表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本時空異聞録  作者: 笠三和大
17/138

竜人族とドワーフ族の国、グランドラゴ王国

今月2話目の投稿となります。

遂に、ブックマーク登録が200件を超えました!

まさか私の小説をこれほど多くの方がお気に入り登録して下さるとは思いませんでした。

厚く御礼申し上げます。

今後も『日本時空異聞録』を、どうかよろしくお願いいたします。

――西暦1738年 2月16日 グランドラゴ王国 港湾都市エルカラ

 外務局から出発して約1時間後、ファルコはグランドラゴ島西側に存在する港湾都市エルカラへ到着していた。

 ここは元々、7年前にスペルニーノ王国が発見したと言われていた巨大大陸への足掛かりとするため、ここ数年で大規模な開発が進められている地域で、多くの新興企業や海軍工廠など、王国の重要施設が多く存在する。

 ここにはグランドラゴ王国の技術の粋を集めて作られた最新鋭の軍艦『クォーツ』も停泊しており、自動車の工場や技術研究所、更に小規模ながら竜騎士団の基地も存在する。

 何故この地の竜騎士団が小規模なのかと言えば、その戦力の多くを東の列強国、イエティスク帝国に対して使用することを想定しているからである。

 港湾都市エルカラに入る坂を下りながら、彼は遠くに広がる大海原を見た。その中に、白い点のような物が見えた。

 彼はその点の様な物が日本国の使節が乗ってきた船だろうと推測する。少なくとも、ここから見える大きさで見る限り、自分たちの保有する軍艦よりも大きいように見える。

「いったいどんな者たちなのだろうか……」

 彼は期待半分、恐ろしさ半分を胸に港へ向かう。既に竜騎士キトゥンが接触しているとのことだが、どんな存在かは彼自身の目で見てみなければ分からない。

 更に20分後、彼は港の桟橋近くの停車場へ到着した。

「ありがとう。そのまま待っていてくれ」

 彼は運転手に礼を言うと、そのまま桟橋へ向けて歩き出した。

 戦列艦が主流だった時代は木製の桟橋だったが、船舶の技術が発達するにつれて、土と石で固めた大きい桟橋がこの国では主流になった。

 そんな桟橋のある部分はそれなりに深く造られており、つい少し前に王国で完成した巨大な輸送船も停泊できるようになっていた。

 そして、彼は桟橋の上から、沖合約150mに停泊している船を双眼鏡で確認した。

「本当だ。我が国の装甲軍艦にそっくりだ……それに大きいし、形状はより先進的に見える。だが、軍艦がなぜあんなに白いんだ? あんなに白くては目立って的になりそうだが……」

 と、彼は視線を感じて振り返った。そこには、竜人族にして竜騎士団の団長、アインズが立っていた。ドワーフとしては細身で背が高いと言われるファルコだが、それを加味しても大きい。身長も2mはある。

