戦後問題と西の海にて
今月1話目となります。
いよいよ令和ライダー『ゼロワン』が始まりました。
高岩成二さんがいなくなってしまったのは寂しいですが……新しい人に期待して、楽しむことにします、
――西暦2024年 9月1日 日本国 東京都 首相官邸
今回の日仏・須伊戦争においてとある問題が噴出した。それは、今回の戦争に派遣した戦闘ヘリコプター『AH―1S』コブラ15機の内、10機もの機体に様々な不調が現れたのだ。
ローター部分のパーツ劣化、スタブウイングのパイロン劣化など、1つ1つは即座に対処できるレベルの問題ばかりであったが、やはり旧式のヘリコプターである問題がここにきて顕在化した形になった。
首相官邸では防衛省の幹部が首相に報告書を読み上げる。
「――以上の事から、修理そのものはすぐに行うことが可能です。しかし、これ以上継続してコブラを運用し続けるにはやはりどうしても無理が生じると言わざるを得ません」
首相はため息をつく。政策や防衛など、様々な問題を後回しにし続けて来たツケが、ここにきてたまっていた膿の様に噴出していた。
実際、自衛隊の兵器の一部は旧世界ではかなりの旧式レベル(それでも島嶼防衛という観点などの限定条件下ならばアジアでは十分すぎる能力を有していたが)だったが、予算問題や国民感情などの観点から今までは十分に最新兵器への更新が進んでいなかった。
『AH―1S』のみならず、先話でも登場した203mm自走榴弾砲や、『74式戦車』など、現代の最新兵器の基準からすれば骨董品と言ってもよい物が日本では多々運用されている。
転移してからしばらくの時間が経過した時、大陸を手に入れたことと景気が大きく上向いたこともあって兵器の更新を進めることが決定していたが、それでも様々に更新しなければいけない物が多すぎたため、対地攻撃ヘリコプターは最近になってようやく国産の試作機が飛行、兵器試験に成功しているという有様であった。
それでもこれまでの日本からは考えられないほどのスピードではあるのだが。
それも、ようやく報道で明かせるほどの存在となっていた。
『やんま』型対地攻撃ヘリコプター
備考・転移してから間もなく、日本の保有する主力対戦車ヘリコプター・『AH―1S』コブラが老朽化し、『AH―64D』アパッチ・ロングボウの数が非常に少ないうえに12機以上を超える調達が不可能であることから製造されることが決定した初の純国産対戦車ヘリコプター。
製造にあたる外見上のモデルは『AH―64D』となっており、フォルムはほぼ同じ。
ただし、兵器や対地観測レーダーは全て国産の物に置き換えられている。
特に、初めて国産化したヘリコプター搭載用の対地観測レーダーは名前に入っている『ヤンマ』、つまりトンボの目のように360度全てを見渡せるようにという意味で『ドラゴンフライレーダー』、略称として『竜虫眼』と呼ばれるようになる。
対地攻撃用兵器もかつてアメリカが開発したヘルファイア対戦車ミサイルを基に、射程15kmを誇る打ちっ放し誘導方式で飛翔する国産の空対地ミサイル・『Air Serch Grand Missaile―1』こと『ASGM―1』を開発することに成功したため、そちらを採用する。
機関砲やハイドラロケット弾はそれまでのアパッチ・ロングボウと同じ物をライセンス生産しているため、そこは変わらない。
『AH―1S』コブラから順次交代させていく予定なので、最終的には新大陸で運用することも含めて300機以上を生産する予定となっている。
余談だが、この対戦車ミサイルはかつてのヘルファイア同様に対艦用も製造され、海上自衛隊の哨戒ヘリコプターにも採用されるようになる。
兵装 30mm機関砲
ASGM―1空対地ミサイル
ハイドラロケット弾(純国産に変更)
23式地対空誘導弾(91式携帯地対空誘導弾の更に新型)
日本は転移前、兵器の大量展開・装備ができないという理由で一括発注もできない状態が長く続いていたが、大陸を手に入れたことで自然と大量配備の必要性にかられたため、多くの兵器が一括発注されて値段が下がり始めている。
自衛隊も一部待遇が改善されていることもあって、少しずつではあるが人員の確保ができている状態となっており、政府も含めてこれまで抱え、見て見ぬふりをしていた諸問題の解決に向けて官民問わず尽力しているのである。
とはいえ、アメリカ大陸開拓も含めて国内はまだまだやるべきことは山積みな現状である。
例えば、旧世界でいう所のパナマ運河についてだが、これも開拓前のアメリカ大陸を手に入れて存在しないことが発覚していた。
そのため、運河を政府主導で開発することが既に決定しており、既に某大手ゼネコンに運河の開通・それに伴う設備の建設を依頼している。
