本当に欲しかった物。―契約完了― 前編
イリス(?)♀
・ハーフエルフ
・金とも銀ともつかない不思議で綺麗な髪色をしており、ミステリアスな雰囲気を纏っている。
・魔法のプロフェッショナル。
・才色兼備に重ねて眉目秀麗なため年間に何度も有力な貴族から求婚されるが、食事会に行った貴族は殆ど精神を病んで帰ってくるんだとか。
「ったく……コイツら、本当になにしに来たんだ?」
いつの間にかカウンターで飲み比べをしていたローガンとイリスは、二人とも見事に潰れていた。大の大人がよだれを垂らして眠っている様子には、さすがのマスターも苦笑いだ。
がさつなローガンと違い、イリスは寝顔まで隙がない。本当は狸寝入りなのでは無いだろうか?
「コイツら運ぶのか……しんどいな……悪いな、お前らも手伝って……」
ガロ達にも少しは手伝ってもらおうと振り向き声をかけるが、腹が満たされた二人は可愛らしい寝息を立てていた。
「……マジか……」
帰り道を考えて絶望しながら、店を後にした。
◆◇◆◇◆◇◆
翌朝。眠たい目を擦りながら階下のギルドに降りると、既にギルドは営業を開始していた。丁度昨日の受付のお姉さんがいたため、声をかける。
「おはよう。鑑定は終わったか?」
俺の声に気づいたとたん、血相を変えてカウンターから出て俺に迫ってきた。
「な、何ですかあれは!?どれもレアドロップもかなりありましたし、しかもまだ発見されていないものまで……」
「あー、それに関しては、新しいダンジョンの申請がしたいんだが……」
「え!?ダンジョン発見したんですか!?……それだけで三代は遊んで暮らせるだけの財産が……」
「あーもう、そう言うのは要らん。王国に提供って形で構わねぇよ。だが、かなりハイレベルなダンジョンだからS級ダンジョンで登録してぇんだが……」
「と言いますと?」
「六階層までは踏破したんだが、六階層のボスに、軽い装備とはいえかなり手こずった。しかもまだ下も有りそうだ。」
「ひぇ~、ソラさんが手こずるなんて、最低でも王国騎士団じゃ手も足も出ませんよ。一応後で確認用の部隊を申請しときますんで、場所だけメモしてください。」
渡された羊皮紙にざっくりとした場所をメモし、渡す。この世界の地図と言うのは、大体座標で示されるが、座標が表示されるタイプの魔法具があるため大して場所を伝えるのに苦労はしない。
「んー、そしたらですねぇ、部隊が帰ってくるまで町に待機してもらうことになるんで、昨日の女の子達でも連れて町で遊んできたらいかがでしょうか?」
「わかった。お言葉に甘えさせてもらうよ。」
入り用な手続きを済ませて部屋へ戻ると、3人ともまだ寝ていた。ヤナが天井にぶら下がっているのはもう慣れたが、慣れるまではかなり時間がかかった。
リーフは土がないと復活出来ない。こんなこともあろうかと、リーフ専用の土一式を持ってきていて正解だった。
「ふぁ……おはようございますぅ……」
「おお、悪かったな。ちょっとドタバタしてたんだ。」
「おなかがすいて本当に枯れちゃうかと思いましたよぅ……」
リーフはそう言ってほっぺたを膨らまして見せた。
「悪い悪い。今の内に食べれるだけ食べな。今日は昼からまたドタバタすると思うから。」
「分かりましたぁ~。」
ちうちうと根から食事をするリーフを眺めていると、一番最初に目覚めたのはマリだった。
「……おはよ……ご主人。」
「おはよう、マリ。」
ご主人、というところにはもう突っ込まないでおこう。とたとたと駆け寄ってきて、床であぐらをかいていた俺にストンと座った。
「どうした?」
「んーん。何でもない。」
そう言いつつも体を擦り寄せてくるマリの頭を撫でると、耳をを嬉しそうにぴこぴこと揺らした。よくよく考えると、ここ最近あんまり構ってやれてなかったもんな。
マリは、昨日の一件でも危険な奴らのアジトに真っ先に飛び込んでヤナの拘束を解いてくれた。たまにはご褒美をやらなければ。
「マリ、今日な、町に出掛けるんだけど、なんか欲しいものないか?ご褒美になんか買ってやるよ。」
「……首輪。」
そう来たか。
奴隷にとっての首輪とは、そのご主人との本契約を意味し、永遠の忠誠を意味する。そのため、奴隷にとってはとても価値のある物になるのだ。
つまり、それをご主人から与えられた場合には最高の褒美となり、またご主人の手によりそれが外される、もしくは断たれた場合には最悪の罰となる。
家にいるやつらは皆、ヤナを除き前のご主人に奪われたそうだ。
ちなみにヤナは、獣人族の掟による別口の契約により、自らの手でそれをはずした。その話も、また別の機会に。
しばらく考え込む。こいつらはずっと俺が保護していたわけだが、何だかんだで出会ってからは皆一年以上経ってたりする。
更に、元々金に困っていたわけではないが、今回の一件で一財産と呼べるだけの金額を稼いでしまった。
そして、こいつらは自ら、俺の奴隷となることを願ってくれているのだ。よくよく考えると、断る道理もない。
「……よし、わかった。やるよ、首輪。」
「ほんとうに!?」
「あぁ。約束だ。」
「……大好き!ご主人様っ!」
俺の首に抱きつき、頬にキスをした。ここまで感情を昂らせるマリは珍しい。そこまで喜んでくれたのか。
その声に反応してガロも起きたようだ。
「んぅう……?どしたの?」
「ご主人がね!首輪!買ってくれるって!」
「……ふぇえっ!?」
寝惚けていたのか、一瞬の間をおいた後に叫んだ。そして、「本当!?」といわんばかりの目を俺に向ける。
「あぁ、本当だ。」
答えると、言い終わるか終わらないかのタイミングでガロはベッドから俺めがけて跳躍し、そのまま俺に抱きつこうとした。
勢い余って唇が重なりそうになったのを俺が反射的に避けるが、何故かガロは俺にぶつかる一歩手前で止まった。左右からマリとリーフが足を捕まえたのだ。
「あっっぶねぇなお前!」
心臓がばくばく言っている。
「ぶー、けち。いいじゃんかそんくらい!」
「よくないよっ!」
以外にも声をあげたのはマリだ。驚いてマリを見ると、マリはボッと音が出そうな勢いで赤面した。「うぅ……」と唸って、ベッドにもそもそと潜り込んでしまう。大声を出してしまったことに照れているのだろうか。
「よし。二人とも起きたし、町に出よう。」
「え?コウモリのお姉ちゃんは?」
「ヤナは、本当は昼間は起きないんだ。こいつにはこっそり買って、サプライズにしよう。」
昨日みたいに拐われては洒落にならない。一応、契約は目に見える形にしておかなければ。
再び階下へ降りると、結構な量の冒険者が増えていた。……一応、釘を刺しておこう。
受付のお姉さんに声をかける。
「上でまだヤナが寝てるけど、手を出そうとしたやつは俺が直々にぶち殺してやるって皆に伝えておいてくれ。」
「ハハ……了解です。」
受付のお姉さんは苦笑いしながらも了承してくれた。流石にこれで手を出す奴がいたら、相当な命知らずだろう。
そうして、俺達は安心して町へ出るのだった。
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