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3.理想が高いのでしょうか

本日3話目!

どこにも出かけないで、こもってた成果!

明日からは普通に仕事なので、こんなハイペースはもう無理……(^^;)

「うーん………」


 コーヒーを飲みながら、ゼロネットから送られてきたデータを覗き込んだ。


「データマッチングしているのに、どうしてだろ……」


 送られてくるデータが希望と微妙にずれている。

 100%合致ってわけじゃないのかな?


「喫煙者はパスって言ったのに、喫煙者じゃん」


 タバコの匂いは嫌いじゃない。

 父がヘビースモーカーだったから。

 むしろ懐かしい気がする。


 でも。

 父の死因は肺がんだ。


 だから喫煙者は嫌。

 早く死んじゃうから嫌。


「こっちはバツイチだし」


 死別・子なしならともかく、生別・子ありを受け入れられるほど、私の器は大きくないです。ごめんなさい。


「あ……この人はまあまあ……かな」


 結局、一番マシな1人だけチェックする。


 これで向こうに私のデータが届き、OKならメールでのやりとりとなるのだが……。


「今まで全滅なんだよね………」


 何人かはメールでのやり取りまで行って、更に何人かは会うところまで行ったのだけど、みんな駄目。


 向こうからお断りされたり、こちらから断ったりで、結局2回目に繋がらないのだ。


「あーあ。私ってもしかして理想が高いのかなあ……」


 そんなに高望みしているつもりはないんだけど。アドバイザーさんも、むしろもっと要求していい、って言ってたし……。


「でもって、明日は合コンかあ」


 田中さん主催の。

 前職関係の若手に声かけたって言ってたけど……。


「いっつも、合コンっていうより、ただの飲み会になるんだよね~」


 多分、田中さんが標準的な合コンを知らないからだと思うけど。


 でもまあ、その方が気楽に参加できるのも確かなので、あえて訂正はしていない。


「とりあえず田中さんのおすすめのお店なら、味は間違いないハズ」


 さて、何を着ていこうか。


 流石にいつもよりは少しおしゃれしていかないとまずいだろう。


 立ち上がり、さほど多くない服を物色する。


「とはいえ、あんまり良い服だと仕事に影響ありだし………」


 事務職員の仕事は事務仕事だけではない。


 在庫確認、発注、納品確認。


 石灰の納品確認なんてどんなに気を付けてても真っ白だ。


 購入したものを所定の場所に運んだりもする。重いもの、かさばるものは、業者の方にお願いすることもあるけど。


 それに、ちょっとした修理なんかもある。


 印刷機、コピー機、プリンター、紙折り機などなど、多少のことなら直せる。


 って言っても、紙詰まりだったりインク切れだったり、汚れの線が入ってたりとかいう程度だけど。


 要するに取扱説明書を見れば解決できるレベルまで、だ。


 備品だけじゃない。施設もやる。


 ドアの戸車調整とか、トイレの水量調整とか、消防設備の誤報解除とか、落ちたブレーカーを戻すぐらいだけどね。


 で、そういう仕事は突発でやってくる。予測不可能。そして『今日はおしゃれしてるから無理でーす』というわけにはいかない。


 勿論、更衣室はあるから、そこで着替えることもできるのだけど………。


「………メンドい」


 うん、わかってる。

 そういう性格だから未だに独身なんだよ。


 でもメンドい。

 どうせ合コンのフリした飲み会だ。


 私は開き直って、いつもの汚れても問題ない服で行くことにした。


 ………けして、久しぶりに袖を通したワンピースのファスナーが閉まらなかったからではない! ないからね!


 ううう………。


 ダイエットしよう。今度こそ。


 でも。

 明日の飲み会が終わってからッ!


 美味しいもの食べるぞーー!






