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今日は、私の日。―MaliS birthday― 

 この物語は、基本的に現実と季節のラグはありません。

 マリちゃんの誕生日は、4月23日です。


 この家では、ご主人と出会った日を誕生日とします。そして、今日は、私がご主人に出会ってから丁度365日目なんです。

 前にご主人が、『一年は365日なんだよ』って、教えてくれました。毎日紙にご主人に教わった正の字を書いて、正の字が73個になった今日が、私の誕生日です。


 ご主人は覚えているでしょうか?直接言うと、なんだか嫌な子だと思われそうで怖いので、私はなにも言いません。


「……どした?マリ」


 今日は朝から、マリがやけにピッタリくっついてくる。どうした?と聞いても、なんでもない。と首を横に振るばかりだ。

 ただ、あきらかな期待の眼差しで見つめられている。少し考えてみようか。今日、なんかあったっけ。


 ……特に思い当たる節もない。ふと窓の外を見ると、いい天気でぽかぽか陽気だ。これはさぞリーフも喜ぶだろう。

 そう言えば、マリと出会ったダンジョンに入ったのもこんな天気の日だったな。丁度一年ま―――――――――


「……マリ」


 マリの前にしゃがみこむ。マリは可愛らしくキョトンとした。その頭をくしゃっと撫で、恐らくマリが待っていたであろう言葉を放つ。


「誕生日、おめでとう!」


 ビンゴ!とばかりにパアッと表情が明るくなり、首に勢いよく抱きついてくる。

 極めつけは、耳元での「大好きっ!」だ。そんなこと言われたらもう……


「……よし、今日1日何でもお願いを聞いてやろう。」


「ほんと?ほんとに!?」


「あぁ、もちろん。よく考えろよ?」


 私は、とっくにもう決まっていたけれど、少し悩むフリをしました。すぐにこんなことを言ったら、嫌われてしまうかもしれないと思ったからです。恥ずかしいけれど、勇気を出してお願いしてみます。


「今日一日……ご主人を、独り占めしちゃ、ダメですか……?」


「そんなことでいいのか?」


 ご主人は怪訝な顔をします。でも、皆ご主人のことが好きだから独り占めできる日はほとんどなくって、だからこれはとても大切なお願いなのです。


 マリは顔を赤くして頷いた。そんなお願い、断れるわけも無い。もちろん、即刻了承した。


「じゃあ、今日一日は俺はマリのものだ。何でも命令するといい。」


「うん!じゃあ、さいしょは……」


◆◇◆◇◆◇◆


「わぁあっ!すごぉい!たかいっ!」


 俺の頭を挟み込んだ足が興奮ぎみにぱたぱたと振られる。

 

 俺は今、マリ……ご主人のお願い、もとい命令により、庭で肩車をしていた。それを見たガロが案の定自分も、とおねだりしてくる。

 だが、今日はマリの日。マリを贔屓にする日なのだ。


「何してるの!?面白そうっ!私も私も~!」


「いいや、駄目だ。」


「何でぇ~!?けち!」


 ふっふっふ、俺のご主人に聞きなさい、とマリにパスする。マリは恥ずかしがりながらもはっきりと宣言した。


「き、今日はっ、ごしゅじ……ソラは、私のものなのっ!」


 ガロの表情はガーン!と効果音がしそうなほどに落ち込んだものに変わり、珍しいことにおとなしく、寂しそうにとぼとぼと去っていった。


「わ、私、もしかして悪いことしたかなぁ……?」


「あいつのことだから大丈夫だろ。」


 どうせけろっとして戻ってくるに決まってる。あいつの落ち込みが二日以上続いたことなんないんだ。


「うん、そう……だよね。でも、あとで謝りに行こう……」


 うん、ここで開き直るのはマリじゃないよな。やっぱりいい子だ。マリがこう言う子だからこそ、我が家で争いはあまり起こらない。いつもケンカの間にはいって争いを収めるのは、マリだったりする。


「ほら、今日はお前の日なんだから。他におねだりはあるか?」


「う、うん。じゃあね、つぎは……」


◆◇◆◇◆◇◆


「おやすみ……」


「お、おお……」


 二つ目の願いは……いや、まずは一つ言っておこう。マリはおとぎ話が大好きだ。特に、俺がマリに初めて語った物語、『白雪姫』はお気に入りで、今でも夜遅く、俺の部屋に来てはねだり、そのまま俺の布団で眠ることがしばしばある。


 そこで、今回のおねだりだ。内容としては、『膝枕で寝かせて。』ここまではまぁ良いだろう。だが、その次。追加のおねだりが問題だった。それは、本人ですら羞恥で涙目になりながらお願いしてきたものだ。


『ちゅーで、起こして……?』


 もちろん、ほっぺたかおでこで済ますつもりではあるが、なんというか、そう言ったときの表情が目に焼き付いてしまって……


 11……いや、12歳の女の子相手に意識するなど、あってはならないことだ。だが、この世界では15歳から大人だから、12歳でも一概に子供とは呼べないのかもしれない。

 いや、駄目だろ。俺の膝で眠るこの純真無垢な少女に下心を抱くなど、心が穢れているにも程がある。



 ご主人の膝で眠るのは、一緒の布団で眠るのとはまた違って、すごくドキドキしました。


『ご主人の匂い……すごく近い……っ頭がぼぅっとしてきた……ちゅーで起こされるんだよね……いつだろ?口だったりしたら、心の準備が……』


 だめだ。ご主人は純粋に私がしたいことをさせてくれてるのに、そんな下心を持ってたら、嫌らしい子だと思われちゃう。

 でも……私ももう子供じゃないし……いや、ダメだよ。きっとご主人は私の事を、子供みたいに思ってるから、裏切ることになっちゃうかも知れない……


 そんなことを考えながらも、信頼できる温もりに頭を預けて私はゆっくりと眠りに落ちてしまったみたいです。


◆◇◆◇◆◇◆


「……本当に、起きねぇな……」


 昼飯は他の皆に食べさせてから膝枕をしたからいいが、もうそろそろ晩御飯の時間になる。

 むぅ……やっぱりしないといけないのか……?


 膝の上のマリはなおもすうすうと安らかな寝息を立て続ける。


 仕方なく、少々遠慮しつつも、優しく肩を抱え、ゆっくりと顔を近づけてゆく――――――


 ところで、マリが突然、ぱちりと大きな眸を開いた。顔の距離僅か十数センチ、しっかりと目が合う。


「っひ……!?」


 マリは眸を見開き、少しだけ顔を引いた。そりゃあ、寝起きで至近距離に人の顔があればこうなるだろう。

 だが、直後なにかを思い出したようにはっとして、再び目をぎゅっと閉じる。


「いや、起きてるだろう……」


 ふるふると首を横に振る。目を開く気はないようだ。つまり、早くしろと。そう言うことだろう。

 長いまつげの瞼に唇を落とす。ビクンッと肩を震わせ、ゆっくりと目を開いた。


「あー、えっと……おはようございます、お姫さま……?」


「あぅ……っ、うぅあ……!」


 今日一番に顔を紅潮させている。照れさせたこちらが心配になるほどだ。比喩的な表現ではなく、本当に湯気が出そうな勢いで顔を紅くする。


「も、もう大丈夫ですから……」


 そう言って、その小さな手で自分の顔を隠す。


 こうして、マリが気恥ずかしさに耐えられなくなったことで、マリの誕生日は幕を閉じた。

 うん、マリを照れさせるのは、こちらも気恥ずかしさはあるものの楽しかったな。

 来年の誕生日は、どうなるのだろう?


 



 







 




 



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