デッドライン
なに、話って。
私になにか用事があるんでしょう? なるべく手早く済ませてね。私も、あまり暇ってわけじゃないの。
……なに? つまり私は、今、君に「愛の告白」とやらをされたの?
くっだらない。
うん? くだらないって言ったの。聞き間違いじゃないよ。くだらない、とっても、どうでもいい。
正直ね、愛だの恋だの分からないし興味もわかないんだけれど、……ああ、君の感情を否定するつもりはないよ。そこは勘違いしないで。……分からないし、興味もわかないんだけど君が私に惹かれたのは、まあ、よしとしよう。それは素直にありがとう。嬉しいよ。好意を向けられるのは嫌な気持ちはしない。
でもね、なんて言えばいいのかな。君、私にとってはただの友達だよ。ううん、むしろ今のこのイベントを受けて、友達から一気に知り合いまで落ちた。なんかね、すっごく、うざったい。そういうの、嫌いなのよ。慣れ合いっていうの? そういう、ごっこ遊び? 私、嫌い。
……今度はなに? なにか文句でもある?
はあ? いや、え?
君、なに勘違いしているの? 私は一度も、君に友情以上の感情を示したつもりはない。
大変そうだから手伝うって言ったのも、一人でいたところに声をかけたのも、姿を見かけたからって駆け寄るのも、全部全部、君に対する友情のため。しっかり、形で示さなきゃと思ったから。
本当のこと言っちゃえば、いつもいつも近い距離まで迫ってくるの、とっても気持ち悪いと思ってた。なにかあるたびに撫でてきたり肌に触れてくるの、気色が悪かったの。でも、そんなのはっきりいうと傷つけちゃう……というより、そのあと面倒じゃない。
なんなの、君。もしかして、「自分は特別に思われているんじゃないか」とか、勘違いしちゃったの?
……本当、気持ち悪い。
私、君のためになにかするとか、絶対無理。よく思い出してご覧よ。君に対する態度、なにかひとつでも特別なものあった?
挨拶をするのも、手伝うのも、笑顔を向けるのも、タイミングがあえば涙を見せるのだって、私は誰にでもしていたことでしょ。それとも、そんなのに気づかないほど見てなかったのかな。好きだって言った人のこと見ないって、それはそれでおかしいと思うんだけど、どう?
はあ、もう、いい?
くだらなすぎて、疲れてきちゃった。
や、ちょっと! さわらないでよ!
……なにその顔。裏切られたとでも? いきなり腕掴んできたら誰だって拒否するに決まってるじゃない。
それともなに? 君は、「自分なら特別になれる」とでも思ったから押してきたの?
だとしたら、思いあがりも甚だしいよ。いっそ、そこまで勘違いできるの、幸せでいいね。
……ああ、もうこんな時間か。
じゃ、私帰るから。
なによ。
私にはもう、君に構うだけの時間と労力をつかうつもりはないの。
じゃあね、名前も忘れた、友達だった誰かさん。
阿部真央さんの「デッドライン」。
シルフさんイメージ。