東京の『現在』
本日は天気が不安定ながら、観艦式が行われます。
実は、私の父が知り合いから招待されて護衛艦に乗るとのことです(俺も行きたかった)……
その悔しさを紛らわせるためにも、本日1話投稿します。
――西暦2024年 9月29日 日本国 東京都 皇居付近
ホテルを出発したバスは、大通りを走りながら悠然と進んでいた。
ケルウスは、佇む大きなビル群に圧倒される。
「すごい……これほどの建造物、グランドラゴ王国はもちろん、イエティスク帝国ですら作れるかどうか……」
だが、彼はビルばかりに目を取られていたことに気付くと、その脇にある歩道の様子に気付いた。
「服部殿、道行く人の数はやけに少ないように見えるのだが、気のせいであろうか?」
服部は一瞬悩ましそうな表情を見せたが、すぐに答える。
「実は、転移前まで東京都の人口は1300万人を超えるほどだったのですが、転移してからはその半分以上が大陸へと流出しましてね。はっきり言いまして、一部の人間以外はそれほど残っていないのです」
服部の言う通り、東京都のみならず日本列島本土の総人口は今や2000万人まで減少していた。
その代わり、この6年ほどで大陸に住む人口は1億人を遥かに超えるようになり、各地で今も開拓に勤しんでいる。
また、列島本土は老人の隠居所及び子育てに向いているという事もあって、今や本土に残っているのは老人、子育て中の母親とその子供以外の労働者など、ほんのわずかしかいない。
例えば、服部たちのような省庁勤務の役人、国内の再開発を行う一部の土木業者、および第一次産業関係者や学生など、ほんの一握りと言ってもよい。
それでも政府の要請により、人口が増加するにつれて本土の再開発も行う予定となっているため、もう数年もすればまた本土に活気が戻ってくるだろうとも考えられている。
それ以外でも、国内の土地が大幅に空き地となっており、実は東京都も23区内に結構な数の空き地ができているという有様であった。
さすがに皇居周辺の中央付近などは観光も含めて十分に人が集まる場所であったため、転移前とそれほど変わらぬ賑わいを見せるところもある。
ちなみに、国交が樹立されると同時に港湾設備を整えたグランドラゴ王国からは既に多数の人々が観光兼調査に訪れており、日本の博物館や施設などを見学するツアーが大人気となっているほどであった。
もうしばらくすればフランシェスカ共和国からも大規模な観光ツアー客が来る予定となっており、観光業及びそれに伴う各産業は息を吹き返しつつあった。
「なるほど、転移された後は西の巨大大陸の開拓を手掛けているとのことでしたが……よくそんな状況でフランシェスカ共和国の救援に向かえましたね?」
「まぁ、そこはそれ。色々と事情がありますので」
服部が苦笑しながらケルウスのほうを見た。
実のところ、今回の日仏・須伊先戦争において、国内の一部左翼からも出兵反対の意見が出ていた。
だが、国内の民意を含めたほとんどの人々が出兵に即座にと言っていいレベルで賛成したことが政府の後押しとなった。
国交を結んで間もない頃の話であればそうでもなかったかもしれないが、既に3か月が過ぎようとする頃には日本のメディアがエルフ族と狼人族を大々的に取り上げていたこともあって、日本人にエルフ族の容姿端麗ぶりと、狼人族の愛らしさ及び逞しさなどがすっかり認知され、見捨ててはならないという言葉が多数寄せられたのだ。
また、日本が転移してから創作として描かれていた、『自衛隊が異世界で活躍する』物語や、『日本が転移してしまう』というネタの転移物ミリタリー戦記などが凄まじい勢いで周知されるようになったことで、国民の多くが右翼的と言っていい思想に染まりやすくなっていたのも理由の1つであった。
特に、最も売れた日本転移小説では日本が転移してからわずか1か月後に友好国兼食料大国を助けるために法の拡大解釈で自衛隊を動かした話は人々にも知られており、『今まで頑張ってくれた自衛隊にそんな窮屈な思いで仕事をさせるな』という人々の意見もあった。
国内では『結果として日本を守り、自分たちが近い将来転移前の豊かな生活を取り戻すために侵略者を友好国から叩き出す必要がある』という解釈が多数を占めたことで、即決と言っていいほどの速度で部隊の派遣が決定したのだ。
