これからもよろしく。 前編
作者にファッションセンスが皆無なので、それぞれの脳内補完で可愛く補ってやってください。
「おーい、ヤナ。起きろー。」
天井にぶら下がって寝ているヤナの頬をぺしぺしと叩く。
ちなみにこれは秘密なのだが、ヤナは普段はまるっきり普通の人間の姿をしているが、寝ている間だけ『コウモリの獣人』になる。
正確に言うと、耳が大きくなり全身がふわふわの体毛で覆われ、皮膜が《つばさ》が大きく発達する。だが、本人は変身できることがバレていないと思っているようだからな。触れないようにしている。
「んぁ……お帰りぃ……」
「おはよう、ヤナ。はいこれ。」
寝ぼけ眼で天井からすとんと床に下りたヤナに例の服が入った紙袋を渡す。
「何これ?」
「新しい服だ。着てみ?」
未だに寝ぼけているのか、その場で服を脱ぎ始めたため、反射的に後ろを向いた。
ガロとマリは既に着替えており、サイズもピッタリでとても似合っている。
ガロのテーマは『やんちゃなお姫様』と言ったところか。マリとデザイン的には似ており一見運動には向かなそうなのだが、生地は伸縮性抜群で多少の運動なら余裕で対応できるようになっている。フリルなどの装飾も最小限に抑えてあり、実用性に長けている。
一方でマリの服はシンプルな薄い青のワンピースで一見無地に見えるが、所々に凝ったデザインが施してあり、あまり目立つことを好まないマリにピッタリの服だ。それでもとても可愛らしいから、結局注目はされるだろうが。
ガロとマリは似たデザインの服のお陰で、一見姉妹のようにも見える。
ちなみにリーフは元の植物少女に戻ってしまったため、残念ながら服は着れない。首輪もぶかぶかになってずり落ちてしまいそうだ。徐々に人間状態の持続時間は延びているものの、やはりエネルギー消費が激しいらしい。
リーフの服も似たデザインのワンピースで薄みどりバージョンだったため、三人並べばとても可愛い三姉妹に見えただろうに。もったいない……
「着替え終わったよ……って、何これ!?うぁあ……」
後ろから声をかけられ、振り向こうとしたら「ダメっ!!」とかなり強く止められた。後ろを向いた俺と対面する形で立っていた三人は先に見えているのだが、
「「「ふわぁ……キレイ……」」」
と感嘆している。くそっ、見たい!
「悪いな!見るぞ!」
悪いが我慢の限界だ。勢いに任せて振り向く。
「うわあぁ!やめてー!」
その姿を見て、言葉を失った――――――
ヤナは、一言で言うとボーイッシュな外見をしている。本人が身体のラインが隠れる服を着たがるため、というのもあるが髪も結構短く切ってあるし、遠目に見ると線の細い男位には見えることがあるのだ。
だが、この服は……なんと言うか……ヤナの女らしい部分を最大限引き出している。
ホットパンツのようなジーンズ生地の短いズボンからすらりと延びる美脚。黒い生地によって、きれいな白い太ももがより際立つ。
更に、上の服。いつも着ているだぼついた物とは全く異なり、身体のラインにピッタリフィットし、ボディラインがくっきりと露になっている。元々がスレンダーな体型のため、胸が、というよりは腰のラインや緩めの首もとからちらりと見える鎖骨が色っぽい。
が、上に一枚上着を羽織ることによって、過度な強調にはならず、全体的な雰囲気を落ち着いたものにしている。
「こんなに足が出てるの、恥ずかしいよ……!」
「いいや、似合ってる。めちゃめちゃ可愛い。」
それより何より、あれだけの情報でこれだけのものを作れたあの服屋が怖い。こんどお礼をしに行こう。
◆◇◆◇◆◇◆
「それじゃ……えーと、なんだ。首輪の授与式?を始める。」
俺の前には四人が緊張の面持ちで整列している。これって、ギルドの宿ですることか?とたずねたのだが、本人達がどうしてもと言うので、現在に至る。
背の順で並んでいるため、リーフ、マリ、ガロ、ヤナの順だ。
「これで、正式な契約だ。」
リーフの細い首に首輪を通し、止める。ベルト式のため着脱は比較的簡単だ。そして、前髪を軽く避けて、額にキスをした。
「……これからもよろしくな。」
「えへへぇ……」
リーフは頬をほのかに染めて、柔らかく微笑んだ。視界の端にものすごい形相でこちらを睨む三人の姿が映るが、まぁ待てとジャスチャーで伝える。
「マリ、これからはもっと堂々と甘えていいんだぞ?」
首輪を止め、同じように額に口づけすると、ポッと頬を染めてうつむいた。頭をくしゃりと撫で、ガロの前へと移動する。
「お前はそうだな……元気で何より。」
「なにそれー!?」
首に手を回し、首輪を止める。額にキスをすると、「くすぐったいよ~……!」と言って、嬉しそうに笑った。
「最後は、ヤナ。そう言えば、お前はリーフの次に付き合いが長いな。俺も至らぬ点は色々あると思うが、今後ともよろしく頼む。」
みんなと同じように首輪を止め、額にキスをしようとした時だ。寸前まで顔を紅くして目をぎゅっと強くつぶっていたヤナが突然動いた。
「う……うぁあぁああぁあっ!!」
「えぇ!?」
俺をどんと突き飛ばして部屋を出ていったのだ。階段をかけ下る音が聞こえる。
慌てて追おうとするが、よくよく考えてみると首輪には符呪してあるため追う必要はないことに気づく。自動的に位置が把握できるようになっているからだ。なんとも便利な魔法だな。
少なくとも今のところ残っているのは、俺が拒否された、という事実だけだ。心に深い傷がついたような気がするが、ヤナも年頃だ。そう気安くキスなどしようとすべきではなかった……
しゃがみこんだ俺の頭を三人がよしよしと撫でてくれる。あぁ、俺の心のオアシス達よ……
仕方なく、ヤナの位置情報を追い続けることにした。そして、しばらく移動していたヤナが突然止まったのは、意外な場所だった。