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日本時空異聞録  作者: 笠三和大
25/138

有翼戦士団対陸上自衛隊普通科部隊、大海原の弾雨

確認してみたら、遂にブックマークが500件を突破しました!

自分としては1年くらいかかるかな……と暢気に構えていたのですが……

ご愛顧頂いてとても嬉しいので、今月も3話投稿いたします。

無理をしているのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、書いておいたストックもあるのでまだ大丈夫です。

――イタリシア王国 有翼戦士団隊長 ゴリオ

 ゴリオは6千人の内、半数にも及ぶ3千人もの大部隊を率いて敵艦隊左翼側から攻撃を仕掛けようと飛行していた。

 その腰には鋭く磨き上げられたナイフが差し込んである。彼女はこれまでにもこのナイフで多くの敵を殺してきた。

 東の大国、蟻皇国との戦いでも彼女は先頭に立って敵艦隊に襲撃をかけた。

 数千もの有翼戦士団に群がられた敵の鋼鉄艦隊はあっという間に指揮系統がズタズタになり、ロクに力を発揮できなくなった。

 彼女は敵艦隊の旗艦を制圧した後に、艦長だという蟻皇国人の男を部下に押さえつけさせながら馬乗りになって凌辱した時のことを思い出していた。

「今度もそうしてやるさ……倍にして苦しみを与えてやる!」

 あの時のような快楽を味わいたい、しかし負けるわけにはいかないと気を引き締めながらも飛行を続ける。

 見れば、敵艦隊との距離は5kmを切ろうとしていた。

「やっぱり、あいつらは巨鳥だけを狙っていたんだね。このまま敵艦の横を抜けながら、旗艦に向けて突撃するんだ‼」

 そして、敵艦との距離が1.5kmを切ったところで、敵の艦に備え付けてある白いドームのような物を乗せた筒がこちらを向いたように思えた。

「!」

 一瞬、何とも言い知れぬ死の予感を感じたゴリオはたまたま吹き込んできた上昇気流に乗って勢いよく上へと昇っていった。

 その直後であった。

――ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ‼

 まるで獣の唸り声かと思うような轟音が響く。ゴリオは真下にいるはずの自分の部隊を見た。

「ば、馬鹿なっ!」

 その場にいた100人以上の有翼戦士団が一瞬にして粉々に粉砕されて海へと落ちていったのだ。

 鋼鉄の暴風雨のような物が連続して吹き荒れ続け、唖然としている間にも更に多くの戦士たちが体の一部が吹き飛ばされるほどの衝撃で落水していく。

「く……おのれぇぇぇぇぇぇっ!!」

 他の戦士達もゴリオに続いて上昇していくが、鉄の暴風雨を噴き出す白帽子を付けた筒先はまるで意思を持っているかのようにこちらを向いてくる。

 ゴリオがチラリと横を見れば、彼方にいるはずの隣の艦からも同じ鉄の暴風雨が吹き荒れ、分散したゴリオの部下たちを襲っていたのだ。

「こんな……こんな化け物が存在するなんてっ!!」

 だが、両部隊合わせても自分たちの損害は500人と少しのようだ。まだ5千人以上が残っている。残りの部隊で両翼から一気に攻撃を仕掛ければ、あの巨大艦でも制圧できるに違いない。

「そうしたら……今までのツケを何倍にもして返してやるぞ‼」

 彼女は死んでいった者たちの仇討も決意しながら突き進む。

 イタリシア王国所属有翼戦士団6千人は、護衛隊群の各艦が放つ近接(C)防御(I)火器(WS)の猛攻を受けながらも『あづち』へと飛行していた。



――同時間 輸送艦『あづち』甲板

 『あづち』の甲板では、今回襲撃してくるであろう敵空挺部隊を迎え撃つべく集められた陸上自衛隊東部方面隊第1師団所属の普通科連隊500名が装備を確認していた。

「さすがに5千を超える数は多いようだな」

 迎撃部隊を指揮する杉田一等陸尉は、真面目な表情で転移後のみならず第二次大戦後初となる実戦を前に緊張していた。

 相手の攻撃方法は既に判明している。空挺部隊とはいえ、自衛隊と異なり銃の類を持たず、ナイフなどで急所を狙ってくる、日本人からすれば子供くらいの大きさしかない相手だ。

