夜間の日常―はぷにんぐ?―
ガロ=芽狼 マリ=毬 リーフ=リーフ
ヤナ=夜奈 です。
騒がしい二人は昼寝に入ったからひとまず安心だが、ここからは午後。
つまり、光合成で『充電完了』したリーフだけでも厄介なのだが……
午後からは一番面倒な奴、コウモリの獣人ヤナが目覚める……
取り敢えず俺も仕事に一段落ついたため寝室で休憩しようと部屋に入った瞬間、後ろから声をかけられる。
「ふぁあ……おそよう、ソラ!」
振り向くと、そこには口に手を当てあくびをするヤナが。
既に背後にいた……だと!?腰が抜けるかと思った。
こいつは俺と一番付き合いが長く、唯一の成体の獣人、つまり大人だ。あとはただ一人俺を名前で呼ぶ獣人でもある。何故なら、こいつだけは『保護対象』ではなく『家族』として住まわせているからだ。
「あ、あぁおはよう、ヤナ。」
「お腹すいたなぁ……では早速……」
てをわきわきと動かしながらにじり寄ってくる。ヤナは吸血を食事とする珍しい獣人で、それを知らなかった前のご主人の元で餓死しかけているところを俺が買い取った。
そこで迷わず血を吸わせたのたが、それが『本契約』になってしまったようで、俺はご主人すっ飛ばして対等な『家族』になってしまったようなのだ。
俺が作ってしまった状況だ。責任を放って逃げるのは俺のプライドが許さず、結果的にこの状況を甘んじて受け入れている。
「ちょ、ちょっと待て……って、あぁ!」
「問答無用っ!」
首筋に噛みつかれ、ちゅうちゅうと激しく吸われる。何度されてもこれだけは慣れない。何と言うか……男の性で変な気持ちになりかけると言うか何と言うか。
唾液には麻酔作用があるらしく、意識がぼうっとする。寝巻き姿のため、緩く開いた襟元から胸がチラリと……
柔らかい唇が吸い付き、喉を鳴らして俺の血を飲む様子は、種族の違いを差し引いてもかなり色っぽい。
「……ぷはぁっ。……何時もながら、ソラの血美味しい……っ」
顔を赤らめ、しばらく息を止めていたからか目が潤んでいる。そして、口の端から垂れた血を、舌でペロリと舐め取った。
本人は自然と取った行動なのだろうが、その妖艶な仕草に俺は思わず見とれてしまった。
「あー、ソラぁ、見とれてるっ!」
「バカ。んなわけあるか!」
思わず目を背けてしまった。我ながら何とも分かりやすい。視界の端でヤナがニヤニヤしてるのがわかる。こいつにはいっつもペースを持ってかれてるから苦手なんだ。
「私は何時でも襲われていいよ?」
「……いいんだな?」
「っえ!?」
負けっぱなしは悔しい。売り言葉に買い言葉で、試しにベッドに押し倒してみた。
「っひ、ひぅう……」
てっきりビビって逃げるかと思ったが、ヤナがとった行動はまるっきり予想外の行動だった。
顔を真っ赤に染め、受け入れるかのように俺の首に腕を回して目をつぶったのだ。
「……え?」
「……え?」
突然の予想外に声を出した俺と、何が起こったのか分からずに目を開いたヤナの目が合う。そして、タイミング悪く俺の寝室のドアが突如ガチャリと音を立てて開いた。
「……え?」
そこには、充電が完了してすっかり人の姿になったリーフが。リーフは、普段はどちらかと言うと少女の形をした植物といった見た目をしているのだが、日光浴で十分な光合成をすると人の姿に変化する特性をもっている。
この状態だと植物は頭に飾りのようについている大きな花のみで、あとは尖ったら耳以外はほぼ人間だ。そして、この姿のリーフは性格までかなり変わる。
俺たちの状況を確認したリーフはニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべ、部屋を後にした。数十秒後、戻ってきたリーフは寝惚け眼のガロとマリを連れてきていた。
マズイ!!
だが、現実は非情だ。必死でヤナから離れようとするが、ヤナは何故か謎の意地を張って腕を解かない。程なくして俺の状態に気付いたガロがフリーズし、続いてマリも停止した。
「うぁ、いや、これには訳が……!」
「……ソラが私を押し倒したんでしょー?」
裏切りやがったなヤナぁ!だが、俺がヤナに覆い被さりこれだけ接近している状況で言い訳しても、我ながら嘘くさいとおもう。
「うふふ、私も現場、見ましたしぃ?」
なんて腹黒いんだリーフ!俺はお前をそんな子に育てた覚えはないぞ!?
おそるおそる二人へ視線を向ける。噛みつかれるか引っ掛かれるか……少なくとも俺は無事では済むまい。
だが、視界にはいったのは飛び掛かってくるガロでも鋭い爪を出したマリでもなく、静かに大粒の涙をぽろぽろと落とす二人の姿だった。
やがて、静かに泣いていた二人は嗚咽を漏らし始め、声をあげて鳴き始めてしまった。状況を理解できない。
リーフはいつの間にか植物化で隠れているし、ヤナは天井にぶら下がって狸寝入りを決め込んでいる。
「ど、どうしたんだよ二人とも!?」
いくら尋ねても答は返ってこない。延々と泣き続けている。どうすればよいか分からず、ひとまず二人を抱き寄せた。すると今度は二人とも俺の体に自分の体を激しく擦り付け始める。
一瞬遅れてその行動の意味を理解した。これは『匂い付け』だ。自分のものであると主張する行為。
つまりだ。ざっくり言うと、二人は俺がヤナに独占されると思って、パニックに陥った……と言うことか。
なんと可愛らしい。
「大丈夫だ。俺は誰のものでもない。」
そう言って二人の頭を撫でる。しばらくしてやっと泣き止んだ二人は、泣き腫らした眸で俺を見上げる。
「……ほんと?じゃぁ……今日は一緒に寝させて……?」
「え!?……まぁ構わないけど」
「やったぁ!」
マリがはっきり面と向かっておねだりするのはとても珍しい。
こいつらと一緒に寝るのなんて出会った頃以来だ。やはりまだまだ二人は子供なのだな、と改めて実感した。
ヤナとリーフも深夜、こっそり一緒に寝ようとしたが、二人の本気の威嚇によって一晩中部屋にすらはいれなかったようだ。