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日本時空異聞録  作者: 笠三和大
136/138

捕虜救出作戦

今月の投稿になります。

今回のメインは捕虜救出作戦ですが……正直言って全然自信がありません。

描写もそうですが、私の浅はかな知識でどれだけ正確に描けているかと思うと……本当は戦車と戦闘させてもよかったかなぁ……

 時刻は少し戻り、日本が首都スターリンに攻撃を開始してから2日後まで戻る。

 制空権を握り、敵の高射砲及び高射機関砲などの対空兵器を含めた敵の大型兵器を粗方沈黙させたところで、日本は虎の子とも言える特殊部隊、特殊作戦群を投入し、スターリンの強制収容所に囚われている邦人の救出をさせることにしていた。

 彼らは空からの対地攻撃によって敵部隊が混乱している隙をついて街中に侵入し、目的の強制収容所に近づいていた。

 既に軽装甲機動車を先頭に4両の高機動車と防弾板や機関銃を装備した1 1/2tトラック(通称:1トン半)が侵入しているが、特に反撃されることもなく目的地に近づけているのは大変都合がいい。

 本当は安全性という都合上、空挺降下をするか、地下から入れれば最高だった。

 だが、強制収容所に収容されているということは拉致被害者が衰弱している可能性が非常に高く、しかもそんな状態で、不衛生であろう地下から連れ出すことで感染症にかかる可能性が大幅に高まることが指摘された。

 おまけに、衰弱している邦人が地下を移動できるとは考えにくい。

 そして攻撃によって地下の構造が不安定になりつつあるため、収容所から街の外までは車で移動し、その後郊外に待機させている『CHー47JA』チヌーク5機で特殊作戦群と共に後方へ脱出させる予定である。

 もちろん収容所には警備兵がいることは想定されており、場合によっては装甲車と戦う可能性も考えられているため、高機動車には『84mm無反動砲(カールグスタフ)』が各1門、弾薬が6発ずつだけではあるが搭載されていた。

 これがあれば、基本的には帝国の主力戦車であるチーグル戦車も十分に撃破できるシロモノである。

 郡長の伊勢谷三等陸佐は、正面に収容所の鉄門扉が見えてきたことで指示を飛ばす。

「よし。突っ込むぞ」――『こちらシャーマンより各員、これより収容所に突入する。ハチヨンで門を吹っ飛ばせ‼』

『了解!』

 後部が開放されている高機動車から隊員が身を乗り出すと、無反動砲の狙いを定める。運転手が少し速度を落として揺れを少なくした瞬間、強烈なガス噴射と共に対戦車榴弾が発射され、頑丈そうな鉄門扉を一撃で吹っ飛ばしてしまった。

 門は網や柵状のモノではなく、頑丈そうな鉄板作りだったのだが、それが逆に災いしたと言えるだろう。

 吹っ飛ばされた門扉を後ろ目に見つつ、伊勢谷は嘆息する。

「本当はこういう『力技』は米軍の専売特許なんだがな……普通に空挺団にやってもらった方がよかったかもしれん」

『仕方ありませんよ。得られる事前情報には限界がありましたから』

「……そうだな」――『チハはパンサーとベアと共に脱出路の確保。タイガー、ファイアフライ、バンブルビー、エレファント、マウスは私に続け!』

 特殊作戦群は本来西側に配備されて皇帝を捕まえる役目だったのだが、一向に逃亡する気配がないことから、邦人の救出の方に向かわせることになった。

 その代わり、一部の部隊を警察の後方に配置することになっている。彼らは基本的に警務隊経験者なので、下手な自衛官よりは捕縛の訓練を受けているのだ……それにしてももう少し出せる人員がなかったのだろうかと防衛省では議論されることになる。

