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サンタマリア

 眩しい。

 中途半端に仕舞ったカーテンから、光が降り注いでくる。

 眩しい。

 寝起きの目を軽くこすってから、逃げるように寝返りをうつ。

 隣にあった体温に、腕があたった。


「……ん、」


 まだ眠っているのであろう彼女は、うざったそうに眉を寄せて、にも関わらずこちらに擦り寄ってくる。まるで、飼い犬かなにかのようだ。

 微笑ましくなってゆるく頭を撫でれば、薄らと、彼女の目が開いた。


「……ツカサ?」

「おはよう、ヒヨリ」


 時計が示す時間は十二時少し過ぎほど。

 外ではセミが鳴きわめき、室内は熱気がむわりとこもっている。

 互いの肌にはじっとりとした汗が浮かんでおり、ぺたぺたと張り付いて、気持ち悪い。


「おはよう。……今、何時」

「十二時六分」

「……細かい」


 眠そうに、ヒヨリが目をこする。彼女自慢の黒髪は汗を吸い込んで湿っており、彼女の頬にくっついて散っている。

 どちらかともなく互いを抱きしめて、のんびりと、ベッドの上で過ごす。とても、怠惰な時間だ。

 カーテンから差し込む日差しはどんどん強くなっているようで、一筋の光にさらされている片足が暑い。聞こえてくる音には車や電車の音がまじり、遠くから遠くへと行ってしまう。

 腕の中にヒヨリを抱きしめながら、ぼんやりと、彼女も遠いなと思ってしまう。


 遠い。とても、遠い。


 触れることができるのに。

 触れることができるからこそ。

 ヒヨリとの距離が、とても、とても遠く感じてしまう。


「ねえ、ヒヨリ」

「ん? なに、ツカサ」

「もし、もしだよ。もし僕が……」


 言葉が紡げない。

 遠くでセミがなく。


「もし僕が、心中しよっかって言ったら、どうする?」


 ヒヨリの瞳が、黒くきらりと輝いた。

 遠くでセミが泣く。


「そう、だねえ」

「ごめん、やっぱり今のナシ。聞かなかったことに」

「本気なら、いいよ」


 思考が固まる。

 腕の中の彼女が擦り寄ってきた。

 甘えるように、側に寄ってきた。


「ツカサが本気で死ぬことを考えていて、そこに私を連れて行きたいと思うのなら、私は喜んでついていく。楠ヒヨリは、ついていく。あの世でも、地獄でも、ついていく。ツカサが本気で私を殺してくれて、追いかけてくれるなら、私がツカサを殺して追いかけることを許してくれるなら、私は、君と、心中しよう」


 迷いない言葉だった。

 だからこそ、狂気的だと思った。

 遠くでセミが無く。

 ああ、ああ。ないている。確かに遠くで、泣いている。


「……ヒヨリ」

「なあに、ツカサ」

「眠いな」

「そうだね、眠い。それよりも、暑いよ」

「そうだな、暑い。それよりも、」


 言葉は飲み込み、ただただ、ぎゅっと、腕の中の彼女を抱きしめて、自分はゆっくり瞳を閉じた。

 愛おしそうに幸せそうに、「ツカサについていく」と語った彼女の表情が、脳裏から離れてくれない。


 ああ、また。

 遠くでセミが亡く。

米津玄師さんの「サンタマリア」

花咲璃優さんイメージ。

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