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日本時空異聞録  作者: 笠三和大
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繋ぎと南米進出、政府の苦悩

お久しぶりです。

数日前にウイルス性の胃腸炎にやられて寝込みました……1年以上寝込むような病気をしていなかっただけに結構苦しかったですね。

――2020年 2月18日 日本国 東京 首相官邸

 日本が転移してから1年と1か月ほどが経過したこの日、総理大臣はあることを宣言していた。

『我々はこの1年余りで、旧世界で言う所のアメリカ合衆国の範囲を手中に収めることができました。各地には陸海空各自衛隊の基地が建設され、新たに隊員も多く補充できました。また、当面の航空戦力の代替として、我が国では練習機として使用されている『T―4』中等練習機を、1人乗りとする代わりに電子機器を拡充、わずかながらもパイロンの搭載による誘導弾の使用能力と、12.7mm重機関銃を搭載できるように改造生産した『FT―4』もこのわずか1年余りで200機以上の配備が進み、我が国の中央米州各地の空を守護しています』

 首相の説明と同時に背後のプロジェクターに、新鋭機(と言ってもあくまでその次の新鋭機までの『繋ぎ』だが)の飛行映像が映し出されていた。



国産要撃練習機 『FT―4』

 概要・ブルーインパルスでも使用されており、既に212機生産されている航空自衛隊の中等練習機として開発された川崎重工業のジェット航空機『T―4』を、限定的に戦闘における運用を可能にした機体。

 まずは既存配備されている一部を改造し、固定装備として12.7mm重機関銃を、更に翼下の改良でパイロンを設置、誘導弾を両翼に2発ずつ搭載した。

非音速機としては相応の速度を出せること、練習機として運動性能も高められていたことから、ドッグファイトの性能も要求できている。

 また、誘導弾使用のために機内環境を一部改造し、1人乗りにした代わりに電子機器を増加したことで、2種類の誘導弾の運用を可能にした。

 性能

最高速度 マッハ0.9(時速約1,000km)

実用上昇限度 14,000m  最大航続距離 1,300km

搭載兵装 12.7mm重機関銃(航空機搭載用改造型) 装弾数・500発

     近距離空対空誘導弾(AAM―5)、(AAM―3)



 現代の最新鋭戦闘機に比べてしまえば遥かに性能は劣るが、この新大陸を防衛するために数年以上をかけて開発・配備する予定の新鋭戦闘機が登場するまでの『繋ぎ』としては、現状において十分すぎるほどの性能を持ち合わせている。

 それでいて純粋な国産機で生産速度が速く、他の戦闘機に比べれば一括発注することでそれなりに安価なことから、転移直後の戦力不足を補うために一気に再生産・量産された。

 また、この航空機を効率的に運用するため、計画だけが持ち上がっていた海上自衛隊の『P―1哨戒機』を改良し、早期警戒管制機として運用するプロジェクトが正式に決定、始動を始めていた。

 元々『P―1哨戒機』は4か所にアクティブ・フェイズド・アレイ・レーダーを装備しているため、ある程度の対空捜索が可能であった。

 だが、今までアメリカから供与されていた早期警戒管制機用のレーダーも含めて国産することが求められたため、機体や一部のシステムだけでも現存する現役機から応用できないかということでこの計画が再燃したのだ。

 これら新鋭航空機に加えて、船舶、車両など、戦争に必要な物のみならず、大陸開拓に際して建造される都市に必要な物も、多く作り出され始めていた。

 だが、狭い日本の中では色々と限界も多いため、日本に存在した工場の多くは、規模を拡大するために大陸の東部沿岸へと移転することが既に決定しており、ここから数年ほどはその処理に各建設業界が追われることになるだろうと言われている。

