スキュラ族の村にて
どうも、笠三和大です。
日本国召喚の5巻買いました!
『ラ・カサミ』、スゲェ!モノスゲーイ!
――2021年 4月6日 日本国 首相官邸
南米大陸を掌握した日本は、既に各集落のインフラ整備を始めていた。高地や密林が多かったせいか、この大陸には恐竜のような巨大害獣が生息していなかった。
これにより、中央大陸よりも開拓はスムーズに進むかと思われたが、密林という情報が得にくい環境は、日本人の想像を遥かに超える苦行であった。
だが、幸いなことに地元民達が案内を買って出てくれたこともあって危険な猛獣などの情報もすぐに集めることができたのは幸運だったと言える。
だが油断はできなかった。地球では存在しなかった人さえ飲み込んでしまう食虫植物(日本はこれを食獣植物と命名)も発見されたため、かなり緊張する開拓となった。
そして、日本は航空戦力の拡充と同時に、新型護衛艦の建造を始めていた。
それが、『あづち』型輸送艦と、『ふぶき』型護衛艦であった。
『あづち』型輸送艦
概要・転移後、大部隊や戦争時に発生する多くの難民を迅速に、大量に輸送する必要性を突きつけられた日本が、建造することを決めた新型輸送艦である。
目的として、『おおすみ』型輸送艦が兵員330名、戦車18両が搭載可能だったというこれまでの能力を大幅に拡大し、米国で制式採用されていた『ワスプ級強襲揚陸艦』と同じ257mにまで拡張することが求められた。
エンジンや各種機器、及びデータシステムも改良された結果、速力もこれまでの『おおすみ』型以上の25ノットを実現した。
また、エアクッション艇もこの数年で新開発されたエンジンを搭載した新型が配備されており、これまで以上に揚陸性能が増している。
同型艦が2隻配備される予定となっており、予定されている艦名は『あづち』、『おだわら』、『えど』となっている。
『いずも』や『ひゅうが』のようなヘリコプター搭載護衛艦以外では非常に大きく、搭載容量もこれまでとは比べ物にならないほどに多いため、艦艇では初めての試みだが、日本で巨大な城郭の名前からとられることになった。
また、甲板の長さがあること、そして将来的に艦上戦闘機を運用することを想定しているため、甲板には耐熱処理が施される。
輸送艦とはいうものの、武装は20mm多銃身機関砲(CIWS)、SeaRAM、近SAMシステムというそれなりの武装である。
武装 20mm多銃身機関砲(CIWS) 2門
SeaRAM
近SAmシステム×2
『ふぶき』型護衛艦
概要・日本が中南アメリカ大陸を制圧することを決めた後に、自衛隊の規模拡充を迫られたことで建造する事が決定した沿岸警備を目的としたフリゲート級の護衛艦。既存の旧式護衛艦、『あぶくま』型を踏襲した造りになっているが、様々な装備は最新式の物に変更されている。
○中央部分に装備されている『アスロック対潜ロケットランチャー』が艦対空ミサイルの発射能力を持つVLSに変更、同時運用されていること
○主砲がOTOメララ社127mm速射砲に変更されている点
○対艦ミサイルが国産の『SSM―1B』に変更されていること
○ヘリコプター発着スペースの削除による艦体の縮小化、軽量化及びそれに伴う機動力の上昇
○艦橋のステルス化のため、『あきづき』型同様の形状に変化・縮小させたこと
○レーダーシステムは国産の物に切り替え、『ひゅうが』型と同じ射撃システムを搭載する
の6点である。
ヘリコプター発着スペースの削除により、その分軽量化することに成功、速度も32ノットまで出せるようになった。
重量は『あぶくま』型よりも更に軽量な1,800t前後にまで下がっており、全長も80mまで縮小化したことで、かなり小回りがきくようになった。
海上自衛隊の艦艇で最高速度と機動性能を誇る『はやぶさ』型に比べてしまうとその機動性はまだまだ足りないと言えるが、コンパクトな船体に多数の武装を搭載できたことで、沿岸警備の任に就かせる護衛艦としては十分すぎる能力を有するようになった。
