平和主義のフランシェスカ共和国
どうも、今回はエルフと狼人族の国、フランシェスカ共和国の使節団が新大陸を訪問します。
――西暦1738年3月20日 フランシェスカ共和国 首都パリン
農地と森のお陰で緑が溢れるフランシェスカ共和国。旧世界で言う所のドイツとスイス、ベルギーとオランダを領有している国である。
今この首都パリンに存在する外務省において、国の命運を左右する外交交渉が行われようとしていた。
昨日から今日に至るまで、同盟国であるグランドラゴ王国から報告があった日本という新興国の使節団に対応していたからだ。
今は実務者協議を終え、日本に対する使節団派遣のための会議をしている。
「では、以上の条件で使節団派遣ということにさせていただきます」
フランシェスカ共和国外務大臣の狼人族、ダックスはフランシェスカ語(彼らはフランス語と呼んでいたが)で書かれた書類を改めて見直す。
彼の目の前には、ドワーフ族よりも背は高いがスラッとしており、エルフとドワーフを足して2で割ったような人種が座っている。
「(本当にこんな好条件で国交締結をしようというのか? 広大な大陸を所有する巨大国家が、こんな……弱腰といってもいいような外交をするとは……我が国に負けず劣らぬ、平和主義国のようだな)」
相手が大国ながら平和を愛する国であったことに心底安堵しつつ、使節団派遣のための条項を確認していく。
「では、使節団編成のために1週間ほどお時間を頂きます」
「はい。日本国は受け入れ態勢を整えておりますので、そちらのペースに合わせられます。ご安心ください」
配慮に重なる配慮を受け、ダックスは本当にこんなに至れり尽くせりでいいのだろうかと恐怖すら覚えてしまう。
「これほどの好条件で国交を締結したとしても、我が国から輸出できるのは農作物くらいの物ですし……日本国には何の利があるのですか?」
聞かれた日本の外交官は笑顔を崩さない。
「我が国は多くの国と国交を結び、世界全体を良い方向に導いていければよいと考えております。国は国との付き合いを深めることで更に発展していきます。競争が生まれ、新たな経済活動が発生します。我が国はそうやって、世界をリードできる存在になれればと思っております」
つまり、目の前に座っている人物の祖国はそれだけの技術や能力を有しているということである。
少なくとも、昨今にできたような新興国家ではないというグランドラゴ王国の文言は正しかったようである。
「それにしても、転移国家とは……そのような話、1万年ほど前に突如消えてしまった大陸があるという神話以外は聞いたことがありませんよ」
「我が国でも原因は未だに解明できておりませんが、こうして存在するからには相応の理由があるとお考えいただきたいものです」
穏やかに告げる日本外交官の目の前には、日本が誇る様々な品が並べられている。腕時計やメモ帳、シャープペンシルや音楽の再生機器など、日本人が日常生活を送るうえでよく使われている物ばかりであった。だが、フランシェスカ共和国の基準からすると、どれも高度な技術が使われていると判断できた。
「そうでしょうね。少なくとも、今見せてもらった様々な物はこの世界最強の国であるイエティスク帝国ですら作れる代物ではないことは明らかです」
既に何度か名前の出ているイエティスク帝国という国について、日本はグランドラゴ王国から情報を収集していた。
旧世界で言う所のロシア一帯を支配している国である。グランドラゴ王国や、同等の能力を持ち中国一帯を支配する蟻皇国という国よりも強力で、既に航空機を操る概念があるという。
日本はなんとかこの国と国交を結びたいと考えていたが、まずは身近な国との国交締結により足元を固めていく必要があると考えていた。
同じ理由により、アメリカ大陸の西側がまだ開拓しきれていないこともあって、西側からハワイやオーストラリア、日本列島方面へ向かわずに東へ東へと進んでいく予定である。
「しかし、まさかいきなり武器輸出も許可してもらえるとは……驚きです」
既に日本はフランシェスカ共和国とも武器輸出についての条約も取り交わすことを決めていた。
もちろん、防衛以外には使用しないことを約束していることも含めて日本にとって敵対されても問題ない物ばかりを輸出することにしている。
