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日本時空異聞録  作者: 笠三和大
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備える日本、加速する動き

どうも皆さん、笠三和大です。

今回私、広島から投稿させて頂きます。

何があった、っていう程ではないのですが、旅行に来ました。

せっかくなので旅行先から投稿してみようと思い立ったのです。

しかしノートパソコンって重い物ですねぇ……

――2023年 1月12日 日本国

 日本が平行世界の地球に転移して、既に5年が経過していた。

 アメリカ大陸の開拓もそれなりにスムーズに進み、今となっては東部沿岸に大規模な港湾都市がいくつも建設されている。

 既に大陸各地の農地を管理する大規模農業を手掛ける管理会社も発足し、大陸原住民などを使える部分で雇用して麦や大豆などの生産地を管理している。

 また、漁業関連の収益と就職率も飛躍的に上昇しており、特に水辺で生活する種族のほとんどが加入したことで漁業の大きな担い手となっている。

 加えて、大陸各地には既に空港も整備され始めている。これは本来民間用ではなく、開拓のための物資を輸送するために優先的に整備されたものだった。だが優先的に空港が整備されたことにより、大陸各地へのスムーズな出張ができるようになったと民間からも、盛大に利用客が増えた航空会社からも歓喜の声が上がっていた。

 大陸各地をつなぐ高速道路や鉄道網も段々と普及しつつあり、大陸東部を出発点に、大陸の北部から南米大陸まで赴けるようにという想定で既に敷設が始まっているのである。

 既に大陸東部は高架鉄道や高速道路が通じている場所が多くなっているため、そこからアリが巣を広げるように一気に広がりつつある。

 もちろん恐竜という地球にいた頃は考えられない大きさを誇る巨大害獣が多く生息していることもあって、各地での工事中も自衛隊による警戒は厳重なものとなっている。

 それによって、陸上自衛隊の各部隊は常に害獣駆除態勢での出動となっており、若干過労気味となっている。

 ちなみに、この恐竜という生物を研究した学者たちによると、草食恐竜の肉質は鶏肉に近い部分があり、食用が可能な種類があると判明した。

 肉食恐竜の方は少々臭みがあり、調理方法次第で食べられなくはないが、好んで食べるほどではないという結論に達している。

 もっとも、それによって一部料理人(及び芸能人)の魂に火がついたらしく、『クセのある肉食恐竜でも美味しくなるはず!』と意気込んで研究を開始した者も現れ、某テレビ局が番組の企画で『グリルダイノ』として放送するようになったほどである。

 そういった研究の結果、草食恐竜の一部を家畜化できないかと、現在農林水産省を中心に研究が始まっている。ちなみにこの件はかなり注目を集めており、資産家の投資促進やマスコミも研究の経過を放送するなど、国民が注目するようになっていた。

 また、造船業が大幅に人員を増強し、現在では超大型タンカーなどの製造に着手している。これは大陸各地のみならず、いずれ持つことになるであろう文明との接触後に大量の物品を輸出しやすくなるようにという未来を見据えた企業の先行投資のようなものであった。

 また、それに伴い防衛力の拡充を迫られていることから兵器関連を手掛ける企業も大幅に人員を増強し、現在は三菱重工長崎造船所において建造予定の超弩級戦艦を、そしてそれに搭載する46cm砲の研究を日本製鋼所で始めている。

 防衛装備庁も開発を決めた段階からこの大砲で使用できる規格のGPS誘導砲弾の開発を行なっていた。 予定ではただの砲弾としての射程が42km、更にロケット推進によって150km追加飛行できるようにする砲弾を製造しようと研究に勤しんでいる。

 本来ならば旧世界で米国が電磁砲(レールガン)の開発に成功していたため、その後を追ってもいいのではという意見が出ていたのだが、未開地で戦闘になった場合、『直線に200km飛ばせる電磁砲』よりも『曲射可能で150kmほど飛ばせる砲弾』ではどちらの方が有用かという議論を行なった結果、要塞や大規模基地が存在すると想定されるこの世界では砲弾の方が有用という結論に至ったのだ。

