ヤナのお留守番―命懸けの金稼ぎ― 後編
マリ (11)♀
・猫耳と尻尾。(焦げ茶)
・肩くらいまでの髪。(癖っ毛)
・普段はクールに努めているが、内面はとても甘えん坊で、もっとべたべたしたいと思っている。
「ちょ、ちょっと皆どうしたの!?」
夕暮れ時、未だソラは返ってこない。直接町へ換金に行ったのだろうか。それにしても、大変なことになった。
「触手ちゃん?おーい!大丈夫!?」
触手ちゃんは何故か二回りほど縮んでしまいます動きもせず喋りもせず、本当の植物みたいになってしまった。
騒がしシスターズのわんこの方の子は、さっきらずっと「ごはん……ごはん……」とうわ言のように呟いていて、猫ちゃんの方の子は虚ろな眸でふらふらとあてもなく歩きまわっている。
「みんな!あとちょっとの辛抱だよ!多分ソラもそろそろ帰ってくるし……」
呼び掛けるが返答はない。まさか朝ごはんと昼ごはんが食べれなかっただけでここまでになるとは。テーブルの上には、
朝御飯の時よりも悪化した消し炭と泥水が乗っている。
朝の教訓でしっかりと両面を均等に焼いていたらいつの間にか消し炭が二つ出来ていた。
台所を良く探したら触手ちゃん用の土と水らしきものがあったため作ろうとしたら、盛大に手を滑らせ、水をぶちまいた。
それらの最早食材とも呼べない代物を申し訳程度にテーブルに乗せたときの皆の表情は一生忘れないだろう。
その三人の眸には明確な殺意が浮かんでいた。
そして、今に至っている。
「ね、ねぇみんな……ごめんって……どうしたの?」
謝罪の言葉は耳に届いていないだろう。触手ちゃんはまた少し小さくなり、わんこちゃんはまばたきもせず、ずっと同じ言葉をブツブツと呟いている。猫ちゃんはとうとうその場でぐるぐる回り始めてしまった。
「うぅ……みんなおかしくなっちゃったぁ……ソラに叱られちゃうよ……」
思わず涙が溢れる。不安や混乱で頭がぐちゃぐちゃだ。とうとう私は心が折れて、壁にもたれ掛かってずり落ちるように座り込んでしまった。
◆◇◆◇◆◇◆
「うおぁあぁああッ!!」
「ギョルァァアヴァァ!!」
俺と怪物の雄叫びがぶつかり、怪物が威嚇のため腕ではねあげた石が俺に大量にぶつかる。だが、それで起こった砂ぼこりがちょうど俺の身を隠し、背後に回ることに成功。そのまま勢いで、使える右腕を必死で使って頭部まで駆け上がる。
怪物は、頭の上に俺が乗っていることに未だ気づいていないのか、俺の姿をキョロキョロと探している。俺はゆっくりと剣を握り、頭上に構えた。
「……終わりだ」
松明の明かりが俺の剣に反射し、刃先がギラリと光を放つ。その光で怪物は俺の存在に気づいたようだが、もう遅い。
「じゃあな。」
頭部の核に剣を突き立てる。核はキィンッと透き通った音を響かせ砕け散り、それと同時に周りのモブは消滅。怪物は砂の山となった。
砂の上にどすんと落ちるが、クッションになってさほど衝撃はなかった。
「あー、しんどい……やっと帰れる。」
ふらふらになりながらドロップアイテムを一つ残らず採集袋に詰めていく。これを家に帰って選別し、金目のものは町で換金するのだ。
最後にボスの残骸のもとへ向かう。砂になった、ということは魔法で作られていたと言うことだ。その場合かなりのレアアイテムがある可能性が高い。砂を掘っていくと、やがてそれらしきものを発見した。
「……?なんだこれ。」
それは、俺の頭ほどもある大きめの卵だった。なんだかさっぱりわからないが、中身はまだ入っており生きているようだ。取り敢えず丁寧抱えて、ダンジョンをあとにした。
◆◇◆◇◆◇◆
「おいおい……何がどうなってんだこりゃ」
部屋の隅ですすり泣くヤナに、床に突っ伏しなにやらぶつぶつ唱えているガロ。マリに至っては床でピクリとも動かない。
何故かリーフの姿が見当たらない。
「ヤナ、リーフは?」
ぐすんと鼻をすすりながら顔をあげる。なにやら手を差し出されたため受けとると、そこにはピンポン玉サイズの植物の種が。
「あちゃあ、防護形態入っちゃったか……」
リーフの種族は栄養不足や光合成か出来ない環境に置かれると、エネルギーを温存するため種に戻ってしまうのだ。
「うぅ……それが触手ちゃん……って、どうしたのその怪我!?」
「ご主人!?」「帰ってきたの!?」
俺の姿に気づいたヤナの叫びをきっかけにマリとガロが目を覚ましたようだ。慌てたように駆け寄ってくるが、俺にたどり着く一歩手前でマリがかくんと転びかける。
「フラフラじゃねーか!どうした!?」
何故かヤナの肩がびくりと跳ねた。
「ご主人だってふらふらじゃんか……」
「お腹すいたよぅ……」
「ヤナはごはん、作ってくんなかったのか?」
そう尋ねると、二人は無言でテーブルを指差す。そこには謎の黒い物体と、子供の泥遊びの残骸のようなものが。
「なにあれ……」
「ごはん、らしいよ」
何となく理解はできた。そう言えばヤナに料理を教えたことはなかったことに気づく。
「あー、そりゃ俺が悪かったなぁ……今すぐ作る、と言いたいとこだけど腕が動かねぇし……」
左腕は赤紫に変色しかけている。明らかに放置してはいけないタイプの毒なのは目に見えていた。
「うわわ、なにこれ!どうすればいいの!?」
「ちょっと待ってろ。あ、リーフ持ってて」
リーフをガロに預けて俺は台所へと急ぐ。いつもの分量で混ぜた土をバケツに入れ、水を適量くわえる。それにリーフの種を植えた。
「これでリーフは甦る筈だ。リーフが作る薬はすっごく効くんだぞ」
リーフは薬草で薬を作ることが出来る。まぁ作る過程は結構アレだが、それを差し引いても下手な医者よりはよっぽど役に立つ。
少々待つと、予想通りリーフは成長してすっかりもとに戻った。
「これは……ご主人ブレンドの味……!」
「ただいま、リーフ。いきなりで悪いけど、解毒剤頼む」
「んー、了解ですっ。ちょっと待っていてください~」
そう言い残すと、自分でバケツからぼこりと身体を引き抜いて庭へと歩いていった。ほどなくしてリーフはもぐもぐと咀嚼しながら帰ってくる。
俺が右手を出すと、リーフは俺の手に遠慮なく咀嚼していたものをペッと吐き出した。それを傷口に塗り込むと、目に見えて腫れが引いて行き、痛みが和らぐ。
「ありがとうな。」
「えへぇ……」
リーフの頭をポンポンと撫でると、嬉しそうにふにゃっと笑った。光合成後の性格とのギャップがすごいが、普段のリーフはとても愛らしい。
左手を何度か握って感覚を確かめる。三十分もたった頃にはすっかり完治していた。
「よっしゃ!飯作るぞ!」
「やったぁ~!」
二人から歓喜の声が上がる。二人のあたまを撫でながら、もうできるだけこの娘達に留守番はさせまいと誓ったのであった。