これからもよろしく。 後編
あまりにも不評だったため数話削除しました。おかしいところに気がつき次第、改稿もしますがあまり気にしないでください。
あと、メインヒロインはヤナちゃんではないです。
意を決して目の前のドアを押すと、ベルがカランカランと軽快な音をたてドアが開く。
「いらっしゃい……おや?君はソラのとこの?」
「あ、はい。夜分遅くにすいません……」
「ずいぶんお洒落になったね。その首輪はソラが?」
「えぇ、今日……」
宿を飛び出した私は、自然にソラの行きつけのお店に足を運んでいた。今は既に日が落ちてから数時間がたっている。慌てて家を出たため、服もそのままだ。かなり恥ずかしい。
「ソラがいない……と言うことは、家出かな?」
「……そんなものです。迷惑ですか?」
そんなことはないよ、とマスターは私に椅子を勧めて表の看板をopenからclosedに裏返してくれる。そして、例の果実酒のボトルと、グラスを二つ持って私と向い合わせの席に腰かけた。
「あの、私お金持ってないです……」
「どうせ、私しか飲まない酒だ。老人への情けと思って一緒に飲んでやってはくれないかい?」
そう言って、私のグラスへとくとくと果実酒を注ぐ。
「さぁ、なんでも話してごらん。こう見えて私は聞き上手で有名なんだ。長年飲み屋の店主をしているのは伊達じゃない。」
確かに飲み屋の店主なら酔っぱらいの相手をすることもしばしばあるだろう。納得だ。
グラスを口に運び、果実酒を一口飲む。……やはり美味しい。アルコールのお陰もあってか私の口は自然に語り始めた。
私がさらわれ、そこからソラが救い出してくれたこと、抱き締められてからなんだか顔をまともに見れないこと。そして、額にキスされそうになって逃げ出したことなどだ。
「ふむ、成る程。別にソラの奴隷になりたくなかった、とか触られるのが嫌だった、とかでもない。」
話終わる頃には、グラス3杯分ほどを飲み干していた。四杯目も一気に煽る。
「ええもちろん!ソラと離れるなんて想像も出来ませんし、触れられるのも触れるのも大好きですよ!」
かなり酔いが回っているね、とマスターが気を効かせて酒を引っ込め、冷たい水を持ってきてくれた。
「ふふふ……それにしても、分かりやすい」
「何がですかっ」
「それはもちろん、君がソラの事を……おや、もう聞いていないか。」
急な来客、もといヤナちゃんの方へ顔を向けると、ごとんと机に突っ伏して眠っていた。酔いつぶれてしまったようだ。
丁度その時、聞きなれた足音が外から聞こえてきたため、先にこちらからドアを開ける。そこには、息を切らしたソラが立っていた。走ってきたのか、汗だくだ。
「ヤナがここに……」
「あぁ、居るよ。つい先程酔いつぶれてしまったから、連れて帰ってあげなさい。」
「……申し訳ないな。酒代くらいは出させてくれよ」
「いいんだ。若い娘と酒を飲めただけで、十歳は若返った気分だよ。むしろお礼を言いたいのはこちらの方さ。……それに、面白いことも聞けたしね。」
こう言われて無理矢理払うのは逆に失礼になる気がする。仕方なく、今度また酒をのみに来るということで納得した。
それにしても、なんの話をしてたんだ?店内に入ると、テーブルに突っ伏すようにして寝息を立てるヤナを発見する。お姫様抱っこの要領で抱えあげ、手が塞がった俺に気を効かせて開いてくれたドアから出た。
「マスター、ありがとな。また今度飲みに来るよ」
「楽しみに待っているよ。」
そうして、店をあとにする。
それにしても、眠っている人間というのはどうしてこう重いのだろうか。等の本人は気持ち良さそうな表情で寝息をたてている。
結局、ヤナをベッドに寝かせるとスペースが無くなってしまったため俺は仕方なく椅子に座って眠ることになった。
だが、四人の寝顔を眺めながら眠りにつくのは、そんなに悪くない。
案の定、翌日になって首を酷く寝違えてしまったが。
◆◇◆◇◆◇◆
「ふぁ……首いでぇ……」
「おはようございます、ご主人様」
「え?」
突然聞こえてきた声に、きょろきょろと周りを見回すが、近くに居るのは珍しく早起きのガロとマリだけ。
「なんだ今の声……?」
「私です」
声の主はガロだった。訳がわからん。ポカンとしていると、俺の着替えを持ってきて俺に手渡した。
「お着替えお持ちしました。そちらのお召し物は洗濯させて頂きますので……」
「ちょっと待て。え?なに?」
「私達は正式に奴隷となったのですから、当然と存じますが」
そんな敬語どこで覚えたんだ?普段はあんな感じなのに……それに、家事が出来るなんて知らなかったぞ?
「いや、別にいいよ……いつも通りで」
「……そうですか……そうだよね、あーよかったぁ!」
突然ころっとガロが態度を変える。俺が混乱していると、マリがおもむろに俺の膝に座って説明してくれた。
「ガロちゃんが、ちゃんとしないと怒られるかもって……」
「はぁ?んなわけねぇだろ……お前もそう思ったの?」
マリは上目遣いで控えめにこくりと頷く。まぁ、こいつらも元は別の奴の奴隷だったし、よく考えたらそういう教育は奴隷商人とこで仕込まれるか。
それより、そんなイメージを持たれていたことがショックだ。
「いつも通り……むしろ何時もより馴れ馴れしくて良いくらいだぞ?……ちょっとは手伝ってもらえると嬉しいけど」
俺からしたら奴隷=家族みたいなものだ。マリの頭を優しく撫でると、喉をごろごろと鳴らした。
「あー!ズルいってぇ!私も撫でてよっ!」
ちょいちょいと手招きすると、反対の膝に乗っかってきた。わしわしと撫でてやると、嬉しそうに尻尾を振る。
暫く二人を撫でていると、やがてコウモリの姿をしたヤナが目を覚ます。意識がはっきりしていくにつれて勝手に人の姿に戻るから、本人は変身していることに気づかない。
「ん……あれ……ここどこ?」
「おはよう、ヤナ。」
「うぁ!?ソラ!?えっと、あれ?私昨日お店でお酒のんで……それから……」
「酔い潰れた。」
突然、頭を抱え落ち込んだような素振りを見せる。そこまで悲壮感を漂わせなくてもいいじゃないか。何がそんなに悲しいんだろうか。
「ソラが……私を運んだんだよね?」
「ん?あぁ、もちろん。」
「その……お、重かった?」
うん、かなり。何て言えるか!!それなりには重かったけど、その年齢ならそのくらいだろうな~程度だ。年齢的には普通の重さだった。あくまで多分だが。
というか、気にする点が女子過ぎて可愛いな。
「か、軽かったぞ……?」
思わず目を逸らしてしまった。察したヤナは余計に落ち込む。
……そう言えば、大切なことを聞いてなかったな。
「ヤナ、俺の……その、キス、嫌だったか?」
「そんなわけないっ!嬉しかっ……」
反射的にそこまで答えてしまったのか、顔を伏せてしまった。それなら、と膝から二人を下ろし、ヤナに歩み寄る。
ヤナ、と呼び掛けると素直に顔をあげた。その瞬間、髪をかきあげ額に口付けする。一瞬遅れて額を押さえたヤナの顔は耳まで真っ赤に染まっていた。
それにしても、面白いくらいに口を半開きにしてポカンとしているな。
「……これからもよろしく」
目を伏せたヤナは、何度もこくこくと頷くのだった。