「皮肉な話ではありますが、戦争に勝利したことで様々な権利も得られましたし、両王国から特産品などを日本主導で採集する権利などももらえました。海産物や農産物はようやくですが、軌道に乗り始めたというところですね」
第一次産業に関しては、政府が本腰を入れて普及に乗り出させたことで、なんとか本土でも様々な作物及び家畜が安定的な収入を得られるようになってきて間もない。そういうこともあって、もし何か不都合が発生すれば、日本の大陸開拓も含めて大きな障害となりかねないのだ。
具体的には、補助金や接収した大陸の原住民たち、そして日本に残っていた一部の外国人などをそういった労働に充てていた。
転移前はそういう労働体系の中で不正などもあったのだが、国の一大事に関わるということで政府が厳正に対処をしたことから、外国人であろうとも亜人族であろうとも普通の日本人同様に給料や休日を設けることになっていた。
ちなみに、一部のある農業系企業が亜人族にロクな給料を支払っていないことが明らかになった際には、国内のオタクたちが一斉蜂起してその企業に殴り込みをかけ、社長をボコボコにしたうえ裸にして企業の玄関に吊し上げるという過激な事件が発生したことがあった。
もちろん首謀者は逮捕されたが、これにより日本人の労働不平等に対する是正意識が大きく高まったのは事実である。
ちなみに、首謀者の記者会見では『愛するケモ耳を守れたんだ。悔いはないさ』という、まるで後悔のない潔さも多くの人々の同情を集めたという。
「あ、もう間もなく到着しますよ」
服部の言葉を受けたダークエルフたちは皆身を乗り出して窓の外を眺めた。
そこには、巨大な門が見えた。
「あれは、なんなのですか?」
「神殿の入り口のように見えますが……?」
服部が笑顔で続きを述べる。
「あれが我が国の寺院の1つ、浅草寺です」
台東区浅草にある浅草寺。外国人向けの観光地としても有名で、連日多数の観光客で賑わう一大寺社である。
「おぉ、すごい賑わいだ! 王都神殿の門前街よりもすごい!」
仲見世通りでは多くの人が買い物を楽しんでいる。その中には大陸の亜人族やグランドラゴ王国の貴族などの姿もあった。
アヌビシャス神王国は他国の宗教にも寛容な国だが、これほどまでに多くの種族が楽しそうにしている姿を見たことがない。
「これが……日本か」
ケルウスは、この上なく気分が高揚していた。
すると、彼の手を握る柔らかな感触があった。
「美月殿……」
「さぁ殿下、参りましょう」
美月に手を引かれ、ケルウスは立ち上がる。他の従者たちも立ち上がると、バスから駐車場へと降り立った。
駐車場から仲見世通り、そしてその周辺の商店街を歩き回るが、なんとも広く、そしてなんとも賑わっていた。
そして、下町ならではの人情なども残っている。
「おや、そこの黒くてかっこいいお兄さん、彼女さんと一緒かい? よけりゃこれ、食べてきな!」
客を引き込んでいた中年の女性が、ケルウスにいきなり何かを渡してきた。
「か、かっこいい? 彼女?」
服部が慌てて代金を支払おうとするが、女性はからからと笑っている。
「お客様は神様だからね! サービスするよ! その代り、後で色々買ってってよ!」
女性の快活な笑いに、ケルウスも何か惹かれるものがあったらしい。『あぁ。ぜひそうさせてもらおう』と笑顔で返したのだった。
快活な女性から離れたケルウスは袋の中身を取り出した。
中から出てきたのは、人の形をした柔らかい何かだった。
「あっ、人形焼ですよ」
美月が目を輝かせる。
「人形焼?」
「はい。甘くてとっても美味しいんです」
「甘いもの……?」
美月は女性だけあって、やはりこういう甘いものに目がないらしい。
「ど、どれどれ……」
早速手に持ったフワフワのそれを口に入れる。
「!?」
甘かった。しかも、共和国や両王国などから輸入で入ってきた果物とはまるで異なる甘さであった。
「なんとも……この甘さ、果実の甘酸っぱさとはまるで違う。どちらかと言えばふんわりとして、優しい甘さだ」
「そうなんですよ。私もこういうの大好きで、非番の時はよく食べちゃうんです」
ケルウスはそれを聞き、自然と美月に人形焼を差し出していた。
「では、是非一緒に食べよう。先程の婦人もそう言ってくれたしな」