 だが同時に、政府は既に南米大陸への接触を考えていた。

「総理、はっきり申し上げまして今この落ち着いていない状態で南米大陸に接触するというのはあまりにも危険であると考えます」

 厚生労働大臣が、総理大臣に苦言を呈する。

「ただでさえ多くの人員を投入し、更に各企業の協力の下で開拓を推し進めていますが、それでもまだ大陸はようやく一部の都市が都市らしい姿を見せ始めるようになった程度……こんな混乱した状態で、南米大陸に接触するというのは、これまで以上に国内の労働状況を悪化させることに繋がりかねないと、私は危惧しています」

 実際、軽犯罪の囚人や浮浪者などを駆り出してまで行なっている今回の開拓及び建設ラッシュであったが、とにかく人も機械も何もかもが足りていない。

 強いて言うならば、原油やコンクリートなどの原料は大陸で大量に発見できたこともあって資源の心配はほぼなくなった。

 また、食料についても調査して良質な土地を見つけた結果、既に小麦と大豆の栽培量がそれなりのレベルに達しようとしていた。農水相曰く、『来年には相応の量が収穫できるでしょう』と言われている。

 だが、それまでは日本で100%以上が生産できる米と、豊富な海洋資源を中心にした生活をするように政府から通達があったため、今日本で生活する人の食事は米と魚が主流になっていた。

 小麦を使ったパンはこの1年ほどで姿を消し、代わりに米粉を使ったパンやベトナムのフォーのような麺が一般的になりつつあった。

 それでもラーメンやパスタなど、日本人が好む物の多くは小麦粉で作られているため、パンだけを米粉にしたとしてもまるで供給が追い付かない状況であった。

 なので、政府は大陸で相当量の小麦、及び大豆が確保できるようになることに大喜びしていたのだ。

 だが、それだけにまだ日本全体は安定しているとは言い難い状況でもあった。

 各地では節約ムードが高まっており、都心部ではラーメン屋や洋食屋、パン屋など一部の店舗が閉店・メニュー削減をする事態に陥っていた。

 更にあちこちで過重労働状態となっている労働者たちの不満も根強くなっており、はっきり言って現政権への風当たりは強めであった。

 そんな状況から、南部大陸への接触は難しいと厚労相は判断したのである。

「しかし、今のこの勢いを利用せずに放っておいた場合、本来の歴史通りにヨーロッパが接触し、植民地支配してしまうだろう。そうなっては、現地住民が虐げられることは間違いない」

 総理大臣の言い分にも一理があった。

 実際、この中央米州にも日本が接触する少し前にヨーロッパと思しき方角からやってきた人々の接触があったのだ。

 その時はティラノサウルスによって接触が失敗していたが、今度は軍備を整えてから来るとまで言っていた。それがいつのことになるかは分からないが、中央ではなく南部に接触を変える可能性も防衛省では検討されていた。

 もちろん、北部という可能性も捨てきれないため、防衛省ではあらゆる可能性を模索し、対応できるように検討している。

「戦列艦らしきもので訪れた者たちがどこの出身かはまだ分からないが、できる限り住民たちを保護するべきだと考えている。それに、意外に若い世代からも早く大陸全土に接触してほしいという意見がネット上には多いぞ?」

 これは、中央米州にいた様々な新人類(現在日本では便宜上『亜人類』と呼称している)の登場で、若い世代(特に男性)が大喜びし、早い接触を望んでいるのだ。

 ちなみに、女性はそれほどでもないのがこの辺りの温度差を示している。

 故にだが、もし後にイケメン系の亜人類が登場すればその限りではないだろうともネット上では囁かれている。

「態度を聞く限り、文明側で接触してきた者たちは友好的とは言い難い部分がある。この大陸を領有すると決めたからには、我々はこの大陸を、我々の物として守護する義務がある」

「それは……その通りですが」

「それに、遅かれ早かれ接触することになる。ならば、できる限り早く接触して人々を取り込みたいんだ。少しでも労働人口を確保したい」

「ムムム……そうですね。なんとかしてみましょう」

 実際、労働の現場のみならず官僚たちもかなり過重労働状態になっているので、色々と無理を通すことになる。だが、それでも日本は『今』を頑張らないといけないことは厚労相も分かっていた。