 ここに来るまでにも近接防御火器の攻撃を受けて数をそれなりに減らしているだろう。

 だが、それでも5千人近くがまだ向かってくると聞いてさすがに冷や汗が背中を流れていたのだ。

「一尉、大丈夫ですか?」

 隣に立つ副隊長の小野二等陸尉がハンカチを差し出してきた。細い目が特徴的で、普段は飄々としているが、的確な分析眼で杉田を補佐してきた優秀な幹部だ。

「あぁ、すまない。今までにも大陸でデカいトカゲ相手に銃を撃ったことはあったが……本当の意味で国家間での戦い、しかも我々くらいの基準で子供くらいの大きさしかないような相手に銃を撃つということが、今でも信じられないような気分でな」

 彼には本土にいる妻との間にまだ10歳にもならない子供がいる。その子供とそれほど大差ない外見の相手を撃たなければならないということに、日本人として抵抗を覚えているのだ。

 だが、小野が諭すように述べる。

「確かに、外見は我々の基準では子供のようなものでしょう。しかし、同盟国であるグランドラゴ王国によれば、彼らは成熟が他の種族に比べて異様に早いこと、そして飛行するために肉体を小型化・軽量化したことがそのような外見を作り出した原因だとのことです」

 日本は事前にグランドラゴ王国から、スペルニーノ・イタリシア王国の民族に関する情報も多く手に入れていた。そのため、今回の相手が日本人よりもはるかに小さい存在であることは全隊員に周知している。

「我々の基準では子供かもしれませんが、相手の基準では大人なのです。ならば、対等の存在としてきちんと扱うべきでしょう。たとえそれが戦いの場であったとしても」

 ある意味これまでの日本人らしい固定観念に凝り固まりかけていた隊長のために、彼も論理で応じる。

「彼らは自分の責任で、フランシェスカ共和国のみならず、邦人にまで手をかけました。その責任を……取らせなければなりません。我々がここで臆すれば、多くのフランシェスカ人のみならず、後々日本本国に対する大きな脅威となるでしょう」

 兵士とて人間である。殺したいから殺すのではただの殺人者と変わりはない。だからこそ、彼らは国を守るため、国のためと自分に言い聞かせることで理論武装して自分自身を『許す』ことをしなければならないのだ。

「……あぁ。そうだった。悪いな、小野。もう迷わない。これは……日本の、ひいては俺たちの背後にいる無力な人達を守るためだ」

 きっぱりと言い切った隊長を見て、小野も柔和な笑みを浮かべる。

「さて、そろそろ敵さんのお出ましのようです」

 小野の言葉を受けて、杉田は最後の発破をかけることにした。

「そうだな。各員、最後の武装点検だ! もう敵はすぐに来るぞ! この『あづち』に、一兵も乗り込ませるなよ! 銃剣も装着しておけ! 最後に頼れるのは自分自身だ! 相手の数は多い! だが、こちらは武装と体格差では勝っている! これは同盟国だけではない。我が国の国土と国民を守るためでもある! 総員、全力を尽くせ!危うい状況になっても諦めるな!生きることを諦めた奴から戦場では死ぬ‼危うい状況になれば、側の奴が助けてやれ! ここにいる全員で、生きて帰るぞ!」

 隊長の言葉を受けて、全員が頷いた。

 そして3分後。

「隊長、最後の確認が終了いたしました」

「よし、後は左右正面の三方向の見張りを厳とせよ」

 隊員達が艦橋を射線に入れないようにと、自分たちの持つ武器を握りしめてから1分後、『あづち』の艦橋付近に搭載されている『CIWS』及び『Sea Ram』が起動し、右斜め前方面に向けて砲身を向けた。

――ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ‼

 自分たちが扱う機関銃や重機関銃よりもはるかに凄まじい重低音を耳にしたことで、隊員たちは敵がすぐ近くまで迫っていることを確認した。

 そして、杉田に艦内から無線が入る。

『こちら〈あづち〉艦橋。敵部隊は最後に確認したところ5千人以下まで減った模様。各員の奮闘を願う』

 杉田はそれを聞くと、最前線にいた隊員に合図を飛ばした。

「既に敵は射程内だ! 出鼻をくじかれたところで更に突き付けてやるぞ。軽SAM、発射用意! ロックオンし次第各員の判断で発射せよ!!」

 最前列に立っていた隊員たちが軽SAMこと『91式携帯地対空誘導弾』を次々に構え、照準器を覗き込んで敵の、できる限り密集している付近に照準を合わせる。

後方の隊員たちに影響がないようにと、彼らは甲板の先端部分で20名ほどが発射する。

そしてすぐに、火を噴いた軽SAMはロケットモーターで飛行を始め、あっという間に最高速度のマッハ1.9まで加速し、狙った敵部隊へと飛翔していった。

ものの数秒ほどで、敵の密集していた場所で大きな黒と赤の混じった花が咲く。

「全弾命中しました」

 これだけでどうやら50名以上を巻き込めたようである。相手の数が多かったため、どこかへ逃げようとしても自然と密集隊形になりやすかったのだ。

 報告を受けた杉田は軽SAMを操っていた隊員たちを下がらせる。彼らにはこの後も艦内に置いてある銃火器を取って警戒してもらわなければならない。

「よし……来るぞ」

 そして、『あづち』の左右を囲むように多くの翼を持った子供のような存在が飛行してきた。

 そして、奇声を上げながら獲物を見つけた肉食獣のような目で降下を開始しようとする。

「各員の判断に任せる! 円形陣内部、撃てぇ―――ッ!!」

 円形に陣を組んでいた隊員の内、内部に立っていた隊員が5.56mm機関銃、分隊支援火器MINIMIによる射撃を開始した。

――バババババババババババババババババババババババババッ‼

 MINIMIは軽量化されているとはいえ、200発入り弾倉を含めて10kg近い重さがあるため、本来対空に用いる銃ではないのだが、今回は工夫して雪上で使用する際に銃身を固定する『しょいこ』を利用して射手の腕にかかる負担を減らしているのだ。

 『しょいこ』を背負っている隊員は事前に決めていた射手の合図を受けて、特に密集している付近へ体を捻る。

 ちなみにその練習風景を見たある隊員が、『まるで生きた高角砲だな』と述べたということから、『高角砲戦法』と呼ばれるようになる。

 更に陣形外周部でも低空飛行から甲板に侵入してこようとする相手に89式自動小銃で射撃を開始した。

――バンッ! バンッ!

 89式自動小銃は単発・連射・3点バーストが使い分けられる小銃である。

 有効射程は500mと言われており、低空から直線に侵入しようとしてくる敵相手ならばそれほど苦労なく狙える。

 とはいえ、さすがに5千人近くは数が多い。

 次々と相手が甲板上に着艦してくるため、その端から3点バーストで撃ち抜いていく者もいる。

 弾切れが起きると、その背後に控えていた隊員が素早く装填済みの小銃を渡し、再度射撃を開始する。

 まるで、織田信長のとった『鉄砲交換撃ち』のようだとは、後の関係者の言である。

 だが、MINIMIの方はそうもいかない。

 焼き付いた銃身の交換自体は手際よく行えるよう設計されているが、銃身を『しょいこ』に固定しているために弾の交換に時間がかかるのだ。円形陣後方で陣取っている部隊員ができる限り急いで交換していく。

