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行きつけの店―美味しいご飯―

ローガン(25)♂


・ドワーフ

・身長145センチ、体重75キロ(ほぼ筋肉)。シルバーの髪の毛。

・斧使いの冒険者

・身長を気にしているが、種族に関しては誇りを持っている。

・ソラを尊敬している



「……何でお前らまで付いて来てんだよ……」


「お供させていただきます!」


「久しぶりなんだから、いいでしょう?」


 ギルドを出たのはいいものの、何故かローガンとイリスまで一緒に付いてくる。まだ俺をパーティに戻すのを諦めてないのか。


「……絶対、パーティには戻らんぞ」


 あえて釘を刺すと、イリスは微笑みを崩さないが、ローガンは露骨にショックを受けた様子だ。


「今はこいつらもいるし、仕事の話は無しだ。」


「はいはい。だけれど、私は諦めないからね。」


 しばらく歩き、行きつけだった店に到着する。ここはあまり人が来ないが、飯はものすごく美味い。しかも安い。初めて入ったときは、穴場を見つけたと喜んだものだ。


「マスター、久しぶりだな。」


「おぉ!ソラじゃないか!会えて嬉しいよ。」


 マスターと握手を交わし、テーブル席につく。リーフは種になってしまったため俺の胸ポケットに入っている。丁度四人席なため、ローガン達はカウンター席に座った。


「俺はいつもので、こっちのガロは肉、マリは魚物なら何でも大丈夫。」


「分かったよ。隣の獣人の女の子は彼女かい?」


 マスターが言ったのはヤナの事だろう。


「ん?あぁ、そういう訳じゃないんだ。ちょっとした事情があって。」


「ふふ、女の子は満更でもなさそうだけれどね。」


 ふと横を向くと、ヤナの顔は真っ赤だ。


「……?どうした?」


「っいや!何でもない……!」


 顔を手で覆い隠してしまった。体調でも悪いのか?


「……ご主人が鈍感で、君も大変だねぇ。」


 マスターがヤナに語りかけるが、ヤナは顔を覆ったままだ。マスターはその様子を見て優しく微笑んでいるが、俺はさっぱりわからず首をかしげた。


「お待ちどう。」


 目の前に皿が三つ置かれた。ガロのがステーキで、マリのはムニエル。

 俺の前にはビールと一緒にいつも頼む大好物の煮込んだ肉の定食が置かれた。とろとろににられた肉が口の中で自然ととろけてしまう、極上の逸品だ。


「ふぁあ……!」


 ガロは、普段俺が作るただ焼いた肉とはレベルの違う肉を目の前にして眸を輝かせている。

 マリは、始めてみる料理を不思議そうな目で見ている。


「ほら、食べていいぞ。」


「「いただきますっ!」」


 ガロが、マスターが気を効かせて一口サイズに切ってくれた肉を頬張る。一口噛んだ瞬間に表情がとろん、と幸せそうに緩んだ。


「柔らかぁい……!」


「美味いか?」


「すっごく美味しい~!」


「それはよかった。マリはどうだ?」


 始めてみる料理を恐る恐る口に含み、咀嚼する。そして、驚いたように目を見開いた。


「どうだ?初めて食べるだろ。」


「うん……!なんかね、パリパリのとこと柔らかいところがあってね……」


 初めての食感に驚いたようすだ。興奮ぎみに説明しようとしている。珍しく興奮しているマリの姿に、思わず破顔してしまう。


「美味いなら良かった。」


 カウンターから見ているマスターも、微笑ましい光景に口許が緩んでいる。一方で、ローガンとイリスは飲み比べを始めたようで、怒濤の勢いでビールジョッキを開けていっていた。何をしているんだあの阿呆どもは。


 俺のとなりに座るヤナは、何故かそわそわしている。一人だけ食事が出来ないから、腹が減ってきたのだろうか。


「お前は後でな。宿でならいいぞ。」


「ひゃっ!う、うん」


 肩に手を置くと、何故か突然変な声を出した。

 さすがに公衆の面前で血を吸わせるわけにはいかない。食事方法が特徴的であるコウモリの獣人は、未だに一部では好奇の目にさらされたり差別されたりしているのだ。


「おや。めずらしいですね。そちらはコウモリの娘ですか?」


「すごいな、マスターは。どうやって分かったんです?気づく人はかなり珍しいんですよ。」


「ふふ……、どうやってでしょうかね?」


 マスターはそう言って怪しく笑い、ヤナに何やら目配せをした。マスターと目があったとたんに、ヤナは、驚いたようにガタンと椅子を鳴らして立ち上がった。


「うおっ、急にどうした!?」


「こ、この人……」


 目を見開いて、マスターを指差した。


「この人も、コウモリだ……!」


「ご名答。流石に同じ種族だと気付きますよ」


 今度は俺が驚く番だった。何故なら、コウモリの獣人が飲食店を開けるわけがないからだ。

 基本的にコウモリの獣人は血を主食とするため、普通の食事が出来ない。個体差はあるようだが、大抵は消化不良で腹を壊してしまうし、味覚の感じ方も人とはかなり異なるようだ。そのため、味見もできない。

 だが、マスターの飯は驚くぐらい美味い。


「え……!?だって料理……」


「ふふ、代わりに味見をしてもらって教われば良いんですよ。私は幸い、そんな人(・・・・)に出会えました。」


 マスターが結婚しているなんて話、初耳だ。だが、確かによく見るとマスターの指には婚約指輪らしき高級感のある指輪がはまっていた。


「あなたに、同じ種族の先輩としてひとつだけアドバイスがあるとすれば……」


 マスターはいったん間をおいて、手に持っていたグラスに果実酒を注いでヤナの前に置いた。


「自分を愛し、また自分が心から愛せる自分の理解者は、絶対に手放してはいけません。よきパートナーは、きっとあなたの人生を大きく変えてくれますよ?」


「……私、普通のもの飲めない……」


 遠慮ぎみに申し出たヤナにマスターは優しく微笑んだ。


「これも、理解者がいたからこそ出来たものです。飲んでみなさい。」


 ヤナは、仕方なくといった様子で根負けして、恐る恐るそれを口に運んだ。


「……美味しい……」


 やはりマスターには敵わない。


 











 



 


 


 

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