はじまりはじまり
私の目の前にはゼリー状の球体、よく見るスライムが三匹横並びに見える。
お馴染みの奴だ。
プルンプルン震えてるが…威嚇してるつもりか?
まぁ初っ端のマップから出現するこいつらは、そう警戒するほどの強さじゃない。
所詮ザコ。
こいつら程度なら私のウッドパペットでも相手出来るだろう。
そう思い、私は配下のウッドパペットをスライムにけしかける。
「行け、我が配下共よ!血祭りにあげるのだ」
「………」
配下共と言っても一匹しか居ない。雰囲気を味わいたかっただけだ。
オマケにこいつ、喋る事が出来ないから盛り上がらない。
まぁ、とにかくウッドパペットは指示どうりにスライムに向かっていく。
正面の敵に攻撃を仕掛けるようだ。
ぺしっ。
ウッドパペットに殴られたスライムは、ブルルッっとひと震えしてから何事も無かったように佇んでいる。
何それ?全然効いてないゾ。
そうこうしてるうちに他のスライムがウッドパペットに集まってきた。
三匹のスライムに完全に囲まれてしまっている。大丈夫か?
ポムンポムンと弾んだスライムはウッドパペットに向かって体当たりを始めた。
あっ!マズイ。一撃ごとにガンガンHPを削られてる!
ついには体当たりのダメージで地面に倒れ込んだパペットに、スライムが貼り付きだした。
むっ!継続ダメージがはいってる。溶かされてる!?
このままじゃ殺られると思った私は慌てて助けに入る。
「このっ!はなれろ!」
ザシュッ!
剣で切り払ったスライムはパペットから離れ、光となって消えていった。
次々と残りのスライムも切り付けて始末していく。
すごく弱い…何故これにてこずる…。
はぁ…。やっぱり、こいつには戦闘は無理だったか…。
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私が今いるこの世界は異界ヤヌス。
いや、別に異世界転生したわけでも何でもなくゲームの中の世界だ。
このゲームの名前はリアルテイストオンライン。RTOってのが運営推奨の略称。
けど、そんな略称で呼ぶ奴は誰もいないんだが。
みんなGO(ゴー)と呼んでる。グルメオンラインの略だとさ。
リアルテイストオンラインは最近主流のVRMMOゲーム、ゲーム内の世界に入り込んで遊ぶオンラインゲームだ。
VR用ヘッドギアを着けて寝てれば、まるでその世界の住人になったように遊べるあれだ。
運営としてはゲームの中で異なる現実を経験(味わう)するオンラインゲームという意味で名付けたようだが…。
このゲームのある特徴から違う意味に受け取ったプレイヤー達からはグルメオンライン、通称【GO】と呼ばれてる。
このゲームの特徴、それはグルメと俗称されるところからも分かるように食べ物が美味しいのだ!
そして私がこのゲームを始めた理由、ズバリ食いしん坊なのだ!
そもそものきっかけは弟から聞いた【GO】の情報に「何故その事をもっと早く教えない!」と胸ぐらを掴んで抗議する日にさかのぼる。
弟は「姉ちゃんはVR用ヘッドギア持ってないしMMOに興味ないだろ?」とか言っていたがヘッドギアなど買えばいい、すぐ買った、その日の言い合いの直後に買いに行った。
確かにMMOなどにはあまり興味はないが、重要なのはそこではない。
重要なのはっ…美味しい物がそこに有る、という事だ!
どうやらこのゲームの開発者は変なとこで凝り性な部分があるようで、ゲーム内には空腹数値的な設定など無いにも関わらず【食べる】という行動がとれ、勿論料理も出来る。
料理に関しては現実と変わらない味のリアルさを実現できているらしい。
オマケに!現実にはない、ファンタジー色を生かした新食材まであるというではないかぁ!
じゅる…。(ヨダレが…)
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「と、いう訳で弟よ。やり方を教えろ」
「え?ゲームの?ダウンロードはもうした?」
「???」
「なに、小首かしげてんの…。ゲームをダウンロードするとこからしないと、いきなりこれ被ってもゲームは出来ないんだよ」
「しかし、これにはカセットを差し込む穴なんてないゾ」
「カセット?もしかして…読み込み悪い時は一度抜いてフッって息吹きかけるアレのこと言ってる?」
「そうだ、記録をとる時は【あああぺぺペ】って何十文字もメモしないといけないやつだ」
「古っ!?そんなの博物館にしかないよ」
「ふふっ。冗談だ弟よ。流石にそのくらい分かっているゾ、コードを繋げて何か機械的なアレのアレするのだろ?」
「いや…今どき全部無線だから、家にもWi-Fiぐらいあるから」
「???」
「はぁ…。もういいよ、設定はしてあげるけど月額料金は姉ちゃんの口座から落とさないとだし…お金あるの?姉ちゃんバイトとかしてないじゃん」
ふっ。弟よバカにするな、固定バイトなどしなくてもお小遣は余りまくっているのだ。
何故なら私の趣味は食べ歩きくらいしかないし、臨時収入もたまにドカッと入る。
私は自分の部屋から預金通帳を持って来て弟に見せる。
どうだこの額、学生とは思えない数字だろ…とでも言ってやろうと思ったら弟は通帳を開きもしない。
「…いやぁ、ドヤ顔のところ申し訳ないんですが。ネット口座は?」
「???」
「その小首を可愛くかしげる仕草、姉ちゃんの顔面に似合ってないからね…」
「うっ、うるさいっ!」
「姉ちゃんさ、せっかく綺麗な顔しててもそのぶっきらぼうな口調とオーラで威圧感半端ないもんね…」
「お、オーラなど君の受け取り方だろっ!」
「あと、その髪型の所為であのゲームのキャラとイメージかぶっちゃうよ。有名RPGの女性主人公の…。
いつも着てる服装も髪型もそんなだし、髪色がルビーブロンドだったらまんまだね」
「こ、この髪はたまにやってる写真を撮るバイトでカメラマンが…服は全部そこでの貰い物だし…」
「ふ〜ん。そのカメラマンってあのキャラのファンなのかなぁ?っていうか女の子が貰った服だけ着てるとか、ファッションに興味ないんだね相変わらず…まぁ、取り敢えずは俺のネット口座から落ちるようにしとくから」
「じ、じゃぁ毎月現金で渡すっ」
「自分のネット口座作んないんだね…」
何か弟がゴソゴソと設定して完了した。
私はこういう機械系全般は苦手なのだ。TVの初期設定も出来ない、業者さんにおまかせだ。
おぅっ!出来たか?
「やれやれ、やっとか、早速やるゾ!」
「はぁ…。どうぞっ、やり方分かる?」
「ふふっ、これを被ればいいのだろ?簡単だ」
「最初チュートリアルがあるから、それ見れば大体分かると思うから…」
私は早速自分の部屋に帰りベットにダイブ、VRヘッドギアを装着する。
ふははっ!やっと出来るゾ。美味しい物、美味しい物。じゅるっ…。