 そのため、命中率と撃破率はどうしても89式自動小銃を構えている隊員に多く出る。

だが、息もつかせぬ連続射撃の甲斐もあってか、敵の数はあっという間に2千人近くまで減少していた。

 しかし、空を舞う敵の密度が薄くなるということは、軽機関銃のような制圧型の銃で当てにくくなってくることを意味する。

「よし、MINIMIは後退! ハチキューで援護しつつMINIMI射手、及び『しょいこ』員もハチキューを持って甲板に再集合! 細かい作戦なんてない! とにかく撃って、撃って、撃ちまくれ!!」

 円形陣の一部が崩され、89式自動小銃を持った隊員が援護する中でMINIMIを背負った隊員と射手が後退していく。

 一度艦内に入り、軽機関銃と『しょいこ』を降ろして自動小銃に持ち替える。

 そしてわずか3分で再度甲板へ飛び出してきた。

 だが、わずかに人数が減ったとはいえ、射撃密度が一気に薄くなったせいか敵部隊が次々と着艦しようとしていた。

 だが密集すれば一気に、分散しても各個撃破されることは理解しているのか、より被害が少なくなり、相手に辿り着ける可能性の高い分散態勢で襲い掛かってきた。

 ヨーロッパ人のような顔に鳥のような羽を持った者たちが、羽の途中にある未熟そうな指にナイフを握りしめて鬼気迫る表情で襲い掛かってくる様子は、平和に慣れた日本人に言い知れぬ恐怖を植え付ける。

 だが、日頃から訓練を積んでいる自衛隊側は冷静に、1人ずつ確実に撃破していく。

 できる限り甲板を汚さないようにするため着艦寸前の減速する状態を狙っていることも幸いした。

 相手はこちらの船が金属でできていることを見抜いているようで、勢いよく着艦したら衝撃で足がおかしくなるということを理解しているようだ。

 だから自然と侵入路は真上『以外』となる。

 上空を舞う敵の数がどんどんと減っていったことで、彼らは続々と低空飛行からの着艦に専念するようになったのだと自衛隊員たちは理解した。

 次々と海へ落ちていった有翼人たちは海面を血で汚し、その匂いに惹かれて集まった肉食魚や海竜たちの餌となる。

 大変不謹慎な余談だが、この付近に住む海竜たちは『大きな鉄の船が来れば楽に餌がいっぱい食べられる』と理解したことで、日本の巨大船が通る度によく姿を見せるようになり、これが『ダイノウォッチング』としてちょっとしたブームになるのだが、それは別の話。

 閑話休題。

 だが、隊員たちの防御にも限界はある。

 ついに1人が、銃弾の飛び交う中を掻い潜って隊員に肉薄したのだ。

「死ねぇッ!!」

 ナイフを片手に直線的に突っ込んでくる様子は、まるで旧日本軍の決死特攻のようにすら見え、隊員たちは更に戦慄する。

 だが、日頃の訓練で培われた銃剣術でそのナイフをいなし、カウンターで切り裂いてその兵士を倒した。

 見れば、未熟な体型ながら胸元の膨らみが見えたことから女性だったようで、その隊員は自分が相手の命を絶った感触と、相手の性別、そして体形を見て思わず呻き声をあげてしまった。