「本当にありがとうございます。それに、我が国が火器を好まないことを考慮したこの武器リスト、我が国のような武力・技術的な弱小国に対してここまで配慮していただけることを、とても嬉しく思います」
フランシェスカ共和国は自他共に認める平和主義国家であり、グランドラゴ王国同様に他国を侵略することを良しとしていない。
ただし種族的特徴から、グランドラゴ王国と異なり銃火器の類を開発・保有しなかったことも含めてフランシェスカ共和国は武力的にはこの世界で最弱に近い能力しかない。
しかし、今回日本から導入することが決定した武器は、今までの彼らの『武器』の認識を大幅に変えてくれるものであった。
「これで我が国は変わります。貴国とは、長いお付き合いを持ちたいものです」
「それはこちらも同じですよ」
両国の外交官は互いに手を出してしっかりと握手した。
――西暦1738年 3月27日 フランシェスカ共和国 港町シャローネ
この日、フランシェスカ共和国から日本へ向かう使節団15名が港町であるシャローネに揃っていた。
エルフと狼人族で構成された使節団は、外務省、騎士団、農務省などの様々な専門分野の人材を揃えており、日本を多角的に分析できるようにという意味もある。
その中で外交官であり今回の使節団で一番初めに日本と接触した人物でもあるダックスは、礼服に身を包みながら緊張していた。
「転移国家であるという日本国……どのような国なのか、楽しみですよ」
隣にはエルフ族の騎士、ティーグルが立つ。
「そうですかね? グランドラゴ王国同様機械文明だといいますし、やはり草木も少ない石の国なのではありませんか?」
彼らエルフ族と狼人族は森の中で生きる種族である。だからこそ、自然を蔑ろにする存在を彼らは好まない。
グランドラゴ王国と友好を結んでいられるのは、王国が技術開発を進めつつもワイバーンが存在することもあって自然を大事にしている部分があるからであった。
「そうかもしれませんが、彼らは我々に配慮した技術を輸出することも約束してくれています。私は個人的には楽しみですよ。我が国の人々に合わせてくれるという日本国……どれほど発展しているのか」
彼らは日本が用意した大型客船に乗り、2日をかけて航行し、日本列島本土で1週間を過ごした。
エルフ族や狼人族が自然、特に森林を愛するという民族であるという話をグランドラゴ王国側から聞いていたため、日本側は北海道の知床の原生林、箱根の温泉街、そして伊勢神宮を案内したのだった。
だが、今回の目玉はそれではなかった。1週間が経過した日本側は彼らを成田空港へ案内した。日本からも外務省の職員が付き添っている。ダックスは外務省の職員に聞いてみた。
「我々はこれからどこへ向かうのですか?」
「我が国が開拓している西の大陸です。我が国は旧世界の名称として、『アメリカ大陸』と呼んでいます」
彼らは鋼鉄でできた鳥のような物『ボーイング777』旅客機に乗り、一路日本が開拓しているアメリカ大陸へと向かう。
開拓途中とはいえ、日本が開拓している場所とあって、使節団の面々はどんな場所なのかと目を輝かせて飛行機に乗った。
――2024年 4月4日 日本国領有 中央米州東部海岸 ベイナリタ空港
『当機は間もなく、ベイナリタ空港へと着陸いたします。着陸までもうしばらくお待ちください』
機内アナウンスが流れると、案内役の外務省職員は『やれやれ』というように首を鳴らす。
フランシェスカ共和国の使節団はそれどころではなかった。
こんな大きく、鉄でできた物が空を飛ぶだけでなく、その速度たるや、自分たちの常識とは桁外れだったからであった。
彼らの中で速度に優れた物といえば、やはり馬と狼人族であった。狼人族は非常に身体能力が高く、平原ならば馬に匹敵する速度を、森でも木々が生い茂る中を他種族とは比べ物にならない速度で駆け抜けることができる。
空に関して言うならば、グランドラゴ王国の保有するワイバーンの速度が時速300kmに届くかどうかということを聞いていたため、この飛行機もそれくらいなのかと思っていた。