 このことが後に、特殊作戦群の2つ目を新たに設置させるきっかけとなる。

 それはさておき。

 伊勢谷を先頭に進んだ部隊は進む中で警備していた敵兵と会敵する。

 会敵する、と言っても監視カメラやセンサーの類がないことから、敵を無力化することで敵に報知されないように進むことが基本だ。

 時折センサーらしきものもあったが、収容所全体に警報を鳴り響かせるものではないようであった。

 冷戦期に片足を突っ込んでいる程度の技術力では監視カメラもないらしく、(本来あってもおかしくないのだが……)侵入を感知する方法もかなり原始的らしい。

 特殊作戦群は素早く奥へ進み、こんな状況でも律義に警備をしている警備兵を無力化していく。幸い、敵は頭に1本と2本という差はあるが角が生えていることもあり、かなり分かりやすい。

 それもあって、見誤ることもなく攻撃できていた。

 サプレッサーの『プシュッ』という抜けるような音だけが静かに響き、敵を次々と無力化していく。

 必要とあれば、接近してナイフで喉をかき切ってとどめを刺すことも忘れない。

 それは一種の介錯であり、同時に後顧の憂いを断つための確実な手段でもあった。

「隊長、残るはあの奥の房ですね」

「気を抜くな。もし奴らが日本人を捕まえたことを最重要事項と認めているのなら、自衛隊の攻撃があった時点でかなり強固に守りを固めているはずだ。急に突っ込んだら間違いなくハチの巣だぞ」

「だとしたら余計に、『慌てず急いで正確に』ですね」

 マウスこと、根津1等陸尉の言葉に伊勢谷も『そうだな』と短く返した。

 ゆっくりと最奥へ近づき、少しだけ顔を出した瞬間、すぐそばの壁に火花が弾ける。

「いるぞっ‼」

 隊員たちが構えると、銃弾が多数こちらへ飛んでくる。

 外れた銃弾は外の方へ飛ぶか、壁に当たって火花を散らすかのどちらかの運命だったが、中には直近を掠める弾もあるため、油断は禁物である。

「グレネード!」

 隊員がスタングレネードを投げると、敵は手榴弾と思ったのかその場を離れた。恐らく壁に隠れて爆発をやり過ごす気なのだろう。

 だが、その直後に発生した爆発と衝撃でもたらされたのは、それによって飛来する破片ではなく、猛烈な閃光と爆音だった。

「ぐわっ!?」

「耳がいてぇっ‼」

「目が、目があぁぁっ……‼」

 どうやら音への備えはしていなかったらしい敵の狼狽を耳にし、特殊作戦群は迷うことなく、そして素早く突っ込んでいった。



――プシュッ!プシュッ!プシュッ!



「……クリア。エレファント、そちらは?」

「クリアです」

 エレファントこと蔵島陸曹長の言葉通り、足元には寸分違わずに脳天を撃ち抜かれて倒れ伏す敵の姿があった。

「よし。奥へ行くぞ」

 奥へ駆け込むと、多数の日本人……ただし、防寒もロクに考えられていないだろう粗末な服に身を包んだ者たちが牢屋の中でうずくまっていた。

 彼らは外での争いの音、そして今のスタングレネードの音が聞こえていたようで、力なくこちらの方を見ていた。

「あなたたちは……」

「自衛隊です。救出に来ました」

 その言葉だけで、その場にいた者たちの顔に一気に喜色が浮かび上がった。

「離れていてください。扉を壊します」

 エレファントが持ってきたプラスチック爆弾を鍵に装着し、十分に離れた上で牢の中の拉致被害者たちがトイレの板の陰に隠れたことを確認する。

「発破!」

 陰から顔を出せば、扉が軋んだ音を立てながらゆっくりと開いていた。

「そのまま待っていてください。他の牢屋も壊しますから」

「は、はい……」

 しかし、彼らはかなり衰弱している。急がなければ、命の危険もあるだろう。というか、マイナス30度を下回ると言っても過言ではないこの極寒の地で、よくこんな格好で持ちこたえていたものであるとむしろ感心する伊勢谷たちだった。