「これはこれは、アインズ騎士団長」

「どうも、ファルコさん。例のニホン国なる国の使節は、今あの船からこちらに向かってくるそうです」

「そうですか。誘導、感謝いたします」

 ファルコは敬礼で返礼した。すると、唸るような音が響いてきた。

「あ、あれか?」

 ファルコが目を細めながら見ると、細身の船が1隻、こちらに近付いてくるのが見えた。

「速いな……我が国の同じサイズの船よりも遥かに速いぞ」

「えぇ。私もそう思います」

 2人は船の構造や自分達の常識からかけ離れた速度、先進的な形状などを見て冷や汗を流す。

 船は非常に滑らかな動作で桟橋に横付けする。

「なんというスムーズな動作だ……速度もそうだが、あれほどの滑らかな操縦性は、少なくとも今の我が国の技術では実現できないぞ」

 『しきしま』に搭載されている『高速警備救難艇・4号艇PLH31―M4』は、グランドラゴ王国の2人を驚かせながら停船した。

 中から分厚い服を着こんだ者たちが出てくると、薄い服を着た男たち(ドワーフに比べると背が高く細身に見える)を桟橋に降ろした。

 ファルコとアインズが緊張した顔で降りた2人を見る。すると、目の前に立った背の高い方の男が口を開いた。

「グランドラゴ王国の外交官の方ですね? お初にお目にかかります。私は日本国外務省所属外交官の園村誠と申します。こちらは、私を補佐する国元健司です」

 2人は礼儀正しく、しかしはっきりとした声で挨拶する。その冷静な態度と、着込んでいる服の上品な雰囲気を見て、彼らが新興国家の蛮族などではないと判断した。

 ファルコとアインズも居住まいを正して返答する。

「丁寧な挨拶をありがとうございます。グランドラゴ王国外交官のファルコと申します。こちらは竜騎士団の団長で、アインズ殿です」

「アインズです。以後お見知りおきを」

 そしてファルコたちは気付いた。彼らが、自分たちの知る『人類』とは違う形態をしていることに。

「失礼ですが……お2人の種族はなんでしょうか?」

「種族? 我々は『ヒト種』ですが?」

「ヒト種? ドワーフやエルフに少し似ているようですが……?」

「ドワーフ? エルフ? 私たちは類人猿と呼ばれる猿の仲間から進化した人類ですが?」

「な、なんですって……? 私たち以外に、類人猿の子孫が?」

 お互いに自分たちとは違うヒト系種族であることを認識したのか、驚きを隠せない。

 グランドラゴ王国に住まう民は主に先祖が竜種と言われている竜人族、そして元はエルフ、そして南の大陸に住むダークエルフ族と同じ猿の一種を先祖に持つドワーフ族を主とし、一部獣のような特徴を持つ獣人も住んでいる。

 日本側も、今までアメリカ大陸で獣人や水棲人、有翼人などは見てきたが、ドワーフのように『霊長類に近い』亜人族は見たことが無かったこともあって、かなり驚愕している。

 てっきりこの世界は獣人のように『霊長類以外の生物から進化した』亜人種しかいないものだと思っていた日本は、この後グランドラゴ王国のみならず世界各地に学者を派遣して調査を行なうことになる。

