。
「この戦艦大和は250mを超え、主砲も46cmという、世界最大口径の大砲を搭載していました」
あくまで艦砲としては世界最大級であったが、陸上で運用された物であればドイツ軍の『カール自走臼砲』の600mmや『列車砲ドーラ』の800mmという、『バカだね~』と言われそうなロマン砲も存在する。
「ほぅ……では、さぞ大暴れしたのでしょうね」
彼自身、グランドラゴ王国の戦艦『クォーツ』の砲撃を見たことがあったので、それよりも巨大な大砲とくれば、とてつもない威力を発揮したのだろうと予想できていた。
だが、服部も美月も苦笑していた。
「え? 私は何か変なことでも言いましたか?」
すると、兄がいたことから男向けアニメなども見る美月がケルウスの袖を引っ張って説明した。
「実は、この大和が実戦に出るようになった頃にはもう戦艦による砲撃戦は時代遅れになっていたんです」
「え、それでは何が主役に……まさか、飛行機ですか?」
ケルウスの察しの良さに服部も頷く、
「仰る通りです。飛行機から投下される爆弾で船の上にいる者は焼かれ、魚雷と呼ばれる海の中を進む爆弾によって強靭な装甲を持つ戦艦は意味をなさなくなりました」
第二次世界大戦直後は海と空で、そして対テロ対策及び島嶼防衛が主流になってきた現代においては陸上でも、『様々な』機動力が重視されている。
現実ではつい最近に就役している16式機動戦闘車や、19式装輪155mm榴弾砲などが正にそのいい例であろう。
「なるほど、より効果的な運用方法を、か」
「もし国交を結んでいただければ、我が国から支援も致します」
「それは願ってもないこと。なんとしても父上に話を通さなければ……」
壮大ながら悲劇の象徴とうたわれた戦艦の模型を見ながら、ケルウスは決意を新たにするのだった。
余談だが、この後この戦艦をモチーフにした宇宙戦艦のアニメを見て『日本は更に未来を見据えている!』と妙な誤解をすることになる。
今月はこれでおしまいになります。
次回の投稿は11月の4日から8日前後を予定しています。