大陸発見
――2時間後 種子島宇宙センター
政府から緊急通達のあったロケットの打ち上げ。
本来ならば、初日の出に合わせて打ち上げる予定だった物が、現在観測できる全衛星との通信が途絶してしまったことで打ち上げを早めることになってしまった。それでも職員は慌てずに着実に作業を進める。
「慌てず急げ! これ以上衛星からの情報が入らない状態というのは、あまりにも危険なんだ!!」
宇宙センターの所長は所員に発破をかけ、作業を急がせる。
政府の要請を受けてから既に2時間が経過しており、打ち上げの用意はほぼ完了していた。
「『H‐ⅡB』、打ち上げ用意が完了いたしました」
「よし、総員、発射場から退避せよ。繰り返す、総員退避せよ」
所長の指示を受けた職員達が安全圏内へ避難する。
「所長、職員の退避完了しました」
「よし、発射10分前。各部、最終チェック」
そして、10分後。
「リフトオフ! リフトオフ!」
この世の物とは思えない轟音を上げながら、ロケットは大空へ飛び立った。
「これで、状況が明らかになってくれればいいが……」
所長の呟きは、漆黒の空に吸い込まれるように消えていった。
一方で、未知の大陸を哨戒していた『P‐3C』は、ひとまず全機が基地に戻っていた。
基地では他の自衛官たちも何があってもいいようにと態勢を整えていたが、戻ってきた『P―3C』のクルーの顔色が真っ青なことに驚く。
「ど、どうだったんだ?」
聞かれた観測官は青ざめた顔のまま答える。
「灯りが……一つも見えなかったんだ。町も、村と言えるものすら見えなかった……俺たち、どうなっちまったんだろう……」
その言葉に、周囲の自衛官たちも真っ青になる。
だが、そんな隊員たちの様子を見て、ベテランの曹長が発破をかけた。
「気を抜くな! 今は夜だったから何も分からなかったが、朝日が昇ればまた別の景色が見えるはずだ。夜が明け次第、また出動の要請が来るだろう。それまで各自、体を休めつつ待機!!」
ベテランの言葉で、隊員はやる気を取り戻したかのように持ち場に戻る。もちろん不安はあるが、自分たちが日本を守る最前線に立っているという矜持が、彼らを動かしていた。
――2019年元旦 午前4時半 防衛省
防衛省では報告を総合し、分析を始めていた。
「いったいどうなっているんだ……? この報告を見ると、やはりユーラシア大陸らしきものは消え、代わりに別の大陸が存在していることになるが……」
幹部の分析に、補佐官も頷いた。
「そうですね。もう少しすれば衛星が稼働しますので、夜が明けて、最終チェックを終えると同時に観測を開始するでしょう。そうすれば、日本が置かれている状況を正確に把握できるはずです」
「だといいが……ちなみに、君は今のこの状況をどう予測する?」
「と、言われましても……単なる衛星の故障という考えは、もう『P‐3C』や『AWACS』のクルーによる報告もあって違うだろうと判断できます。しかし、それ以上を予想しろと言われると……あまりにも荒唐無稽なことしか言えなくなりますが?」
「それでも構わない。今考えうる全ての可能性を、目を曇らせずに検討することが大事なんだ」
そこまで言われて、ようやく補佐官も言葉を続けた。
「では、申し上げますと、最近の日本のライトノベルの流行の1つに、『異世界転移』というジャンルがあります」
「ライトノベル? あの若者向けの、可愛い絵の女の子たちが活躍するアレか?」
「……少々語弊があるようですので修正しますと、それはあくまでイラストレーターがそのように描いているからそのように見えるだけです。小説その物はラブコメディーであったり、バトル物、ほのぼのした日常系であったりもします。ですが、最近その中に転移系というものがあるんです。日本人が、日本及び地球上ではない別の世界に飛ばされて、その世界で冒険を行なうというものです」
「しかし、日本の一般人が、映画に出てくるようなファンタジーな世界に飛ばされたってなんの役にも立たないんじゃないか?」
その問いも補佐官は予測していた。