「かんぱーい!」


 主催の田中さんの音頭で周辺の人たちとグラスをあわせる


「悪いな、もう一人遅れてくるから、自己紹介はそいつが来たらな」


 田中さんはそう言って、豪快にビールを飲みほした。


 なるほどそれで男女の人数が合わないのか。


 男性側は3名。全員知らない人。

 女性側は4名。一人は知ってる。

 隣の学校の栄養士さんだ。


 以前、誤ってうちに振り込まれた給食費を届けに行った時に応対してくれたから覚えてる。名前は確か……山田さん。


「山田さん、こないだはどうも」


「あ、こちらこそ。わざわざ来てもらってすみません。助かりました」


 うん、知り合いがいればどうしてもそこで会話しちゃうよね。


 気が付いたら、男性は男性同士、女性は女性同士で話をしていました。


 ………やっぱりこれ、ただの飲み会だわ。


「すみません、遅くなりました!」


 開始から15分ほど経った頃、最後の一人が現れた。………って、あれ?


「おっせーよ! かけつけ3杯な!」


「無理です~。勘弁してくださいよ」


 そう言いながら空いている席に座ったのは、森先生だった。


 ああ、そう言えばこの飲み会……じゃなかった合コンの目的の一つが、森先生の結婚疑惑チェックだったっけ。


 ふーん。

 合コンに来たってことは、結婚するために引っ越ししたんじゃないのか………。


「じゃ、改めて乾杯な!」


 すっかり上機嫌になっている田中さんの音頭で、本日2回目の乾杯が行われた。






「お疲れ様でした~」


「お疲れ~」


「二次会行かない?」


「すみません、勘弁してください~」


 カラオケに行こうと誘う田中さんを躱して、私は一人駅へと向かった。


「佐々木さん!」


 聞き覚えのある声に振り向く。

 予想どおりの人が小走りに近づいてきた。


「森先生、二次会行かないんですか?」


「男ばっかりで行ってもねー」


 おや。

 どうやら他の女性陣も皆不参加らしい。


 森先生が近づくのを待って、並んで駅へと向かう。


「それに田中さん以外初対面だし?」


「ああ、なるほど。確かにちょっと行きにくいですよね」


「会話にも気を使うし………」


「確かに」


 酔った勢いでうっかりぽろっと個人情報とかしゃべっちゃった日には目も当てられない。


 教員同士ならOKの話題でも、部外者にはNGな話題なんていくらでもある。


 教員同士で飲んでいるときだって、周りに学校関係者だとわからないよう、校長を社長、学校を会社、教育委員会を親会社なんて言ったりもする。


 普段『○○先生』と呼んでいても、飲み会の席上ではみんな『○○さん』だ。


 知り合いの学校では、先生呼び全面禁止の法則を破ると100円寄付、なんてルールがあるらしい。で、寄付金はそのまま飲み代に化けるのだとか。


 まあ、学年主任なんかは、そのまま主任って呼ばれたりするけど。


「佐々木さん、ラーメン食べたくない?」


 もうすぐ駅だというところで唐突に森先生が言いだした。


「……太りますよ?」


「わかってるけどさあ………」


「私はコーヒーの方がいいなあ」


「あ、じゃあ、駅前のミスドは?」


「ああ、あそこならコーヒーも飲茶もありますね」


「よし、けってー!」


「でも、まだやってます?」


 スマホを取り出して時間を確認する。

 20時17分。


「大丈夫! あそこは23時までやってる」


「わかりました。行きましょうか」


 私たちは駅へ向かう道をほんの少し外れてお店へむかった。






「は~、なんで飲んだ後のラーメンってこんなに美味いんだろ」


 瞬く間に器を空にした森先生が、ごっそーさん、と手を合わせました。


 正確には汁そばですよ。まあ、似たよーなもんですが。


「あれだけ食べた後によく入りますね」


「んーと、若さ?」


「私より3つも上じゃないですか」


「え、そうなの?」


 キョトン、とした顔で聞き返された。

 あ、この反応。もしかして……。


「………もっと上だと思ってました?」


「え、あ、えーと、その、ね、えと」


「……思ってたんだ。ふーん……」


「え、あ、その、ほら、佐々木さんしっかりしてるっていうか、その落ち着いてるし」


「いーですよ、ムリにフォローしなくて。で、何歳くらいだと思ってたんですか?」


「………オナジクライト、オモッテマシタ。ゴメンナサイ」


「……ポン・デ・リングとハニーディップって、美味しいですよね」


「ハイ、カッテマイリマス!」


 慌てて席を立つ森先生。

 うーん、ちょっと安すぎた?


