今は昔の真夏の夢
私の夢の中では、あれが・・・ナベさんなのか
グッさんなのか判別ができない
それでも、花束が置かれた場所に佇む少年は・・・
私が見知った人物だった。
少年は贈られた物に囲まれた状態で私に微笑みかけてくる
一輪の向日葵の切り花を左手で差し出し、手招きをしていた。
私は「会いたい」と思っていたので、少年の方へと歩き出す・・・
何か不快な臭いを含んだ甘い香りを嗅いだ気がしたが
そのまま、柵を潜って私は歩いて行った。
『行っちゃ駄目だ!あれはもう・・・イタンデしまっているんだ』
後ろからの懐かしい声に・・・私は立ち止まる。
何の前触れもなく不意に、駄菓子屋の御婆さんの言葉が脳裏をかすめた。
『御供え物をする時
その場所を管理する人がいなきゃ御供えしちゃ駄目なのよ
供えた物を傷ましたら・・・
誰かが怪我させられたり、連れてかれたりするからね
神棚や仏壇に傷んだ物を供えちゃ駄目なのと一緒なんだよ・・・
御供えをしたら、傷む前に片付けなきゃいけないんだ・・・
この事だけは、忘れちゃイケナイよ』
私は少年の周りに置かれた「花束」や
「食べ物・飲み物・ヌイグルミ」に目をやる。
風もないのに花は小さく靡き・・・花弁を散らせた
その場の色が・・・暗くなったかの様に、色彩を失っていく・・・
『傷む?』言葉を反芻し、しっかり見ると・・・それは
そこにあるモノは全て、本当に傷んでいった。
フワフワしたヌイグルミの毛質が・・・
何度も水没させて、そのまま何度も乾かした様な酷い状態へと変化しいく
貼り付けられていたであろう目がポロリと落ちた。
何故か、その場で私は動けなくなってしまっていた・・・
目を閉じる事も儘ならず、遠近法を無視した視界に困惑した。
唯一、動く視線は私の意思を無視して動き・・・
見たくないモノをクローズアップして見せてくれる。
花束には、緑や黒や赤っぽい感じのアブラムシがいた・・・
黒光りする米粒より小さな虫が・・・
花を小さく振動させながらあちらこちらを歩いていた。
それは時々、道端に献花されている花の様だった
所々枯れていたり、腐っていたりして
小さな虫がその周りを飛び交っている。
・・・鳥肌が立った。
食べ物や飲み物には、ガサガサ・・・ガサガサッと、ゴキブリが這いまわり
烏がパッケージを突いて中の物を食べていた
前に烏が突いたであろう穴付近には
モゾモゾと波打つように蛆が湧いている。
・・・背筋に悪寒が走った。
ヌイグルミは・・・縫い目が露わになりパーツがだらりと垂れ下がっていく
その横には・・・烏に食べられたっぽい鼠が一緒に横たわり
小さな甲殻虫や白い虫を身に纏って
その場所で永遠の眠りについていた・・・
落ち窪んだ目からは白い眼球が覗き、こちらを見ている。
・・・指先が冷たく感じる、血の気が引いて行くのが自分でも判った。
漂う甘い香りも・・・その中に隠れた不快な臭いも腐敗臭だったのだ
腐敗し、臭いと虫を連れて・・・少年はすぅ~っと近付いてくる
もう、私の近くまで小さな虫や・・・蠅が飛び交っていた。
私は逃げ出したかったのに体は・・・ピクリとも動かなかった。
少年を中心に広がる、贈り物を抱えた赤い水溜りが・・・
中心部に近付くにつれ鮮やかな朱色に変わる血の池が・・・
私の方へと移動してくる。
ちゃんと見える様になった視界には・・・
少年が手にしていた花から、小さな真っ白い虫が
ポロリ・・・ポロリ・・・と、転がり落ちる光景が映し出される。
少年の手には蠅が集り・・・蛆がわき・・・
腕がカナブンやゴキブリに食べられ骨を覗かせていた・・・否
骨がむき出しの部分が大半で
骨に残った肉を虫が貪っているような状態であった。
『傷んだ物を供えられた者は・・・傷んでしまうんだ』
駄菓子屋の御婆さんの言葉通り
私は傷んでしまった少年を目の当りにしていた。