 他の牢屋の扉も素早く壊すと、歩けそうな人には歩いてもらい、歩行困難な者にはできるだけ肩を貸して歩かせることにした。

 本当ならば担架を含めて運びやすいものを用意するべきだったのだが、流石にそうはいかなかった。

 その代わり、収容所の外まで出れば全員を乗せられるだけの車両は用意してあるため、そこまでは頑張ってもらうしかない。

 だが、収容されていた者たちはいつ帝国軍の攻撃を受けるか分からないからか、かなり及び腰な歩き方であった。

 そのため、特殊作戦群は彼らを宥めつつ進まなければならない。

「落ち着いて!ここまでの敵は全て排除してあります‼慌てなくても大丈夫です‼」

 彼らも地面に横たわっているのが全て帝国兵……ミノタウロス族やオーガ族であると分かると少しほっとしたのか、わずかに歩調が速くなる。

「さぁ、こちらです」

 だが、表へ近づいたところで銃撃の音が聞こえ始めた。

『こちらパンサー!敵が少人数だが部隊を送り込んできた!数は5人!現在交戦中‼』

「こちらシャーマン。これより邦人を連れそちらへ向かう。3分……いや、5分かかる。それまでに排除できるか?」

『こちらパンサー。了解。全力を尽くす』

 敵部隊と言っても、恐らくは警戒のために動いていた、残存兵力だろう。

 外から聞こえてくる音は確かに自動小銃の音だが、発砲音からパンサーの報告通り、いても10人以下と考えられる。

 と、強烈な爆発音が聞こえた。だが入り口から少し離れた位置からの音であるため、恐らく味方がスタングレネードを放り投げたのだろう。

 実際、その後は銃声が散発的になっており、その銃声も少しずつ減っていった。

 伊勢谷たちが入り口に戻った時には、柵の向こうに倒れ伏す敵兵の姿があった。こちらはベアこと熊野1等陸曹とチハこと千葉3等陸尉が少し負傷しただけで済んだようだ。

「ベア、チハ、大丈夫か?」

「問題ありません。少し喰らっただけです。すぐ走れます」

「こちらも同様です。邦人の救出を急ぎましょう」

 実際、既に応急手当は済ませているようであった。止血も既に済ませているあたり、流石の手際である。

「よし。邦人は全て救出した。撤収するぞ‼」

 隊員たちは『了解』と小さく声を上げ、連れ出した邦人たちを素早く車に乗せていく。ケガをしている者、衰弱している者については内部の座席に拵えた簡易的なベッドのような部分に寝かせるようにしている。

「落ち着いて!全員乗れるだけの余裕はあります‼」

 ざわざわと落ち着かない様子ながらも自衛隊の高機動車に乗り込んでいく人々。

 特殊作戦群は周囲を警戒しつつ人々が乗り込んだことを確認すると、自分たちも素早く車両に乗り込んだ。

「よし、出せ‼」

 高機動車はエンジンを勢い良く始動させると、人気のない街中を素早く走り出す。人々はいきなりの振動に驚き、車両や近くに座る特殊作戦群の隊員たちにしがみつく。

「大丈夫。安全運転には注意していますので」

 一般人である彼らは『これが?』と疑ったが、自衛官たちは平然としていることが彼らに『あぁ、彼らにとってはそういうものなんだ……』と思わせるのだった。

 後方から多少の騒ぎ声が聞こえるが、恐らく車両もない敵がこちらを発見したものの、追跡することもできない状態なので騒ぐことしかできないのだろうと邦人たちは考えていた。