 ま、いっか。

 それほど怒ってないし。


 実は年上にみられるのはよくあることなのです。


 というか、教員ってみんな若く見えるんだよね! だから多分その反動!


 ………あれかな、やっぱり日ごろ子供たちと一緒だからかな。


 子供相手だとどうしてもオーバーアクションになるし、大きな声出すし。


 表情筋鍛えると老け顔にならないって言うもんね。


 それに、考えたら授業中立ちっぱなし。

 下半身も鍛えられるよね~。


 休み時間も子供たちとよく遊んでるし。

 体育の授業だってある。


 私みたいに身体が固いだの肩こりだのっていう悩みはないんだろうなあ……。


 ああ、その代りに腰痛はありそう。

 子供の目線にあわせていつも中腰だもんね。


「お待たせ~」


 戻ってきた森先生は、すっかりいつも通りだった。早いな! もう少し気にしようよ!


「あれ、多くないですか?」


 トレイの上には、フレンチクルーラーとエンゼルクリームも乗っている。

 ついでにコーヒーも。


「うん、見てたら食べたくなった」


 その気持ちはよくわかります。ハイ。


 私は自分が注文したポン・デ・リングとハニーディップの乗ったお皿を受け取ると、カバンの中からウェットティッシュを取り出した。ここ、紙ナプキンしかないんだよね。


「使います?」


「お、サンキュー」


 1枚取って先生に差し出す。


 もう1枚取って自分も手をふくと、ポン・デ・リングにかじりついた。


「コーヒーのお代りいかがですか?」


 コーヒーサーバーを手にした店員さんに頷きつつ、空のカップを差し出す。


「ほへあいしあす」


 頬張ったまま『お願いします』と言ったら変になったけど、店員さんはニッコリ笑ってお代りを入れてくれた。


「ところで、佐々木さん」


 店員さんが数個先のテーブルに向かうと、森先生がフレンチクルーラーをかじりながら聞いてきた。


「婚活始めたってホント?」


「………ッ!」


 あっぶな!

 も少しでコーヒー吹くとこだった!


「………誰から聞きました?」


「パートの佐藤さん」


 ああ、そう言えば愚痴ったっけ。

 なかなか見つからないって

 特に口止めもしてないしな!


「一応。入会したんです、ゼロネット」


「ああ、あれか。宣伝見たことあるよ。でもなんで?」


「知り合いがそこで結婚相手見つけたんですよね。で、紹介してもらうと入会金割引になるし、いいかなって思って」


「あ……えっと、ゼロネットにした理由じゃなくて、そういうところに入ろうとした理由」


「………だから婚活」


「いや、だからさ、わざわざ高い入会金や会費払わなくっても、結構周りに独身者いるのに、なんでかなって」


「ああ………そういう意味ですか」


「うちの学校だけでも、俺を筆頭に高橋、加藤、中村、吉田、山口……6人もいるよ?」


「あ、そのうちの一人は現在同棲中ですよ」


「………え? マジ?」


「マジです。賃貸契約書の同居人に女性の名前がありましたから間違いないです」


「賃貸……ってことは、親元の吉田以外か。誰?」


「個人情報なのでお答えできません」


「おーい」


「だって個人情報だもん」


「そりゃそうだけど………ま、いいや。それよりさ、何でゼロネット入ったの?」


 あ、話題戻っちゃった。

 せっかくごまかそうとしたのに。


 うーん、流石の私も、教員に、教員NGなんて言えないしなあ。


「やっぱりほら、井の中の蛙じゃマズイかなって。色んな人と出会うと自分のスペックも再確認できますし。それに、下手な鉄砲は数打たないと当たらないじゃないですか」


「下手な鉄砲って………」


「入会して早々、現実を見ましたよ、私は。毎月送られてくるデータにチェックして送り返しても、メールのやり取りをするのは約4割。そこから会おうってなるのは更に5分の1くらいなんですよね~」