「あ、ありがとうございます」
さりげない優しさに、美月のほうも嬉しそうに表情をほころばせる。
そんな彼らを、従者たちと服部はにやにやしながら見守るのだった。
「殿下、なんと幸せそうなお顔を……」
「幼い頃から弟のように見てきた殿下が……感激です」
服部のほうも、『こうやって人と人は繋がっていくんだ……これこそ理想だ……』と涙を流していた。
服部はまだ若いが、過去には中東やアフリカなど、不安定な国に赴いたこともある。そんな彼からすれば、こうやって平和的に人と人が繋がれるようになれれば、それが一番幸せに違いないという思いがあったのだ。
そして、奥の本堂へと辿り着く。
「ここが神殿の本堂か?」
「はい。我が国では寺院、寺社と呼んでいるものです。皆さんの思う通りのお参りをしてください。我が国はどんなお祈りでも、神様へ願えば届くと信じられておりますので」
その言葉を聞いたケルウスやダークエルフたちは、神王国で信奉されているアヌビシャス神への敬意をこめて、日本人である服部と美月は手を合わせてお祈りをした。
もちろん、服部がダークエルフたちに浄財を渡すことも忘れてはいない。『こういう所は我が国と変わらんな』とはケルウスの老執事の言であった。
それが終わると、先程の女性に言われたように仲見世通りで色々な物を買っていく。
扇子、唐傘、着物など、彼らからすれば興味を引くものばかりである。
服部は一応、後で相手王族や貴族などに献上するための本格的な物も用意しているのだが、とりあえず興味を持ってくれているので気前よく購入していく。
ちなみに、支払いは全て政府持ちである。
先程の人形焼はケルウスもとても気に入ったらしく、また買ってつまんでいた。今度は従者たちにも少しずつ分けている。
彼らも未知の味に目を白黒させつつ堪能していた。
「では、そろそろ次の場所へ参りましょう」
服部に付いて、再びマイクロバスに乗った面々は、服部から奇妙な筒を渡された。見れば、中には液体が入っている。
「これはペットボトルという容器でして、この中にはお茶が入っています。ぜひ召し上がってください」
「おぉ、ちょうど喉が渇いていたところだったんだ」
色が彼らの知る紅茶と違い、緑色なのは気になったが、ケルウスは迷うことなくそれを飲む。
「お、これは……少し苦いな。だが、なんとなく落ち着く」
「これは、我が国特有の飲み物で、緑茶と言います。健康にもいい飲み物なんですよ」
従者たちもケルウスに続くように緑茶を口に含む。すると皆、表情を更に緩めるのだった。
「なるほど……」
「これは美味しい……」
バスは更に走り続ける。今度は、全く別の場所へ向かっていた。
「今度はどこへ向かうのですか?」
「今度はですね……」
次に連れていかれたのは、上野であった。
「こちらの『東京国立科学博物館』では、我が国の大まかな成り立ちを展示してあります」
中へ入ると、ロビーを抜けて2階への階段を上がる。
2階では先程服部が述べたように、日本の歴史が大雑把に展示されている。
転移前の日本のことが、彼らの基準からすれば非常に細かく記されていることもあって、服部の説明を聞くダークエルフたちも気合が入る。
日本が辿ってきた様々な歴史を聞き終えた一行は、1階から別の建物に案内される。そこは、日本の様々な技術を紹介しているゾーンであった。
「こ、これはなんだ!?」
「これは、我が国が80年以上昔、軍で使用していた航空機、『零式艦上戦闘機』です」
零式艦上戦闘機。第二次世界大戦時にその航続距離の長さと空戦性能の高さから『悪魔のゼロ』、『無敵のゼロ』、『単機で相手すべきでないゼロファイター』とまで言われたほどの名機であった。
威力は低いが信頼性のある7.7mm機銃と、威力は高いものの弾道が安定せず、信頼性は微妙と言われた20mm機銃を装備していた。
第二次大戦初期こそ大活躍したものの、大戦が進むにつれて連合国側が進化した機体と戦術を出してくるようになったことで分が悪くなった機体でもある。
だが、日本人の間では大戦において活躍した航空機という意味合いで、一般人にも広く知られている存在である。
余談だが、この零戦もエンジンと機体を強化したものが民間で製造されて人々の注目を浴びている。
