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ガロのやきもち―呪いの卵?―


「おーい!飯だぞっ!」


 おかしい。朝御飯の準備は終わったのだが、ガロが食卓に現れない。更には、この家に帰ってからヤナの姿も見かけていない。


 ガロはいつもならば飯時には真っ先に飛んでくると言うのに。よくよく考えると、ヤナも町にいってる間は結局一回も血を吸わなかったからそろそろ腹が減るはずだ。


「マリ、リーフ。先に食べてな。俺はちょっと探してくる」


「うん。じゃあ、食べ終わったら手伝うよ」


「私も、手伝います。」


 席をたち、あいつらがいそうな場所を思い浮かべてみる。うーん……この時間帯なら、まだ寝てるとか?まずはあいつらの寝室だな。


「おーい。どこだー」


 呼び掛けなから寝室に入ると、部屋の隅の方で蠢く影を発見する。歩み寄ると、体育館座りのヤナだ。なんでこんなところに?


「なにやってんだ?」


「……ん?」


 ヤナがゆっくりと顔をあげる。その顔を見た俺は、思わず跳び退いた。


「うおっ!?」


「うん?どしたの……?」


 ヤナは、大切そうに卵を抱えていた。だが、問題はその顔だ。まだ帰ってきて一晩しか経っていないのに、その目の下は隈で真っ黒に染まり、その頬はげっそりと痩けている。目も充血して真っ赤だ。


「お、お前……なんだよその顔……?」


「え?かお?なんか付いてる?」


 鏡を見せると、本人も驚愕した様子だ。


「なんだか卵を抱いてるとやけにお腹空くなぁとは思ってたけど……」


「なんで吸いに来なかったんだよ!?」


「すごく怠くて……動けなかった」


 どう考えても卵が原因だ。確かに、この卵はドロップしたものなので恐らく安心だが、魔物の卵は親の魔力を吸って成長するものだ。それがここまで極端だとは思いもしなかったが。


「まぁ、早く吸え。本当にぶっ倒れちまうぞ!?」


 わかった、とゆっくりと立ち上がるが、立ったところで膝が突然かくんと曲がり、倒れそうになる。なんとか受け止めたが、満足に立ち上がれないほどに消耗しているのか。


「あ……ごめん……」


「卵は一旦置け。布団にくるんどけば大丈夫だろ。」


 本人もことの重大さを察したのか、大人しくそれにしたがった。抱き上げて俺の部屋まで運ぶ。

 ヤナは天井に逆さまにぶら下がって眠るから、ベッドを持たない。だが、今は一度横にならせた方が良さそうだ。


 ベッドに座らせ、俺が抱き寄せるような形で首筋に顔を寄せさせる。少し躊躇ったようだが、やがて俺の身体に体重を全て預け、もたれるようにして首筋に牙を立てた。


「すげぇ吸うな。やっぱり腹減ってたのか?」


「んぅ……うん……そうみたい。ところで、あの卵、なんなの?」


 さすがに疑問を抱いたのだろう。落ち着いたのか、一度唇を離して質問してきた。が、俺もはっきりとは分かっていない。


「たしか先代の書斎にそんな感じの本があったと思うから、調べてみるよ」


「ん、分かった。少し怖いから、わかるまで出来るだけ近付かないどくね」


「おう。もちろんだ。俺も、お前があんまりにも執着するもんだから少し心配だったんだよ。」


 俺がそう伝えると、ごめん、としおらしく謝った。続けて、気恥ずかしそうに追加の要求。


「……もう一回、血もらっていい?」


「もちろん。好きなだけ吸え。」


 さぁ、次はガロを探さねぇとな……


◆◇◆◇◆◇◆


「ガロー?どこだー」「ガロちゃーん、出ておいで~」


 リーフとマリも捜索に参加したが、部屋にもおらず、庭にも居なかった。となると、もうさっぱりわからないため、家中をくまなく探すしかない。最悪、家出した可能性も……


「なぁ、ヤナ。超音波でソナー的なの出来ねぇの?」


「そなー?」


「音をぶつけて、物の形とか位置とかを調べるやつ」


「あぁ、あれね!出来るよ」


 言うが早いか、目をつぶって、俺には聞こえない音を出す。口から出ているから声なのだろうが、ただの人間には全く分からない。一応建物の中でも、岩や過度に分厚いもの以外は透過できるらしい。


「あ、いた」


 そんなに早く見つかんなら、最初からやっとけよ……


 ガロがいたのは、俺の部屋のクローゼットの中だった。俺の服に埋もれて寝息を立てている。目には涙の跡が生々しく残っており、瞼は泣き腫らしたのか腫れぼったい。


「……皆、ガロは見つかったから、それぞれの場所行って良いぞ」


 皆を部屋からだし、ガロを起こさないようそっと俺のベッドに寝かせる。

 むう。昨日の件でガロがここまで落ち込むとは思いもしなかった。半分くらいは冗談のつもりだったのだが、ガロにとっては大分重要なことだったのかもしれない。反省しなければな。


「はぁ……添い寝くらいはしてやるか。」


 俺も一緒にベッドに潜り込んで布団をかける。膝枕はしないが腕枕なら、と思ってガロを引き寄せると、俺にしがみつくようにしてガッチリ捕まってしまった。


「……今日だけだからな?」


 謝罪の意も込め、今日だけはガロの抱き枕になることを、甘んじて受け入れるのだった。


 結局ガロが目を覚ましたのは昼を回った頃で、起きたガロは再び泣きながら俺に文句をいった。

 だが、口では散々「大っ嫌い!」と言いながらも、言葉と矛盾してその手は終始俺を抱き締めて離さず、俺も怒られていると言うのに、表情は緩みっぱなしだった。





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