本当に欲しかった物。―契約完了― 後編
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「よし。服の注文も終わったから、次はお待ちかねの……」
「首輪っ!」
今回、首輪を与えて本契約しようと考えたのには、理由がある。
一つは、今回のように誘拐されることを防ぐためだ。追加料金で色々な魔法効果がつけられるため、今回は『追尾』の付呪をする。少々高額になるが、致し方ない。
二つ目は、単純に俺の根負けだ。もしこれからよい引き取り手が現れたとして、コイツらを手放す自信がない。
奴隷の首輪には専門店があり、大切なものにはこだわりたいと考えたため、そこそこの高級店に入った。。
「黒革の首輪に符呪をつけたものを四本くれ。」
リーフは、正確に言うと奴隷ではないのだが、いいわけに丁度いいからついてだ。リーフは少々複雑な事情を抱えているため、いちいち説明が面倒くさい。
「かしこまりました。ところで、お金の方は……?こちらはお高くなりますが?」
注文表を俺に渡しながら、俺の身なりを見て貧乏臭いと感じたのだろう。嫌らしい目付きで観察してきたため、俺の鍵を渡す。
この世界で言う鍵とは、身分証明書のようなものだ。もちろん本人はすべての情報を見れるし、特定のスキルを持つものならば情報を読み取ることが出来る。
まぁ、商売人は大体金庫残高くらいは見れるものだ。俺の所持金を見たとたんに店主は態度をコロッと変えた。
「誠に申しわけございませんでした!まさか名のある冒険者様でしたとは!何分、お若かったもので……」
「……別に構わねぇ。あと、追加で一つ一つに名前も入れてくれ。」
すべて記入して店主に注文表を渡す。
「承りましたので、また夕方ごろにご来店お願い致します。」
何だかんだで、結局用事が全て済むのは夕方ごろになってしまった。時間はまだ正午を回った辺りでまだまだ時間がある。
「暇になったなぁ。お前ら、どっか行きたい場所あるか?」
「ご主人と遊びたいっ!」
即答かよ。
ガロがそう言うと、マリも小さく頷いた。リーフに至っては、「お日様の光があればどこでも~」といった感じだ。
「わかった。それじゃあ、公園にでもいこうか。」
たしか近くに大きめの公園があったはずだ。町に来てまですることか?とも思うが、こいつらが喜ぶのならそれでいいだろう。
◆◇◆◇◆◇◆
「うわぁーーっ!ひろぉいっ!」
公園につくなりガロは興奮して走り回り始めた。マリはいつも通り、近くに生えていた猫じゃらしをぷちんとちぎって俺に手渡す。が、いざ遊ぼうと俺があぐらで座ると、その上にマリも座った。ここが最近のお気に入り場所らしい。
仕方ないのでそのまま猫じゃらしをひゅんひゅんと振ると、最初は目で追い、やがて右手でぺしぺしと叩き始めた。
その隣ではリーフが太陽の光を浴びながら目を細め、気持ち良さそうにしている。
そうしてゆっくりとしていると、走り疲れたガロもこちらへ戻ってきた。流石に興奮しすぎたのか、息が切れている。
「へへ……疲れちゃった……」
そうはにかんで、俺にもたれ掛かって座る。なんだ、せっかくの広い公園に来たというのに結局俺にべったりじゃないか。
これじゃあ別に、家でも変わらなかったんじゃないか?
だが、その考えはすぐに改められた。確かに、こうやって自然をゆっくりと感じる機会はそうそうないかもしれない。心地よい風が頬を撫でる。ぽかぽかとした陽気は、眠気を誘う。
最初に寝息を立てたのは、ガロだった。やがて、猫じゃらしを追う手の動きが鈍くなっていき、マリからもすうすうと可愛い寝息が聞こえてくる。そして、俺に寄り添う小さな二つの温もりと共に、俺もいつの間にかうとうとと微睡むのだった。
◆◇◆◇◆◇◆
「……んん~……っあ!」
冷えてきた風で目を覚ます。手に触れた芝生の感触で、自分の状況を思い出した。空を見上げると、もう太陽は沈みかけている。丁度いい時間帯だ。
いつの間にかガロとマリは、それぞれ仲良く俺の膝を右と左で分けて俺に抱きつくようにして眠っていた。
「……ご主人、やっと起きてくれましたか~」
横からかけられた声はリーフの物だ。ずいぶん前に既に起きていたらしく、少し、むすっとしている。まぁ、基本無表情なため気のせいかもしれないが。
「悪い悪い。そろそろいこうか。」
そう思ったが、俺の両膝で気持ち良さそうに眠る二人を無理矢理起こすのは気が進まない。
そう言えば、ガロは12歳で、マリは11歳になったんだっけか。昔……といってもほんの一年前だが、そのときはまだひょいと片手で抱えられたものだ。
……一年でずいぶん大きくなったな。まだ行けるか?
チャレンジもかねて、片手で一人ずつ二人を抱えて立ち上がる。これならなんとか行けそうだ。リーフは俺の横をとことこと歩く。
「……なんだかずるいですねぇ……わたしもだっこしてくださいよぉ」
リーフが焼きもちを焼くのなんて初めて見たな。だが残念、俺の腕は二本しかないんだ。
だが、その心配はなかった。リーフは勝手にしゅるしゅると自分の蔦を俺に絡めておんぶ紐のようなものを即席で作り、俺の背中にもたれ掛かった。
「あったかいですねぇ……」
俺は滅茶苦茶重いがな。流石に三人はきつい。でも、リーフが甘えてくれる機会なんてそうそうないから、たまにはいいか。
結局この日は、俺がすべての荷物を持つことになった。
三人の重さ+大量の荷物は、かなり効いた。しかも、服屋の店員さん(後に店主と判明)は、「サービスだよ!」といって他になん着もサービスで服を付けてくれたため、とても嬉しいが俺の筋肉はより悲鳴をあげることとなった。
店主さんいわく、「名の知れた冒険者様が常連になってくれたら店に箔が付くから、これからもよろしくね!」と言うことらしい。代金も注文分しか貰ってくれなかったし。
いい人過ぎて断るに断れなかった……
そうして、俺達(主に俺)は疲れきり、ふらふらになってギルドへ戻ったのだった。