 とりあえず話が進まないと見たのか、ファルコが咳払いして仕切り直す。

「失礼しました。この寒い中、遠い所をよくおいで下さいました。これより港を案内した後、この近くにある宿泊所にご案内いたします」

「ご丁寧な対応、ありがとうございます」

 園村と国本が頭を下げると、ファルコも同じように頭を下げて答える。

「では、こちらへどうぞ……」

 ファルコとアインズは並んで歩きだし、園村と国元の2人がそれに続いた。

 まずは港に併設されている竜騎士団の基地へ案内した。

 堅固なレンガ造りの建物に先程『しきしま』にも降りてきたワイバーンが見えていた。

「あっ、さっきも見たワイバーンですね。たくさんいますよ」

 国元が目を輝かせる。オタク気質の国元は上陸してからずっと楽しそうである。

 竜騎士団長のアインズが誇らしげに手で示しながら説明を始めた。

「これが我が国特有の戦力、『ワイバーン』です。我が国にのみ生息する『竜』と呼ばれる生物を、我ら竜人族が可能とする意思疎通によって使役しているのです」

 園村も国元も『おぉ~』と言いながら感嘆した。

「早速ですが、実は丁度これから、ワイバーンの演習を行なうのですよ。ご覧になりますか?」

「見られるんですか?」

「えぇ。構いませんよ」

 アインズとしては、他国にはない物を見せつけることで自分たちの優位を示したいという思惑があった。

「それでは是非、拝見させていただきたいです」

 園村も国元も二つ返事で頷いたため、アインズが騎士団の隊員たちに近付き、隊員を集める。

「これより竜騎士団の演習を行なう。本日は新興国、日本の使節の方がお見えになっている。世界有数の航空戦力を、しかと御覧になってもらうのだ!!」

「「「ははぁっ!!」」」

 隊員たちは素早く愛騎に騎乗し、次々と設置されている滑走路へ並ぶ。その整然とした列は練度の高さを物語っており、国元がまた目を輝かせる。

「各騎、離陸開始せよ!!」

「「「了解!!」」」

 声を上げた直後、竜たちは走り出し、暫く走ったかと思うと風を掴んで青空へ舞い上がった。

 それを見ていた国元が呟く。

「あれ? 私たちの『しきしま』に降りてきた竜騎士の方は垂直離着陸を行なっていましたけど……他の方はできないんですか?」

「ん? あぁ、キトゥンのことですな。できないわけではないのです。だが、垂直離着陸はワイバーンの体力を大幅に削るので、余程の事が無ければやらないのです」

 直後、飛竜たちが一斉に火炎弾を海に向かって発射した。水蒸気爆発によってとてつもない水飛沫が上がる。

 それを見た国元が更に目を輝かせる。

「それに、あれほどの大きさの生物が火を噴いて、しかも羽ばたいて飛べるなんて、生物学と航空力学の観点から言えばちょっと信じられませんね」

 それを聞いたアインズは耳を疑った。まるで、日本にも空を飛ぶ物があるかのような物言いである。

「ニホンにも空を飛ぶ物を使役する術があるのですか?」

「使役、と言いますか……我が国では、後方に向かって炎を噴き出しながら飛行する『飛行機』と、羽を回転させて飛行する『ヘリコプター』と呼ばれる飛行機械が存在するんですよ」

「(! や、やはり空を飛ぶ術を知っているのか!!)」

 アインズは驚愕しつつもそれを表情には出さない。そのようなことをしては相手に付け込まれる可能性があるからだ。だが、とりあえず相手の能力を探ることが先決だった。

「ち、ちなみに、その飛行速度はどのくらいですか? 我が国のワイバーンは、最高時速280kmまで出ますよ」

 確かに生物としてはあり得ない速さである。だが、日本が基準とする『飛行物体として』考えた場合のことを考えると、日本側としては『どうしよう』という顔をせざるを得ない。

「(これ、どこまで答えていいですか、先輩?)」

「(そ、そうだな……まぁ、国交を結べたら書籍とかも輸出されるだろうし、その際に基本性能は明らかになるだろうな。そういう意味じゃ、ここで明かしても全く問題はないと思う……後で一応聞いてはみるけど、基本性能関係は大丈夫だと思うぞ)」

「(わかりました。)」

 国元がアインズとファルコの方を向き直す。当然ながら、最新鋭機である『F―35』のことは秘密にしておいた方がいいだろうと判断する。

「失礼しました。我が国が現在主力として保有している制空戦闘機『F―15J改』の最高速度が、マッハ2.5、支援戦闘機である『F―2』戦闘機がマッハ2です」

 『マッハ』という聞いたことの無い概念を耳にして、アインズとファルコは疑問符を浮かべる。

「ま、マッハというのはなんなのですか?」

「音が一定距離を進む速さ、音速の約2.5倍ということです。巡航速度は時速900km程度ですよ」

 それを聞いた園村が『結構速いんだな』と驚いた。オタクである国元はともかく、普通の外交官であった園村はそれほど軍事関係に詳しくないこともあって、純粋に驚いたようだ。

 呑気な態度の日本側と対照的に、グランドラゴ王国側の2人は顔を真っ青にするしかない。

 彼らの脳裏には、自分たちの精鋭竜騎士団が何もできずに日本のその飛行機なる物体(姿はまだよくわからないが)に倒されていく様子がありありと浮かんでしまった。

「(お、音の速さを超える!? それはつまり、現在の物理法則の限界を易々と突破しているということだぞ!?)」

 現在空を飛ぶ物を使役することを可能としているのは、最強と言われるイエティスク帝国以外ではグランドラゴ王国ともう一国、南のスペルニーノ・イタリシア連合王国が所有する巨鳥のみである。巨鳥は持久力に優れるが攻撃手段があまりなく、ワイバーンは速度と攻撃力に優れるが持久力はそれほどない。

