βの仲間?
「ん、早速やっていますね」
………が街をぶらぶら歩いていると、『魔物討伐。参加者求む』という看板がたくさんあった。
「だけど、ククが育てた魔物に勝てる人は現れるのでしょうか?」
ローブを着た、ククは不敵に笑った。
「クク、あれだね。ご主人様がククの元テイムモンスターのことに気付かなくて良かったね。気付いてたらだけど、あの人、多分頭の回転は早いと思うから、すぐに答えが出されていたかも?」
「そうですね………ん、あら?いたのですか?クロ。いえ、今は……シャド、でしたか?」
暗闇から姿を現したのはシャドでした。
「シャドでいいよ」
「では、シャド。貴方から見たご主人様は今どんな様子ですか?何か、変わりましたか?」
「いや、変わるも何も。知り合った時期も最近だし、特に何も」
「ふむ、そうですか…。はい、有り難うございます。では、引き続き監視を」
うん、とシャドが頷いて、影に身を潜め、消えていった。
ククは、シャドが消えていくのを確認し、頭を抱えた。
……あの、御方は何故、私の魔物を見ても何も気付かないのでしょう…。
たった、3週間前の事でしょうに…。
βテストの時にも、正式版では一緒に遊びましょう…って約束しましたのに…。
まさか、ヒメは記憶喪失にでも?
いろいろ考えましたが、ククにとってのヒメが帰ってくるまで待つことにしました。
とにかく、今は別のことをしましょう。ガウを探しませんと……。
◇ ◇ ◇
「クロヒメ様!」
「えーと、名前は何にしよう…。やっぱりかっこいい名前?それとも可愛い名前?……でもなぁ……」
「聞いているんですか!私の声、聞こえてます?」
「え?うん、聞こえるよ?ごめんね、なんか可愛い声聞いたから。辿ってみた」
「はぁ…。それで、みつけたんですか?」
「うん、見つかった」
うんうん、簡単に見つけられるわけないですよね。クロヒメ様ですかr……!?
え?今なんて?
「見つけたんですか?」
「うん、ほら、あそこのローブの娘」
「へーあれですか…。そういえば、シャドがいませんね。どこ行ったのでしょう?」
クロヒメはクーの呟きを聞いて、答えた。
「多分だけどね、シャドは……私達の監視役」
クロヒメはそう答えて、フードに近付き、その細い腕を掴んだ。相手の「あ、なにを…」という声を聞こえぬふりをして、暗い路地に引きずり込む。彼女達の本拠地だと確信して。
◇ ◇ ◇
うわ、適当に連れてきたけど、本当に暗いな、ここは。
シャドが好きそうな、空間だ。
「さてと、話をしようか?クク」
クーの顔は何となく驚きに染まっているような気がした。まぁ、顔が少し青い…どうしてでしょう?
ククと呼ばれた少女は…何故か、顔を隠して、「あぅぅぅぅ」と、悶えていた。
ていうか、顔隠しきれてないぞ、顔が紅いの見えるぞ。そんなに私に会えたのが嬉しかったのかねぇ。
「で、βぶりだけど、何故、私から隠れて行動していた?それにあの魔物も。クーが適当にバグだって言って、紛らわしたけど」
そ・れ・に、と続け、
「あの子、がうでしょ?β時代のククのテイムモンスター。当然、あの子は私のことを知っていると思うけど?あと、あの溢れ出る狂気の魔力は?もしかして…失敗した?」
質問が合っていることに期待してククに顔を向けた。
質問された、本人はこくんと頷いた。見ると、少し肩が震えていた。
「もしかして、寂しかった?私はもうちょっと早く話しかければ良かったのかな?」
「まさか、ヒメはククの事を放置していたのでしょうか?」
「ん、いや。単純にアバターが分からなかった。ごめんね、寂しかったでしょ」
そう言い、クロヒメは地面に腰を下ろした。
ククは一応、1ヶ月間、βで過ごした仲間だ。何をしようとしているのか、すぐに想像がついた。
「あの、ヒメはもしかして?」
「ん?うん、作戦会議。ギルドに討伐される前に、私たちでがうを逝かせてあげる準備を、ね♪」
「う…ん」
「では、正直言うよ。あの魔物は弱い」
「「「え!?」」」
あれ?今、2人の声に1人混じっていたような?