配備される予定だった3,000t級将来護衛艦とはまた別の扱いであり、大陸沿岸を広く警備できるように航続距離の延長が求められていることも特徴である。
多数の同型艦が建造されることになり、旧大日本帝国海軍で駆逐艦の名称だったものを多くとっている。そのため、数が多くなることから同じ韻を踏まない名前も多い。
兵装 OTOメララ社127mm速射砲 1門
20mm多銃身機関砲(CIWS) 1門
SSM―1B対艦ミサイル二連装発射機2基
Mk.41 mod.9垂直ミサイル発射機(16セル)
重量 1,800t 全長 80m
同型艦・『しらゆき』、『はつゆき』、『みゆき』、『むらくも』、『しののめ』、『うすぐも』、『しらくも』、『あさぐも』、『ゆうぐも』、『やまぐも』、『なつぐも』、『みねぐも』、『ありあけ』、『ゆうぐれ』、『おおしお』、『あらしお』、『はつしお』、『あさなぎ』、『ゆうなぎ』、『あさがお』、『ゆうがお』など多数
が予定されている。
「こんな護衛艦を、それも多数建造することになるなんて、前世界では考えられなかったからな」
「それだけ、大陸沿岸のシーレーン警備に充てる護衛艦の『数』が必要になるっていうことでしょう」
防衛省の幹部がげっそりとした顔で語り合う。
新兵器の新しい運用方法や配備の仕方などを考えるのは幕僚部と防衛省である。彼らはこの3年ほど、『FT―4』のことや各種兵器増産の体制を整えるという忙しさのあまりぐったりとすることが多くなっていた。
このように『官』は皆死んだ魚のような目で、しかし全力を尽くして働き、『民』はイキイキと、それでいて全力を尽くして働いているのが日本の現状であった。
そして日本は、この勢いに乗って北米大陸へも進出することを決めた。
曰く、『もうこの際できることはやってしまうべきだろう』という、半ばやけっぱちに近いような話が、国民を含めてあっさりと通ってしまったのだ。
既に日本沿岸に加えて大陸東部各地の沿岸にも既にある程度の都市が築かれ始めていた。
それらを警備するべく、各自衛隊と海上保安庁、及び警察組織は地獄の如き忙しさとなっている。
各組織も大幅な増員を行なっているが、それでも追いつかないのが現状である。
各種労働の現場でも大陸の原住民を一部採用し、南米大陸で交流を始めた人々も、既に働き始めている。
人魚族や魚人族は漁業の現場で、ハガン族のような獣人族などは工事現場などの肉体労働に従事するようになっていた。
それでも、日本の各種労働の現場は過労状態が続いており、過労死する者が出ないように管理する者たちの方が過労死しそうになっているという、本末転倒な状況に陥っていた。
「この地獄みたいな状況、あとどれだけ続くんですかね?」
「さぁな。だが、全ては日本の発展と、国民のためだ」
「はい。頑張りましょう」
――2021年 5月3日 アメリカ大陸北部
日本は陸上自衛隊を中心とした一部隊を送り込み、使節団を護衛させていた。それは、アメリカ大陸の中でも特に北東部の集落と接触するためであった。
大陸東部を中心に開拓と交流を進めていた日本で、ようやくある程度の進捗が見込めたため、なんとか北部へと歩を進めることができるようになったのだった。
陸上自衛隊の大杉1等陸尉は、軽装甲気動車2輌、89式装甲戦闘車1輌、96式双輪装甲車1輌、90式戦車1輌そして補給用トラック3台の混成部隊を連れて集落へと向かっていた。
「隊長、間もなく報告のあった集落です」
副官である曹長の言葉を受け、簡易的に作られた地図を確かめる。
「あと10kmほどか……ここまでずっと補給、補給だったが、なんとか到着しそうだな」
「はい。これが、我々の外交に関する最後の仕事となることを祈りましょう」
「そうだな」
大杉は苦笑しつつも頷いた。この3年ほど、南北中全てのアメリカ大陸に陸海両自衛隊はあちこちと渡り鳥の如く飛び回っていた。大杉自身、大陸へ赴く外交官の護衛のために2度ほど大陸を訪れていた。
一方で航空自衛隊は主に領空防衛をメインにしていたため、大陸に基地を建造した後も出張ということは一部を除いてほとんどなかった。