 ちなみに、この砲弾は射程だけならハープーン対艦誘導弾を凌ぐ計算になっている。

 加えてこの計画が新聞やニュースで報道された時、国内の戦艦マニアが狂喜乱舞して横須賀に大挙して押し寄せ、旧帝国海軍の艦艇で唯一残っている戦艦である『記念艦三笠』に『巡礼』するという現象が発生し一躍話題になった。

 しかもこの年の流行語大賞に『超弩級戦艦』がランクインしたほどの人気ぶり、と言えばその勢いが窺い知れよう。

 また航空自衛隊では、数の不足を補うために退役した兵器を再稼働させて大陸各地に配備しているが、戦闘機のベストセラーとも言われた『F―4EJ改ファントム』を基地ごとに1,2機の割合で配備するようになっていた。それ以外の主力となる航空機は急ピッチで量産された『T―4練習機』戦闘改造型、『FT―4』である。

 『F―4EJ改ファントム』を先頭に続く『FT―4』の勇姿は、国民に未来への新たな希望を指し示すようと言われるのだった。

 このように、日本は徐々にではあるが、大陸全土にその版図を広げつつある。

 ちなみに、政府が思い切って子供の産まれた家庭に対しては補助金を多く出す政策など、子作りを推奨する政策を推し進めたことに加えて、前年度に日本国民として組み込んだスキュラの『キュリア族』の族長の孫娘と海上自衛隊の若手幹部が結婚したことも影響し、現在日本では多くの亜人類と婚姻を結ぶ人が増えていた。

 幸いなことに染色体などの壁はないらしく、異種間であっても問題なく子供が生まれるということが学者達によって証明されたため、多くの日本人が亜人類との結婚を望むようになっていた。

 また、亜人類の多くは多産で、一度に2人以上を産むことが多いため、それらに関する保障なども政府が苦心した結果、数字上の人口はこの5年ほどで15万人以上増加した(これは組み込んだ亜人類そのものを除く)。

 とはいえ、思わぬベビーブームによって託児所はまるで足りておらず、政府が勤める企業に設置できるように人材育成に努めている。

 だが、とにかく南北中の大陸全土を制するためには旧世界の中国並みの人口があっても足りない可能性があると指摘されているためか、政府も『産めよ増やせよ』と、まるで戦時中のような言葉を掲げざるを得ないほどであった。

 わずかな期間ながら、今や日本の各地では10人近い子供を連れた家族というのも珍しくなくなりつつあった。

 当然ただ生まれる子供の数を増やせばそれでいいというわけはなく、虐待などを防いで子供の生存率を上げるために、政府は子育てカウンセラーという形で子育て経験のある老人などを採用し、様々な子育ての悩みを打ち明けやすい環境も整えた。これに乗じるように親の方を教育するという目的も含めて『より良い親になるための方法』を老人たちが教えるという講座も生まれ、引退した老人たちも活躍する時代となった。

 これによって政府は、数年後に教育機関及び教育施設が大幅に不足する可能性を考慮し、大陸の都市各地に既に学校の設置を始めており、そこに配置する教員の養成も既に始めている。

 このように、日本は今常に二歩三歩先を見据えた政策を次々と打ち出して対応していた。

 しかし、それでもやはり国内全体が過労状態であることは否めず、過労死する者が少なからず出ているため各企業はその対応に追われている。



――2023年 2月8日 日本国 東京都 国会議事堂

 ここでは今、衆議院議員が人工衛星が撮影した新世界の地図を睨みながら会議を繰り広げていた。

「やはりそろそろ東の大陸へ赴き、文明との接触を図るべきだ」

「いや、まだまだ国内は安定しているとは言い難い。東海岸を警備する護衛艦や巡視船の数はそれなりに揃えられてきたが、最新兵器への更新などは進んでおらず、航空機と戦車は退役した兵器の多くを騙し騙し使っている状況だぞ。人員も不足している。そんな状況で文明と接触し、万が一戦争になった場合、現状の自衛隊では日本を守り切れないと思う」

 政治的実績を獲得したい与党若手議員が発言すると、それに対して野党の慎重派が反対意見を述べる。

「しかし、内需にも限界がある。確かに今は大陸開拓もあって各所で消費が激しい現状を保っているが、恐らくあと5年もすれば『ある程度』落ち着く部分が出て来る。もちろん防衛産業はまだまだ多忙だろう。だが、それでも新たな顧客確保という意味でも、我々は新たな冒険に乗り出すべきだ」