 しかし、空から攻撃できるという強みはどちらも同じものであり、この世界において、航空戦力を保有する両国は強国として扱われていると言えば、その重要性が知れるというものである。

 技術差はともかく、国力差が大きく開いているにもかかわらず、最大の列強と言われるイエティスク帝国がグランドラゴ王国に攻め込んでこないのはただ距離があるからということだけではなく、この航空戦力による局地戦を恐れてのことであった。

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 園村が声をかけると、ファルコとアインズは我に返ったようにハッとした。

「し、失礼いたしました。その、えふ……なんとか言う飛行物体の速さは驚きですな。それほどの速さとなると、操縦するのも大変なのでは?」

「そうですね。そのため、我が国では操縦士専用の服もあります。我が国の操縦士達は常に修練を積んでいますので、緊急事態発令となればすぐに空へ舞い上がります」

「凄いんですねぇ」

 ファルコも感嘆の意を示す。

「我々はあくまで外交官にすぎません。真に凄いのは、日々国を守るべく頑張ってくれている自衛官たちですよ」

 『自衛官』という言葉が少し引っかかったが、今度はグランドラゴ王国の技術の結晶とも言えるものを見せに行く。

「こちらです。これが我が国の最新鋭主力艦、『クォーツ』です」

 『それ』は、港に停泊しており、雄大な姿を見せつける。すると、それを見た国元がたまらずに叫んだ。

「わっ! 戦艦だ! 戦艦ですよ、先輩! やっぱり戦艦は男のロマンですねぇ……!! 戦艦と言えば超弩級戦艦こそ至高と言われることもありますけど、前弩級戦艦には前弩級戦艦のいい部分があるんですよ‼」

 オタクでミリタリー趣味の国元が目を輝かせている状況に、先輩としては苦笑せざるを得ない園村であった。

「こら、国元。いくらなんでもはしゃぎ過ぎだぞ」

 国元が目を輝かせる姿を見て、外交官ながら船が好きなファルコは『うんうん』と頷いていた

「(やはり日本人にも分かるか。そう、戦艦こそ男のロマンであり力の象徴……ん? 戦艦を知っているのか?)」

 先程の船を見た限りでは小口径砲しか搭載していなかったようだが、どうやら大口径砲の概念があるらしい。超弩級戦艦や前弩級戦艦という言葉の意味はよく分からなかったが日本の外交官2人が話していることを更に聞く。

「国元、この船がどのタイプに似ているとか分かるか?」

「そうですねぇ……日本では富士型戦艦にそっくりですよ。三笠によく似ていますけど、また違ったフォルムですからねぇ」

 聞き捨てならない話を耳にしたファルコは急いで探りを入れてみる。

「日本国にも戦艦があるのですか?」

 熱く語っていた国元が我に返ると、少し恥ずかしそうにファルコの方を向きながら答える。

「はい。我が国も80年ほど前の世界大戦までは立派な戦艦を持っていたのですよ。その後は時代の流れもあって造られなくなりましたけどね。あ、ここに『大和』の写真が……」

「なんでそんな物を持ち歩いているんだお前は……」

「オタクでミリオタの嗜みですよ……あ、これこれ」

 園村にジト目で見られているにもかかわらず、国元は懐から写真を取り出した。

 ファルコとアインズが覗き込むと、そこにはここに停泊している『クォーツ』などとは比較にならないほどの怪物が写っていた。

「は!? こ、こんな化け物戦艦が存在していたのですか!? えぇと、確か……」

「大和です。戦艦大和と言いまして、我が国が世界大戦を経験した時に保有していた、世界最強と言っても過言ではないほどの超巨大戦艦でした」

 戦艦大和。『金剛』や『長門』らと並んで第二次世界大戦時の大日本帝国海軍を代表すると言ってもいい超弩級戦艦の一つである。

 昭和16年に広島県呉市の海軍工廠において竣工し、昭和17年(1942年)2月12日に連合艦隊旗艦となった船である。

 その年の5月29日のミッドウェー海戦に主力部隊として出撃するも、時代の主流が既に航空機による攻撃に移り変わっていたこともあってあまり活躍する機会を与えられなかった。

