初めての町は危険がいっぱい。
ヤナ(15)♀
・緩くカールした黒髪ショート、退化した皮膜。(漆黒)
・コウモリの獣人だが、外見にコウモリっぽさはあまりない。
・超音波が出せる。また、聴ける。
・見た目は大人っぽいが、中身は子供?
・貧乳。
この世界では15で成人です。酒も飲めます。結婚もできます。
「……あれぇ?ソラー?皆~!」
いつの間にか人混みに紛れて皆とはぐれてしまったようだ。これだけ人がいれば探すのも困難だろう。つまりは、
「……迷子……?」
途方にくれてとぼとぼと歩いていると、知らない人から声をかけられた。
「君、もしかして迷ったのかい?」
「え?……えぇ、まあ。」
話しかけてきたのは、あまり柄が良いとは言えない、二十代後半位の男の人だった。冒険者だろうか?
「あー、はぐれたのって君か!さっき君のご主人から探してくれって頼まれたんだ!さ、こっち!」
「え?え?」
訳もわからず手を引かれ、されるがままに何処かに連れて行かれる。もしかしたら本当に頼まれたのかもしれないし、親切心を無下にはできなかった。
心なしかどんどん人気のない路地裏へ連れていかれている気がする。だんだん不安になってきた。
「あの~……?」
「さぁ、着いたよ。ここで待ってるから。中に入って待ってて……ね!!」
「うわぁあ!?」
路地裏の奥にあったドアの前で止められ、抵抗するまもなく突き飛ばされドアの鍵を閉められた。今さらながら騙されたことに気づきドンドンとドアを叩くが、後の祭りだ。
「あ、開けてよぉっ!なにすんのさ!?」
ドアはとても頑丈で破れそうにない。もう一度全力で叩こうとしたところで、後ろから手首を掴まれ、そのまま軽々と持ち上げられる。
「やめろっ!離してぇッ!」
吊り上げられた腕が痛い。相手は、身長が私の倍はありそうな強面で屈強な男だ。到底勝てそうにない。
「ふへへ、上玉だぁ……。こりゃぁ高値がつくぜ……!」
口の端をつり上げて嫌らしく嗤い、私を品定めするようにじろじろと眺める。
「……なにする気!?」
「あぁ?テメェは裏ルートで売りさばかれんだよ。変態オヤジに変われて死ぬまで弄ばれるか、娼館に売り飛ばされるかだろうなぁ?ひゃははっ!」
巨漢の隣のチンピラのような男が下品に嗤う。
え?訳がわからない。つまり私は、誘拐されたのか。ということは……二度とソラに会えない?あの家には帰れない?
自分の状況を理解したとたん、突如絶望が押し寄せた。ぼろぼろと涙が溢れる。
「泣いてやがんのか?……感傷に浸ってるとこ悪いが、こっちも売り飛ばす前にしっかり『躾』しないといけないんでね……」
「なにするの!?嫌だよっ!」
わを
じりじりとにじり寄って来る謎の巨漢から避けるように逃げていると、やがて部屋の角へ追い詰められる。
必死の抵抗で思わず足が出てしまい、偶然にも相手の腹へ丁度当たってしまった。だが、結果的にはなんの攻撃にもならず、相手を逆上させることになってしまう。
「……ッてぇなコラッ!」
激昂した男は私の首をその大きな手で思いきり掴み上げた。足が地面につかず、呼吸もマトモにできない。その男の怒鳴り声によって過去のトラウマがフラッシュバックし、情けないことに私の身体は硬直してしまった。
「最初っからそうやって大人しくしてりゃあ済んだことなんだよ……手間かけやがって。」
だらりと力の抜けた私をロープで台に拘束し、私の服に手をかけた。それだけは、ダメだ。例え殺されたとしても。
「止めてぇっ!それだけは駄目ッ!!私のはソラの……ご主人様の物なの!」
そうだ。あの日、命を救われたときから私の全てはあの人に捧げると誓った。それをこんな――――欲に塗れた人間なんかに!
