13.思いがけない………
遅くなりました! (><)
書きながら毎日更新って難しい………
実践してる人たち、すごいなあ………
「佐々木さん」
カフェを出たところで長谷川さんに声をかけられた。
「本当は駅までお送りしなければならないところですが、今日はナイトがいるようですので、ここで失礼しますね」
え?
ナイト?
「わかりました。お引き受けします」
私の代わりに森先生が答えた。
ああ、ナイトって、森先生のことか。
「では、失礼します」
「あ、はい、ありがとうございました」
反射的に答えて一礼するが、頭の中はさっきの話で一杯だ。
とにかく、副校長経由で相手先に連絡してもらうしかないよね。
いきなり私が連絡するわけにはいかない。
「佐々木さん」
駅とは違う方向へ歩いていく長谷川さんの背中を見ながら考え込んでいたら、ぐいっと腕をつかまれた。
「帰ろう」
森先生は、私の腕をつかんだまま、長谷川さんとは逆の方へ歩き出した。
ええと。
また何か機嫌悪くないですか?
「あ、あの、森せ……森さん、腕、痛いです」
「あ……ごめん」
抗議すると、力は緩めてくれたけど、離してくれない。妙に速足で、ついていくのが大変。
「あの、森さん、も少しゆっくり……」
「……ああ、今日、ハイヒールだもんな」
そういうと、ようやく歩調を緩めてくれた。
「佐々木さん、今日は、ずいぶんお洒落だよね」
「え? ええ、まあ。このくらいしないと失礼かなって」
美容師さんもそう言ってたし。
「ふうん……」
「新しい服を着たかったっていうのもあるんですけどね」
「そう」
うーん。
相変わらず何だか不機嫌。
どうしよう。
何を言えばいいのかわからない。
結局、私たちは無言のまま駅に到着した。
車内は空いていて、私たちは並んで座ることができた。
でも、その。
なぜか森先生の距離が近い。
改札を通る時に腕は離してくれたけど、今はそれ以上に密着してる。
ぶっちゃけ、肩を抱かれてます。
どうしてこうなった。
そのくせ、森先生は私の方を見ない。
じっと宙を睨んでいる。
なんなんだ。
小さく息を吐いた瞬間、ふっと眠気が襲ってきた。
そう言えば今日は、美容院行くのに早起きしたし、博物館で結構歩いたし、この席、日当たりが良くてポカポカだし、電車の揺れが心地いいし…………。
「佐々木さん、起きて」
揺り動かされて、ハッと目が覚めた。
「次で降りるよ」
「え、あ………」
どうやら私、森先生にもたれたまま、すっかり寝てしまったようです。
「…………!!」
身体を起こそうとしたら、ものすごく近くに森先生の顔が!
なんでッ!?
反射的に離れようとしたけど、腰をしっかりホールドされてました。
え? え? え?
「あ、ごめん、びっくりさせちゃった?」
なにその無駄に良い笑顔。
さっきまでの不機嫌どこいった。
何か言おうとして何も言えず、口をパクパクさせているうちに、電車は駅に到着してしまいました。
「さ、降りよう」
言われなくても降ります。
だからその、腰に回した手を離してもらいたいのですが。
エスコートされるようなお嬢様じゃありませんから!
「ええと、先……森さん」
「ん?」
「その、手を……」
離してほしい、と言いかけたのですが
「ん? つなごうか?」
なんで!
と、抗議する間もなく、サッと手をつながれてしまいました。
「え、ちょっ……」
「ん? こっちがいい?」
って、なんで恋人つなぎに変えるかな!?
