憂さ晴らし
おかしいっ！
攻撃が当たらない？いや、攻撃自体が出来ないではないかっ！
ゴソゴソやっているうちにスライムに気付かれた。
そりゃ、これだけモソモソやっていればな…。
私の接近に気付いたスライムは臨戦態勢をとり、こちらを振り向いた。
振り向いたはずだ、多分…。だって、顔が無いから分からない。
スライムはかかって来るかとお思いきや、ジッとしている。
むぅ？様子でも見ているのか？
はっ！そうか、私には【女帝の眼力】があった。それが効果を発揮しているのだな。
発動条件はハッキリしないが、中々の能力だ。呼び名以外は…。
魅惑とか、流し目とか、もっと威圧感のない呼び名が良かった…。
おお、そうだ。そんな考え事をしている場合じゃないな。
今だっ！せいっ！
「！！っ。何っ！なぜ剣を振り下ろせない！？」
ズササッ！
スライムは逃げて行ってしまった…。
くっ、何なのだいったい…。
顔をしかめた私に、後ろからついて来ていたウディが何やら指摘してきた。
ん？私のステータス？
まさかっ！？またもや？
［エンプレス］
アイテムドロップ率2倍
生産の成功率半減
女帝の眼力（相手ユニット一時行動不可）
女帝の矜持（下位モンスターに攻撃不可、不意打ち不可）
何っ！？やはり、またもやのデメリット効果！！
むむむっ、何々。
…自分より下位のモンスターにこちらから攻撃を仕掛ける事が出来ない、アクティブ状態のモンスターはのぞく。
…う〜ん。向うから襲って来ればその限りではないのか？しかし、これは雑魚狩りでアイテムや経験値を稼ぐには致命的ではないか。
一旦モンスターの正面に出て相手がアクティブ状態になれば、下位モンスターでも戦闘は可能そうだが…すごく時間のロス。逃げちゃう場合もあるしな。
おまけに先制のメリットは一切期待出来ない。背後からザクッ！てのも、相手の態勢が整う前にシュパッ！てのも出来ない…。
「むぅ〜！何なのだ、何なのだ、何なのだーーーー！！」
腕をブンブンと振り回し、駄々をこねているとポンポンと肩を叩かれる。ウディだ。
ウッドパペットなので表情は無いが諭すようなニュアンスは伝わってくる。
そうだな…お前もゲームの設定で戦闘ではまるで使えないという業を背負わされ、それにもめげず自分なりに主人に仕えようと頑張っているというのに…私という奴は…。
「そうだな。ウディの言う通りだ…実質、何も喋ってないが…私たちはお互いに短所を嘆くのではなく、長所を伸ばしていこうではないかっ！そうしよう」
ウディも意気込んだ雰囲気でガッツポーズをとり、気合を入れている。
「う〜む。意気込んでは見たものの、私の伸ばすべき長所とは何だ？ウディは私より上手にアイテム等の生産ができるし、生産などなくとも料理という強みがある。私は…」
腕を組んで考え込んでいると、ウディが身振り手振りで訴えてくる。
どうも剣を振り回しているジェスチャーのようだ。
「ふむ！そうだな、私には戦闘しか強みがないのだからな。雑魚狩りが出来ないのならば、上位モンスターを狩れば良いだけではないか」
ウディもうんうん縦に首を振っている。
そもそもレベル上げなど気にする必要はなかったな、私は美味しい物を食べたくてゲームしてるんだった。
雑魚をザクザク倒しても同じ食材を落とすだけだろう。
気を入れて美味しい物を探すぞ〜、おー！
…っとウディと一緒に拳を突き上げていると、ポーンとお知らせの音が脳内に響く。
ふむ、どうやらベニーも言っていたイベントのお知らせが運営より届いたみたいだ。