「その際、転移した人物には何かしらの特殊な能力が付与されることが大概ですね。ある者は人知を超えた超能力、あるいは強大な力。ある者は並外れた頭脳、ある者は神様から強化されたスマートフォンのような道具を与えられるなど……まぁ、現代地球の科学技術や超常的な力を駆使してこの地球ではない世界で大いに暴れてみせるというのがどこか痛快に感じる若者が多いようでして、そういうジャンルが今流行しているんですよ」
「……それだけ若者は閉塞感を覚えているのかもしれないな。この現代社会に対して」
幹部の呟くような言葉に、補佐官も頷かざるを得なかった。
「ですが、その中には馬鹿にできない内容もあります。例えば……私も息子に勧められて読んでみた本なのですが、この日本という国が別の世界に転移してしまい、その世界で国家の生き残りをかけて自衛隊が様々な国と戦いを繰り広げるという話がありましてね。その世界の日本は、なんの誇張もない今のこの日本の延長線なんですよ」
「つまり?」
補佐官は言い辛そうにしながらもはっきり言った。
「このままの弱腰な対応ばかりを取っていると、こうなる部分があるぞ、という警告のような文章もあるんです。自衛隊の攻撃力の無さをどうするか、日本の外交姿勢をどうするか、といった問題ですね」
「そうか……仮に、その小説みたいな国家転移が起きていたとしたら、どうするべきだと思う?」
「まずは文明を見つけて国交を結ぶことですね。我が国の食料自給率や物資の備蓄量から考えて、できる限り早急に行なうべきでしょう。仮に転移したとすれば、まずは西の大陸が近いようですので、そこで文明を探して国交を結べる民族を探すべきでしょうね」
幹部は『うぅむ』と唸りながらも頷いた。
「そうだな。ちなみに、大陸にもし文明がなかったらどうする?」
その質問は想定外だったのか、補佐官も悩んでしまった。
「外交的な問題も発生するので一概には言えませんが……仮に、もし仮にですが、その大陸を国家が支配していないのであれば、原住民の許可を取ったうえで、その大陸を日本が支配するというのもありと言えばあり、かもしれません」
「考えてみれば、地球上で新大陸を見つけるなんてもう想定されていない事態だからな。現行の法律ではどうしようもあるまい」
その通りであった。第二次世界大戦後に考案された法律・憲法には、新しい大陸を日本が発見した時にどうするかということまで考慮されていないのである。
南極大陸を除けば全ての大陸にある文明となんらかの交流があるのだから、当然と言えば当然だが。
「さすがにそんなことが起こるとは考えにくいですが……いずれにしても、あらゆる可能性を考慮して動くことになると思います」
補佐官の言葉に幹部が頷く。
「で、各自衛隊は今どうだ?」
「現在、海上自衛隊の護衛隊群と航空自衛隊の偵察飛行隊を中心に各海域、及び空域の警戒を行なっているところですが……やはり、『P‐3C』以上の情報は集まりませんね」
「政府は国民、特に沿岸部に居住する人々に対して、厳戒態勢を発令したな」
「はい。さすがに元旦なので初詣は許可されていますが、それでもできる限りの外出を控えてほしいという旨を既に放送しました」
すると、幹部の手元に置かれていた電話がけたたましく鳴り響いた。
「私だ。おぉ、衛星が軌道に乗り、撮影を始めたと! 本当か!! うん、そうか。うん。では、またあとで情報を頼む」
幹部が電話を置くと、すかさず補佐官が聞いてきた。
「種子島からですか?」
「あぁ。衛星は問題なく稼働し、間もなく日本の付近を撮影することができるとのことだ」
「やりましたね。これで手詰まりだった状況が進展を見せますよ」
補佐官も破顔している。いきなりの混乱の連続に、ようやく目に見える、確固たる情報が入るということが明らかになったのだ。嬉しくないはずがない。
ところが……
――それから3時間後 首相官邸
総理大臣は頭を抱えながら目の前の官僚たちに問いかけていた。
「では、これは間違いないのかね?」
「はい。『衛星は問題なく稼働している。故障や異常の類は確認できない』というのが種子島からの報告です」
「しかし……だからと言ってな……」
