表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショート集ですの。[東京多摩]

隣の人でなし

作者: 東京多摩

 隣家の人間は、いつの時代も面倒なものである。私が生まれた地域は町内関係が希薄だったが、それでも隣三軒までの付き合いはあった。小さいときは、夜は五月蠅くなるからと、大好きだったピアノを禁止され、大きくなってからは友人との宴会も自粛をしてきた。

 今現在、私が住んでいるのは、大きなアパート一室だ。しかし、ここではいくら騒いでも問題はない。壁と天井は特殊な作りで、振動や音をすべて吸収してくれる。左隣は空き室であり、反対側はなんでも許してくれる優しい方なので、今まで注意も文句も無い。そのおかげで、私は好きな時にピアノを弾き、夜遅くまで友人とパーティーをすることができ、ストレスを溜めることがなくなった。そのおかげで、仕事の効率が良くなり、何事にも腹を立てることがなくなった。そして何より、その優しい『隣人』のおかげで、家賃もとても安い。家族や周囲の人、不動産屋までも反対をしたが、私にとっては、まさに『隣人』様である。


「あー、しまった。煮物作りすぎちゃった。」


 大きい鍋いっぱいに、お手製の煮物が顔を出している。久々に作ってみると、分量がわからず、大体作りすぎてしまう。悪い癖なのだが、なかなか治らない。


「食べきれないけど、捨てるのももったいないし…そうだ、隣におすそ分けをするか。」


 いつも五月蠅くしているのだ、たまにはそういうことがあってもいいだろう。小さい鍋に煮物を取り分け、隣室のインターホンを鳴らした。少しすると、ドアが開き、『隣人』が顔をのぞかせた。


「こんばんは。実は、煮物作りすぎちゃって、おすそ分けに来ました。」

「あらあら、いつもすみませんね。おとーさん、隣の方からおすそ分け貰ったわよ。」


 そういうと、『奥さん』は器用に鍋を受け取り、部屋の中に声をかけた。少しすると、中から『旦那さん』が出てきた。


「いやあ、いつもすみませんね。おすそ分け貰っているのに、何も返さないで。」

「こちらも、いつも騒がしくしていますから、気になさらないでください。」


 そんなやり取りをした後、『奥さん』から煮物を出した鍋を返してもらい、部屋に戻った。


 時々、考えることがある。あの『隣人』、まるで緑色のタコのような、そんな外見の優しい地球人ではない『隣人』と、とても普通の外見だが、少しの音にも反応し、いちいち文句を言う人間の『隣人』、どちらが素晴らしい『隣人』なのだろうかと。返してもらった鍋を見ながら、ぼんやりと外を見た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