「知らねえよバァカ。おめぇは自分の立場を考えて大人しくしてりゃあ良いんだよ!」
そう吐き捨て、私の服を剥がす。
「はっ!やっぱ上玉だな!暫く遊んで暮らせるくれぇの値はつくかもなぁ!」
私の意思などすべて無視だ。そして、顔が近づき私の顔に重なる寸前、視界の横から大音量の破壊音と共に大量の光が注ぎ込まれた。
「見ぃーつけたぁッ!!」
見慣れた小さな影が私に駆け寄り、鋭い爪で拘束していたロープを断った。
「……おねぇちゃん、間に合った?」
「マリちゃん!?」
私をさらった男が血相を変え、私に迫ってきていた巨漢はそちらへ目をやり、私から離れた。
「なんだお前……?」
「ただの、王国専属ギルドAランク冒険者兼、テメェらが身の程知らずにもさらったその娘の保護者だよ!」
そう啖呵を切ってライセンスを見せつけた私の救世主。いつでも私を危機から救ってくれる、ご主人様。
「おぉ?お前らの顔は見覚えあるな。確か、指名手配中の奴隷誘拐グループ。結構な賞金がついてたよな?」
その一言でとたんに顔色を変えた男たちは、踵を返し一目散に逃げ出そうとする。
「リーフ。縛り上げろ。あのデケェやつ以外な。」
「了解ですっ!」
裏口から逃げようとしていたが、ソラの一言の後、リーフの蔦により一瞬で縛り上げられた。何故か亀甲縛りで天井からつるし上げられる。そして、蔦に足を取られて転んだボスらしき巨漢にソラがゆっくりと歩み寄っていく。
「や、やめろ!勘弁してくれ!もう二度としない、心を入れ換える!」
「あぁ?うちの娘ぇ泣かした罪は、死んでも償いきれねぇよ!」
腰に差した剣に手をかけると、巨漢はその巨体を縮こまらせ必死に逃げようとする。が、やがてさっきの私のように壁際まで追い詰められた。
「い、命だけは――――」
「死ね。」
「や、やめてっ!」
私は思わず叫び、目を閉じる。
だが、ギラリと光を反射した剣は、無慈悲にも閃光のように一瞬で振り抜かれた。地面まで振り抜かれ、わずかに石の地面に刃が食い込む。
だが、一瞬遅れて斬れたのは表面の服だけで、巨漢は見事に無様な半裸姿を晒した。
すかさずリーフちゃんが器用に一瞬で、先程よりかなり恥ずかしい縛り方で天井に吊り上げる。
キンッと剣を鞘にしまい、私の方へとソラが振り向く。ようやく状況を理解した私が反射的にソラに飛び付く――――よりも先に、ソラに強く抱き締められた。
私から吸血の時にくっつくことはあっても、ソラの方から抱き締められたことは今までなかった。突然の事にこんな状況にもかかわらず、自分の状況を頬が紅潮していくのを感じる。
「お前……もしものことがあったらどうするんだよ……ッ!俺が間に合ったから良かったものの、一瞬遅れていたら……」
その声に、怒りは一切含まれていない。ソラをここまで心配させていたことに、自分への憤りを感じる。
そして、私が一番欲していた温もりに触れたことで、麻痺していた感情が今戻ってきたかのように涙が溢れた。
「ひぐっ……ご、ごめんなさいぃ……!す、すごく怖かった……っ」
「……もう大丈夫だ。もう絶対に目を離さないから……」
「……っふ、うぅ……うぁあぁあ……っ!!」
ソラの胸に顔を埋めて泣く私を、ソラは静かに泣き止むまで優しく撫で続けてくれた。
やっぱりソラは私のご主人様だ。
最近、ヤナちゃんメインのお話が多かったのはキャラ紹介もかねてです。別キャラもやる予定です。シリアスはあまり好きじゃないので、暫くはほのぼのを書きます。