運河が開通すれば経済的にも非常に有用であると判断されたこともあって、こちらは急ピッチで進められている。
運河は旧世界のパナマ運河よりも巨大にすることが求められており、具体的には最小幅110m、最大幅240m、深さも一番浅い所で30mという、本来のパナマ運河を遥かに上回る巨大さとなる。
当然巨大化することによって生じる様々な問題を予測することも求められているため、現在は政府直轄の専門チームを編成して、発生する可能性がある問題への対応策を検討中である。
また、現在は日本のみが使用する予定であることから通行料はわずかしか取らない予定となっている。
それと同時に、南北の大陸を接続する何かがあると助かるという話から、青函トンネルを応用した超巨大海底トンネルを将来的に掘削することも決定した。
こちらは予定地となる海域の海底の深度や土地の強度などを調査したうえでの作業となるため、運河よりも更にのちの建設となる。
また政府は、日本最大手の鉄道業者に南北のアメリカ大陸を縦断する超長距離鉄道の敷設を考案・依頼した。
これまで以上に物流を活発化させ、建設した都市部を更に発展させるためという意味と、航空機以外でも多くの客を輸送できるようにという意味もあり、こちらも順次進めていくこととなっている。
それに伴って新たな空港の敷設及び、『C―2』輸送機や『P―1』哨戒機を応用した新型旅客機の開発なども進められており、日本の輸送関係も大きく変わろうとしていた。
また、領海の警備を司る海上保安庁でも新たに航空機専門部隊が設立されることが決定していた。
これまでのようにヘリコプターやジェット機を運用するのみならず、多くのターボプロップ系固定翼機や海上自衛隊用に新開発される飛行艇も運用することが決定された新組織となっており、海上保安庁は陸海空各自衛隊と同様にその規模を順調に拡大していた。
とはいえ、大陸も含めた日本の海は広大なことからこの航空部隊は後に独立せず、そのまま海上保安庁の所属となることも決定している。
同時に、日本はこれまでの常識では考えられない広大な大陸を手に入れたが、建造物や車両・航空機などの乗り物各種の設計思想に変化はなかった。
例えば戦車・装甲戦闘車についてだが、大陸を手に入れたからと言ってアメリカが採用していた『M1エイブラムス』戦車の様に強大で重量のある車両を作ることはなく、その代わりにエンジンの燃費向上及び航続距離の延伸や、より軽量で頑丈な装甲へ変化させる方向へとシフトしている。
日本は陸上兵器に関してはあくまで小型に、コンパクトな物を運用することを想定するという考え方は変わらなかった。
航空機や船舶はこれまで以上の燃費の向上による航続距離の延長と、高出力化が求められており、関連企業がより高性能なエンジンの開発に向けて日々努力している。
特に航空機に関しては温故知新の精神の下、様々な企業や民間においてレシプロエンジンやターボプロップエンジンの基礎から研究をし直し、政府がそれを援助していた。
その過程で第二次大戦時の日本の名機、『零式艦上戦闘機』や『四式戦闘機・疾風』、『紫電改』とほぼ同等のレシプロエンジンを再現することに成功していた。
実験で製造されたこれらのレシプロ機は現在、主に民間への飛行ショーのために駆り出されている。
これらの航空機は、後に友好国であるグランドラゴ王国へ一部輸出、技術提供するための布石とすることを政府が決定している。
関連企業は現在その研究過程を次々とステップアップさせており、現在では『F―15』の大出力エンジンを超える超強力エンジンを完全オリジナルで製造するための研究を行なっていた。
もちろん並行して最新鋭戦闘機に搭載予定のエンジンの開発も行われているため、遅れが出ているわけではない。
現在は最新鋭戦闘機に予定されている『F―3』戦闘機が急ピッチで開発を進められており、もう間もなく試験機が兵器の使用実験を行う予定である。
『F―5』戦闘機に関してはもう間もなく試験機が出来上がるという状況なので、こちらは『F―3』に比べると調達が大幅に遅れる見込みになっている。
だが当面は『F―15J改』戦闘機で十分すぎるほどの能力を有していると考えられているため、もう数年ほどは特に問題ないと判断されている。
これらの戦闘機に関しては、転移時に残留していた在日米軍から一部の機体を接収して機体の詳細な構造を把握できたことも円滑な開発を促す要因となっていた。
これは航空護衛艦、つまり空母に関しても同様で、在日米軍の『ロナルド・レーガン』などを参考に開発が進められている。
現在の予定では艦の運用も航空機の離発着も、海上自衛隊が行うことが決まっている。
戦闘機はそれぞれ『F―35』や『F―22』に酷似した存在になるということもあり、国内のミリタリーファンはその完成を待ちわびている現状である。