もっとも、大陸に進出した後は巨大なプテラノドンのような生き物と接触するバード・ストライクならぬダイノ・ストライクも一部では発生していたこともあり、彼らは彼らで緊迫した毎日を過ごしているのだが。
「沿岸か……南部みたいに、人魚の集落なのかな?」
「少なくとも、漁業を得意としていることは間違いないと思いますよ」
そして10分後、ようやく建物らしきものが見えてきた。
「見ろ、やはり舟屋のような構造になっている」
大杉の言葉に曹長も双眼鏡を覗き込んだ。
「確かに、南部へ赴いた部隊の見たという人魚の集落そっくりですね」
これまでの人々とは概ね友好的に接触できたが、今回もそうなるとは限らない。自衛官たちはその強い意識を持って、自然と表情を引き締めていた。
「あ、誰か出てきましたよ」
「やっぱり皆驚くんだろうな」
皆、その手には石でできた槍のような物や、中には網のような物を持った者もいた。だが、おかしな点が見えた。
「なぁ、気のせいかもしれんが……下半身がやけに太くないか?」
「そうですね……ん!?」
近づいてその違和感は更に強まった。そして気付いたのだ。彼らの下半身がなぜ太いのか。
「タ、タコ足……スキュラ!?」
誰かが叫んだ。スキュラとは、人間の上半身にタコのような8本の足を持つファンタジー種族である。
40代の大杉にはそれがわからず、若い隊員に聞く。
「ああいうのはスキュラっていうのか?」
「はい。モンスター娘系の漫画では結構お馴染みの種族です。道理で下半身が太く見えるはずですよ。タコ足8本もあれば太くもなりますって」
若い隊員はかなり興奮している。どうやらケモノ萌えだったようだ。
「とにかく、まずは彼らを刺激しないように接触しよう。外務省のお偉いさんに伝えてくれ。まずは俺が出るってな」
「了解」
大杉は腰に備え付けてある9mm拳銃の弾を確認し、89式装甲戦闘車のハッチから体を出し、飛び降りた。
「皆さん、怪しく見えるかもしれませんが、私たちはあなた方と敵対する気はありません。私たちは、大陸の遥か彼方の海の向こうからやってきた、日本という国の者です。この村の偉い方とお話しさせていただけませんか?」
そして大杉は気付いた。槍や網を持っているスキュラと判断できる者たちは、全員女性だった。男性は獣人ばかりである。
「(どうなっているんだ……? スキュラに男性はいないのだろうか? そういえば、大陸中央でもウサギの耳を持つ者たちは男が生まれにくいと言っていた……それと何か関連があるかもしれないな)」
すると、最前列に立っていたポニーテールの女性が前へ出た。貫頭衣を着ているので露出は少ないが、かなり大きい。どこが、とは言えないが。
「ニホン、だと? 聞いたことがないぞ。この『キュリア族』の村に、何の用だ?」
「まずは、私たちの外交担当……えぇと、外の人たちと会話するための人たちとお話ししていただけますか?」
ポニーテールの女性は訝しんでいるようだったが、敵対する気がないということを聞いて少し肩の力を抜いていた。
「いいだろう。そのガイコウタントウとやらを連れてこい」
女性は構えていた石の槍の先を降ろした。
「ありがとうございます」――『沢渡さんを呼んでくれ』
大杉の通信を聞いた曹長が外交官の沢渡を降ろした。
「初めまして。日本国外務省の沢渡と申します」
「キュリア族戦士の長、シュナだ」
沢渡はまず手を差し出す。
「?……これは?」
「我々の文化で、友好を示したい時にする行動です。『握手』と言います」
「握手……なるほど、いい文化だな」
少しだけシュナの顔が緩んだように見えた。
「我々日本国は、あなた方と友好を持ちたいと考えております。どうか、あなた方の長に話をさせていただけないでしょうか?」
「長に、か……分かった。少し待て」
シュナは8本の足を器用に操って走っていく。よく見ると、中心にある2本の足で走っていた。
沢渡は近くにいた別の女性に聞く。
「よく足が絡みませんね?」
「これくらいは当然だ。水の中では手数が多い方が色々と便利だが、陸の上では邪魔になることが多い。だから陸の上ではほぼ2本の足で動くんだ」
