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WOODEN DOLL

 火にくべる。

 荼毘に付す。

 燃え盛る煙が夜空に昇る。


「なあ、ちょいと一緒に笑おうぜ」


 一緒に踊っていた男が、私に向かって小さな椀を手渡すと、その中になみなみと日本酒を注いできた。


「今晩は祭りじゃ、遊びじゃ、盛大にやるぞー!」


 どこかで誰かが叫んだ。

 椀に注がれた酒は夜空の月と、炎のゆらめきを写しだし、宝石箱の中身のようにきらめいている。

 ここは、どこなのだろう。私は、自分の足で歩いた記憶などないし、そもそも先ほど自室のベッドに寝転んだはずだ。となると、今見ている景色は、私の夢……ということに成るのかもしれない。


(変な夢だなあ)


 まわりをぼんやりと見回しながら、思う。

 真ん中にあるのは大きな大きな人形。人形は火にまかれて煙を上げながら倒壊していく。それを囲うように数人が楽器を手に取り、歌い、踊ってはこけて倒れて笑って、他の人の手を取って立ち上がりを繰り返していた。

 それらはだだっ広い荒野の真ん中で行われているようで、目線を走らせる限り建物も、道も、人も、なにもかもが見つからない。強いて言うなら、見惚れるほどに美しい地平線を見つけたけれど、それも夜だからか、あまりはっきり見えやしない。

 空には今にも落っこちてきそうな程に輝く星と、その星を引き連れ回る満月の姿。

 手元の椀にもう一度、意識して月を照らしだして見る。


「月を、手に入れたぞ」


 くすりと、笑みが漏れた。

 なにをバカなことを言っているのだろう。手元にあるのは幻影だ。実態は、ずっとずっと届かないほど向こうにあるのに。――なにをバカなことを言っているのだろう。

 ごおぅ。炎が音を立て、人形が声を上げ、音色を奏でて崩れた。蛍火のように火の粉が踊る。


「いやっふー!」

「崩れた崩れた!」

「でくのぼうが落ちたぜ!」

「これで次のが作れるぜー!」

「やっほー!!」


 楽器を演奏していたその人達は、本当に嬉しそうに喜んで、飛び上がって、また歌い始めた。

 歌い出したのは愛の歌。恋愛じゃない、愛の歌。

 “僕”を見てくれる“君”の歌。


「ああ、いいな……」


 つぶやき、酒をまた一口飲んで、月を口内へと運びこむ。

 うん、美味しい。

 月下の酒と、地上の炎。満ちる歌に輝く星々。

 ここは最高の宴の席だ。

 私はひっそり、彼らに向かって盃を掲げ、頬に笑みを刻んだ。

 今宵は、飲み明かそうか。

米津玄師さんの「WOODEN DOLL」です。

炭酸スイさんイメージ。

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