総理の手元には、先程打ち上げた衛星から送られてきた日本の衛星写真が広げられていた。
居並ぶ大臣も、これからどうすればいいのか分からないという顔をすることしかできない。
「これ、アメリカ大陸だよな?」
環境大臣の一言に、農水大臣も頷いた。
「形状から察するに、間違いなくアメリカ大陸だろう。だが、何故我が国の西にある? そして、何故人工的な灯りが一切確認できないのだ?」
「いや、人工的な灯りが確認できなかったのは『P‐3C』の偵察飛行で既に明らかになっていた。今驚くべきはそこではないでしょう。そうですよね、防衛大臣?」
法務大臣から振られた防衛大臣は頷く。
「総理。具体的に申しまして、我々は急いでこの大陸にコンタクトを取るべきであると考えます」
外務大臣が素早く総理に意見を述べる。
「その根拠は? 東の方には、ヨーロッパと同じような大陸が見える。そちらに接触してもいいのではないのか?」
だが、外務大臣は首を横に振る。
「確かに、ヨーロッパの方ならば確実に文明があるでしょう。しかし、問題は距離です。現在の我が国は明らかに、大西洋のアメリカ大陸寄りに位置しており、ヨーロッパにコンタクトを取ることよりも、アメリカ大陸に接触を持つことの方が、即応性が高いうえに有用性が高いと判断できます」
「しかし、このアメリカ大陸には人工的な灯りが一切ないぞ? つまり、文明が存在していないとみていい。それはどう説明するのだ?」
すると、外務大臣が自身の持っていたスマートフォンを掲げた。
「実は、先程の緊急記者会見の後に、この件に関する様々な憶測が囁かれているのですが、その中に興味深い記述がありました」
「興味深い記述?」
「はい。それは、とあるインターネット掲載小説に関する『呟き』だったのですが、その状況に、現在の我々は酷似しているのです」
インターネットの小説といきなり言われてもそんな物に縁のない閣僚たちは顔を見合わせるしかできない。
「外務大臣、その小説がどうかしたのですか?」
「はい。その小説はいわゆるSF戦記物語の1つなのですが、単刀直入に申しますと、『日本国が国ごと地球ではない別の惑星、或いは世界に転移させられてしまう』という物語でして、その小説の序盤に、『各種衛星との通信が途絶した』とあります」
その言葉に、総理大臣を含めた閣僚たちがざわめく。
「更に、今打ち上げた衛星からの写真からも、日本の西にあったはずのユーラシア大陸が消失し、代わりにアメリカ大陸が出現している。いえ、この場合はやはり日本が転移した、というべきでしょうね。東へずっと行けば、ヨーロッパと同じ形状の大陸が見て取れますので、日本が大西洋に転移した、と申し上げる方がよろしいかと」
転移などと現実的でない言葉に、昭和生まれの閣僚たちの思考回路はもうショート寸前であった。
「で、では、食料や資源はどうする!? 我が国は一国では生きていけないのだぞ!?」
農水大臣の言葉に、再び外務大臣が口を開いた。
「仰る通りです。『本来ならば』早急に文明のある国と国交を結び、食料や資源を融通してもらうべきなのでしょう。しかし」
外務大臣は再び地図に目を落とした。
「この距離関係から行けば、アメリカ大陸の方が距離は近い。ですから、まずはアメリカ大陸に上陸してみて、文明を探すのです。ですが、もし転移したのが地球であって我々の知る地球でないというのならば……」
外務大臣の言葉に、今度は法務大臣が手を挙げた。
「『地球であって地球でない』とはどういう意味ですか?」
「……皆さんは、平行世界、あるいは多次元宇宙論という言葉を聞いたことがありますか?」
「あるような……ないような……」
総理大臣の発言に外務大臣が頷き、説明を続ける。
「分かりやすく言えば、この世の中には、我々が認識している『世界』とは別の宇宙や世界があり、そこには我々のように生活する文明や人々がいるという……これも一種のSFですね。そういう存在があるのではないかという話です」
外務大臣の説明に、防衛大臣が手を挙げて質問した。
「つまり、君はこう言いたいのか? 我々日本国は、『今まで存在していた地球』から、『別世界の地球』へと転移してしまったのではないのかと?」