 高度経済成長期以来の国民総活躍時代は生半可では済まないことを、ここにきて日本全体が思い知っていたのだった。



――2020年 3月5日 南部大陸 東部の某所

 ここには、陸上自衛隊の一偵察隊を中心にした使節団が訪れていた。

 中央米州で何度も使節団の護衛を務めたということで、広島の第13旅団の古山一等陸尉が率いる部隊がほぼ同じ装備で今回も使節団を護衛している。

 古山はゆっくり走る『96式装輪装甲車』のハッチから顔を出している。中央米州の開拓のために『73式装甲車』が多用されたこともあって、今回の派遣には新しい『96式装輪装甲車(M212.7mm重機関銃装備)』が使用されていた。

「しかし、『P―3C』の事前偵察の情報……本当なのかな?」

 古山は海上自衛隊から渡されていた写真を覗き込んでいた。

 そこには、川を自在に行き来する魚のような存在が写っていた。上半身は人間のようだが、下半身は魚みたいな形状……そう、いわゆる人魚のような生物が写っていたのである。

「ま、これでようやく御伽噺に出てくるような有名な存在に出会えるってことか」

 川沿いに遡りながら、彼らは人魚の集落があると思しき場所へと向かう。

 30分ほど進むと、建物らしきものが見えてきた。そこには原始的ながら、京都にある舟屋のような建物が広がっていた。

「なるほど、ああすることで水の中と建物の中の行き来を自由にするわけか。よく考えられているな」

 古山達が近づくと、水中から石の槍や網を持った人魚たちが姿を見せた。女性も男性も、皆下半身は魚のように……いや、近づいて判明したが、鱗のようなものはなく、どちらかというとイルカの下半身に近い形状をしていた。

「お前たち、何者だ!?」

 中心にいた若い女性が声を張り上げる。こんな反応は、これまでの使節団護衛の際にもよくあったので、もう古山も慣れていた。

「怪しい者ではありません! 私たちは海の向こう、『日本』から、あなたたちと交流したいと思ってやってきました!」

 まずは先頭に立つ古山が声をあげて、敵意がないことをアピールする。

「海の向こうだと? そんな馬鹿な。どれほどの距離を越えてきたか知らんが、そんなことができる輩など、聞いたことがない」

「それをこれからご説明したいのです。この集落の長のもとへ、案内してはいただけないでしょうか?」

 人魚達は顔を見合わせていたが、やがて、1人の老いた女性人魚が顔を出した。

「よい。私の家へ通しなさい」

「長……しかし」

「あの者たちが操る『あれ』は石より遥かに硬い物でできているようです。私たちの力では、何もできないでしょう。そんな力を持つ者たちが、私たちに『見てほしい』と言ってきています。話だけでも、してみませんか?」

 それを聞いた人魚の戦士たちは、使節団を集落の長の家へ案内した。

「さて、ニホンの方々。あなた方の言う様々な物を、見せてください」

 使節団の高杉は、ノートパソコンを広げると日本の映像を映し出した。

「こ、これは……?」

「簡単に申し上げれば、景色を写し取り、他の者に見せられるようにする技術の一つです」

「何と面妖な……」

 だが、長は同時にその画面から目を離せなくなっていた。巨大な船や建造物。自分たちが見たことのないものを、日本は多々持っていることを確認したのだ。

「すごいですね。これほどの建築技術……マンヤーの者たちを超えている……」

「マンヤー?」

「えぇ。私たちの住むこの川から、さらに上流へ進んだ所に住んでいる種族です。私たちとは比べ物にならない、高度な文明を持っているのですが……あなた方の見せてくれたものは、彼らの技術を上回っているように見えます」