 この1ヶ月ほど、通常国会は『日本は東の文明圏(ヨーロッパ)に乗り出すべきか否か』という議論に明け暮れていた。

 厄介な所は、与野党問わず慎重な意見がとても多い。

「幸いなことに、日本はとりあえず自分達が食っていく分はどうにかなる現状だ。ならば、もう少し国内が安定するのを待ってから接触しても悪くはないと思う」

「そうだ。防衛方面ではそろそろ新型輸送艦などの新兵器の一部が進水するという状況で、何も無理をすることはなかろう」

「ただでさえ人口増加を止めずに増えるままにしているのだ。国内はまだまだ新生児で溢れるぞ」

「国際交流も大事だが、足元を疎かにしてはなんの意味もない」

「そうだそうだ」

 与野党の議論でも、最低でももう1年は様子を見るべきだという結論に達した国会は、その1年後に来るであろう新世界各国との国交開設に向けて、様々な情報収集を始める事にした。

 他にも様々な諸問題に対して、日本の政治機構は対応を迫られている。

 その一例として、仮想通貨のことがあった。仮想通貨は転移直後から大暴落を起こし、一切の価値を失った。だが、これによって人々は目を覚ました。

 『我々はなぜ、形もないものをありがたがっていたのだろうか』というその意見は瞬く間に日本中に広がり、交通やコンビニで使われる電子マネーを除いて、仮想的通貨と呼べる全ては日本から一切消滅したのだった。

 しかし同時に、電子マネーに頼りきりになり始めていた日本の各経済は現金が多く動くようになったことで混乱が生じ、一部の株価が下落するという現象が発生した。

これに関しては政府が『これからは仮想通貨に頼らず、現金及び一部の電子マネーでしっかりやっていけばいい』という発言をすると同時に貨幣や紙幣の流通を再び活発化させたことで解決した。

 だが、仮想通貨関連の企業は軒並み倒産し、仮想通貨での支払いを慣例化しようとしていた店舗は次々と現金及び一部の電子マネーに切り替えるなど、国内、特に都会において大きな混乱を招いたのだった。

 ただしこの移行には利点もあった。これまで電子マネーや仮想通貨頼りで自分の頭で会計をしなかった者たちが、出した額から導き出されるお釣りを計算するようになったことで多くの日本人が自分の頭を使うことの重要性を思い出したのだ。

 他にも、若者の多くを自衛隊員として採用を図ろうとした防衛省であったが、数をある程度揃える必要もあったため、応募してきた者たちをなるべく採用していったことでひとまずこの5年ほどで陸海空合わせて30万人まで増員できた。

 とはいえ、採用してから訓練をする中で現代の若者の『質』があまりにもピンからキリまであったということを採用の際に分かり、まずはその『質』を磨くことを迫られた。

 だが、現代の若者はあまりにも繊細であった。ちょっと厳しくすればすぐに『パワハラだ』と叫び辞めようとするし、だからと言って甘やかせばすぐに規律も守れないほどに堕落する。

 そのため、教育の現場及び教育プランを考える省庁は若者を扱う難しさに頭を抱えるのだった。

 もちろんそんな若者ばかりではない。元オタク、元引きこもりと呼ばれた者たちの多くは、自分が社会に必要とされているという充足感から厳しい訓練に耐える者が多く、役人たちを驚かせていた。

 彼らは元々同人誌即売会などのイベントの際も規律正しく行動する(一部はそうでないとも言えるが)ことで有名である。規律を守ることの重要性は下手な一般人よりもよく理解していて、更には目的の物を手に入れるために困難に屈しない耐久力及び持久力に優れた者が多かったことも幸いして、徐々に育成されつつある陸海両自衛隊の次期主力と呼ばれる若者たちの大半がオタクと言われるほどに彼らの果たす役割は高くなっていた。

 もっとも、そんなオタクグッズ溢れる彼らの部屋を見ると、『普通の』自衛隊員たち及び古参の者たちは『これでいいのだろうか……』と頭を抱えているのだが。

 そんなオタクたちの活躍は、何も男性のみではない。女性も多くがWAC(女性自衛官)として採用されるようになったことで、男女平等の職場環境という部分も強調できるようになったことに加えて、オタクな女性たちはなぜか情熱的に隊員たちと共に訓練するのだ。

