Falco-ファルコ-
何処までも強く。
何時までも気高く。
いかなるときも己を律し、いかなるときも己が内を乱さぬように。
そうしてユリアは自分に厳しく、決して甘やかすことなく過ごしてきた。
だからなのだろうか。ユリアは非現実的な事象にはてんで弱いし、自分の頭が、事象の処理に追いつかないなんてこともままあった。今だってそうだ。正直、なにが起こっているのか全くと言っていいほど分からない。
目の前でゆったり堂々と構えている女性は、目のやり場に困るような露出の激しい服を着て、足を見せるなどというはしたない格好をしているにも関わらず、余裕を感じさせる笑みを浮かべてユリアを見つめてくる。
「久しぶりに人に会ったと思ったら、こんな小童だとは……。嘆かわしい、実に嘆かわしい」
女性は隠すこともなくため息をつくと、じっと、試すような視線をユリアに向けてきた。たまらず、ユリアは視線をそらし、逃げるように一歩足を引く。そうすると、相手の女性の方もじりりと一歩、近づいてきた。
なぜこうなってしまったのか。ユリアは必死に、女性を見つける前のことを思い出そうと頭をフル回転させる。
そうだ、確か、森のなかを歩き探検していたら、岩肌に大きな穴が開いていたから、中が気になって文入ってきたんだ。なにか危険なものが隠れているなら大人たちに知らせなければならないし、もしなにもない空間ならば自分の秘密基地にできやしないかと思って。
実際岩肌の中にあったのは――いたのは、小麦色に焼けた肌を惜しげも無く晒している、なまめかしい女性で。しかもその女性は歌を口ずさみながら、その歌に合わせて風を起こしていたのだ。ふわりと柔らかなそよ風。地面の落ち葉や枝を巻き上げる旋風。固い固い岩を切り崩すくらい強いかまいたち。
一見しただけでは、なにが起こっているのか分からなかった。
女性が、風を操っているようにしか見えなかった。
「おや、そこの」
驚いたような、しかしどこか嬉しそうな声がユリアにかけられる。
歌声はやんだ。風もやんだ。――そして冒頭に戻るわけだ。
女性じゃただただユリアを値踏みするように、上から下までじっくりとっくりと眺め回したあと、また彼女はため息をついた。
それから、射抜くような視線をユリアに向けたあと、彼女は一言、問うた。
「小童。貴様はなにを望む? 富か、名声か。或いは、永遠の命か。どんな下らぬ願いを吐き出す?」
「私はそんなものいらない。そんなつまらないものは、いらない」
即答したユリアの言葉に、女性の目が眇められた。
「では、なにを望む」
「私は――……」
正直に、自分の望みを口に出したのがユリアの運の尽きだと言えばそれまでだけれど、ユリアは、その選択を一度も悔いたことはない。
「私は、なんでも楽しんでいられる、なににでも傷つく、何者も慈しむ、そういう心を持てればそれだけでいい」
島谷ひとみさんの「Falco-ファルコ-」イメージ
ましゅへ