必要による進化、という奴なのだろうかと沢渡は考える。
と、数分ほどでシュナが戻ってきた。
「長がお会いになる。サワタリとそこの斑服の2人で来い」
大杉は頷くと、通信機を取った。
『こちら大杉。これより外交官を護衛して集落に入る。こちらから連絡あるまでは待機せよ』
『了解。』
2人はシュナに付いて集落へと入っていった。よく見ると、あちこちに木の板を使った何かがある。
「あれ、もしかして干物を作るための台ですかね?」
沢渡の疑問に、実家が漁師だった大杉が答える。
「確かによく似ていますね。干物が作れるとしたら、結構高い生活能力を持っていますよ」
更に見回すと、やはり女性は全てタコ足があるが、男性はこの大陸でもよく見かける獣人ばかりであった。そして、多くの女性のお腹が膨らんでいた。
「ずいぶん妊婦が多いんですな……」
「何か理由があるんですかね」
最後に気になったのは、皆とても暗い表情をしているのだ。
気になった沢渡は、前を歩くシュナに尋ねる。
「なぜ皆こんなに暗い顔をしているんですか?」
シュナは振り返らずに答えた。
「それは……長がお話しくださるだろう」
しばらく進むと、一際大きな舟屋があった。よく見れば、槍を持った女戦士2人が入り口の脇に立っている。警備のつもりなのだろう。
「長への客人を連れてきた」
「ハッ」
女戦士は短く返事をすると道を空けた。大杉はキビキビした動きを見て驚いた。
「中々練度が高いですな」
「そうですか?」
「えぇ」
舟屋の中へ入ると、50代半ばくらいの女性が腰を落ち着けていた。
「貴殿らが、ニホンとやらの使節ですか」
「お初にお目にかかります」
「私はキュリア族の長で、メルという。まずは単刀直入に言わせてもらいましょう。貴殿らと友好を結ぶこと、それは我々としてはとても嬉しいことです」
これまで多くの部族に接触してきたが、いきなりそんなことを言われたのは初めてであった。思わぬ好感触に、日本側は思わず破顔してしまった。
「ほ、本当ですか!?」
「ですが」
切るようなメルの言葉に、一瞬日本側は固まってしまった。
「な、何か?」
メルの顔は顔を合わせた時と変わらず、非常に暗かった。
「我々と交流を結んでくださったとしても、あなた方に利することはあまりないように思われます」
「え……な、何故ですか?」
メルは辛そうに、自らの傍らに座る娘を見た。
「我が集落は……存続の危機に晒されているのです」
日本側としても、聞き逃せない言葉であった。
「な、なんですって!?……何があったのですか?」
「実は、あと2月も経つと、ここにいるサリアを、竜神様の生贄に差し出さなければならないのです」
隣に座っていた若い少女、サリアが頷いた。
「生贄?」
「はい。今から1年ほど前、私たちの間では2ヶ月に1度、12歳から18歳までの娘を竜神様に捧げる様になっていました」
「竜神様?」
「はい。荒海を泳ぎ、巨大な首長の竜すらも屠る海の王者です。竜神様は我々の柔らかい娘の肉が好みらしく、1年ほど前にこの付近に居ついては村の者を次々と喰い殺していきました」
首長の竜ということは、日本の感覚で言えばプレシオサウルスやフタバスズキリュウのようなモノであろう。それを殺すなど、確かに生半可な相手ではない。
「な、なんて奴だ……」
日本側も絶句するしかない。まるで、日本神話における『ヤマタノオロチ』の伝説であった。
「しかし、この子はこの村で最後の若い娘……この子が喰われてしまえば、最早村に12歳から18歳までの娘は1人もいなくなってしまいます。そうなれば、竜神様は怒りに任せて村の全てを破壊するでしょう」
「……そういえば、この村には妊婦が多いようですが、まさか……」
「えぇ。次代の生贄となるべく育てるつもりで急ぎ子を産める女たちを孕ませたのですが……間に合いませんでした」
「た、戦おうとはしなかったのですか?」
大杉の言葉に、メルは首を横に振った。
「この村にいる男たちが束になっても、竜神様には傷一つ付けられず、それどころか多くが喰い殺される有様……そんな状況で、どうしろと?」