だが実際乗ってみればその速度はワイバーンとは比べ物にならないほど速く、離着陸の時にこそ多少衝撃はあるが、空を飛んでいる時はほぼ揺れがない。まるで地面の上に立っているかのごとき安定感であった。
これまでの日本列島滞在の時点でそれまでの自分たちの価値観がすっかり崩れていた彼らであったが、この巨大な旅客機に乗って空を飛んだことで何も言えずに固まるほかなかった。
そして、日本が建設したベイナリタ空港に降り立った彼らは更に驚いた。
見れば、様々な種族の人間たちが空港で働いていたのだ。
鹿のような角を持つ者もいれば、フランシェスカ共和国の南西に存在しているスペルニーノ王国の蜥蜴人のような種族もいる。
そんな人々が、一斉に動きながら様々な仕事をしているのだ。こんな光景、他の国ではまずお目にかかれない。
「凄いですね……日本は数年前の転移までは我々に近いヒト種しか存在しないほぼ単一民族の国家だったと聞いていましたが……まさか、これほど多くの種族が働いているとは」
ダックスの驚愕に騎士のティーグルが付け加える。
「それだけではありません。日本はまだ転移してから6年ほどしか経過していないというのに、我々の想像を遥かに超える大規模な施設を建造している。しかも、聞いた話が確かならば、このような施設が沿岸部に多数存在しているという。それほどの規模を誇る施設を6年ほどで、東部限定ながら北から南までほぼ揃えたという……少なくとも、我が国では不可能な行為です」
「これほどの設備を整えようと思うと、グランドラゴ王国でも無理か?」
「グランドラゴ王国はもちろん、イエティスク帝国ですら不可能でしょう。私は研修で『秘かに』イエティスク帝国に行ったことがありますが、岸壁に見えるあの灰色の大型船はとんでもない船です」
ティーグルは空港に併設されている自衛隊の港湾基地を見ていた。その岸壁には、旧世界の米国が保有していた『ワスプ級強襲揚陸艦』によく似た外観の船が停泊していた。
それは、日本がこの6年間で建造に成功した補給・揚陸を目的とした新型揚陸艦・『あづち』型輸送艦であった。
一見すると空母にも思えるこの船は、今までの『おおすみ』型とは比べ物にならない規模の輸送量を誇る。
『ワスプ』級揚陸艦をモデルにしているため、将来的には垂直離着陸可能な次世代戦闘機のB型もある程度離着陸できるようにしている。
ティーグルはまじまじと強襲揚陸艦を観察する。
「あれほどの大きさならば、兵員も多く運べるだけでなく、様々な物資を一気に輸送することができます。あのような巨大船を建造できるとは……日本の技術は凄まじいです」
ティーグルはもちろん、ダックスや他の面々も顔を真っ蒼にする。
すると、案内していた日本の外交官が声をかけてくる。
「皆さん、こちらになります。付いてきてください」
使節団は日本本土でも乗せられたマイクロバスに乗る。彼らも本土側で飛行機や新幹線、そして船やバスなどにずっと乗っていたので慣れたものである。
全員が着席すると、バスは滑らかに走り出す。
ダックスは空港を出たから窓の外に広がる風景に目を丸くする。
「……日本の実質首都と言える東京の街とほぼ同じ規模……いや、それ以上かもしれないな。日本がこの大陸の開拓をどれほど重視しているかが窺えるな」
高層ビルの類はほとんど存在していないが、既に6年の間に巨大な工業地帯も設立されている。イメージとしては羽田や川崎付近の空港と工業地帯の規模を更に拡大したものを思い浮かべていただければわかりやすいと思う。
加えてこの空港付近の町・『ベイナリタ市街』には自衛隊の港湾設備も集中しているため、とてつもない規模の工業都市となっているのだ。
この工業都市では開拓のために今でも様々な物が毎日作り出されている。日用品はもちろん、建築資材や防衛関連の品目ももちろん揃えられている。
バスはきっちりと舗装された道路をずっと進んでいく。時間的には20分ほどだったが、目前に大きな施設が見えてきた。
「松下殿、あの設備はなんでしょうか?」
問われた日本の外交官、松下は待っていましたとばかりに説明する。
「あれは今我が国で研究されている『恐竜家畜化計画』の実験場です」
「恐竜家畜化計画?」
バスは駐車場へ停車し、松下が先に降りて使節団を誘導する。