更に護衛艦に関しても、転移する直前の2018年に新型イージス艦の『まや』が進水し、『あさひ』型の2番艦である『しらぬい』も就役していることを受けて、それらと同タイプの護衛艦も再建造が始まっていた。
何故ならば、現在量産が進んでいる『ふぶき』型はあくまで沿岸防衛用の急造護衛艦であるため、戦闘能力はともかく航続距離が決定的に不足していた。
そのため、現在では『あきづき』型や『あさひ』型と同タイプの形状、排水量を持つ護衛艦を建造する必要も浮上したのである。
また、『ふぶき』型の中でも『ふぶき』を始めとする『しらゆき』、『はつゆき』、『みゆき』、『むらくも』、『しののめ』、『うすぐも』、『しらくも』、『あさぐも』、『ゆうぐも』、『やまぐも』、『なつぐも』、『みねぐも』までの艦は主砲をOTOメララ127mm速射砲にしていたが、『ゆうぐれ』、『おおしお』、『あらしお』、『はつしお』、『あさなぎ』、『ゆうなぎ』、『あさがお』、『ゆうがお』までの残りを予定されている艦はMk.45 mod4へ変更されることが決定していた。これは、対地・対艦攻撃能力及び射程延長を求められたためである。
当然これに伴い、シーレーン防衛用の通常動力潜水艦の増数も大幅に求められている。だが、残念なことに自衛隊員が簡単に増員できていないために、1年に1隻の調達ペースは変えられそうになかった。
それでいて旧式ながら改良を重ねられた『おやしお』型潜水艦も一部が練習艦から現役復帰しているという有様である。
また哨戒機に関してだが、旧式の『P―3C』対潜哨戒機は順次大陸方面へと移され、今ではその多くが『TP―3C』として対潜哨戒機専門の訓練機となっている。
そして対潜機材などを取り払い、即興ながら軽輸送機として使用できるようにした『CP―3C』など、以前にも増してバリエーションが豊富になっていた。
また、旧世界で輸送機の傑作機とも言われた『C―130』ハーキュリーズ輸送機も日本で改造生産されることになった。
これに伴い、エンジン能力の向上と全体的な材質を軽量かつ頑丈性の高い国産素材に変更した『C―3』輸送機として生産が始まっている。
更に、転移からそれほど経たずに提唱された『航空機の多目的運用思想の研究』に基づいて、日本の自衛隊に足りない攻撃力を補うため、『P―1』哨戒機を製造する際に、川崎重工業に対して富士重工業が提案していた『対不審船用攻撃機もどき』の案を応用すれば、日本流の対地攻撃機が作れるかもしれないということで研究が始まっている。
この背景には、以前にも説明したと思うが、日本が転移してきた新たな地球が、旧世界に比べて非常に古典的な軍の運用形態を取っている国が多く、現在保有しているジェット戦闘機などでは戦略目標を達成できない可能性がある、という理由がある。
旧世界で米国がベトナム戦争などで圧倒的な物量及び技術差が存在するにもかかわらず苦戦したのもその辺りにあった(もちろん制約などを含めて米軍にかなり不利な状況が揃っていたことも原因である)。
全体構造の構想としては、『P―1』哨戒機のヘッド部分、つまりカメラを収めている部分を応用、改造して30mmガトリング砲を収め、翼下パイロン部分に対地攻撃用70mmハイドラロケット弾、あるいは対地攻撃用誘導弾(いわゆるレーダーサイトなどを破壊するための誘導弾)や自衛用の対空誘導弾を装備し、全体的に頑丈な複合装甲を施すことで地上攻撃機とする、という案であった。
求められる性能も『A―10』サンダーボルトのグレードアップバージョンという結論に達しており、以下の要綱となる。
○低空、低速域での高い機動性
○長時間における地上支援を可能とする
○多数の武装を搭載・運用することが可能
○強力な固定武装を搭載すること
○被弾によるダメージ・コントロールの簡易性や整備性などの向上
これらを実現するため、エンジン部分ははやぶさ型ミサイル艇のエンジンを参考に再び研究の必要性が出たものの、情報などは十分国内のデータベースで得られそうなこともあり、実現性は高いと判断されていた。
これが実現すれば、旧世界で米軍が採用していた攻撃機・『A―10』のような性能を持つ(というか比較すればより高性能)な機体を作ることも十分に可能とのことであった。
日本がある程度とはいえ、旧世界の米国のような立場になる以上、こういった攻撃機や爆撃機の類も自然と必要になると既に判断されているため、これらについても研究予算が付けられている。
一から完全に新開発すれば時間もかかるし高コストとなってしまう。だが、既存の機体を一部でも流用することができれば開発にかかるコストも時間も少しは抑えられるという、日本らしい考え方である。