「え、そうなの? 佐々木さんだったら引く手数多(あまた)な気がするけど」


「はい、社交辞令ありがとうございます。でもこれが現実なんですよね~」


「ってことは、まだほとんど会ってない?」


「んー、まだ3人だけです」


「3人………も、会ったんだ」


 あれ。

 なんかショック受けてるみたい。

 なんでだろう。


「で、それが全員駄目だったの?」


「はい、一人目は、某駅で待ち合わせだったんですけど、会うなり『じゃあ、どこに行きましょうか』って。向こうが待ち合わせ場所指定したんだから、当然その後の段取り考えてるって思ってたから焦りましたよ」


「へえ………」


「まあ、こっちも事前に、お店教えてくださいね、くらい言っておけばよかったのかもしれませんが」


「で、どうしたの?」


「『じゃあ、良く行くところがあるからそこでいい?』って連れて行かれた先が……なんと、駅ビルのフードコート!」


「………へ?」


「へ? ですよね! 周りから丸見えだし、うるさくて声も聞こえない。コーヒー飲んだら早々に帰って即お断りしました」


 ある程度親しくなって、他にないからここでいいよね、みたいな感じならフードコートでも全然問題ないですけどね~。


 お互いを知るために話をする場所としてどうよって感じです。


 あ、少なくとも私はそう思うってだけで、もしかしたら全然オッケーっていう人もいるんでしょうけど。


 そういう人が見つかると良いですね、最初の人!


「2番目の人は、『イタリアン予約してますから』っていうから、それなりに期待して、お洒落もしていったんですよ。そしたら!」


「そしたら?」


「………シャイゼリヤでした」


 あ。

 森先生、コーヒー吹いた。


「わわ、ごめん」


「こちらこそすみません。タイミング悪かったです」


 二人して慌てて、紙ナプキンでこぼれたコーヒーをふき取った。


「……まあ、シャイゼリヤ、嫌いじゃないですけどね。でもイタリアン予約してますって言われたら……ねえ?」


「うん、まさかファミレスとは思わないよなあ」


「で、多分、がっかりしたのが顔に出ちゃったんだと思うんです。その後の会話も弾まなくて、帰ったらすぐ、向こうからお断りが来てました」


「ああ……向こうにしてみれば、せっかく予約したのに嫌な顔してたってとこか」


「多分、そうだと思います」


 でも、私じゃなくても、大抵の女性は同じ反応をするんではないでしょうか。偏見?


「で、最後の一人は……ちゃんと予約してくれてたし、お店も良い感じだったんですけど……」


「だけど?」


「最初から最後まで自慢話でした」


「ああ………」


「小学校の頃から学級委員とかやってて成績も良かった、一流の高校に受かった、大学もたいして勉強しなかったけど、MARCH級の大学に一発合格した」


「MARCHじゃなくてMARCH級()?」


「ええ、一体どこだよって感じですよね? 後は就職先も上場企業だとか、そこで上司に目をかけてもらってるとか、将来安泰だから自分みたいな人と結婚できる君は幸せだとか。まだ結婚どころか付き合うとも言ってないって!」


 あ、やばい、思いだしたらまた腹が立ってきた。


「もう、途中から『どうでもいいし』って感じで、話半分聞いてなかったです。で、帰ってからすぐお断りしました」


「うん、それは断って正解だろうね」


「というわけで、あまり成果は出ておりません」


「ふーん……。ね、そういうところに入会してるのに合コンとか出て平気なの?」


「あ、それは別に禁止されてないですよ。並行して別の婚活もどんどん進めてくださいって言われてます」


「ああ、そういうものなんだ………」


 結局。


 私はこの後、森先生に、延々とゼロネットの説明をしたのであった。


 もしかしたら、森先生も入会希望なのかなあ。と、思いついたのは、アパートの前まで送ってもらった後だった。


 ……入会案内、持ってった方がいいかも?

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