施設内部へ入ると、中では巨大な草食恐竜が牛や馬のように囲われた場所で飼育されている。
「こ、これは……」
「見ての通り、草食恐竜を家畜化して食用にできないかという研究をしている場所なのですよ」
「あれほどの大きな竜を……食用に?」
「えぇ。我が国の食糧消費は膨大なものですので、できることはできうる限りやらなければ国の行く末に関わりますからね」
日本の基準で言えばトリケラトプス、パラサウロロフスのような恐竜が枠の中で大人しく穀物や野菜を食べていた。
旧世界の概念で草食恐竜という生物は葉っぱを中心に食べていたとされているが、この世界の草食恐竜は木の実や野菜、果実も平気で食べている。
学者曰く、『我々の世界の恐竜とは異なり、果実や被子植物なども食べられるように進化を遂げているのだろう』とのこと。
ダックスは日本の基準が自分たちとは桁外れていることに更に驚く。
「我が国ならばそのまま軍事転用できそうな生き物たちですよ。あの3本角の竜など、弓矢程度ではほぼ傷もつかないでしょう。歩兵集団の中に突っ込ませれば、とんでもない被害を出せます。加えて、植物食なので森や農地さえあれば生きていけるというのも恐ろしい」
パラサウロロフスも大きさがそれなりにあるため、彼らから見れば輸送方面などに使えそうである。
「これらも輸入できるならばぜひ導入したいものです」
「ははは。その点はまた後程協議して詰めていきましょう」
松下も笑いながら応じる。もしかしたら、恐竜に食料だけでない活用方法があるかもしれないという算段が生まれ始めたのだ。
そこを1時間半ほど案内した後、今度はそこから更に少し離れた場所に案内された。
そこは多くの恐竜たちを集め、人々に見せるための場所、『恐竜園』であった。
先程も見た草食恐竜たちはもちろん、大型の肉食恐竜なども飼育されている。ティラノサウルスはもちろん、ヴェロキラプトルのような小型恐竜も多数いる。
そして大きな森林地帯とそのまま接続されている場所ではブラキオサウルスのような超大型草食恐竜も展示されており、数少ない休日を楽しむ人々を楽しませている。
飼育の際には受傷事故のないようにと様々に注意されているが既に3名、このパークで亡くなった飼育員がいる。
餌をやろうとしてアロサウルスに喰い殺された者、水辺で作業していたところでモササウルスに喰いつかれて水に引きずり込まれた者、そして誤ってトリケラトプスに踏み潰された者である。
それらの事故を元に、日本側も恐竜に関しての研究と畜産化の参考にしている。
「さぁ、つぎはこちらです」
松下が次に案内したのは、東京の丸の内や新宿あたりに存在していそうな超高層ビルであった。
「こちらではこの大陸に存在する様々な資源の種類やその埋蔵量を研究しております。我が国は多くの資源を消費しますので、できる限り大陸で確保しなければなりません」
日本は北中南全てのアメリカ大陸の内、東部沿岸域においてはその勢力を確固たるものにしていた。
しかし、まだ中央以西は接触こそできているものの中々開拓が進んでおらず、未開の地が広がっている。
恐竜などの原住生物との生息域の兼ね合いもあるので、無闇矢鱈と開拓するわけにはいかないのである。
だが、松下から広大な地図を見せられたフランシェスカ共和国側は愕然とする。
自分たちの国土の何倍もの広さがあるこの大陸を、日本は開拓して自分たちのものにしようというのだ。驚くなという方に無理がある。
「我が国はまだまだ発展途上です。これからも自然や環境に配慮しつつ発展していけるようにと鋭意奮闘していくつもりです。皆様にもその辺りをどうか、ご理解いただきたいと思います」
松下は深々と頭を下げた。
その後は居住する人たちのための娯楽施設として建設された野球場、『ベイナリタドーム』でオレンジと黄色の野球チームの対戦を観賞する、足の速い恐竜を手なずけて競わせるという、競馬ならぬ競竜など、様々な物を共和国側に見せたのであった。
共和国側はもはや呆然とするほかない。それまで何か、どこか有利に働ける部分はないかと探っていたが、技術、文化、民族性も全てにおいて日本に勝っている事柄はない。
それをこの使節団は完全に思い知らされた。
