ファーストコンタクト
「つうっ…」
身体に痛みが走り、目を覚ました。
そうか、俺……
「死に戻ったんだな」
はぁ…と息を吐き、身体を起こす。場所は街エリアの中央広場の黒い鉄球の前。GA〇TZを思い出して、少し苦笑した。
あの魔物…強かった。いや、俺が弱かったのか。
そう思っていると、
「セイ!大丈夫か!?」
そう自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。目を凝らしてみると、ある見知った顔の男がいた。
ていうか、ギルド長だった。
「…父さん……」
そう、目の前にいるギルド長とはセイの実の父親なのだ。
アギトは、セイの様子を見て、落ち着いていると分かると、安心したような顔をした。
「それでどうだったんだ?」
言外で魔物は?と聞いた。
「強かった。とても…。俺はまだまだだ」
まだ、と続け、
「勇者にはとてもなれない」
と、呟いて下を向く。
本人は聞こえないように喋ったつもりだったのだが、その呟きが聞こえたのか、セイの父…いや、アギトは楽しそうにニヤニヤし始めた。
「もしかして勇者っていうのは、お前が持っていた漫画のことか?父さんも読んだが中々面白かったぞ」
その言葉を聞いた瞬間にセイの顔は真っ赤に染まった。
「な、何で知って……あ!?違う……んだ。あれは母さんが…買って、それで…」
だが、少年がどんなに訂正しようとしても、アギトはさらに笑い始めた。
「くそー、父さん!ニヤニヤすんなぁー!!」
と、恥ずかしさを紛らわすために大声で叫んだ。少年の叫び声は夜に塗り潰された街によく響いた。
アギトはというと、また一つ息子の恥ずかしい姿を見て内心嬉しがっていた。
◇ ◇ ◇
アギトは、夕方、森林エリアに入って見回りをしていた。そして、1つ気になったことがある。
「なんだ?明らかにモンスターの数が少ない」
これも、今日ギルドに訪ねてきたクーとやらが言っていたバグの影響か。
しばらく歩くと突然近くでモンスター?違う、普通のモンスターとはレベルが違う野獣の咆哮が聞こえてきた。
『ガァァァァ』
木立の間から少し顔を出し様子を見た。
見る限り、戦っているのは、15、6歳の少年と身体中から真っ黒い魔力を噴き出しているライオン型の獣がいた。
少し遠いので、少年が誰だか気が付かなかったが、
『っ、エアスラッシュ!』
その少年の声を聞き、知ってしまった。皮膚が粟立つおまけ付きで。
戦っているのは、アギトの息子のセイだった。
そして、エアスラッシュではバグには通用しないことも直感で分かってしまった。
思ったことは現実になる。実際に放った風の刃はバグの前脚によってあっさりかき消された。
アギトは実際に戦っていないにも魔物の唸り声を聞き、察した。
その声は、まるでこんなものか?と聞かれているようだった。セイは遊ばれている、レベル差にも敵わない。
アギトは思考を巡らせていると、セイは思いもよらぬ行動に出た。思わず、目を見張った。
セイは明らかにキレて魔物に突っ込んだ。
そして、魔物も次の一撃が最後だと言わんばかりに口元に魔力を集め始めていた。
だが、セイは気付いていないらしくそのまま突っ込んでいった。
危ないっ!と叫んだがどうやら遅かったようだ。
アギトの声は魔物が放った強力な一撃によってかき消されてしまった。
魔物の攻撃はセイにまともに当たり、HPを根こそぎ奪われた。セイが身体を消滅させているのを見て、
「…この、馬鹿息子が……」
と呟いた、瞬間、
『戦闘の終了を確認。ペインコントローラシステムを解除します』
…なん…のことだ?
アギトは、考えることに集中して背後に何かが近づいてくるのを感じることが出来なかった。
「君は余計なことを知ってしまったね。少し、記憶を無くしてあげる」
背後で少し幼い女の子のような声を聞き、首に強力な一撃を与えられた。
薄れゆく意識の中で誰かの声を聞いた。
「また次、余計なこと知ったら同じことをする。これは、決定事項なんだよ」
目を閉じる瞬間に、誰かがアギトの前を過ぎった。それは…………。
「…………………は!?」
ここは?と、目を覚ました。そこはいつもよく見る森林エリアの中だった。
「いつつ…、確かセイの見届けて…その後は…」
何も思い出せなかった。確か何かを考えていて…後ろからの攻撃に気付かなかったのか。
そういえば、と時間を見た。死に戻りは約1時間程掛かるので。そろそろセイが死に戻りで戻ってくるはずだ。
アギトは、システムウィンドウを開き、アイテムボックスの中から転移水晶を取り出し、街エリアに戻り、セイが帰ってくるのを中央広場の近くの酒場で待った。
◇ ◇ ◇
アギトは見ていたことをセイに伝えた。
セイはバツが悪そうな顔をし、
「ごめん、父さん。勝手なことして」
「良いんだ。今日はゆっくり休んで、また明日に備えよう。本当の決戦は明後日だからな」
「あぁ、分かった。俺頑張るよ」
こうして、魔物とセイのファーストコンタクトが終了した。