以前の話でも述べたが、日本は現在、旧世界基準で遅れていたと考えられている航空機技術を発展させようと力を注いでおり、民間にも開発や復元などを促した。
政府だけでは限界はあるが、民衆の力を借りれば、ということであった。
果たしてそれは成功し、今や大戦時を彩った多くの航空機が民間の手で復元されていたのだ。
本土ではそれほどでもないが、大陸の各所ではこういった民間復元の航空機部隊による様々なショーがよく行われるようになっている。
「我々が乗せてもらった『ユーエスツー』や旅客機より小さいな……」
「これは、戦闘を目的として相手を倒す武器を搭載した航空機でしたので。運動性能と攻撃力に特化しております」
聞けば、イエティスク帝国も同じような物を作ったという噂が流れているが、詳細は分からない。
「いずれ、我々もこういう物が扱えるようになりたいものです」
「そうですね。我が国と友好を結び、平和を尊重していただけるならば、平和のための防衛力として供与できるかもしれません」
日本は変わった。少なくとも、転移前では考えられないほどに。
武器輸出を一部とはいえ認めたことは正にその代表であろう。
「そういえば、フランシェスカ共和国のエルフ族は火薬の類が苦手ということですが、ダークエルフ族は大丈夫なのですか?」
「はい。我が国では『機雷』と呼ばれる海の爆弾を採用しています。まだそれ以上の使い道はあまり見いだせていませんが……いずれは他国同様に銃も作りたいと思っていました」
これは意外な情報であった。旧世界でも中国などが古くから機雷を採用していたが、グランドラゴ王国も採用していないという情報を得ていたため、てっきり概念として存在していないと思っていたのである。
「これは、本当は我が国の機密事項なんですけど、本土に来る途中で美月殿から『日本は昔の世界大戦で機雷や魚雷という兵器で多くの死者を出した』という話を聞いていたもので」
「そういうことでしたか。話してしまわれてよかったのですか?」
「いいさ。どうせ日本なら隠していたってすぐに調べて明らかにしてしまっただろうからね」
実際のところ、防衛省や諜報関係の部署ではアヌビシャス神王国についてまだ情報収集を行なっているところであり、軍事情報として『機雷が存在する』という事実を聞いたことがなかった。
つまり、ケルウスの失言だったわけだが、それを指摘する服部でもない。なので、敢えて最初から知っていたかのような口ぶりをせざるを得ない。
「そうですね。日本としても機雷の除去、掃海能力には力を入れていまして、最新鋭の……」
服部は内心、冷や汗を流しまくっていた。
もしも何かしらの理由でアヌビシャス神王国と敵対することになっていたら、現状では情報不足で機雷のことを知らずに、護衛艦の1隻か2隻くらいはダメージを負っていたかもしれない。
これは後で急ぎ外務省及び防衛省に知らせる必要があると心に留め置いた服部であった。
上野の博物館を後にした一行は、近くにある洋食屋へと入る。ここは上野近辺でも駅に近いということで有名な場所なのだが、今日はこの店に予約を入れていた。
「さぁ、どうぞ」
運ばれてきたハンバーグやカレーライスなどは、今までホテルで和食を中心にして食べてきた一同からするとボリューミーで食べ応えのある食事だった。
ちなみに、美月もさりげなくステーキの250グラムを頼んでいた。
「(彼女、結構食べるんだな……)」
胸部装甲のふくよかと言ってよい厚みは、このよく食べるところで発達したのかもしれないと思う服部であった。
「あ、すみません。図々しく……」
「い、いえ。せっかく来てもらっているんですから。これくらい必要経費ですよ」
服部は笑ってみせるが、一般女性よりよく食べる彼女の今後が少々心配になったという。
だが、小動物のように肉と白米を頬張って美味しそうに食べている彼女を見て、ダークエルフ一行はむしろ微笑ましさを感じたらしい。
「可愛らしいですなぁ……」
「なんと純粋な……」
「(いや、皆さんなんでそんなかわいいお嬢ちゃんを見守る親戚のおじさんおばさんみたいな表情を……)」
食事を終えた後、再びバスに乗った一行は更に移動する。
「今度はどこへ行くのですか?」
「今度は東京スカイツリーという建造物です」