そしてその夜、ベイナリタ市街区の最上級ホテルに宿泊した使節団の面々は今後の日本に対する対応を協議していた。
「ダックスさんはどう思いましたか? 日本という国について」
「そうですね……少なくとも、ただ自然を破壊している国ではない。そう思いました。各種施設で使用されている様々な技術には燃料の類や電気と呼ばれる力が働いているそうです。しかし、それらは我々の知るグランドラゴ王国やイエティスク帝国の機関とはまるで比べ物にならないほど燃費が良く、更に環境にも配慮された機構になっている」
日本は転移した後、旧世界で問題となっていた地球温暖化及び環境破壊をある程度抑制するために様々な法律を起草し、各企業にそれを遵守させつつ経済活動を活発化させるよう求めた。
その結果、各企業は省エネルギー化や環境に配慮した自然エネルギー分野の研究に対して多くの投資を行なったことで日本のエネルギー開発はこの数年の間に大きく進歩していた。
具体的には太陽光発電によって賄われる電力が転移前直前の時点での最新型ソーラーパネルの1.8倍もの電力を生み出す、風力発電の風車の強度や回転による発電効率が上昇したことにより、従来型の1.3倍の強風にも対応可能で、更に発電量も2倍以上となっている、試験段階だった潮力発電をグランドラゴ王国で運用し始めるなど、前世界では考えられないほどの大幅な進歩を遂げていた。
これらは実験的な意味合いも兼ねて大陸で多数が運用されており、日本が数年の間に張り巡らせた海底ケーブルを介して日本列島本土の電力供給量も大幅に上昇させている。
しかし、大幅に増大した電力を管理する仕事は、民間では管理が不可能な状態にまで増加していた。
このため政府は現在電力の国営化を推し進めており、これまで民間で活躍していた人材を次々公務員として増員し、更にこの後国交を結ぶ国が増える毎に需要が大幅に高まることが見越されたこともあって次代の人材育成にも力を入れるようになっている。
また、次世代エネルギーの一環として、水素タービンによるエンジンを川崎重工業が研究を進めており、順調に進めば15年かからずに実用化もできるのではないかと考えられている。
同じように藻類バイオ燃料など、再生可能な可燃燃料の研究も進められていた。
これに限らず、現在日本では様々な分野で省エネ化、エネルギー使用の効率化に関する研究が行われている。
結果、日本は旧世界時代を遥かに超えるまでの発明・研究国家と化していた。
これまで日本人にオリジナリティがない、やる気がないなどと批判していた知識人も『日本人も本気でやればここまでできるのか』と驚くほどであったと情報番組などで述べられるほどであったと言えば、どれほど驚愕の出来事であったか窺える。
当然、エネルギーに限らず研究することが将来性あるものであるという認識も広まったため、日本人の多くは理系の知識を学ぶようになっており、理系大学への進学も増えていた。
日本が転移してから取り込んだアメリカ大陸の現地住民たちでも、特に若い者たちは意欲的に学問を勉強し、柔軟に知識を取り入れつつある。
閑話休題。
ダックスの説明を聞いた騎士のティーグルも答える。
「驚いたことと言うならば、日本人はとにかく勤勉です。勤勉さ、その真面目さと一途さがもし戦争に向いた場合……恐ろしいと思います」
騎士として戦いに身を投じることを覚悟しているティーグルは、日本人の持つ気性の一部を見抜いていた。
「実際、日本は数十年前に世界大戦を経験していますが、最終的には支援してくれる同盟国がなくなったにもかかわらず町1つを吹き飛ばす爆弾を2発も使われるまで降伏しなかったという危うさを持っています。それを踏まえたうえで、日本とは付き合っていくべきです」
ティーグルなど軍事関係者は自分たちの常識を遥かに超える力を持つ日本を恐れると同時に、友好を保つことにより自分たちを守ってもらいたい、つまり安全保障条約を結びたいと考えていた。
両者の思惑を含みながらも、日本とフランシェスカ共和国は友好を結ぶことに成功した。
国交締結後は日本に対して特有の農作物などを輸出し、日本からは恐竜や一部の武器などを輸入するようになったのである。
そろそろ平和ばかりでボケそうという方……間もなく、戦の足音が迫ります。