 逆に特殊作戦群は『敵が隠した車両で追跡してくるかもしれない』と考え、後方を警戒し始める。

 幸い道路には人の姿はないので、高機動車も全速力……とまではいかなくとも、結構な速度を出している。

「振り切るぞ‼」

 特殊作戦群全員が頷き、邦人たちは『え』という顔をする。

 速度がさらに上がり、車体が大きくバウンドする。自衛官以外の人々は『きゃあ!』、『ひいっ!』と声を上げるが、高機動車は構わずに進んでいく。

 すると、車を止めようとしたのか敵兵が銃を構えて飛び出してきた。銃弾が当たるが、防弾能力のある車体も、特殊作戦群の男たちも怯まない。

「どけどけぇ‼ぶつかっても保険降りねぇぞぉっ‼」

「当たると死ぬほど痛いよぉっ‼」

 それぞれ叫びつつ小銃で射撃すると、進路上の敵は怯んだのかそのまま横っ飛びに避けてうずくまってしまった。

 いくらなんでも、猛スピードで突っ込んでくる車に立ちはだかる勇気はなかったらしく、そのまま震えあがっていた。

「可哀そうになぁ」

「無茶言っちゃいけませんよ」

「こっちは車なんですから。しかも、先頭はLAVなんですし」

「まぁ、そりゃそうだな」――『こちらシャーマンより本部へ。宝物は手に入れた。繰り返す、宝物は手に入れた』

『こちら本部、了解。直ちに帰投せよ。途中からヘリの援護をつける』

 これでほぼ安全に帰投することができるだろうと隊員たちの一部は考え、いややはり油断はならないと改めて気を引き締める隊員もいる。

 それから30分後、上空を『UHー2』と『やんま』対戦車ヘリコプターが1機ずつ飛行し始めた。

 しかもご丁寧に、8代目将軍の殺陣のテーマ付きである。帝国軍への威嚇を兼ねているようで、周辺を飛び回りながら流しているため中々に派手な雰囲気である。

「よし、支援が付いた。これで安全性が増すはずだ。お客さんたちにも教えてあげろ」

「了解です」

 上空を交互に飛び回る2機のヘリコプターの存在は搭乗している邦人たちにも勇気を与えたらしく、明らかにホッとした顔の人が増えていた。

「よかったぁ……これで日本に帰れるぞぉ……」

「おふくろぉ……会いてぇ……」

「子供が待ってるんだ……生きててよかったぁ……」

 皆涙を流し、思い思いの言葉を発している。ここに来てやっと、解放されたという思いが強くなったようだ。

 だが、それでも特殊作戦群の男たちは油断を見せない。

「だが街を抜ける……いや、本部に戻るまで気を抜くなよ。帰るまでが遠足だからな」

「ひどい遠足もあったもんですね」

「それを言うな」



 異世界における特殊作戦群を用いた本格的な、初めての作戦は問題ないレベルの成功に終わることとなった。だが、今回のことを含めて運用面で多くの課題があることを改めて突き付けられた防衛省では、さらなる効率的な運用を模索すると同時に新たな部隊の設立を迫られることとなる。

 新設された第二空挺団及び第二水陸機動団もそうだが、今後は新大陸の亜人類たちも積極的に活用していくことになる、とは郡長だった伊勢谷三等陸佐の言であった。



 時間は現在に戻る。

 邦人救出の報告を受けた日本政府内では、閣僚及び周辺幹部たちの間で大きな歓声が上がっていた。

 なにしろ、貨物船の乗員全員が……衰弱していた人もいたとはいえ、五体満足で救出されたというのだ。喜ばないわけがない。

「総理、やりましたね」

「あぁ。これで後は帝国の首脳部がどう動くかだが……他に現場からの報告は?」

 防衛省の幹部は『今のところはまだ』と続ける。

「ふむ……首都に猛攻を受けて反撃もままならない状態になり、収容していた敵国民も被害を出さずに取り戻された……これを聞いてもなお反撃を諦めないようであれば……何か隠し玉があると思うのだが、防衛大臣、どう思う?」

 問われた防衛相は『そうですね……』と言いながらタブレットを操作する。

「ラーヴル基地を攻撃した際には横穴に隠れていたというポルシェティーガーモドキによって16式機動戦闘車が損傷しました。幸いエンジンが被弾による炎上を起こしにくい構造だったこともあって死傷者は出ませんでしたが、洞窟内に籠る相手に対しての攻撃という点で、索敵能力のさらなる向上が求められます」