 時折、ベテランの曹長に厳しくも優しい言葉をかけられる新米二士を見て頬を染めたり、ひそひそと話し合ったりしている部分があるなど、オタクたち以外には意味不明な部分もあるが、基本的には真面目に仕事をしているので幹部も文句は言わない。

 だが、ある時不用意にベテランがとあるオタク出身の陸士に『あの女子たちの話ってなんなんだ?』と聞いて、とてつもなく真剣な顔で『知らない方がいいことです』と返され、以後自衛隊内でそんな女性たちの趣味嗜好に首を突っ込む者はいなくなった。

 防衛方面の内、人材方面の充足率は中々と言ってもよかった。本当は5年以内に40万人態勢を整えたかったのだがあくまで政府の要望なのでそうもいかない部分が多々存在する。

 現実問題という意味ではこの30万人という数字でさえ、旧世界では考えられないほどの人数と言ってもよいのだ。

 問題はその部隊に配備する兵器の数である。

 現在航空機に関しては、要撃機兼練習機として『FT―4』を大量配備することで数を揃えることはできた。

 最新鋭制空戦闘機に関しては、在日米軍に残された『F―22ラプター』の資料を、艦上戦闘機に関しては『X―2先進技術実証機』と『F―35A、B、C』を参考にしているため、既に試験機の飛行には成功していた。だが、まだ『試験に成功した』段階にすぎず、様々な機能の集約、新型対空誘導弾などの開発などを含めて同時進行を進めているため、中々進んでいない。

 陸上自衛隊に関しては退役した一部の『74式戦車』や『75式自走榴弾砲』などの兵器の再稼働に加えて、最新兵器である『16式機動戦闘車』及び大陸が未開地であることから『10式戦車』などを大量生産する体制を整えていた。

 幸いなことに陸上自衛隊は最後の盾という意味で本土決戦を想定した装備が多いことから、まずは空と海の装備を拡充させるべきという意見も多く、早急な国産化が求められる対戦車ヘリコプターの製作を進めている以外は緩やかなペースで兵器の調達が進められている。

 また、海上自衛隊の護衛艦に関しても同様である。

 現在は退役した旧式の護衛艦や練習艦を再就役させることでわずかに数を確保し、この5年の間に小型で量産できる『ふぶき』型護衛艦が次々と就役しているので、本当に少しずつは増えている。

 問題は船の数であり、大陸の防衛に関しても、当面は東部の警戒に当たらせるために護衛隊の一部をそれぞれ割いてなんとか防衛ラインを確保しようとしているが、如何せん数が全く足りていない。その『数』を確保するための『ふぶき』型護衛艦なのだが、この5年余りでようやく10隻ほどが就役したばかりである。

 既に北中南と大陸各地4か所に2隻ずつ就役、残りの2隻は訓練用ということで本土に配備されていた。

 訓練艦の数もまるで足りておらず、現在試験艦『あすか』や訓練艦『くろべ』、及び『てんりゅう』と同じような能力を持つ船を開発することが急がされている。

 だが、それら諸問題が霞みかねないほどの重要問題がある。それは、現在海上自衛隊の花形とも言える『イージス・システム』のことであった。

 イージス・システムというものは、アメリカからブラックボックス付きで輸入していた物のため、日本で国産化することができないのである。

 そのため、現在防衛装備庁では今まで導入していたイージス艦のシステムや、陸上配備されている『イージス・アショア』のシステム構造を分析すると同時に、国産した射撃指揮システム『FCS―3』の改良と強化をすることでイージス・システムに匹敵する、或いは凌駕する物を作ろうとしているところである。

これまではアメリカへの配慮や予算の関係からできなかったことであるが、転移により旧世界関係のしがらみなどが全て消滅したからこそできることであった。

 アメリカが守ってくれるという幻想がなくなった以上、自分たちの手でしっかりと国防を行わないといけないという意識は、日本のあちこちで芽生えていた。

 また、在日米軍との交渉を行ない、イージス・システムの根幹について明らかにしてもらう代わりに彼らの面倒を見るという話も出ている。

 そんな現状が続いているものだから、海上自衛隊は海上保安庁との連携を密にして海の防衛に当たっている現状である。当の海上保安庁でも船舶及び人員の増員がかなりの勢いで行われており、既に現場に動員できる人間は旧世界時代の1.5倍にまで至っている。