 人魚たちはすぐに、日本と友好を結ぶことを決めてくれた。しかも、上流に住む『マンヤーの民』の下に案内してくれると言い出してくれた。

「彼らはとても好奇心旺盛で、高い文明を築いている……あなた方のことも、すぐに理解できるかもしれません」

 人魚族の集落で一夜を過ごした使節団と自衛隊は、翌朝早くに人魚族の案内を受けて『マンヤーの民』のもとへと向かうことになった。

 すでに昨夜のうちに人魚族の方から使者を送っておいてくれたとのことなので、話が早く進むものと日本人は考えていた。

 案内してくれる若い人魚の女性、アルナが、ゆっくりと泳ぎながら高杉に問いかける。

「ねぇ、タカスギさん。あなたたちの住んでいる日本って言う所、私たちも行けるかしら?」

「行けますよ。アルナさんたちの集落は私たちと友好を結んでくれましたから、後に政府から正式に許可をもらうことで、皆さんをお招きすることができると思います。そういえば、皆さんは川に住んでいるようですけど、海にも出られるんですか?」

 『はい』とアルナは頷いた。

「海には巨大な大ワニとか首の長い竜がいるので、あまり私たちは出ないんですけど……でも、海に出れば川よりたくさんの魚が取れるんで、食料が不足すると出ることもありますね」

「なるほど……もしよろしければ、我が国で漁業に挑戦してみませんか? 我が国は今、様々な仕事で働き手を募集しています。水の中を自在に泳げる人魚の皆さんがいてくれれば、百人力ですよ」

「それは面白そう! 私、早く日本に行ってみたい!」

 そんな他愛ない会話をしばらく続けていたが、不意にアルナが停止した。

「どうしました?」

「迎えが来たようです」

 使節団も自衛隊もその言葉を聞いて一気に背筋を伸ばす。すると、鎧を着たような格好の人間らしき存在が歩いてきた。

「あれが、マンヤーの民ですか?」

「はい」

 アルナの言葉に、日本使節団も思わず凝視してしまった。何故ならば、その姿は『ほぼ』人間ではあったものの、鱗のようなものが皮膚を覆っていたのだ。

 古山も思わず呟いた。

「オタクな部下から聞いたことがあるな……蜥蜴人(リザードマン)っていうのか?」

「そうですね……確かに、瞳孔やあの鱗のようなものは爬虫類系に見えますね」

 生物にもある程度知識を持つ使節団員の言葉に、全員が頷く。

 そして、蜥蜴人が口を開いた。

「人魚たちよ、この者らか?」

「はい。私たちと交流したいと言ってきました。私たちが思うに、とても高度な文明を持っているようですので、この大地の広い区域を支配するマンヤーの方々であればその凄さがわかるのではないかと思い連れてきました」

 近づいてきた蜥蜴人は、装甲車や戦闘車を見て恐怖を覚えたような顔をしていた。

「まさか……この物体、鉄でできているのか?」

「お察しの通りです。この『89式装甲戦闘車』は我が国が作った、馬などが曳かなくても動く、鋼鉄製の車です」

 蜥蜴人は驚きを隠せないようであったが、すぐに表情を戻した。

「分かった。我らの村に案内しよう。神殿にも伝えておく」

 蜥蜴人は、後ろに立っていた仲間に合図する。仲間は頷いてすぐに走り出した。

「名乗りが遅れたな。私はマンヤー族のラモンという。日本の者たちよ、私に付いてきてほしい」

 思った以上に礼儀正しいことに、日本人は皆ホッとしていた。ある程度成熟した文明を持っている者たちは、『自分たちこそが最高』と信じて疑わず、他者に対して高圧的に出る可能性もあると考えられていたからである。