はあ………
………もう、どうでもいいや。
「ところで先生」
改札を出たところで、あえて『先生』と呼びかける。
途端に眉をひそめる森先生に構わず、言葉をつづけた。
「さっきの長谷川さんの話、似てませんか?」
「似てるって、何に?」
あ、また口調が不機嫌。
「ほら、隣の小学校の1年生の……」
DV、という言葉は口にしない。
どこに耳があるからわからないから。
「…………? あの、取扱注意の子?」
途端に、先生の表情が変わった。
いつもの教師の顔だ。
仕事モードに切り替わったって感じ。
でも、何のことだかわからないみたい。
「………あれ? もしかして、副校長から聞いてるのって、私だけですか?」
あ、そうか。
よく考えたら、夕会であそこまで事情は説明しないか。
「………何の話?」
「えっと、ですね…………」
まずいな。
往来でできる話じゃない。
「その、ちょっとここでは」
「ああ、そうか」
森先生は、その場でしばらく考えこんだ。
いつの間にか手が離れている。よし。
ややあって、先生はためらいながら口を開いた。
「その………俺の家に来るか?」
「え………?」
「あ、その、へ、変な意味じゃなくて!」
「え? あ、いえ、それは思ってないです」
「あ……あ、そう」
思ってないんだ……と、ブツブツ呟く先生。
「あの、私は構いませんけど、大丈夫ですか? いきなりお邪魔して」
「あ……」
先生は、ハッと顔をあげた。
「あ、うん、あの、ちょっと、ちょっとだけ、片付ける時間くれるかな? その、他の場所ってわけには。ほら、話題が話題だし、その」
「じゃあ、そこの本屋で時間つぶしてますから、片付いたらメールもらえますか?」
「あ、ああ、わかった。なるべく早く片付けるから!」
そう言うと先生は、ダッシュで自宅方向へ駆けていった。
「……やれやれ。なんか疲れた」
私は、大きくため息をつくと、本屋に向かって歩き出した。
結局メールと共に森先生が本屋まで迎えに来てくれた。
いや、場所わかってるんだけどなあ。
で、何もないからと下のコンビニで、ペットボトルのお茶とスナック菓子を購入すると、その上の居住階へ上がっていった。
先生の家は2階の一番端だった。ちょうどコンビニの真上だ。
「お邪魔します」
「どうぞ」
「うわ、広い。いいなあ」
2DKだった。
入り口を入ってすぐがフローリングのダイニングキッチン。
手洗いの奥のドアがトイレかお風呂だろう。
南側に2部屋あるけど、1部屋は引き戸がしっかりと閉められている。
引き戸が開け放たれたもう1部屋は和室だ。
「そっち、適当に座って」
和室の中央に座卓。
壁際にテレビ。
もう一つの部屋との境にも引き戸がある。
が、そこもしっかりと閉められている。
「もしかして、そっちが寝室ですか?」
「そう……だけど、お願いだから開けないで」
なるほど、全部そっちの部屋に押し込んだわけですね。わかります。
「和室は6畳ですね。そっちも同じくらい?」
「ああ」
「いいなあ……私、ワンルームですよ。8畳くらいの」
壁一面本棚で埋まってるから、実質6畳くらいだし。
「ええと、座布団なんて洒落たもんはないんだ。ごめん」
「あ、大丈夫です。でも、ちょっと足を崩させてくださいね」
「うん、楽にして」
言いながら森先生は、買ってきた品を座卓の上に並べ、腰を下ろした。
「……で、何に似てるって?」
「ええと、実はですね…………」
私は、ペットボトルのフタを開けながら話し始めた――
「………もしそうだとしたら、偶然にもほどがあるとは思うけど」
しばし考えこんだあと、先生は言った。
「無視するには共通点が多い気がする。佐々木さんの言う通り、一度確認した方がいいだろうな」
「ですよね」
よかった。森先生の同意を得られて。
「でも、佐々木さんはそれでいいの?」
「え?」
「もし、そうなら、長谷川さん、前の同棲相手を選ぶかもしれないよ」
「そうですね。もしかしたら自分の子供かもしれない訳ですし」
「いいなと、思ってたんだろう?」
「確かに、今まで会った人の中では一番馬が合いましたけど、でもそれだけですから」
「………本当に?」
「ええ。それに、もしその子が本当に長谷川さんの子供だったら、その方が絶対にいいと思います。子供のためにも」
「…………」
「ぶっちゃけ、大人はどうでもいいです」
それこそ自己責任だ。
「でも、子供は違う。その子の所為じゃないのに、なんで身体にも心にも傷を負わなきゃならないんですか」
「……ああ、そうだな。それは俺もそう思うけど、でも、その、さっき本当にって聞いたのは、そうじゃなくて……」
「え? 違うんですか?」
「その『今まで会った中で、一番馬が合う』っていう方。それが本当かって、そういう意味、だったんだけど」
「あ、そっちですか。ええ、そうですけど?」
「確認するけど、その『今まで会った人』っていうのは、『ゼロネットのシステムの中で出会った人』っていう意味だよね?」
「え?」
「……だからその、『会った人』の中に、俺は入ってる?」
「………は?」
「俺、結構仲良くなったつもりなんだけど、俺よりも長谷川さんの方が馬が合った?」
「え………ええっと…………」
「……ねえ、佐々木さん」
ぐいっと先生が身体ごと近づいた。
「俺も入れて」
「え?」
「俺を、佐々木さんの婚活の候補に入れてほしいんだ」
「え、え、ええッ!」
「………好きなんだ。君が」
「はい~~~ッ?」
………すみません、脳の処理容量超過です。思考停止に陥りました。
「……佐々木さん。綾さん」
「え………」
オーバーヒート状態のところにまさかの名前呼び! パニックです!