どうやら、その竜神とやらは相当強いらしい。少なくとも、男手が集まってもどうしようもないほどには。
「なので、今我々と交流を結んでも、すぐに我らは滅んでしまいます。あなた方の集落も、そのような相手と付き合っても仕方ないと判断するでしょう」
だが、ここで日本側は少し違和感を覚えた。
「失礼ですが、その『竜神様』という呼称は、誰が呼び始めたんですか?」
「それは……長である私です。抗っても犠牲が増えるだけと判断し、人の力ではまるで敵わない神の如き力を持つことから、相手を神格化して、手を出させないようにしたのです」
「では、向こうが竜神と名乗った訳ではないのですね?」
「え、えぇ。相手はただ、やってきては娘を喰っていくだけですが……」
すると、沢渡が大杉の方を向く。
「大杉さん、本国に至急連絡を取ってください」
「了解しました」
大杉は立ち上がると、外へ駆け出して行った。
「あ、あの……?」
「少々お待ちください。ただいま本国……我々の本拠地へ報告させますので」
「ほ、報告?そんなに近くの集落なのですか……?」
「いえ、我々は大陸の東の端……そこから更に海を越えてやってきた、日本という『国』の使節です」
「く、『国』?」
沢渡は頷き、少し待つように声をかけた。そして数分後、大杉が息せき切って戻ってきた。
「本国に報告したところ、『外務省で会議するが、恐らく有害鳥獣駆除命令を出せるだろう』とのことです」
「そうですか、ありがとうございます」
自信ありげに頷いた沢渡と違い、部外者であるメルは何が起こったのかを飲み込めていない。
「な、何が起こるのですか……?」
「ご安心ください。もし本国が許可を出せば、ですが……我が国から人に害をなす有害鳥獣を駆除するという名目で、自衛隊……戦士たちを派遣することができると思います」
「えっ!? ま、まさか……竜神様と戦うおつもりなのですか!?」
「はい。人を欲望のままに喰い殺すような害獣を、放っておくわけには参りません」
「で、ですが……竜神様は石の槍も通さぬ固い鱗を持ち、更に普段は海に隠れている……そんな相手に、どうやって勝つおつもりですか!?」
だが、隣に立つ大杉も笑みを崩さない。
「たとえ相手が神と言われる獣であろうとも、弱者に……何の力も持たない者たちに理不尽を強いるならば我々は戦いましょう。なに、お任せを。怪獣や自然災害と戦うのは、我々自衛隊の伝統です」
何がどういう伝統なのかはメルにはさっぱり分からなかったが、少なくとも、彼らには何か自信があるらしい。
すると、通信をしていたらしい隊員が飛び込んできた。
「隊長、本国から連絡です」
「読め!」
「はっ。『日本国は集落で発生した害獣による殺傷事件を容認するわけにはいかない。よって、有害鳥獣駆除の要請で自衛隊の出動を命じる』とのことです」
「よし、わかった! 下がって良し!」
「はっ!」
隊員は再び外へと戻っていった。
「お聞きの通りです。我ら日本国は、あなた方に害をなす害獣を駆除するために自衛隊の派遣を決意しました」
「ほ、本気なのですね……」
「はい。そこで、1つお願いがあるのですが……」
「な、なんでしょうか?」
「この集落の近くに、我々が活動するための基地を建設する事をお許し願いたいのです」
「基地?」
「簡単に言えば、戦士たちが活動するための拠点です」
大杉の言葉に、メルも彼らが本気で竜退治に臨もうとしているということが分かった。
「それを造れば、この村を滅びの呪いから救えるというのですか……?」
「はい。たとえ相手が山のように大きな怪物でも、我々は断固として戦います」
日本側の真剣な顔を見たメルもまた、決意した。
「……分かりました。日本に、基地建設の許可を与えましょう」
「ありがとうございます!!」
沢渡は早速本国に再度連絡を取り、基地建設の段取り、どのような兵器を使用するか、相手の情報収集をどうするかなどの打ち合わせを始めたのだった。
三毛別樋熊殺傷事件のような惨状を、見過ごすことはできないと立ち上がった日本人の、不屈の炎がここに燃え上がる。
次回、日本の技術が雄たけびを上げます。