 これに関しては現在配備されている様々な無人機・ドローンの類が役に立つと考えられている。

 無人機は有人機よりかなり小柄なこともあり、より低空を、さらに詳細に調査することも可能になっているため、本来このような戦いでは真っ先に投入されるべきものであった。

 また、自爆ドローン……現実で言う神風ドローンのようなものを使えば、洞窟のような狭い場所であろうとも先制して、より安全に攻撃することが可能になる。

「また、つい先だっての話ですが、アヌビシャス神王国軍の部隊が列車砲……ナチス・ドイツが配備していた『80cm列車砲』に酷似した兵器によって打撃を受けたという報告がありました」

 80cmという、現在ではありえない口径の大砲が登場したことに閣僚たちは驚きを隠せない。

 それは太平洋戦争開戦からそれほど経たぬうちに判明した、戦艦による大艦巨砲と同様の、現実的に見て効果的戦力となりえないはずの存在だった。

 まさかこの世界でそんなものと出くわすことになろうとは、改めてここが異世界であると思わされる限りである。

「列車砲か……確認されたのは2門だけだったそうだが、他にはないのか?」

「現在のところ、スターリン周辺に列車砲を収容できそうな山は存在しない、とのことですあれほどの巨大兵器は、ナチス・ドイツでも2門作るのがやっとだったと言います。他に存在するとは考えにくいのですが……」

 だが、首相は首を横に振った。

「ナチス・ドイツは他にも巨大兵器として『600mmカール自走臼砲』のような兵器を配備していた。それらが大きな『無駄』となっていたことは間違いない。そんな無駄をできる限り排除し、必要だと考えられる兵器の集中的な開発・量産を行っていた場合、強力な兵装が他に存在しないと考えるのは早計だ」

 首相の言葉に防衛相側も『うっ』と声を詰まらせていた。

 首相は自衛隊の総司令官という立場上、ある程度防衛・兵器のことについても学んでいることは知っていたが、まさかプロが見落とすようなことを指摘されるとは思っていなかった。

 いや、プロでないからこそ、かもしれない。

 プロだからこそつい『こんなことは常識的に考えてあり得ないだろう』と思って見落とすような部分を、上手く見つけることができたのかもしれない。

 『無知の強さ』という一面もあるのかもしれない。

 本当のプロではないからこそ、プロでは常識が邪魔をして『費用が掛かり過ぎてできない』であったり、『普通ならこんなことはしないだろう』であったりする可能性があるということも『あり得るのではないか』と提言することができるのだ。

「仮に、だが……街外れの地下に構造物として構成されていた場合はどうだ?旋回機能や仰角機能などを簡略化、或いは撤廃することで完全な固定砲台として運用する場合も考えられるだろう。いくら地中貫通爆弾に近い物(いわゆるディズニー爆弾)を持っている技術水準とはいえ、基本的に地中に潜っている相手を攻撃するという概念はないはずだ。ならば逆に、そこからなら発射速度の遅い列車砲でも十分運用できると考える……そんなことは考えられないか?」

「た、確かにあり得ますね……敵もそれを狙って山の中に砲台を築いていたわけですし…そ、捜索をより徹底させます‼」

「うん。相手国家の元首を捕らえる、或いは相手が降伏してくるまでは一片の油断もならない。十分に注意してほしい」

「はい。現場に周知させます」

 慌てた様子で出ていく防衛大臣の姿を見送りつつ、首相は嘆息する。

「これが終わったところで、全てが終わるわけではない。むしろこれからが『始まり』なんだ……皆、それを忘れないでいてくれると助かるのだが……」

 事実、首相は未来を考えている。今後どのような敵が現れるかは分からないが、宇宙の彼方へ飛び去ったと言われている技術を持っているほどの相手が今にも戻ってくるかもしれないと思えば、地球などという狭い世界の中でくだらないことで争っている暇はないというのが首相の考えでもある。

 もっとも、ある意味同じことをイエティスク帝国は考えていたのかもしれない。

 だからこそ彼らは国力・軍事力の増大に躍起になって、世界最強の国家になることで地球をまとめ上げて、地球全土で先史文明人に対抗しようということだったのかもしれない、と首相は考えていた。