「分かりました。案内をお願いいたします」

 ラモンは頷くと、駆け足程度でだが走り始めた。こちらの移動速度が自分たちの歩行速度よりも速いと、直感で理解したらしい。

 おかげで車両も時速10km前後で、それなりにスムーズに走ることができた。

 ほんの少し走っただけで、石造りの大きな何かが見え始めた。

「お、おい……あれって……」

「もしかして……」

 隊員や使節団の者たちも唖然とする。それは、旧地球におけるマヤ文明のピラミッドにそっくりだったのだ。

 少なくとも、日本人がこの世界に転移してからこの1年余りで、最も発展したものを見たといっても過言ではない。

「立派だなぁ……」

 日本人の感覚からすれば、世界遺産の写真などでしか見たことのないような建造物が、目の前にあるのだ。自然と皆注目している。

 ラモンがピラミッドの近くにある石の建造物の前で止まった。日本側も車両を停止させる。

「ここが、我々の長の住まう家だ」

 少なくとも、石造りという時点で今まで接触してきた文明とは比べ物にならないほどの能力の高さを日本側は感じていた。

 ラモンが木の扉を開ける。

「同年代に、木を扉にするなんていうやり方があったかどうかは知りませんけど、とても高度ですよ」

「あぁ。あの扉も、キチンと加工がされている。ちゃんとやすり掛けか何かをして、整えているんだ」

 奥へ案内された使節団は、一際大きな蜥蜴人の前に出た。

「我らがマンヤーの長、マンダー様だ」

 マンダーと紹介を受けた蜥蜴人は、人間で言えば40代半ばくらいに見えた。鱗のあちこちに傷があり、歴戦の戦士なのだろうと思わされる。

「お主たちが、人魚の里から連絡のあった日本か。して、人魚の者たちが言うように、我々を上回る力を持っているのか?」

 使節団が挨拶を述べようとした時、先んじてマンダーが口を開いた。どこか挑戦的に聞こえるが、その眼には好奇心が見え隠れしていた。

「それを見ていただくために、我々は参りました。どうぞ、これをご覧ください」

 日本使節団の見せたノートパソコンに、マンダーは食い入るように顔を近づけた。

「なんだ、これは?」

「我が国で作られている、ノートパソコンという機械ですよ」

 電源を入れると、流麗な映像が映し出される。そのあまりの美しさに、マンダーは驚いた。

 そして、使節団が見せたのは、様々な日本の文物に加えて、巨大な船や鉄鋼技術であった。

 鉄鋼技術に関しては、彼らの里でようやく青銅の道具が一般人の間で使われ始めた程度であり、鉄はわずかしか作れない貴重品であった。

「(その鉄が……こんなにたくさん……)」

 これを見た時点で、マンダーは日本という存在がとんでもない実力を備えた存在であることを自覚した。

「……これほどの圧倒的なものを見せつけて、日本は何を望む? 支配か?」

 だが、使節団は首を横に振る。

「いえ。私たちが求めるのは『友好』です。どのような人たちとも、仲良くしていきたいと、私たちは思っております。その思いで、しばらく過ごして参りました」

「……これほどの力を持つ存在がいきなり現れたということ、どうもわしには不可解に思える。いったいお主らは何者なのだ?」

 一瞬使節団は逡巡したが、使節団をまとめる高杉が意を決したように口を開いた。

「まずは伺いたいのですが、もしやあなた方には、日にちの概念があるのですか?」

「あぁ。約30日で1ヶ月。365日で1年だが……それが何か?」

「我々は約1年と1ヶ月ほど前、突如この世界に国と呼ばれる単位ごと転移してきた……いきなり飛ばされてしまったのです。信じていただけないかもしれませんが……」

 相手の顔色を窺うように見つめてくる高杉。だが、マンダーの顔は意外にも穏やかだった。

「いや、信じよう」

「えっ?」

「お主らの目は嘘を言っていない。それに、これほどの力を持つ存在がいきなり出来上がったと考えるのはあまりに筋が通らない。ならば、荒唐無稽かもしれないがいきなり発展した世界から現れたと言われる方が納得いくというだけだ」

 文明も高度だが、思った以上に知性的な判断ができるということに、使節団も驚かされる。

「よかろう。少し待つがよい」

 マンダーは人々を集め、日本のことを説明した。

「以上のことから、日本という存在は我々を遥かに上回る力を持つとわしは推測した。この高度なマンヤーの力を上回るものがいるという事実……わしは、それを受け入れようと思う。皆に問いたい。我々は日本と友好を結び、更に発展を遂げるべきだと」