 船舶も長い航続距離と1隻で多目的な任務をこなすことを求められるため、旧世界では日本最大級であった『あきつしま型』の巡視船の量産体制に入っていた。

 加えて政府では、不審な航空機に対処できるように『しきしま』型同様に対空レーダーを備えた巡視船を建造する計画も発表している。

 もちろんそれだけでは済まされない部分も多いため、今まで通り小型、中型の巡視船も建造して沿岸警備に当たらせるようにしている。だが、とにかく全てが何もかも足りていない。

 いずれの組織でも旧世界では考えられないほどの潤沢な予算が渡されているが、とにかく生産する人員も時間も足りていない。

 だが、ここで思わぬ助けが入った。それはロボット産業であった。

 ロボット産業の発達により、機械化できる作業をなるべく機械化することで、人員不足を補おうという動きが見られたのだ。

 これまでの日本ならば、『働き手の仕事が奪われる』、『人の手を入れない仕事は信用できない』ということから快く思われていなかった部分も一部ではあったが、機械に任せても問題ない部分を機械化することは、理にも適っている。その分の人員を他のことに回せるからである。

 幸いなことに資源と土地、燃料の類は大量に見つかったため、潤沢なそれらを使い、大量生産のベースをこの5年で整えることには成功している。日本の工業生産力は、この5年ほどで3倍以上に進化していたのだ。

 大陸各地では工場が稼働を始め、連日唸りをあげながら新しい物を生み出していく。だが、そこで生まれた物は旧世界のアメリカの様な工業製品ではなく、日本らしい、『職人の目が光る製品』であることが求められた。

 職人気質な日本の風土に旧世界のアメリカ並みの生産速度と規模が加わることで、その質と量は、正に最高クラスの物となると想定されていた。

 だが、多忙化する現場において、品質の低下や劣化があってはならないということで、検査体制も厳格に、そして機械化も加えられつつあった。

 これに関しては今まで人の手で行われていた検査も、品質など、人の目だけではわからない部分を検査機にかけることである程度読み取れる物を開発することに成功したことが大きかった。

 日本の各産業は、今後も荒れ狂う嵐の如き忙しさで動き続けるのであった。



――2023年 2月19日 日本国 首相官邸

「――以上のことから、我が国が対外進出をするにはもうしばらく時間を置くべきであるという結論に至りました。この間に大陸沿岸部の防備を固め、防衛力を充実させること。旧世界のアメリカ同様に平和のため行動するため、他国との接触を想定した様々な準備を行なうことが重要であると考えます」

 総務大臣から提出された運営方針を読みながら、総理大臣は頭を抱える。

「転移から既に5年か……だが、まだまだ私は休むことはできなさそうだな」

 総理大臣の言葉に、これまた5年間彼を支えてきた首相補佐官が返す。

「仕方ありません。総理はこの事態に対して、この5年間全力で対処し、政権も継続となりました。国民の期待を背負っておられるのです。放り出すことは許されませんよ」

「分かっているよ」

 この総理大臣は、『日本国時空転移現象』と呼ばれるようになった転移の時からずっと国のトップに立ち続けている。それは何故かと言えば、コロコロと政権が交代することによる国内(この場合の国内は日本列島本土を指す)情勢の不安定化を防ぐためであった。

 円滑に政治を行ない、国を安定させるためということで大手野党のいくつかにも話を通してある。野党側には、『ただのメンツや反対意識だけで反抗しないでほしい。これは国の命運がかかっているのだ』と述べると、普段は与党のやること為すことほぼ全てに反対している野党側も、強硬に全ての政策に反対することはできなくなっていた。

 もちろん、あまりに理不尽だったり実現不可能だったりすると思われることに関しては反対しても構わないと与党側からも言い含められているが、転移してからあまりにも情報の少ないこの状況下では、政権運営に関して長年のノウハウを持つ与党にまるで及ばないことを野党も熟知していたので、与党の政策に反対する者はほとんどいない現状となっていた。