 確かに個々の意思がまとまりにくくなるバラバラの国家のままであることに比べれば、武力による天下統一を成すことで意思を『通す』ことはしやすくなるだろう。

 だがそれがもたらすのは、結局のところ不満が燻り、最終的には自分以外の全てを敵に回す破滅フラグである。

 日本としてはたとえ時間がかかっても各国と協調を図り、円滑に意思疎通を行うことで各国を守り抜くことを考えている。

 帝国のやり方では、恐らく最新鋭の兵器やそれに近い能力を持つモノを渡すようなことはしないだろう。だがそれでは、いつまでたっても人々は進化・進歩していかない。

 だとすれば、時間が許す限り少しずつであろうとも各国の技術供与及び進化を促して、共通できるところは共通化しつつも各国の独自性を出すことができれば、それぞれの意識を満足させることも可能なのではないかと首相は考えていた。

「ここまで叩かれて、果たしてイエティスク帝国がどのように出るか……我が国はかつて太平洋戦争で降伏したが、結局のところ降伏を決めたのは『Bー29』の絨毯爆撃でも、厳密に言えば核爆弾でもなかった」

 日本を本格的に追い込んだのはアメリカ軍を始めとする潜水艦や航空機による補給路の途絶と、制空権を取られたことで我が物顔で飛び回る『Bー29』などの航空機から投下された新型の感応式・磁気機雷などの水面下に潜む脅威が主だった。

 昔は『広島・長崎に原爆が投下されたことで日本は最終的な降伏を決めた』と言われたような時期・話もあったが、実際には違う。

 あれはあくまでアメリカの実験的な要素にすぎず、日本の首脳部は既にそれ以前から降伏・講和の道筋を探っていた……というより、そもそもアメリカと戦う時の想定が『来航する米艦隊を潜水艦や航空戦力で漸減し、最終的に戦艦を含めた連合艦隊で討ち取ることによってこちらが優位に立ったうえで講和する』という方向性だったのだが、南方への進出や、その後のミッドウェー海戦での敗北を含めて様々な要因が絡み合ったことでそれが実行不可能になってしまったのだ。

 終戦間際に講和の道筋を辿る中でソ連を頼ろうと考えたのも悪手だった。

 終戦の玉音放送の際にも、降伏を認めたくないと考えた一部の軍人たちが玉音放送のために用意されたレコードを奪おうというクーデターを起こそうとしていたこともあり、無条件降伏までも道のりは決して平坦なものではなかったのだ。

 それを考えれば、帝国がまだ一矢報いるためになにかを目論んでいる可能性は排除できないと首相は考えていた。

「1人でも……1人でも邦人の犠牲を少なくするには、相手に対してこちらが非情になることも考えなければならない……全く、一国の長とは、因果な商売だな……」

 首相の呟きは、秘書と官房長官だけが聞いていた。彼らもまた、今後のことを考えると胃が痛いのか苦々しげな顔をしている。

 イエティスク帝国を倒したところで、どれほど彼らが素直に協力してくれるかわからない。

 それどころか、手痛くボコボコにしたことで国民の反感を買う可能性の方が高い。それを考えると、戦後処理の方がはるかに厄介な話になるだろう。

 日本のみならず、日本とかかわりのある国……いや、世界中の国々と協力した上で今後の話を進めていかなければならないため、日本の置かれる立場は旧世界のアメリカと同様のものとなるだろう。

 強いて言えば、この世界は旧世界に比べると国家の数が大幅に少ない……未だに国家があるのかどうかが不明な諸島部もあるため、それらの詳細な調査も必要にはなるが、それでも190以上という数があったことを考えれば、十分の一以下ということもあって交渉を行う『数』は大幅に少ない……というか主要国しかいないので問題はない。

