割れ砕ける土曜日
『皆さんおはようございます。本日は朝方に地震があって驚かれた方も多いでしょう。しかし世界滅亡は明日となりますのでご安心を。穏やかな良い土曜日を』
ニュースキャスターの言葉通り、朝方NYRONは大きな地震があった。
しかし震度で言えば三から四の中間。日本人からすればありきたりな地震であった。
狭間進歩は早朝に無理矢理起こされた不機嫌から、意味もなくテレビのニュースキャスターを睨むほどである。
そして朝起きてリビングに足を踏み入れたら、母親が朝食の準備をしつつ笑顔で挨拶をしてきた。
父親は新聞を読みながら今日は地底遊園地だと、少し楽しそうに話しかけてくる。
足元では雑種の犬、名前はコロが舌を出して元気に走り回っている。
狭間進歩はそれに違和感を感じず、受け入れた。内心はそういえば家族で向かう予定だったと思い出していた。
直後におかしいと思いつつ、家族がいることをおかしいと思うのは自分の頭がおかしいのかと悩んでしまう。
こんな気持ちに何度もぶつかった海林厚樹は、相当辛かっただろうと密かに同情しながら、何も言えなくなる。
地下鉄、名前の通り地下へ向かう鉄道電車に乗っていつもの五人とその家族で遊園地に向かう。
暗い地下とは思えないほどの明るい光で照らされた遊園地。ロボット達が客人を陽気に迎え入れる。
週末の土曜日なので家族連れが多く、とても混んでいたが動くには不便ではないほど広い地下世界。
ドリルを持った地底人の少年が同じ白い髪と赤い目をした大人と相談しながら、案内やロボットの調整をしている。
地底人と言われる彼らは一族として遊園地をロボット共に運営していた。太陽の下には出れない彼らも、今は光り輝く遊園地で笑顔を見せている。
ドリルを持った少年の傍には元気そうな同じ顔の青年と少年の中間のような男の子がいた。おそらくドリルの少年の兄弟だろう。
花の妖精ロボットがゴーレムのロボットと一緒に風船を配り、帽子屋のロボットはお茶を吹きだしてはピエロのロボットに怒られている。
モグラのロボットは変な口調で迷子の子供を案内しており、チェシャ猫のロボットは消えたり現れたりしてかくれんぼをしている。
ドードー鳥は地底世界の壁に映し出された青空を飛び回るように低空飛行して、色鮮やかな紙吹雪を降らせている。
Dルームではフラッグウォーズが行われており、アンドール達が楽しそうに動き回る。
中にはアニマルデータがインストールされたアンドールが子供達の指示を受けて返事し、見事な連係プレーを見せている。
狭間進歩達はそれを羨ましそうに見るが、親達は苦笑いで今度のクリスマスや誕生日に、と曖昧な約束をする。
狭間進歩はその言葉を聞いて、クリスマスどころが来週が来るのかもどうか怪しいのに、と思ってしまう。
誰も本気で終末が来ると信じていない。月曜日の狭間進歩も同じだった。海林厚樹の言葉を聞かなければ同じように終末を信じていなかっただろう。
終末の日曜日はもう明日に迫っている。だけど、いやだからこそ、狭間進歩は本気で地底遊園地を遊びまくった。
コーヒーカップを回し過ぎて気持ち悪くなったり、ミラーハウスで変な顔を何枚もの鏡に映したり、アルファベットルームを一通り巡った。
知らず知らず花山静香と海林厚樹の手を引っ張って、次はあそこで遊ぼうと誘う。
実畑八雲と流川綺羅も照れつつも手を繋いで狭間進歩達と一緒に遊ぶ。
少し厚手の服を着たツインテールの少女が両親と仲良さそうに微笑んでいる。
ニャルカさんのお面を被った少年が背の低い少年に手を引っ張られて、慌てつつも楽しそうに次のアトラクションに向かう。
火傷一つしていない綺麗な肌の少年は弟と手を繋いで離れないようにしている。それを両親が微笑ましく見守っている。
近くでは金髪が眩しい少年のようにも見える外国人の少女が、多くの大人を引き連れて楽しそうにロボットを指差している。
熊のような少年と一緒に影が薄そうな少年が老婆とその孫と一緒に談笑している。
三つ子と仲のいい三人組の少年少女が次々と走り回っては、遊んでいる。
今にも眠りそうな少年を起こそうとする少年と、一緒にいる少女達。その内一人は爆発する勢いで笑っている。
ゴリラのような少年が珍しい花を見て陶酔し、それをフードで髪の毛を隠している少年が怒鳴り、気の弱そうな少女が仲裁に入っている。
ゴーグルをつけた少年がスケッチブックを片手に持っている少女を連れて歩いている。
それを見守る神父と少女の両親らしきふくよかな夫婦。
特に妻の方は二人目を妊娠しているのか、膨らんだ腹部を愛おしそうに撫でている。
夢の中のように光り輝く地底遊園地には幸せしかなかった。
誰もが笑顔で何事もなく大切な自宅に帰れる、優しくて泣きそうなほどの日常。
遊び疲れた狭間進歩は電車内で母親に体を預けて深い眠りに落ちていた。
海林厚樹も、花山静香も、流川綺羅も、実畑八雲も、全員が自分の家族に寄りかかって寝ていた。
それはどこにでも存在する家族の光景で、朝に大きな地震があったことなど忘れてしまうような安らかさだ。
電車から降りる時は父親が背負って、起こさないように運んでくれる。
広い背中は心地よくて、狭間進歩は一向に目を覚まそうとしない。
なので花山静香達にまた明日と言うこともなく、別れることになる。
また明日、と言わなくても結局明日会うことを狭間進歩は心の奥底で感じていた。
予定として宇宙エレベーターに向かうことも月曜日の時点で決まっていた。
だから心配することはない。明日の心配は明日すればいい。それが最後の明日だとしても。
幸せなまま土曜日は終わりを迎える。
無情なほど、呆気なく、終末は近づいてきていた。