 もちろん、弱小野党や一部の有力政党などは『一党独裁が強すぎる』と批判をする者もいる。だが、国民の意識からして『今を乗り切るにはベテランの力と若手の力が織り交ざっている層の厚い与党しか頼れない』、『そもそも政権をロクに運営したことのない野党では安心できない』という意見が多く、積極的とまでではないが、国民(この場合の国民は亜人類を除く選挙権を持つ旧来の日本国民を指す)の75%以上が与党を支持する方向に回っていた。

 加えて、この総理大臣の政権の際に、日本ではあることを実行に移していた。

 それは、いわゆる反社会勢力の撲滅であった。

 これまでの旧世界では、海外との絡みやそれらと繋がりのある大物政治家の陰も見え隠れしていたために完全に取り締まることができなかった。だが、転移したことで全てを排除しても構わない状況に変化したため、国内に巣食う不穏分子を一斉摘発することを総理大臣は決定した。

 これには新しく他国と交流を結んだ時に、そういった反社会的勢力が海外へ進出し、その国の治安を悪化させることを懸念したという理由もある。新世界で国交樹立を図るために、打てる手は打っておきたいという総理大臣以下、多くの政治家たちの心の表れであった。

 これを発表した直後から、様々な組織の息がかかった者たちが総理大臣を狙った。だが、幸いなことに日本のSPや警察機構が必死に警護をしたお陰で総理大臣の命は守られた。

 そして、そんな直接的な行動を取った組織に対して国が更に強硬策を取ったことで、国民からも『反社会勢力排除』の機運が高まることになった。

 これによって逮捕された人物は1万人を超え、更にその中には与野党を問わず大物政治家との繋がりもあった。

 もちろん、総理大臣の指示を受けた警察機構は与党政治家であろうと、身内である警察機構の人間であろうと容赦せずに逮捕していったため、『クリーンな日本』を作ろうとしていると国民から高評価を得るようになった。

 これにより、日本の治安と国民全体のマナーはこれまでよりも更に向上したと、国民の間では言われるようになる。

 加えて転移からしばらくした頃には、これまで日本に潜入して様々な工作活動を行っていたスパイたちも次々と摘発させていた。

 やはり対外的な関係が消失したことで、日本は今までのように『大国』(ここではC国、R連邦と称する)に配慮、遠慮する必要がなくなっていた。

 ただし、彼らに対しては少し温情というか救済措置を設けており、今後日本が海外に進出することになった場合、様々な諜報活動を行なう必要があるため、それらのノウハウを教育するために協力してほしいという司法取引を持ち掛けたのだ。

 元々本国との連絡、繋がりが断たれていたスパイたちにはどうすることもできず、日本の提案に首を縦に振らざるを得なかったという。

 特に『大国』や『北』のスパイたちは優秀で、現在の日本では思いつかないような手段や方法を用いて潜入活動をしてきたことが彼らからの報告で明らかになりつつあった。

 日本はこれを機に公安の一部署に『対外諜報機関』を設置し、交流を結ぶことになるであろう新世界をすぐに調べられるように準備を整え始めるのだった。

 これらの事柄を踏まえて、日本の動きは更に加速していく。

今回の話で、いよいよ日本が文明への接触を見据えた準備に入ります。

また、作中の日本は『日本転移小説が存在する』世界ですので、それらを参考に少々慎重な行動を取るようになっております。

『こんなの日本じゃないだろう』と思われる方、すみません。

次回、遂に文明を持つ国と接触します。


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[一言] なぜこの世界で戦艦を建造しようとするのか疑問でしかないです。 仮にこの世界の欧米の海軍力がガレオン戦レベルでも有効射程が500mもないから護衛艦1隻で軽く30隻以上を相手にできますよ。 だ…
[気になる点] 自衛官の訓練とかパワハラじゃなくて拷問。 配属先によって大きな差はあるだろうけど、オタクや引きこもりが熱意や情熱とかあやふやなもので乗り越えたり、比喩ではなく本当に血反吐の1つや2つ吐…
[気になる点] 在日米軍何やってる? 自衛隊が派遣されてるので、近海警備でもやってるのか? 北米に自治区くれとかいってない? 46㎝砲再建出来るのか!?51㎝?知らない子 大和改級なのか、シンやまと…
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