そこはダメです!―リーフの弱点―
何故……ブクマが減って行く……?
「あっ、ソラさん!おはようございます!」
ギシギシと木製の階段を下りていくと、受付のお姉さんに元気よく声をかけられた。
「ダンジョン調査、終わって騎士団も帰還しました」
「おお、どうだった?」
「十階層まで降りた辺りでレベル的に厳しくなって帰還したそうです。まだしたがあったようですから、多分S級ダンジョンに認定されると思います」
S級ダンジョンの認定には、幾つか条件がある。それは、
・踏破されていない
・王国騎士団による攻略が不可能
・十階層より下がある
の三つだ。厳密に言うと細かい項目はあるが、大雑把に言うとこんな感じ。さらに、S級ダンジョンの申請が認可されると、冒険者にとっては嬉しい得点がついてくる。
「国から正式な認可が降りたら、準S級冒険者ですよっ!少し早いですが、おめでとうございます!」
そう、『準S級』の称号が貰えるのだ。正式には『S級』が最高ランクなのだが、それは名誉勲章的な意味合いもあるため、実力で取れるランクとしては最高ランクと言える。
「あぁ?別にもう引退してんだから要らねぇよ。」
「いやぁ、うちのギルドから準S級が出るのはとても名誉なことですよ!あ、これ準S級冒険者の権利詳細です」
そう言って書類を一枚手渡してくる。全く話を聞いてないな。だが、確かに王国内のギルドでは準S級はまだいないな。
王国からのクエストで殉職した場合はどのランクからでも『S級』に特別進級するが、生きている者では聞いたことがない。
「ねぇ、ご主人……その『準S級』って、そんなにすごいの?」
質問してきたのはマリだ。その眸は興味津々と言った様子できらきらと輝きを放っている。
「うん……まぁ、凄くはあるよなぁ……」
なんとも微妙な心持ちで書類に目を通すと、とんでもない文章を発見し、とっさに書類を隠した。
それを見逃さないリーフに蔦で即座にに奪い取られる。そしてそれは、見事なコンビネーションでガロへと渡った。
「あぁッ!見るな……」
時すでに遅し。その文章を見つけてしまったことは、その表情で即座にわかった。そして、ガロは直接受付のお姉さんにその文の事を尋ねた。
「あの、この『・異種間の婚姻を許可する。』って、どういう意味ですか?」
必死で「言うな!」とお姉さんに目で訴えるが、お姉さんは知ってか知らずか即座に、更に子供にも分かりやすいように丁寧に解説した。
「それはね、えっと、例えば……君は獣人で、ソラさんは人間だよね?」
何故か四人ともが真面目な顔で話を聞き、頷く。それを確認したお姉さんは、容赦なく続きを説明する。
「つまり、別の種類の人種同士でも結婚できるってこと。君とソラさんとかね。」
その瞬間、全員の表情が変わり、そして、全員の口から同時に同じ言葉が発せられた。
「「「「絶対に、ならないとね?」」」」
顔が本気だ。恐すぎる。
「ひゅー、ソラさん、モッテモテ!」
囃し立てる受付のお姉さん。人生で初めて、女性に対して殺意を抱いた。
認定と授与までは結構な期間があるらしいため、久々の我が家へと一旦帰ることにした。
◆◇◆◇◆◇◆
「あー、なんかめちゃくちゃ久しぶりな気がするなあ……」
四日ぶりの我が家へと帰還した。所々に埃が溜まっている。掃除しなければ。
「ご主人……私、お腹すきました……」
「あぁ、悪い!今すぐ作るな」
リーフからの注文を聞き、台所へと急ぐ。そう言えば、町ではなにかとあって結局初日の朝しか食わせてやれなかったな。リーフの前に器をコトリと置くと、すぐに吸い始めた。
「味、問題ないか?」
「すごく美味しいですよぅ……」
うん。いい表情をしているな。肩を揺らして上機嫌そうだ。……今なら行けるかもしれない。
「なぁ、リーフ」
「なんですか?」
「……撫でていいか?」
リーフは勝手に撫でるとときたま怒り出す。ヤナは大急ぎで部屋に入り卵に付きっきりだし、ガロとマリも庭へと遊びに行った。邪魔は入らない。リーフのふわっふわの髪の毛は、すごくなで心地がいいんだ。
「……仕方ないですねぇ」
ため息をつかれてしまったが、了承は得た。脇に手を差し込み膝の上にのせるが、その間も食事は続行している。
遠慮ぎみに、そのふわふわの髪の毛へてをのせる。フワリと軽く手が沈んだ。そのまま、髪を梳かすように撫でる。さらさらの指通りだ。
そう言えば、前にこの頭に生えている『花』を触ったときには、珍しくリーフが不快そうにしてたなぁ。あれは出会ったばかりの頃だっけ。その頃のリーフは本当に表情も感情も無いみたいで、本当に人形のようだったな。
すこし、イタズラしてみるか。
指をゆっくりと花に近づけていく。そして、今は閉じているその蕾に、指でそっと触れた。
「ん~~ッ!!」
ビクビクッと痙攣するような反応をし、即座に振り返った顔は涙目で真っ赤だ。
「な、何するんですかぁ!?」
かつてないほどの剣幕に思わず圧される。そこまで嫌なのか……
「い、いや、興味本意で……」
「うぅ……お花は、すごく敏感なんですッ!触るならせめて……根本辺りなら……良いですけど……」
声がどんどん小さくなってしまい、最後にはパッと顔を背けてしまう。どうやら食事に夢中なフリをしているようだ。
まぁ、許可も頂いたんだ。遠慮なく触らせてもらおうか。
言われたとうり、花の根本辺りを指でなぞると、ときどきピクンッと反応したり、「んッ」と声を漏らしたりする。普段は無表情なリーフの新たな一面が……
……うん、止めよう。なんだか悪いことをしている気がする。
金輪際、リーフの花に触れるのはやめよう。