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告白

 いつも笑っている彼は、どうしてそんなに楽しそうなのか私には分かりませんでした。

 病室から出られない私のもとに足繁く通う彼は、笑顔を引き連れて、笑いの種を連れてきて、毎度毎度、私を笑わせようとしてくるのです。はて、一体なにが面白いのでしょうか。私と一緒にいるだけでも変わった方だと思うのに。

 面白おかしい話を、私が寝ているベッドの横でしてけらけらと笑っては、時折寂しそうな目線を向けてくるのです。私に、なにを求めているというのでしょうか。彼は、なにがしたいのでしょうか。私にはよく、分かりません。


「君は本当に笑わないんだね」


 くすくすとおかしそうに彼は笑います。

 無機質な病室の中に、ガラスを弾いたような、きれいな声が満ちました。


「ええ、必要がないと思うので」

「これじゃあまるで道化師だ。君の専属でございます」


 恭しく芝居がかった動作で彼はお辞儀をしました。

 なんて不釣り合いなのでしょう。にやついた笑顔と動作の差異が、なんだかおかしくて。じっと見つめていれば、彼は困ったように笑って「似合わない? だめかなあ」なんてまたふざけて。


「ええ、似合わないと思いますよ。ちょっと……はい、不釣り合いではないでしょうか」

「えー? じゃあどんなのが俺に釣り合うか教えてよ」


 にこにこと、きらきらと。

 びぃ玉のように光を透過する瞳を私に向けて、パイプ椅子から身体をちょっと乗り出すようにして、彼が尋ねてきました。

 どう、と聞かれても困ってしまいます。なんて表現すればいいのでしょうか。私は、言葉を多く持ち合わせていないのです。

 考えて考えて、やっと出てきた言葉はありきたりで。

 こんな言葉では足りません。……本当に、なんと言えばいいのでしょうか。

 諦めたように彼は笑って、「困らせちゃったかな? ごめんよ」とつぶやいて、また別の話題に移動していきました。

 ああ、ああ、そうじゃないのです。私が、私がただ、当てはまる言葉が見つからなかっただけなのです。

 いつものように、ばかみたいに笑っている表情が好きなのです。本当に、心から楽しいと謳うような笑顔が好きなのです。そういうつくった、仮面のような、格好つけた笑顔じゃなくて、くしゃっと紙を丸めるような、あなたのその表情が好きなのです。

 ねえ、なんて言えばいいのです? こんな、飾り気も味気もない言葉を渡していたら、あなたは喜んで、また笑ってくれたのでしょうか。

 ――だから、とっても難しいのです。だから少し、おしゃべりは嫌になってしまうのです。

 ねえ。

 あなたが笑えるのなら、謳うような笑顔をこれからもずっと見せてくれるというのなら、私はずっと、笑わない、鉄仮面を貫こうと思います。

 だからずっと、そこにいて笑っていてはくれませんでしょうか。……やっぱりこれは、わがままになるのかなあ。

 本心は言えないまま、私はそっと口を閉ざして、未だ横でべらべらとしゃべり続ける彼の声に、耳を傾けるのでございます。

supercellさんの「告白」になります。

IMUTATUMIさんイメージ。

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