「感傷に浸るのは後だ! 今はとにかく撃て!!」

 隣に立っていたベテラン曹長の言葉を受け、若い隊員は射撃を再開した。

 何分経っただろうか。隊員たちには永遠のようにも感じられた時間だったが、どんなものにも終わりは来る。

 気づけば、敵の戦力は既に1千人近くにまで落ちていた。

 上空を旋回し続けているゴリオは驚きを隠せない。

「そんな……精強なる我が有翼戦士団が……相手に一撃入れることすらできない、の……?」

 日本側は相手が艦対空誘導弾や近接防御火器の猛攻撃を見れば、少なくとも着艦しようという時に密集隊形をあまりとらないであろうと推測したのだ。

 そしてそれは大当たりであった。

 それこそが日本側の狙いでもあった。あまりにも密集して押しかけられては、敵が死体を壁などにしてさらに押し寄せてくることが予想されたからである。

 つまり、有翼戦士団は完全に詰んでいた。

だが、今撤退など許されるわけがない。それこそ、死んでいった者達へ申し訳が立たないからだ。

「……突撃よ。せめて敵兵の1人でも討ち取らぬことには、散っていった者たちへ顔向けができない。行くわよ!! 残存有翼戦士団、密集して敵艦正面から突撃せよ!!」

 残った有翼戦士団1千名は意を決して『あづち』の前方部分から突撃をかけてきた。

 慌てたのは自衛隊側である。

「た、隊長! あいつらヤケになりました!」

「狼狽えるな! 密集してきたならばこちらも集中射でケリをつける!」

 今までよりも高まる緊張感に、震えている隊員もいる。だが、彼らもここで退くわけにはいかなかった。

 杉田も部下から渡された89式自動小銃を構えながら叫ぶ。

「最後まで気を抜くな! 情報によれば奴らは最後の1人になっても諦めないぞ! こちらも最後まで絶対に気を抜くな!」

「「「了解!!」」」

 それから30秒もしないうちに、有翼戦士団が正面から突っ込んできた。

「撃てぇ――――――ッ‼」

――ダダダッ! ダダダッ! ダダダッ!

 連続する発砲音と閃光。また永遠が続くのかと隊員たちは思った。

 だが、数分もすればその数は大幅に減っていた。

片腕が吹き飛ばされても、太ももを貫かれても、彼らは覚悟を決めて向かってきた。

その様子は、かつて80年以上前に列強相手に一億玉砕あるのみと覚悟を決めかけていた旧日本軍を思い起こさせ、知識のある者は『対峙するとはこういうことか』と恐ろしさを感じたという。

そんな中で、ついに自衛隊で恐れていたことが起きた。

「よ、予備弾倉を!!」

「も、もうない!」

「は!?」

 杉田はハッとして後方の部隊を見るが、皆小銃の弾丸を使い切っていた。まだ敵の数は100人近くいる。

「くっ……狙っても当たらない弾が多すぎたかっ!!」

 元々有翼人の速度は時速60km程度と、野生の馬が全力疾走した速度とほぼ同じだと一般的(この世界で)に言われている。

 しかも、その大きさは馬とは比にならないほど小さい上に、その飛行方法は野生の鳥が滑空するものとほぼ同じ。

 つまりは、狙いがとてもつけにくいのである。

 それを知っていた日本側は事前に鳥撃ちを専門にする猟師に意見を聞く、或いは滑空が主な飛行手段ということでアホウドリなどの大型鳥類の動きを参考にわずかな時間ながら訓練を行なった。