「はい。と言っても、私の考えもインターネットに流れていた様々な情報を総合し、更にそういった分野の科学者たちに聞いたうえでの聞きかじりにすぎませんが。ちなみに、こういった考え方は現代の若者たちにはかなり深く浸透しています。SF小説……現代はライトノベルと呼ばれていますが、その分野では至極当たり前の世界観になりつつあるのです」
この辺りは先程防衛省で幹部に補佐官が語ったことと同じである。
「現代の若者はそんな小難しいことを念頭において本を読んでいるのか……思っていたよりすごいのかもしれないな」
現代の若者はどこか馬鹿にされている存在だが、果たしてそんな理論を当たり前に受け止められているのであれば、かなり柔軟な頭脳を持っているのでないかとさえ思えてくる。
「そこで思うのですが、そういう小説の中にはただ転移するだけでなく、某ハリウッド映画のようにタイムスリップして、過去の世界へと飛ばされるというものもありました。それらの可能性などを考慮すると、私はこのアメリカ大陸が、『まだヨーロッパに開拓されていない時代のアメリカ大陸』なのではないかと予測しました。人工的な灯りが一切見えないという報告を聞いた時点で、その可能性が高いと判断しました」
しかし、と法務大臣が反論した。
「だとしても、文明がない所に接触したところでどうしようもないだろう?」
「そうでしょうか?」
外務大臣の問いに、一同は静まり返った。
「何が言いたい、外務大臣?」
総理の言葉に、外務大臣は待ってましたとばかりに切り出した。
「もしも、もしもですが、『文明がない』大陸であるならば、それは『国家ではない』ということ。また、『未開拓の土地』であるならば、それを開拓するのは早い者勝ちです」
そこでようやく外務大臣の意図が伝わったのか、閣僚たちの顔に緊張が走る。
「まさか……?」
「はい。そのまさかです。もしその大陸に国家という概念がないのであれば、その大陸を日本領として組み込んでしまうというのも拡大解釈としてはありかと。何故ならば、それは『国家を侵略すること』ではなく、『文明の存在しない大陸を開拓すること』なのですから」
その通りである。確かに日本国憲法では『国を侵略するような行為』を禁じてはいるが、『大陸を開拓すること』は禁じられていないのだ。
すると、防衛大臣も『そういえば』と話し出した。
「先程省内でも同じようなことを話していた者たちがいたな……もしそういう状況ならば……」
「そうです。日本は存在すると思われる僅かな原住民との接触を行ない、なんとか彼らを抱き込んで『私たちの仲間である』と認識させることで、その大陸を実質的に我が国の物とします。こうすれば、我が国は一国でも最低限の生活が可能になるでしょう」
確かに、北中南米の全ての大陸がもし国家という概念のない世界であるならば、それを日本が実質的に支配することで大きな物が得られる。それは、国家と国交を結ぶよりもある意味重要と言っても過言ではないかもしれない。
すると、総理大臣が手を挙げた。
「では外務大臣、あなたは今後、どうするべきと考えますか?」
「そうですね。私は軍事については疎いので、専門的なことは防衛省及び統合幕僚部などにお任せすることになりますが……未開の地へ赴くということで、様々な戦力を搭載した輸送艦で大陸に乗り付けて、まずは海岸付近を偵察するべきでしょう。文明と言えるほどの発展は見られなさそうなので、集落か何かを見つけたならば、直ちにその集落に接触し、我々の存在を教え、我々の仲間になってもらえるように説得するのです」
「仲間になってもらう、か。具体的には?」
「原始的な生活をしている者たちならば、その集落の長に贈り物をするのがいいと思います。なので、我が国の様々な工芸品や日本刀のような物を、その集落の長に納めることでまずは話を聞いてもらうのです。そのうえでさりげなく我々が優位に立っている技術があるという点も教えてみるのです」
だが、その想定に文部大臣が待ったをかけた。