 問われた集落の人々はざわざわと囁きあっていたが、長の言うことは絶対らしく、皆頷き始めた。

「皆の総意も得られた。ではここに、マンヤーの民及びマンヤーと付き合いのある部族たちは、日本に付き従うことを決定する」

 ここには人魚族を始め、この南米大陸に属する多くの部族の交流のための人員も揃っていた。

 彼らにも日本の様々な文物を見せていく。日本刀や写真集、インスタントカメラやシャープペンシル、上質な紙でできたノートなどを見た者たちは驚きを隠せないようだったが、目の前にあるものは真実である事を受け入れ始めると、多くの部族が日本に従うと言い始めた。

「な、なんと……」

 驚く日本人を、マンダーがにやりと笑いながら見つめる。

「わしらはこの広大な大地全ての部族と交流がある。まさか、海の向こうから人がやってくるというのは予想外であったが……そんな相手に逆らうほど、愚かなつもりはない。それよりはお主らに従い、発展の道を歩む方が賢いと判断したまでよ」

 日本人が見るだけでも、30を超える種族がマンヤー族の言葉に頷いていた。

「わしらの言葉ならば、他の集落も従うというものよ。お主らとしても、その方が都合がよいのであろう?」

 どうやらマンダーは、国レベルの支配というものを心得ているらしい。本人たちは国という組織を構築しているわけではないが、それでも外交官に準ずる者たちが駐在する、しかも集落の意思決定に強い力を持つ者たちがいるということらしい。

「(園村さんたちが接触したハガン族の長と言い、原始的だからって侮れない人はどこにでもいるものだなぁ……)」

 高杉は、自分たちが接触した人々が理解力のあることに、心底安堵するのだった。

 この結果、日本は鳥のような羽毛を持ちながら地上で生活するセイレーン族、それに近い姿ながらより小柄で滑空することができるハーピー(有翼人)族、人魚族や魚から進化したと思しき魚人族、ヌルヌルした肌を持つ両生類のような種族、猿の様な雰囲気を持つ猿人など、正に多種多様である。

「すごいな……こんなに多くの特徴を持つ人たちが日本に加わってくれれば、色々な産業が活性化するぞ」

 高杉は直ちに本国に報告し、各部族の偉い人たちを日本に招くことを決定、かつてのハガン族のように驚きの連続を体験することになる。

 余談だが、水辺に住む者たちは漁業や造船技術を、空に関わる者たちは飛行機械の技術に、そして精密技術は全ての者たちを魅了するのだった。

 こうして、日本はまた大陸中の人たちを掌握し、一気に10万人を超える労働人口を確保することに成功した。

 これにより、旧世界で本来この年に東京で開催されるはずだったオリンピックがなくなってしまったことによる諸問題を政府がごまかすことに成功したのだった。

 ただし、建造された各施設はどうするという問題が後に噴出し、政府はその対応に追われることになるのだった。

 結局、それから1年をかけて友好を結んだ種族たちの様々な能力測定のために使用されることになり、それで人々を集めてオリンピックのような息抜きをさせることにした。

 この成功で政府のポイントがプラスマイナスゼロになったために政府首脳がホッとしたのは別の話。


次回は変わって北米部分へと赴きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] この世界にこれだけの亜人間が存在する理由に以前読んだSF小説の(キャプテン・フューチャー)世界のヒューマノイドの全ての先祖は太古にデネブ星系の超古代文明の行った遺伝子改良で行われたのが元とさ…
[一言] 恐竜が出てくるこの広い合衆国を1年ちょいで掌握したのはやはり違和感がありまくりです。 3年位かけてよかったかも。
[気になる点] 海には魚竜や海竜が居るみたいですが、今まで翼竜出てこないから居ないのかな? 鳥類に成ってて、ロック鳥とか。
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