どうしていいかわかりません!
「『友達』じゃ、足りないんだ。ずっと、そばにいたい」
ず、ずず、ずっとって、ええと………
「………俺じゃダメか?」
森先生が更に近づいてくる。
「俺は………綾の隣に他の男がいるなんて耐えられない」
って、さりげなく呼び捨てされたし!
ふいに、腕を取られ、そのままぐいっと身体が引かれて。
気が付いたら天井が見えてます。
顔の横に先生の手が。
ってこれ、もしかしてもしかしなくても、まさかの床ドン状態ですかぁ!?
「え………」
慌てて起きようとするけど、抱え込まれていて身動きが取れない。
少しだけ身じろぎするのがやっと。
ゆっくりと、顔が近づいてくる。
唇が触れそう。
堪らず、ぎゅっと目を閉じる。
吐息が頬をかすめ、耳元に落ちる。
触れては、いない。
吐息だけが、肌をかすめる。
心臓が早鐘を打つ。
こんなの、知らない。
こんなドキドキ、知らない。
こんなの、森先生じゃない。
「………綾は無防備すぎるよ」
耳元で低く囁かれた声に、全身が跳ねる。
「一人暮らしの男の部屋に上がり込むもんじゃない。しかも、そんな可愛い格好で」
いえ、この格好は偶然なんですけど!
っていうか、部屋に誘ったのは先生の方で!?
あの状況で、他にどうすればよかったんですか!
「駅前にカラオケもあったよな」
「………あッ!!」
そうだよ、それがあった!!!!
なんで気が付かないの私!
思わず目を開き、慌てて閉じる。
……だから顔、近すぎ!
「………綾」
だから耳元で囁かないで!
吐息が掠めてくすぐったい!
「まいったな……。正直、さっきから抱きたくてたまらない」
低い声がいつもと明らかに違って、反射的に身体に力が入る。
「そんなに、緊張しなくていいよ」
ふっと、先生が笑った気がした。
「……わかってる。これは俺の、一方的な、身勝手な思いだ。だから」
そっと手が放される。
ふっと軽くなった。
「押しつけはしない。何の修業だっていうくらい辛いけど、でも君を傷つけたくないから」
薄目を開けると森先生はもう起き上がっていた。
起き上がって、じっと私を見ている。
「君が、大事だから」
「…………」
正直、それがどのくらい辛いことなのか、私にはわからない。
でも。
「森、さん………」
誠実に、正直に、自分の想いを伝えてくれたことはわかる。
「その、私………」
「俺が対象外なのは知ってるよ」
先生は苦笑しているようだ。
「ただ、俺が堪えられなかったんだ。このまま『友達』でいることに」
「…………」
「だから今から、少しでいいから、考えてくれ。俺のこと」
私は、大きく深呼吸をすると、まっすぐ森先生を見つめた。
誠実には誠実に、正直には正直に返さなければ。
「あの、森さん」
「ん?」
「まずは……今まですみません。私、かなり失礼なことしてましたね」
「まあ、ね。正直、ちょと辛かったよ。君の婚活の話を聞くのは」
「……そしてこれからのことは……少し、時間をください」
「ああ。急がなくていいから」
「はい」
「それから、ダメならダメとハッキリ言ってくれ」
「………え」
「言われるまでは………期待、してるから」
「…………わかりました」
そう言うと、私はのろのろと立ちあがった。
「ごめんなさい、今日は帰ります」
「……ああ、その方がいい。これ以上は……俺も理性の限界だ」
私は、ペコリ、と頭を下げて、玄関に向かった。
靴を履いて向きなおると、先生は少し離れたところに立っていた。
………視線が、熱いです。
「あの、一つ聞いていいですか?」
「ん?」
「いつから、ですか? その、いつから私のことを……」
「……さあ。いつからだろうな」
「え?」
「いつからか……いつの間にか、気付いたら、好きになってた」
「………なんで……」
「何でだろうね。俺にも……良く、わからないよ」
「…………」
再びの沈黙に耐えられず、私は、再度頭を下げると、玄関の戸を開けた。
「あのさ」
外に出ようとした背中を先生の声が打つ。
「……朝の通勤時間、変えた方がよければメールして」
「………わかりました」
そう言って、私はそっと扉を閉めた。