「君の想定は、原住民が我々よりも遥かに低い文明水準にあるという考えのようだが、根拠は、先程言っていた『人工的な灯りが一切ないこと』かね?」
外務大臣は頷き、自分がこのわずかな時間で集めた情報から、できるであろうこと、想定できることを説明する。
「はい。中世ヨーロッパレベルであろうとも、夜の都市部には灯りらしきものが確認されるはずです。それがないということは、本当に文明そのものがないか、あっても原始的な生活をしている集落であると判断いたしました」
確かに、余程低い文明度の社会でなければ、人工的な灯りが確認できないというのはおかしい話である。
「ふむ……防衛大臣、もし仮に輸送艦で部隊を派遣するとすれば、外交官の護衛にどれほど必要になると想像する?」
「そうですね……最低でも、不整地を走破できる装甲車、装甲戦闘車が必要になりますし、機動車やオートバイも必要でしょう。偵察というならば、航空戦力が確認されていないという意味もあるので『OH‐1』のような偵察ヘリコプターを飛ばすことも想定した方がいいでしょう。また、未開地であるということならば猛獣の様な害獣と遭遇することも想定した装備を整えるべきでしょうね」
「分かった」
総理大臣の言葉に、閣僚達の視線が集中した。
「外務大臣、元旦早々申し訳ないが、事は国家存亡の危機だ。休暇中なのだろうが、職員を緊急招集して、臨時の使節団を編成してほしい。原住民部族との接触を見据えて、国内の工芸品関係から様々な美術品を集めるんだ。1つの部族との接触だけとは思えない。幾つもの部族と接触し、大陸に一気に根を下ろせるようにしてほしい」
「はい」
総理大臣の指示を受けて、まずは外務大臣が部屋を出ていった。
「防衛大臣、今の意見から有事の際には外交使節団を守るために、ある程度武力が必要となるはずだ。陸海空各自衛隊に、外交使節団護衛のための部隊を編成するように伝えてほしい。とはいえ、先程君が言っていたように航空戦力が確認されていないようなら、空自は外してもいいかもしれんな」
「そうですね。空自には今後も領空の警戒に当たってもらいます。陸上自衛隊は広島の普通科第13旅団を中心にして輸送艦『おおすみ』で運ばせようと思います。ヘリコプターは『ひゅうが』に運ばせます。一応陸自に要請して、戦闘ヘリコプターも使用できるようにさせておくつもりです」
今度は防衛大臣が出ていった。
2人の大臣が出ていったことにより、部屋の中は静寂に包まれる。
「国家転移か……神様は、我が国に何をさせたいんだ?」
首相の呟きには、誰も答えられない。
だが、実際にそうであろう。国ごと転移させるなど、それこそ神の御業としか思えない。
「まぁいい。他の各大臣たちは、担当部署の垣根を越えて離島などと連絡を取ってほしい。そして自治体に情報を徹底させ、少しでも混乱を抑えるんだ」
「北方領土や竹島もあるようですが、ロシア軍や韓国人が連絡を受け付けますかね?」
北方領土はロシアが実効支配を敷いているため、わずかながら極東方面派遣の部隊が存在するはずである。
「さぁな。だが、彼らとて馬鹿ではあるまい。本国と連絡が取れなくなったとなれば、向こうからコンタクトを取ってくるはずだ。竹島の韓国人もそうだ。そう考えると、新時代になるということで永住予定外の外国人には一度日本から退去してもらっていたのは、幸か不幸か……」
在日の韓国、朝鮮、中国人などの外国人は、数百万人にも及ぶ。その半分以上が、日本が新時代を迎えるためにということで一度故郷へと帰っていたのだ。
よって、アメリカ人以外の外国人が多く住んでいた地域などは今、寂れていたりする。
「まぁ、後は報告待ちだな。だが、何かあればすぐに対応できるように、各省庁全てに有事体制でいるように伝え、徹底させてほしい」
「「「分かりました」」」
残った閣僚たちも頷いた。
こうして日本は、戦後初どころか、日本建国以来初めてとなるであろう、未開拓の大陸へと乗り出すことになるのであった。
だがそれは、日本がこれまで学んできた歴史が通じない、異なる時空の、異なる世界の物語の始まりであった。
次回、派遣部隊とファーストコンタクト