本当は浅草から近いスカイツリーを最初にしてもよかったのだが、敢えて上野を先にし、昼食をとらせたのだ。
そして、スカイツリーのある押上に到着すると、まずはソラマチやすみだ水族館などを見学してもらう。
彼らの感覚からすれば信じられないようなものばかりだが、特にケルウスの心に響いたのは水族館であった。
「すごいな……これほど様々な生き物を飼育して展示するとは。美月殿は来たことは?」
「私は静岡の出身なんで、東京の水族館はほとんど来たことがないです。こんなにキレイだなんて知りませんでした」
「シズオカとは、どの辺りにあるのだ?」
「えぇとですね……」
2人は金魚の水槽の前で話し込んでいる。
そんな彼らを、やはり従者たちは微笑ましそうに見守っていた。
「殿下、あんなに楽しそうに……」
「美月殿も予想以上に楽しそうだぞ」
「これは……ひょっとするかもしれないな」
服部も聞いているが、もしお互い乗り気なのであれば、国際結婚という形を推し進めてもいいかもしれないと思っていた。
水族館を見終えると、既に午後5時を回ろうとしていた。
「それでは、本日最後の観光名所にご案内いたします」
服部の案内で、一行はスカイツリーのエレベーターに乗り込んだ。
上昇していくエレベーターに、ダークエルフ一行はもう慣れていた。散々ホテルで乗ったからである。
だが……彼らはこれまでで一番驚愕することになる。
「どうぞ、スカイツリーの展望フロアになります」
外を見た彼らは、あんぐりと口を開けていた。
「こ、これは……」
外には、夕焼けとそれに輝く街並みが見渡す限りに広がっていたのだ。夕焼けの色が建物に反射し、彼らのこれまでの価値観とは比べ物にならない美しさが眼下に広がっている。
「なんとも……素晴らしいな」
「このような光景を見られるとは……」
彼らとて自国の建造物の上から町に落ちる夕日を眺めたことがあるが、それとは比べ物にならない規模、そして美しさであった。
「服部殿、もしやこれを我々に見せたくてあちこちを巡っていたのか?」
「はい。ですがもう少しこの展望フロアで時間を潰してください。そうすれば、もっとすごい物が見られますよ」
その言葉を聞いた一行は展望フロア内のカフェに入り、ゆっくりとコーヒーや紅茶を楽しんだ。
それからしばらく時間が経過し、日が沈んだ直後。
「皆さん、そろそろよろしいでしょう。外をご覧ください」
一行が外の光景を見ると、先程よりも更に驚いた顔を見せた。
「いかがですか? 東京都の夜景は」
服部の自慢げなセリフにも、彼らは反応することができなかった。
まるで宝石の煌めきかと思うほどの輝きがあちこちの建造物から見られる。
いかに人口が減ったとはいえ、東京はやはり日本の実質的な首都である。そんな東京の、最も高い場所から眺める夜景というものは、非常に見ごたえのある物であった。
「素晴らしい……先程よりも……ホテルの外から見える夜景も美しかったが……その比ではないな」
ケルウスやダークエルフ一行もそうだが、美月も『わぁ……』と言いながら夢中になって見つめていた。
「おや、黒川さんも初めてでしたか?」
「はい。さっきも言ったように私は静岡の出身で、海上保安庁に入ってからはほぼずっと小笠原勤務でしたから……すごい。とってもキレイ」
すると、ケルウスがさりげなく美月の肩を抱き寄せたのだった。
「夜景も美しいものだが、その夜景に目を輝かせる美月殿も、とても美しいと思う」
ケルウスのちょっとキザなセリフを聞いた美月は、一瞬顔を真っ赤にしたものの、嬉しそうに『はい……!』と返したのだった。
こうして、首都観光の1日目はつつがなく終了した。
それから更に2日をかけて、ダークエルフ一行に東京のあちこちを案内する。
それが終わると、今度は北海道から鹿児島までの日本各地の重要な場所を巡ってもらう旅が始まるのだった。
……2人を見守る周囲の人々の温かさが、皆様にも伝わると幸いです。
ちなみに今月はもう1話投稿しようと思います。
次回は21日か25日になるかと思います。
その辺りをチェックしてくださいね
それはそうと日本転移系小説、最近一部が更新滞っているようですが……大丈夫なんですかね?
日本国召喚は元々緩やかな更新だったので気長に待っていますが。