プロローグ
あの夏の日から
「道端に献花された花」や「供えられた物」を見ると私は怖くなる。
その場所で、その近くの場所で死んだ者は・・・死んで逝った者達は・・・
家族や友人の御悔みで呼び戻され、何度も・・・何度でも・・・
死んだ時と同じ様に殺されてしまう事を知ってしまったからだ。
「大切な者を喪って、後から残念がる」のも
「亡くした事を惜しむ」のも仕方のない事・・・「御悔み」は仕方のない事
でも、自殺以外の「事故」や、「病気」で死んだ者・・・
「殺された者」にとって
『何故、死んでしまったのだ』と、悔やまれる事や・・・
『自分を置いて先に死んだ』と、責められる事は・・・
罪を犯した訳ではないのに、罰せられているのと同じ事
「あ~やって死んだ・・・こ~やって死んだ」と
「死んでいた」と繰返される事も同じ。
この国の罪の十字架は・・・
加害者に罪を償わせる為に、被害者までが加害者の罪を背負わせられる
いや・・・被害者の方が更に重い罪があるかのように
「罪の十字架」を背負う状況に陥れられる。
被害者が生きていても課せられる十字架・・・
それは、死んでしまっていたとしても課せられ・・・
場合によっては、それ以上に重くのしかかる・・・
だから、遺族の悲しみが大きければ大きい程
死んでしまった者達は・・・恐怖と苦痛の中
遺族の念で・・・幾度となく残酷に殺され続け、絶望の海へと沈んで行く。
遺族が総て亡くなり、自分を知る者が存在しなくなるか
死んだ者が総ての執着や未練・無念を捨て去り
成仏するその時まで・・・。
私は、管理された墓地ですらない場所で・・・
人が死んだ場所や、その近くで・・・
花を供え、悲しむ者達に嫌悪感を覚える。
献花され、供えられた品物の数日後・・・
献花された花は、枯れ・腐り・・・供えられた物が腐敗臭を放つ・・・
そんな場所に・・・
献花された時から離れられなくなって
佇む事を強いられ続けている死んだ者の絶望
それを知ってしまったから、気付いてしまったから・・・思い出し憤る。
蠅が舞い、蛆が湧き・・・鼠や、ゴキブリが這い回る
そんな場所に佇む事がどんな事なのか知らない
気付きもしない者達に向かって、理不尽な事と知りながらも怒りを覚え
死者を悼み続ける事を美徳とする風習が無くなる事を切に願い
花が手向けられた場所に、その場に死者が残っていない事を願うのだった。