あ?
あぁ…シャドか、忘れてた。影の中から手を出してなかったら気づかなかったかも?
シャドは、影の中から出てきて、クロヒメに首を傾げた。
「なんで?ご主人さまはシャドのことわかったの?」
「いや、単純に怪しい。し、それに魔物の時も、いきなり私のところに現れて、勝手に影の中に隠して……。何か隠したいことでもあった?」
「え?えっと…。あ、そう、ご主人さまが危なそうだったから」
「え?なに?さっきのこと聞いてなかったの?あれは弱いって言ってるの」
…………………!
今度こそこの場にいる全員が口を開けて固まった。
ククでさえ、止めきれなかった元テイムモンスターを弱い、その一言で言い切ったのだから。しかも、あれ呼ばわり。
「さて、はい。私が1人で滅ぼしてきていい?」
「ククも付いて行きたいのですが。よろしいでしょうか?」
「うん、みんなも付いてきなよ。私の実力見せてあげる」
クロヒメはそう言い、立ち上がり、自身に魔法を掛けた。
「エンチャント、身体は空気の様に軽く、脚は風のように疾走る。疾風。それじゃ、お先に」
◇ ◇ ◇
〜森林エリア〜
着いたー!やばいな、この風魔法。どんだけ脚速くなるんだ。
さて、ここは森の最深部だよね?魔物の気配がするような気がするけど、どこから来るのだろうか?
「がァァァァァァ!」
まさか、
「上から来るとはね。だけど、それくらい予想していたんだよ?Lv.3、風魔法、風翔逆波」
それは上から体重掛けて襲ってきた魔物を関係なしに吹き飛ばした。
吹き飛ばされた魔物も、目をぱちくりしていた。
いつものクロヒメならば、そして、目の前にいるものが普通のモンスターならば、すぐに可愛い!と言い無理やりテイムしていたが…。今は違う。
「なんか、怒った。まさか、わざわざ君を倒しに来たのに、不意打ち仕掛けてくるとはね」
少し怒り顔で、右手、人差し指を上げた。
「Lv.1、土魔法、ストーンバレット」
指先から、尖った土の塊を出し、魔物に放った。
◇ ◇ ◇
「わぁ!?」
誰が発した声なのかは分からない。
ククたちは目の前の光景に驚いていた。それほど信じられないくらいの出来事だったから、だ。
ククたちがクロヒメに追いついたのは、ちょうど風翔逆波を放ち、魔物を吹き飛ばしたところだった。
クロヒメが何かを呟いていたが、少し近くないところにいる、クク、クー、シャドには聞こえなかった。
皆が固まっていると、もりりんがモンスターboxの中から勝手に飛び出して、クーとシャドに吠えた。
「ガウ、ガウゥゥゥ」
と。なんて言ったのかよく分からなかったが、もりりんのその後の行動で答えが分かった。
もりりんは、間髪入れずに敵に向かって突っ込んだ。まるで、少しでもご主人様を楽にさせてあげようという、考えを持っているかのように。
クーとシャドは顔を見合わせた。30秒位して、シャドは、
「行こー、どんなことがあっても、やっぱりシャドのご主人さまはご主人さまだけだよ」
「そう言ってくれるのを待ってました」
「えっと?それ以外の反応だったら?」
「えぇ…シャドに地獄を見せてあげようかと考えていました」
「う、うん……うん。行こ」
そうして、2人もまた、敵に向かって行った。
あとに残ったのは、クク1人だった。
正直…ククはどうすべきだったのでしょう…。そして、これからどうすべきなのでしょう。もっと早くヒメに相談していれば、このような事態にはならなかったはずですのに…。
もっと…私に考える力をください…。
…………………………………………………。……そうでした。
これからどうすべきか…は、ヒメと一緒に戦えば、ただそれだけで良かったんでした。
倒しきったら、ヒメに感謝すれば、ただそれだけでしたのに。
…もう、私はなかなか頭が硬いですね。
私も、ヒメのような柔らかい頭が欲しいですね。
そう思い、ククもまた、自らが育てたテイムモンスターの元へ駆けていった。