更に『P―1』対潜哨戒機を基にしたAWACSこと『EP―1』早期警戒管制機も転移直後から研究予算がついていたこともあって、既に試験機が飛行を開始している。
このように、日本の軍事事情は徐々にではあるが変化しつつあり、このめまぐるしい変化は一部のミリタリーマニアたちに感涙と共に喜ばれていた。
政府も民間も相変わらず地獄の如き忙しさではあったものの、転移前とは違って皆満ち足りた表情で働いている。
――西暦1738年 9月25日 アヌビシャス神王国軍船 ウルスス
アヌビシャス神王国。この国は旧世界でいう所の北アフリカ一帯を支配し、広大な国土を有する絶対君主制の国家である。
首都は旧世界でいう所のアルジェリアのアルジェに相当し、ダークエルフと呼ばれるエルフ族に近い人々が生活していた。
軍事力などもフランシェスカ共和国とほぼ同等でありながら、共和国よりはるかに過酷な環境であり、広大な国土を有していることから他国からの侵略を受けたことがない、平和国家でもある。
そんな彼らは2週間以上前に軍事演習を行うべく、王族を迎えて王国西部の海域で演習を行なっていた。
実戦さながらの訓練とその迫力を王族に見てもらい、軍の練度を確かめてもらうという意味もあって、兵士たちのやる気は大きく上がっていた。
だが、演習最終日の昼頃、船団は突然猛烈な嵐に見舞われてしまった。
その中で王族の乗る軍船が船団から離されてしまい、操船もままならずに漂流を始めたのだった。
アヌビシャス神王国第二王子ケルウスは舵が壊れ、櫂も流されてしまい、西へと流されていく自分の乗る軍船を見つめることしかできなかった。
「……既に王国を離れて1週間以上……父上や他の者も心配しているだろう。いや、あれほどの嵐に巻き込まれたのだ。もしかしたら国では、既に亡き者と思われているかもしれぬな」
ケルウスは太陽が沈む方角へと船が進んでいるため、自分たちが西へ進んでいると判断できたが、それ以上はどうしようもなかった。
近衛兵たちは船に積んでいた物資を用いて釣竿を作り、魚を釣っては飢えを凌いでいたが、船に長く揺られると罹患する病を発症する者が出始めていた。
王族であるケルウスは優先的に良い食事を供されているため、まだ発症はしていない。
だが既に一部の者は起きることもままならないほどに衰弱しており、このままでは誰も生き残れないであろう。
ケルウスは思わずため息をついてしまう。
自分が何か悪いことをしたのだろうかと。
日頃より王家や国のためにと働いてくれている民を愛し、自分たちへ恵みを与えてくださる神への感謝も忘れていない自負が彼にはあった。だが、そんな彼に神が与えたのは絶望だった。
見渡すばかり海ばかり。神話によれば、生命は海から生まれてきたとも言われており、ケルウスもそう信じてきた。
しかし、食べ物はなんとか手に入っても水は手に入らず、病で弱っていく部下をただ見ることしかできない自分の無力さを、彼は思い知っていた。
「……もはやこれまでか。これが、私の天命だったのかもしれないな」
「殿下、そのように弱気なことを仰らないでくださいませ」
彼を幼い頃から面倒を見てきた侍女のデルピスが彼を叱咤する。
「いざとなれば、わたくしの血肉を捧げてでも殿下を生かしてご覧にいれます。ですから、そのようなことは二度と仰らないでください」
彼女の黒曜石のような瞳が、ケルウスに決意を新たにさせた。
「分かった。二度と弱音は吐かぬ。だからお主も、死を急ぐような台詞を吐くな」
「殿下……もったいなきお言葉にございます」
そんな主従の美しい一幕もあったが、時間は無情にも流れていく。
ケルウスは10度目に日が昇ったことをナイフで船に刻み込んで知った。
既に多くの船員が力なくうずくまっており、近衛兵たちも同様であった。
ケルウス自身も空腹はさておき喉の渇きが拭えず、苦しんでいた。
「……このような絶望を振り払える存在がいるならば、今の私は差し出せるもの全てを差し出しても構わない。だから……私に忠義を尽くしてくれた部下たちだけでも助けてほしい。神よ……どうか……この願いを聞き届けたまえ……」
彼はアヌビシャス神王国式の祈りの所作を取り、神への祈りを捧げた。
それでも空は相変わらずぎらぎらと太陽が照り付け、周囲には島すら見えない。
彼らはここに、自分たちが信奉する神にすら見放されたと思ったのだった。
「ふふふ……最後にできたのが神頼みとはな……まぁいい。親に不敬を働くでもなく、将来兄と共に国政を担うべく父の下で頑張ってきたのだ……それを誇りとして胸に刻み……あの世へと旅立つとしよう……」
――パタパタパタパタ……
「ん? もしや……神が私の最後を憐れんで使者を遣わしてくれたのか? 空から妙な音がするな……フッ、最後まで神に縋るようでは、私もダメな王子だったかもしれんな」
――パタパタパタパタ……!