 出撃する僚艦の乗組員からはその居住性の高さから、姉妹艦の『武蔵』と共に『大和ホテル』、『武蔵屋旅館』などと揶揄されたこともあったという。

 昭和20年(1945年)4月、沖縄に特攻出撃し、坊ノ岬沖で米軍機多数の攻撃を受けて沈没している。

 主砲には45口径46cm3連装砲3基9門を、副砲に60口径15.5cm3連装砲2基6門を備えた、地球史上では最大の砲を搭載した戦艦であった。

 主砲の最大射程は42kmとも言われており、大戦当時のアメリカ海軍の最新鋭戦艦であった『アイオワ級戦艦』を上回っていたと言われている。

 しかも、米軍は終戦になるまで大和型戦艦の主砲の口径について詳細な情報を集めることができなかったということからも、この艦に対する日本側の機密性の高さが窺える話として有名である。

 その最終艤装時は航空機多数の攻撃を考慮して多数の高角砲で身を固めていたため、ハリネズミのようになっていたことも有名である。

 その雄姿と強さ、更には悲劇的な最期から、戦後にこの船をモデルにした宇宙戦艦のアニメが製作される、平成に入ってからは実写映画で大和の戦いを描いた物語が放映されるなど、今も尚日本人に根強い人気を持つ船である。

「ほぅ……いずれ詳細を教えてもらいたいものですね……ところで、先程『富士型戦艦』と言いましたが、日本にも似た艦があったのですか?」

「はい。『戦艦富士』と言います。約130年前、日本がまだ大日本帝国と呼ばれていた時代に、前世界での列強国に発注して配備した戦艦がありました。それが、あそこに停泊している戦艦にそっくりなんですよ」

 戦艦富士。日本が明治時代の清国海軍で主力艦とされていた『定遠級』戦艦に対抗するためにイギリスに発注した、日本海軍初の本格的な超1万t級の『戦艦』である。

 日清戦争開戦には間に合わなかったものの、日露戦争では主力の戦艦部隊の一翼を担って活躍する。

 日露戦争前後と言えば連合艦隊の旗艦となり、今もなお記念艦としてその雄姿を見ることができる『戦艦三笠』が有名だが、日本に初めて配備された『戦艦』という種別の船としては高い意義を持つ船である。

「ほぅ……我が国の主力艦が貴国では130年ほど前の水準ですか……」

 機械技術は日進月歩である。130年も経過しているならば、日本の技術はグランドラゴ王国とは比べ物にならないほどの格差があるに違いないとファルコは判断した。

 だが同時に考える。あの船に搭載されているのは小口径の連装砲。恐らくは機関砲である。

 あの程度の武装で十分だったのだとすれば、先進的な技術は保有しているものの平和な国家だったのだろうとファルコは予測していた。

「あ、失礼いたしました。そちらの船を馬鹿にしたつもりはなくて……」

 ファルコの黙り込んだ姿を見て気を悪くしたと思った国元が慌てて謝るが、ファルコは穏やかな笑顔を見せた。

「大丈夫ですよ。確かに驚きましたが、貴国のあの白い軍艦を見た時点でもしかして我が国よりも発達した技術があるのではないかと思っていましたので。お気になさらないでください」

