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昼時の日常 ―マリの傷―


 いやぁ、この娘達の食事シーンは何度見ても一向に飽きる気がしないな。

 最初はガロとマリは素手でがっついていたのだが、色々な苦労があって今は慣れない手付きでフォークを扱って一生懸命食べている。

 ガロは俺が食べやすいよう一口サイズにサイコロカットした肉をフォークで突き刺すのだが、大口を開けて口に入れる寸前にポロリと肉を落として虚空を噛んでしまう。マリは魚の小骨に苦戦中だ。


「マリ、骨だけでも取ってやるか?」


「いいです……ッ!このくらい自分でできます……」


 意地を張っているがかなりイライラしている。マリには悪いがかなり微笑ましい光景だ。

 何より不思議なのはリーフだ。栄養たっぷりの土に程よく水を含ませた物が食事なのだが、しゅるしゅると何処かから伸ばした根?のようなものを突き刺してちゅうちゅう吸っている。


「美味しいのか……?」


「はいっ。ご主人のブレンドはいつも最高ですぅ……」


 満足そうな表情を浮かべているから本当なのだろう。前に試しに既に一度食事したあとの土を出してみたら、「味、しないですよ?」と指摘されてしまった。実際味は感じているらしい。


 そんな俺の食事は目玉焼きとトーストとミルクと言うごく一般的な食事だ。俺はただの人間だからな。


「ごちそうさまでした。」


「「「ごちそうさまでしたっ」」」


 食事が終わり、皆それぞれの場所へ移動していく。俺は洗い物を済ませなければならない。


 カチャカチャと食器を水で流していると、くいくいと服の裾を引っ張られる。手を止めて足元を見ると猫じゃらしを持ったマリが。無言だが、上目使いで頬を赤らめているときは『遊んでほしい』のサインだ。


「ちょっと待ってな。すぐ終わらせるから。」


 コクリと頷くが離れる気配はない。今日は甘えたい日のようだ。わざわざ庭まで行って猫じゃらしを取ってくるとは可愛いやつだ。


「よっし、終わったから遊ぶか。」


 猫じゃらしを受け取って庭へと歩く。この時間帯はリーフが日光浴で光合成している時間帯だから気を付けて歩かねば。間違えて日陰を作ろうものならば怒ったリーフに蔦で締め上げられてしまう。前回は亀甲縛りだったな……思い出すだけでゾッとする。

 日光浴中には頭を撫でるのもNGだ。


「ほれほれ。」


 マリの目の前で猫じゃらしをひゅんひゅん揺らす。しばらくは目で追うだけだったが、やがて手でべしべしと叩き始め、ごろんと転がった辺りで我に返って何事もなかったように再び目で追い始める。この繰り返しなのだが、見てて面白い。


「あーっ!マリずるいっ!ご主人、私とも遊んでよぉ……」


 ガロもボールを持って走りよって来たため、あぐらをかいたまま右手ではマリをじゃらしつつ、左手でボールを投げる。俺もずいぶん器用になったものだ。


 やがて遊び疲れたマリは俺の膝へちょこんと座る。しばらくは飽きずに何度もボールを取ってくるガロの相手をしていたが、やがてマリに手を捕まれて身動きとれなくなってしまった。


「マリ、これじゃガロと遊べないぞ?」


「…………」


 マリは無言で抱きつく力を徐々に込めてくる。捨てられたときのショックで時折マリはこうなってしまうのだ。

 再びボールを持って戻ってきたガロは何かを察したようで、珍しく静かにしている。


「ガロ、ごめんな。……今日はマリと遊ぶ。」


「……わかった。明日はもっと遊んでね!」


「おう。」


 ガロはやんちゃなようで察しが良く、俺も大助かりしている。気遣いも出来るし、物わかりがいい。

 ガロが室内に戻っていったのを見送ってから、マリに向き直った。


「ご主人……ごめんなさい……っ」


「気にすんな。……思い出しちまったか……」


 マリはダンジョンに置いてきぼりにされ、ダンジョンの奥深くで泣いているところを俺が直接保護したのだが、置いていかれたショックで時々俺から離れられなくなってしまう。こうなってしまうと落ち着くまでは震えてしまって手が離れなくなってしまうのだ。


「頭、撫でるか?」 


 顔を俺の胸元に埋めたままこくこくと頷く。頭に手をポンと置くと猫耳がピクリと反応した。そのままゆっくりと撫でる。しばらく撫で続けると、やがて震えが止まり、寝息をたて始めた。

 ベッドに運ぶため抱き上げると、涙で濡れた顔が見える。ベッドに寝かせて涙をぬぐいとると、隣のベッドでガロが昼寝をしていた事に気づいた。

 ガロの頭も撫でると、ガロはふにゃりと表情を緩める。二人に布団をかけ、部屋をあとにした。


 ここにいる保護奴隷達は、それぞれが少なからず心に傷を抱えている。それを癒すのも、俺の役目だ。




 






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