壱
よろしくお願いします。
誤字脱字があったり描写的に不自然な場所があるかもしれませんが、それらは演出ではなく単なるミスです。見つけたら優しい眼で見てください。
本編開始です。
卓球部の扱いはまぁ酷い。
おそらく全ての運動部の中でスクールカーストは一番下だろう。
もし友達に卓球部に入ったなんて言えば『へー、卓球部ねーーなんか地味な奴しかいなさそう』とか言われ、さらに『卓球とかめっちゃ簡単じゃんw俺温泉じゃ負けたことねーからwwこんどしょーぶしようぜwww』と言われるのはほぼ間違いない。
つまり一般人にとって卓球とは誰でも簡単にできるスポーツで、それゆえにあまり運動の出来ない地味な奴が運動部に入りたいが為に入る。くらいの認識なのだ。
さてところは私立志星学園。ここにもそんな哀れな卓球部が存在していた。
部室はなく、体育館の舞台袖に用具をしまい、練習場所は体育館全体の四分の一も使わせてもらえない。ピン球が飛んできて邪魔と隣で練習しているバスケットバール部に文句を言われても何も言い返せないような卓球部である。クラスメイトからの扱いは運動部どころか、文化部に入っている生徒たちよりも悪いような卓球部である。
しかし彼ら志星学園の卓球部員は普通の卓球部員ではなかった。
なんというか…
あまり回りを気にしないというか…
わが道を行くというか…
一言で言えばそう…
変人の集団であった。
彼らは各々の考えに従って卓球に興じていた。
ある者は卓球そのものが好きだから練習をしていた。
ある者はかっこいいトリックショットを決めたいから練習をしていた。
ある者は相手に勝って煽る為に練習をしていた。
ある者は放課後、暇だったので取り敢えず練習していた。
ある者は女子バスケ部の揺れ動く胸部を観察するついでに練習をしていた。
ある者は最近嵌った映画のキャラになりきるために練習をしていた。
このように一人以外は卓球そのものには全く情熱を向けていない集団であった。
が、彼らは伝説を創る。
六人の卓球部員は志星学園で伝説を創るのだ。
それこそがこのお話である。
では彼らの伝説の始まりはいったい?
それをこれから紹介しよう。
始まりは小さな事件だった。
「ハッキリ言って邪魔なんだよ」
イラついた様子の男子が苦言を呈す。服装は上下とも半袖のスポーツウェアで彼が運動部員でなければ春先で寒い時期には些か早いと感じる格好であった。
「そうは言われても…こっちもどうしようもないし」
対応しているのはこちらもスポーツウェアを着た男子だった。もっとも彼は長袖だったが。そして長袖の男子は明らかにめんどくさそうな態度で解決策を提案する。
「思いついたんだけどさ」
「あ?んだ?」
「いや、俺たちが目障りなら学校の体育館を使わずに近くの市営体育館を使えば良いんじゃないかな?」
彼が必死に考えたひねり出した案に対して半袖男子は胸倉を掴む勢いで突っかかる。
「テメーは人の話を聞いてねーのか!?お前らみたいな奴らが体育館を四分の一も使ってるせいでこっちは男バレと女バレで四分の三ずつ使うことになってるから出てけつってんだろうが!!」
半袖男子の反論をうけてさらに解決策を提案する。
「じゃあ、あと四分の一くれたら内が二分の一で男バレが四分の一、女バレが四分の一できれいに割れるね」
「ざっけんな!テメーらがそんだけ使ってまともに練習すんのか!?しねーだろ!」
「俺はするけど」
「テメーだけがするのに二分の一も使わねえだろ!他奴らなんてまともに練習してる奴いねえだろうが!」
そういって半袖男子が指をさした先には卓球部の面々がいた。
卓球台が三つ出されており、その内一台では投げたラケットでピン球を弾き相手コートに返す練習を二人組みが延々としており、内の一台では片側で男子が素振りする振りをしながら女子バスケットボール部の生徒を凝視しており反対側では漫画片手にぶつぶつと呟いている男子がおり、最後の一台では男子が一人で割れたピン球を積み上げて遊んでいた。
「一応、練習はしてるよ。あの二人組みは試合で全く使えないレシーブテクニックを練習してるし、あっちでは煩悩に囚われてまったく身が入ってない素振りを延々繰り返してるし、アイツは卓球漫画よ読む事ですぐに下がるモチベーションを何とか上げようとしてるし、あっちではもう使わないピン球を使ってバランス感覚を鍛えてる」
「それが練習だって本気で言ってるのか?」
「冗談に決まってるじゃん、何言ってんの?」
その時、ぶちっと音がした。
「てめぇ……、まじめに活動してるならまだ、体育館の分割も我慢できる。それがなんだ?だらだら毎日意味のない練習をしやがって………。それで場所だけはいっちょまえに使いやがって」
「そう言われてもこっちも困ってるんだよ。部活内にまともな練習相手がいなくて」
「知るか!こうなったらバスケ部の顧問に直談判して卓球部を潰してもらえるように職員会議で取り上げてもらう。こちとら県大会の常連の部活だ。練習するのに卓球部が邪魔だって言えば大会で大した成果も上げてないような部活なくなるだろ」
そう言った後に「今のうちに片づけしとけよ!」と言って、バスケ部員は肩を怒らせながら練習に戻っていく。
「なんだったんだ?」
声をかけたのは先ほどまでピン球を積み上げていた部員だった。
バスケ部員が大声を出していたのを聞いていたが、詳しい内容までは聞いていなかったのだろう。
「なんか目障りで実績のない卓球部を潰すんだって」
「目障りは納得できるけど、ウチって実績はあるよな?主にお前のお陰で」
「まぁ、うん。普通に優勝もしてるし実績は申し分ないよね」
そう、この志星学園の卓球部は6人中5人がやる気がないが、残る一人が黙々と個人戦に出場している為に個人戦では成績を残しているのだ。
部長であるその一人は幼少期から卓球をしていたこともあって、優勝経験もある程だ。
だから一応の実績はあるし、流石に部活がなくなることはない。そう考えて二人は会話を切り上げたのだ。
が
それから一ヶ月が経った頃に、卓球部は廃部を通達されるのであった。
本作を読んで頂き、ありがとうございます。
長編のお話になる予定で、連載を繰り返していくのですが更新頻度はそこまで高くないと思いますので気長にお待ちください。