町へ出かけよう!―始めてのお買い物― 前編
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ヤナが珍しく落ち込んでいる。昨日からずっとだ。しかも、今日は珍しく早朝に自ら起きてきた。何故かしきりに手伝いたがるのは、本人なりに反省の意を示しているのだろう。
「……何か手伝えることない?」
「ん?今は特にないかなぁ……」
そう答えると、少ししゅんとする。今は昨日の戦利品を選別しているのだ。何かないかと一通り見回すと、ふと一つのものが目に入った。
「……よし。ヤナ。お前に一つ、『重要なこと』を任せよう。」
俺がわざとらしく真面目な声を出すと、ヤナもごくりと唾を飲んだ。ヤナの目の前に、手に持っているものを差し出す。
「……なにこれ?」
「お前には、この『謎の卵』の母親となってもらう!」
「えぇ!?」
予想外のことに驚いたようだ。恐らく本人は掃除や洗い物をするともりだったのだろう。実際この卵はどうすれば良いかわからなかったし、ヤナガ手伝いをしたいと言うならば丁度良いだろう。
「でも、どうすればいいか……」
「俺も良く分からんけど、鳥みたいにお腹で温めればいいんじゃないか?コウモリは体温高いし。」
その為、夏に抱きつかれると暑苦しかったりする。コウモリの活動時の体温は四十度程まで上がる。だが反面、寝るときは体温が低くなるため慣れるまではいちいち驚いたものだ。
「……わかった!私頑張るよ!」
「おう、その調子で頑張れ。」
どうやらうまく立ち直ってくれたようだ。中身が何かは知らないが、卵が孵れば刷り込みでヤナを母親と認識するだろう。
そうすれば、ヤナは世話をするために家事も覚える筈だ。
本当の事を言うと、俺はヤナを始めガロにもマリにも家事を教えようとした。正確に言うとヤナは奴隷ではないのだが、奴隷の仕事は本来家事だからだ。
だが、皆面倒くさがって覚えようともしない。一度叱ったら二人に泣かれてしまい、それが俺の密かな心の傷となってしまった。それ以来すべての家事は俺の仕事となった。
目をやると早速ヤナがお腹に卵を入れて温めている。その表情はどこか使命感のようなものに溢れており、取り敢えず結果オーライと言うことになった。
◆◇◆◇◆◇◆
皆起きてきて朝食を食べているとき、俺は一つの決意を固めた。
「皆。今日は、皆で町へいきます。」
「「えぇっ!?」」
きれいに二人の声が重なる。今までもあまりこの家から出さなかったから、町に行くのは前のご主人以来だろうか。
実際こいつらを連れて出掛けるなど心配この上ないのだが、昨日のようなことがあってはいけない。
「どうしよう!お外用の服なんて持ってないよっ!」
ガロは大慌てして、マリも不安そうだ。確かに俺は外用の服を与えたことはなかったな。まぁ、今日の換金では結構儲けられそうだからたまにはいいか。
「町についたらすぐに好きな服買ってやるから大丈夫。」
「ほんとに!?買ってくれるの!?」
「あぁ本当だ。」
まぁ、部屋着も別に外に出れない格好と言うわけではないのだが、本人達的にも気分のようなものがあるのだろう。ガロはぴょんぴょん跳びはね、マリは嬉しそうにぴんとしっぽを立てた。
反面、リーフからは特に反応がない。リーフの思考はやはり植物寄りなのだろうか。普段からあまり動かず、光合成のために日光が当たる場所に移動するくらいだ。
「では、私はお出掛けのために日光浴してきますねぇ。」
「分かった。じゃあ終わったら出発するぞ。」
「はぁい。」
そう言い残して庭の方へと行ってしまった。リーフはとてもマイペースだ。ヤナに至っては卵に集中しすぎて話すら聞こえていないようで、真剣に卵を温めている。自分の服の中に抱えた卵に話しかける姿は一見、妊婦さんにさえ見える。
「ヤナ、卵はおいていけよ?」
肩に手をぽんと置くと、まるで突然背後から驚かされたようにびくりと反応する。やはり上の空だったようだ。
「え!?どっか行くの?」
卵を渡したのは失敗だったかもしれない……