だが、ケルウスは不審に思った。自分の意識はまだそれなりにはっきりしている。少なくとも、あと1日か2日くらいならば生きていられるだろうとも思う。
では、この空から響いている音はなんなのだろうか。
「?」
ケルウスは船のマストに乗せていた頭を起こし、上空を見た。
そして……『それ』を目にした。
「!?……な、なんだあれは!?」
彼の目が曇っているのでなければ、白と青を基調とした配色の、虫のような物が飛んでいた。
虫のような物体の頭上では羽のような物がぐるぐると回転しており、あれで飛行しているのだろうと思われる。
だが、その太陽の光をギラリと反射する姿を見て彼は驚いた。
「まさか……鉄でできているのか、あの羽虫は!?」
羽虫はしばらく船の上を飛び回っていた。
近衛兵たちも、いつしか自分の頭上を飛び回るその存在に気付いた。一部の者は化け物と思ったのか弓を構えて既に矢を番えている。
だが、明らかに相手は矢の届かない高度にいると判断したのか、すぐにその手を降ろす。
すると鉄の羽虫が体を少し傾けたように彼には思えた。
その時、中の様子が少しだけ見えた。
「……! 人だ! 人が乗っているぞ‼」
兜のような物を被り、目を仮面のようなもので覆ってはいるが、紛れもなく人らしき姿が見えた。
「おぉーい! ここだ! 助けてくれぇっ‼」
王子以下、船に乗る者たちは本能的に『それ』に助けを求めた。
しかし、その物体はそれを見ても何かをするわけでもなく、そのまま西の方角へと飛び去ってしまった。
その様子に、船に乗る者たちは再び絶望する。
「……そうだな。どこの者とも知れぬ輩を助けてくれるわけがない。父上の話では、西には大きな大陸があるらしいが、我が国より遥かに低文明な民族ばかりが住まうと聞く。それでは……助けてもらうのは無理だろうな」
ケルウスはそのまま崩れ落ちてしまった。
それから数時間ほど、船に乗る者たちは完全に生きる気力を失ってしまったのか、ただぐったりとすることしかできなくなってしまった。
誰もが黙り込み、絶望している。
先程もしかしたら助かるかもしれないと思っただけに、その絶望はより深いものとなっていた。
「……もう、どうにでもなるがいい」
ケルウスは自分の腰に帯びていた短剣を引き抜くと、自分の首元に押し当てた。
彼が刃を引いて命を絶とうとした時だった。また奇妙な、独特な音が彼の耳に届き始める。
――ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ……‼
「? 今度はなんだ? これ以上、私をどのような絶望へと落そうというのだ? 神よ、もう許してくれ……」
――ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ‼
直後、人の声とは思えないほどの大音声が響き渡る。
『こちらは日本国海上保安庁特殊警備救難艇『さざんくろす』です! 漂流船の方、手を挙げて返答してください! こちらは日本国海上保安庁特殊警備救難艇『さざんくろす』です! 漂流船の方、手を挙げて返答してください!』
ケルウスは確かに『日本国』という名称を聞いた。
そんな国があるとは聞いたことがないが、国であるならば助けてもらえるかもしれない。
彼は一縷の望みを、文字通り最後の望みをかけて起き上がり、手を挙げて左右に大きく振った。
それと同時に、彼は見た。
「!? なんだ、あの船は!?」
白を基調とした、自分たちの軍船とほぼ同じくらいの大きさの船が、彼の常識からすればとんでもない速度で海を走っているのだ。
これが、アヌビシャス神王国と日本国のファーストコンタクトとなるのだった。
ヘリコプターと哨戒機、それに戦闘機と問題が山積みな日本です……
エルフの次はダークエルフ!やっぱりファンタジー種族なら欠かせないでしょう。
2話目は15日の夜、金沢から投稿させていただきます。