 すると、今度は園村と国元がキョトンとする番であった。

「ど、どうされました?」

 2人は顔を見合わせるとヒソヒソと話し始めた。

「……白い軍艦って、『しきしま』のことですかね?」

「たぶんそうだろうな。形状や砲が搭載されていること、大きさ、それに彼らの主力艦よりも航行速度があることから軍艦だと誤解されたんだ」

「一応誤解されたままではマズいですし……説明していいですか?」

「そうだな、それで舐められても困るし……頼むよ」

 園村の許可を得て国元が再びファルコの方を向くと、言い辛そうに話し始めた。

「大変申し上げにくいのですが……我々が乗ってきた船は軍艦ではありません」

 日本側の思わぬ発言に、グランドラゴ王国側は目を丸くする。

「軍艦ではない? あれほどの大きさと、砲らしき物を搭載しているのに!?」

「あれは、貴国で言う所の沿岸警備隊に所属する船舶でして、貴国の『クォーツ』の様な鋼鉄製の軍艦と戦うほどの力は持っておりません。古い木製の戦列艦程度なら粉砕できるでしょうけど……あくまであれは警察機構が保有している船なのですよ」

 あの白い船は自分達の最大軍艦である『クォーツ』よりも大きく先進的な形状をしているため、てっきり戦艦の一種だと思っていたファルコは目を剥いた。

「は……ハハハ……あれが、沿岸警備隊の船……そうでしたか……ハハハ……」

 もはや放心状態となっており、視線も明後日の方向を向いている。

 気を取り直したファルコはアインズと別れ、園村と国元を都市内部にあるホテルへと案内した。

「本日はお疲れでしょうから、このホテルでごゆっくりなさってください。明日の朝9時、またお迎えに上がります。明日は外務局で局長と面談していただき、局長が許可されれば国の重鎮たちと会談ができるように取り計らいます」

 ホテルでの礼儀や部屋の使い方など、一通りを教えたファルコは外務局へ急いで戻り、報告書の作成にかかる。

「日本国、か……とんでもない国がいきなり現れたな」

 自分が上司ならば絶対に信じないであろう報告書が出来上がることになりそうだが、そんなことは覚悟の上で作成する。

 少なくともあの国と事を構えるような事態になれば、自分たちは列強の座を失いかねないほどの大打撃を受けることは間違いないだろうとファルコは考えていた。

 それを貴族や国王、有力者たちにしっかりと理解してもらう必要がある。

 そのため、国交開設を前提に日本に使節団を派遣することも考慮するべきであるという文言も添えておいた。また、この報告書には竜騎士団の団員であるキトゥンの署名や、騎士団長のアインズの署名もあるので、彼らから様々なことを聞き取ることも可能になっている。

 様々な者から広く意見を聞くことで、広い視野で物事を見る必要がある。

 ファルコは有力者たちが傲慢なことを言い出さないように、技術や軍事に疎い者でも分かるようにと色々な部分に工夫を凝らして報告書の作成を進めるのだった。

 この数日後、グランドラゴ王国は技術者、軍人、竜騎士団も含めた使節団員多数を日本国に派遣することを決定する。

○送り迎えは日本側の船で行う。

○滞在中の衣食住の全ては日本側が費用を持つ。

○まずは日本の軍事港湾都市の1つ、横須賀へ赴き、そこから実質上の首都である東京に向かう。

 以上の3点が使節団員に伝達されるのだった。

今回の会話場面を見て、『あれ?あの部分に似てね?』と思われた方もいらっしゃるでしょうが、どうしても話の流れ上そうせざるを得ない部分があります。

ご了承下さい。

次回はグランドラゴ王国使節団が日本へ赴きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] グランドラゴ王国(英国)の軍艦が富士似って事は海軍力は日露戦争時代って事か。 欧州国家の軍事力レベルでは3,4番目ってとこ?
[気になる点] ココまでは友好的だが、これからは敵対的が出て来るんだろうな。 [一言] 現在2023年、読み始めた時は過去だったが、数話前から未来になった、コ□ナは持って行かなかったか。
[気になる点] 東京を実質上の首都としていますが この場合本当の首都が別にあるということになりますが その部分はどうなっているのでしょうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