ヤナのお留守番―命懸けの金稼ぎ― 前編
ガロ (12)♀
・狼の耳と尻尾 (モフモフ)
・銀髪(灰っぽい)
・オープンな性格で甘えたがり
・構ってくれないと拗ねる
・性格はほぼ犬
翌日の朝。何時もより一時間早く目を覚ました。起き上がろうとすると、左右からガッチリガロとマリに抱きつかれていることに気づき、暫く二人をどうにかして離そうと格闘するはめになった。
音を立てぬようこっそりベッドを抜け出し、ヤナのもとへ向かう。
「起きろ……ヤナ。」
「……なぁに?」
小さく呼び掛けると、案外早く目を覚ました。だが、夜行性のヤナは寝惚け眼でうつらうつらしている。
「これ、昨日の罰な。今日はしっかり昼間も起きて皆の世話をすること。俺は出掛けるから。」
「え~……」
ヤナは嫌がりながらもしぶしぶ了解してくれた。そろそろ金が尽きてしまうため、今日はちょっとばかりダンジョンへ入って稼ぐつもりなのだ。
入るのはもちろん報酬が高い未踏破ダンジョン。
報酬もあるが、その他の理由としては、高難易度のダンジョンでは身代わりに置いてかれた奴隷がたまに見つかるのだ。そのため、一ヶ月に数回パトロールも兼ねてダンジョンに入ることにしており、戦わなければ腕も鈍ってしまうから訓練も兼ねている。
装備はつけず、ポーションも最低限の量を持つ。出来るだけ身軽な方がいい。
武器だけは特注の片手剣を持つ。今ではこんな仕事をしているが、俺も元はそこそこ名が知れた冒険者だったのだ。
「そんじゃ、行ってくるよ。」
「……気を付けてね。」
まだ皆寝ているため、見送りはヤナだけだ。小さく手を振り走り出す。ダンジョンまでの道のりは馴れたもので、最短距離を駆け抜ける。このダンジョンはあまり新人は来ないため、お気に入りの穴場だ。
「うっし。久しぶりに稼ぐか!」
気合いを入れて入り口の洞窟へと足を踏み入れた。
◆◇◆◇◆◇◆
……ソラに家のことを任されてしまった。頼られていることが嬉しい反面、『眠い』と『面倒くさい』が思考の半分を占めていることもまた事実。
そんな情けない気持ちを冷水で流す。キンキンに冷えた湧き水で何度か顔を洗うと、すっかり目が覚めた。
「ん~~ッ!よっし、がんばろうっ!」
大きく一つのびをして気合いを入れる。……ソラが帰ってきたら頬っぺたにキスの一つもねだってみようか。
少し想像するだけでせっかく冷えた顔が再び火照ってしまう。
今日ばかりは煩悩を捨ててしっかりチビ達の世話をしなきゃ。確か、最初は皆を起こすんだったよね。
「まずはあの……触手ちゃん?から起こそう。騒がしシスターズは色々めんどくさそう……」
私は日中をほとんど寝て過ごすため、一緒に暮らす少女達の名前もろくに覚えていない。
取り敢えずあの子達の寝室へ移動して触手ちゃんをゆさゆさ揺すってみる。
「おーい……起きて、触手ちゃん~。……あれ?昨日よりも草っぽい……?」
昨日はまるっきり女の子だったが、今日は体からもさもさと葉っぱが生い茂り、頭のお花も蕾になっている。
「んぅ……ご主人……じゃ、ない?」
「ご主人……?あ、ソラのことか。えっと、今日だけソラの代わりに皆をお世話するヤナおねーさんだよ!おきてー!」
「そうなんですか……わかりました。逆さまさん。」
「逆さまさん?」
「いつも逆さまで寝てるじゃないですか~」
なるほど。だけれど、それで逆さまさんとは安易すぎやしないか?だが、次は急いで騒がしシスターズを起こさねばならない。
そのあとはご飯を作ったり洗い物をしたりと、目が回ってしまいそうだ。
「二人は私が起こすので、逆さまさんはご飯をお願いします~」
「ん、わかった。よろしくね!」
ご飯……今日一日の最難関とも言える!ここを乗りきればどうにかなるはず。……できるかなぁ……
◆◇◆◇◆◇◆
ダンジョンの上の方の階層を見て回り、ため息をついた。
「上の方はもう居ないっぽいなぁ……」
ダンジョンでは、一度ダンジョンを出るとモンスターが勝手に湧くする筈なのだが、俺が乱獲したせいで上の方の五階層は完全にポップしなくなってしまったようだ。
「この装備で行けっかなぁ……まあなんとかなるか。」
五階層まではそれこそスライムみたいな雑魚しかポップしなかった為軽い気持ちで奥に進んでいった。六階層に入ったところでモンスターの気配が多数現れた。だが、本来ならば一定数ポップすれば自動で止まるはずが、一向に止まる気配がない。
さすがに不味いと思い戻ろうと後ろを振り向くと、来た道は既になくなっていた。つまり、つまりだ。
「モンスタートラップか……!!」
モンスタートラップとは、ボスを中心にモンスターが湧き始め、さらに閉じ込められると言う駆け出しが最も命を落とすトラップだ。
つまり、この階のボス討伐を果たすまで抜け出すことはできない。だが、基本的に数パーティーで挑むのが定石と考えられているダンジョン攻略に一人で挑むことすら正気の沙汰ではないのに、ボス討伐を一人、ましてや無装備なんて自殺行為だ。
「死ぬかもしんねぇな……」
意を決して壁際の松明を灯す。すると、連鎖的に全ての松明が灯り全容が明らかとなった。
そこは、めいきゅうなどではなく、大きな広い空間だ。中心に置いてある巨大な石像がボスだとすると、本格的に勝ち目は薄いだろう。
そして、松明が灯ったことに反応してボス以外の全てのモンスターのターゲットが俺に集中した。
大きく深呼吸をし、剣を構える。
「っし、来いッ!」
覚悟は決めた。どちらにしてもここで死ぬわけにはいかない。独りで戦っていた頃とは違って、家では待っているやつらが居るのだ。