 しかし、それでも限界はあった。

 小さく、そして人間や航空機では考えられない軌道飛行を見せる有翼人は対峙したことで想像以上に狙いにくい存在であると自衛隊は感じていた。

「前方隊員は銃剣を構えろ! 後方隊員は拳銃で支援だ!」

 白兵戦になる事も想定して今回使用している89式自動小銃は最初から銃剣を装着されていた。

 隊員たちは滑らかな動きで銃剣を構える。

 そして、残った100名弱が甲板に降り立って突進してくる。

 その眼にもはや理性はない。ただただ敵を倒すという狂気のみで動いている。

 それでも自衛隊とて退けない。隊員たちは緊張しながらも銃を構える。

 距離はもう50mを切っていた。

 有翼戦士団はこれまでの経験から降り立つとジグザグに走り出す。

 9mm拳銃を持った隊員は射線に入った瞬間に発砲するが、小柄な存在がジグザグに走っているためやはり当てにくい。

「なんとしても近づけさせるなぁっ!」

 隊員に肉薄してきた戦士がナイフを掲げて隊員に突き刺そうとした。

 だが、隊員はアウトレンジで素早く自動小銃を突き出し、敵戦士の胸に突き刺した。

 更に、近づけばどうしても動きが制限されるからか、隊員も銃弾を当てやすくなっていた。

 次第に溶けるように有翼戦士団は数を減らしていく。

 最後に跳躍した女戦士が隊長である杉田を狙った。

 だが、立ち上がった隊員たちが一斉に繰り出した銃剣刺突で全身を貫かれて、そのまま空中で静止した。

 こうして、甲板に大量の血だまりと死体を残しながらも『あづち』を守り抜くことに成功した陸上自衛隊であった。

 一方、海上自衛隊の護衛艦も着実に成果を重ねていた。

 護衛艦から発射される127mm砲や76mm砲は容赦なく木造の船体を貫いていく。

 護衛艦の砲撃音が響くたびに戦列艦、そして接近してきた鳥母が次々と巻き込まれて炎上、轟沈していく。

「ちくしょう! あんな……あんな化け物に勝てるわけねぇだろう! うわ、うわぁっ!!」

 着弾するたびに悲鳴が響き渡る。だが、残っている船はそれでも諦めずに海上自衛隊の船に突撃をかけていく。

 しかし、艦隊司令のトーロンは、完全に諦めの境地に達していた。

「なんて敵だ……こんなもの、勝てるわけがない」

 後方にいる彼の船はまだ攻撃を受けていないが、この勢いではすぐに攻撃を受けるに違いない。

「撤退はできない。だが、本国に情報は送らねば! 通信士、すぐに打電しろ! すぐに……」

 だが、それは叶わなかった。その言葉の直後に直撃した127mm砲弾により船は大爆発を起こしたのだ。

 トーロンは投げ出され、流れ着いた木材にしがみついた。

 目の前では、自分の乗っていた鳥母が燃え盛る様子が見えた。

「わ、我が船が……」

 トーロン、そして漂っていた一部のスペルニーノ・イタリシア人と共に救出されたのだった。

 こうして、日本国とスペルニーノ・イタリシア連合軍による『ポワソン沖海戦』は日本側の被害がゼロという圧倒的勝利で終わった。

 戦闘終盤で本国に敵戦力について打電しようとはしたものの、結局その余裕もないままに終わってしまったのだった。

 


 輸送艦『あづち』の艦内では、フランシェスカ共和国とグランドラゴ王国から派遣されてきた2名の観戦武官が真っ青になっていた。

 自分たちでは不可能な戦い方と兵器の運用方法を目の当たりにしたのだから、当然と言えば当然である。

 特に、グランドラゴ王国から派遣されてきたダイルスの衝撃は計り知れなかった。

「なんという戦い方だ……イタリシアの巨鳥と有翼人をあのような方法で撃墜するとは……」

 特に、日本が使用した『誘導弾』という兵器は高度すぎてダイルスにはどんなことをすればあんな兵器が作れるのかまるで想像もつかなかった。

 知識としては知っていたが、実際に目にするとこれほどの衝撃を受けるものなのか、と心に強く刻まれることになった。

 余談だが、グランドラゴ王国はこの後、魚雷を有線方式だが誘導することを思いつき、3年後の王国で採用されることになる。


今回、多くの血が流されました。それも、自衛隊員の目に映る形で、大勢の人が亡くなりました。日本人の心構えから行けば、恐らく複雑な胸中となるでしょう。

それも踏まえて読んでみて下さい。

今月は普通の投稿に加えて、もう1つ概要の3を投稿しますので、その時をお待ち下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最終防衛ラインで連射可能なショットガン部隊が欲しかった。 もちろん予備数百丁用意して。
[気になる点] こんな無駄に危険な戦闘を強いられた自衛官たちの扱いについて複雑な心境です。異世界に行っても環境が変わっても自衛官の命は軽いんですね。
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