 しかしそれだけに、各国それぞれとの交渉というのは旧世界のそれとは比較にならないほどの重圧・責任となる。

 そんな首相の心中を考えれば、皆重い気持ちになることは間違いない。

「だが、それでもやらなければならない……そうしなければこの星の運命は、再び歪んだ者たちに握られることになる……まぁ、我が国もあまり言えた口ではないかな」

 首相は暗に日本に住む、そして日本から派生したオタクたちのことを言っているのだが、先史文明の者たちから比べれば、まだマシなのかもしれないとすら思うのだから不思議だ。

「さて、後はまた状況の推移を見守ることにしよう」

「はい。その通りですね」

 官房長官の言葉に、他の者たちも『うむ』と頷くのだった。

 だが彼らは知らない。イエティスク帝国首脳部が既に降伏を決意し、その準備を進めていることを……。



 一方、自衛隊の方でも本部からの指示を受けて巨大な大砲を隠せそうな場所がないかを虱潰しに探させていた。

 空自の協力も得て固定・回転を問わず様々な航空機で探しているのが、今の時点では他にそれらしい砲台は確認できていない。

 ドローンや地上部隊の手も借りて捜索しているが、構造物という意味ではそれらしいものはない。周辺に山林もほとんどなく、先だって潰した砲台2つ以外には存在していないため、隊員たちは無駄足を踏んでいると感じつつもホッとしていた。

「ったく、まさか山の中に砲台を隠しているとは思わなかったな」

「おかげで手間が増えたってわけだ。だけど、後方の仲間たちの安全を確保するためには必要なことさ」

 ドローンを操作している陸上自衛隊員のボヤきは他に誰も聞いていない。それどころか、その顔には一片の油断もなかった。

 アヌビシャス神王国軍数百人以上を一気に葬った砲撃が自分たちにも降り注いでくる可能性があるとなれば、否が応でも身が引き締まるというものである。

「しかし、80cmの列車砲なんてもんを多数作り出すなんて、頭おかしいんじゃないか?」

「でも、馬鹿でかい大砲複数って、作るのに異常なコストかかる割にパフォーマンス悪くないですかね?」

「それは『攻める兵器』として見た場合だろうな。それこそ、『防衛用兵器』として山の中みたいな攻撃を受けにくい、或いはほとんど受けないであろう場所に造られていたらどうだ?」

「……あっ」

 部下の言葉に隊長も『そういうことだ』と返した。

「実際、本来必要だったはずの機動力を必要としなかったにもかかわらず力を発揮した兵器っていうのはいくつかある。ドイツのティーガー戦車や、フランスの戦艦『ジャン・バール』のようにな」

 正確にはジャン・バールはその後の攻撃で損傷しているのだが、陸上砲台や観測所との連携でアメリカ艦隊に損傷を与えたのは有名な話である。

「大口径砲と陥落させにくい場所。それが組み合わさった時、使い方次第では難攻不落の要塞になるんだ。それが地下のようにさらに見にくい場所にひっそりとあろうもんなら……想像したくないな」

 隊長の言葉に自衛隊員たちは息をのみ、再び捜索に意識を戻すのだった。

はい。いよいよ大詰めです。

この後どうなるのか。そして日本はどこへ向かうのか……見守っていてください。


追記

私事ですが先週日曜日のお昼、初めてカレー機関を訪れました‼

前に座っていた提督の方(しかも女性でした)とも話をすることができましたが、普段人と話さないので私ばかりが話していたようで申し訳なくも思いました。

それでも、『提督』の空気に浸れたことはとても嬉しかったですね。


次回は3月の8日に投稿しようと思います。

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― 新着の感想 ―
一部クレヨンしんちゃんの父こ(ひろし)さんが(戦国時代似タイムスリップ)した時のセリフありましたね
解説とか説明とかの文章が多すぎて読むのが苦痛になる。
我らが自衛隊が収容所を真正面からカチコミで攻略。揺れる車体からカールグスタフを発射し(危ねえな後方確認汁)、瓦礫も残さず綺麗に吹っ飛んだ鉄門を突っ切って、小型ドローンや無人戦車、ファイバースコープで偵…
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