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生まれてビックリ―新たな家族―


 それは、深夜の事だった。例の卵を包んだ布がぐわんと揺れ、何かが割れるような乾いた音が部屋に響く。


 それに最初に気づいたのは、夜行性のため眠れず暇をもて余していたヤナだった。音に気付き振り返ると、揺れたことで布がはだけ、今にも生まれそうなひび割れた卵が露になっているではないか。

 ヤナは大慌てでソラの寝室に飛び込んだ。


「ソラ!起きて!大変だよっ!」


「なんだ!?どうした!」


 仕事柄寝覚めがいいソラは、即座に飛び起きる。


「卵が割れそう!」


「卵って……あれか!」


 それを聞くやいなや、ソラは慌ててベッドを降りた。何せ、ダンジョンでドロップしたもので、膨大な魔力を吸うと言う副作用もわかっている。あれだけの魔力を吸った魔物だ。どんな化け物が生まれるかは分かったものじゃない。


 みんなの寝室に入ると、先程よりも激しく揺れている卵が目に入った。ソラはそれに恐る恐る近寄り、その後ろにヤナが続いた。


 ピシ、パキッと音を立て、大きな欠片が地面に落ちる。その隙間から除いたのは、月明かりを反射する大きな鈍い金色の眸だ。


 そして、その隙間から小さな手が飛び出し、ぐいぐいと残りの殻を外そうともがく。

 しばらく観察していると、卵の上半分がパコッと外れた。そこから出てきたのは―――――――


「……なんだこいつ?」


「……何かの亜人?それとも獣人かな?」


 鈍く輝く大きな瞳、生まれたてで情けなく萎れた薄い金色の髪。顔は人間のものだ。そして、背中からは鳥のような小さな翼が生え、お尻からは鱗におおわれた爬虫類を思わせる尻尾が伸びている。その姿はまるで合成生物(キメラ)だ。


 その謎の生物は目をくしくしと擦り、ぷるぷるっと身震いした。そして、くしゅんっ、とひとつくしゃみをすると、ずびっと鼻をすすりながら、目の前に出てきていたヤナを見上げ、口を開いた。


「ままぁ」


「ま、ママぁ?」


 そう呼ばれ、ヤナは素っ頓狂な声を上げる。謎の生物はその反応に満足げな表情をすると、今度は俺に視線を移した。


「ぱぁぱ、だっこ」


「パパって……俺が?」


 こくんと頷き、俺に向けて両手を伸ばす。必死で手を伸ばす余りわたわたと暴れたことで、残った下の殻がころんと倒れ、その生物は完全に殻から転がり出てきた。


 そのあまりの愛らしさに、思わず抱き上げてしまう。抱き上げると、きゅんきゅんと不思議な鳴き声を発しながら、すりすりと身体を擦り寄せてきた。


「ふわぁ……可愛い……」


 ヤナがそろりと手を顔に近づけると、指が頬に触れる寸前、小さな口でちゅぱっと音を立てて指に吸い付いた。


「お、おい、噛まれないか?」


「うん、甘噛みはされてるけど……」


 確かに口をもぐもぐさせてはいるが、ヤナが痛がっている様子はなさそうだ。


「えーと、どうする?」


「取り合えず今日はこのまま寝かしつけて、明日考えよう。まだ夜中だし」


「そうだね。私は逆さまで危ないから、よろしく」


 ヤナがそう言って指をちゅぽんっと口から抜くと、むにゅむにゅと口を寂しげにしつつも、あっという間に寝息をたて始めた。


◆◇◆◇◆◇◆


「――――――と言うわけで、今日からこの子もここで暮らすことになったから」


 朝食の席、今日は珍しく起きてきたヤナの膝の上で、性別不祥な例の生物は大きな欠伸をした。赤ん坊だから見た目からもわかんねえし、ハッキリした特徴の部分には何もなかった。


「可愛いっ!ご主人、この子の名前は?」


 真っ先に反応したのは、予想通りガロだ。勢い良く近付いて、興味深そうに顔を覗き込む。名前か。一応つけないとな。


「名前はまだないな。生まれたのは昨日の夜だから」


 ガロに続いて、マリも恐る恐る近寄ってきた。ビクビクしながらも今日をはあるようで、ぽっぺたを指先でぷにっ、とつついた。


「……やわらかい……!」


「生まれたてだからそっとな。」


 リーフは興味がないのか、しれっと食事を続けていた。かと思えば、例の生物が突然空中めがけて手を伸ばし、何かを取ろうと必死になっている。

 何が気になるのかと視線の先を辿れば、空中では蔦がひゅんひゅんと気を引くように揺れ動いているではないか。


「何だ、リーフも興味津々じゃないか。こっち来たらどうだ?」


「バレちゃいましたか……ひゃあうっ!」


 リーフは奇声をあげ、肩をびくんっと跳ねさせた。何事かと思えば、蔦の先が捕らえられあぐあぐと甘噛みされていた。


「リーフ、大丈夫か?蔦にも感覚あるんだろ?」


「少しくすぐったいです……」


 リーフは意外と子供好きなんだなぁ。何となく、何事にも我関せずなマイペースというイメージがあったから、ほっこりする。


 突然新入りが入ったからてっきり反対されるのでは?と思っていたが、結局皆に可愛がられているではないか。心配は杞憂だったようだ。


 少し離れて微笑ましい光景を眺めていたのだが、ふと目があった。そして俺を見つけるなり、小さな手を俺に伸ばし、ハッキリとこう言ったのだ。


「ぱぁぱ、だっこ」


 瞬間、空気が凍りついたような。何故かマリが固い笑顔で、自分を指差しながら例の子に話しかける。


「……えっと、私は?」


「ねーね!」


 次にガロを指差し、


「こっちのお姉ちゃんは?」


「ねーね!」


 次のリーフも、当然のように「ねーね」だった。ねーねと呼ばれた二人は、照れたように頬を緩める。いまだに固い表情なのはマリだけだ。そして、次にヤナを指さしたとき、再び空気が凍りついた。


「このお姉さんは?」


「まま」


 ヤナの顔が青ざめ、ほか三人の視線が俺に集中した。


「「「……説明して?」」」


「あ?いや……まだ良くわかんない……」


 その後、三人に激しく質問攻めにあった。それを見て、その謎の子はきゃっきゃと無邪気に笑いながら、楽しそうに手を叩くのであった。













 

 


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