今は昔の夢の続き
不意に、私の腕や足に何かが触れた。
足元からは幾つもの小さな虫が、ゾワッとする様なくすぐったさを連れて
その小さな鉤爪で下から上へと這い上がって来る。
視界に入る自分の腕には、振り払いたい程の痒さと蠅が集り・・・
それぞれ、白い小さな卵をあちこちに産み付けていた。
私は言葉にならない奇声を上げ・・・
動く様になった体で全てを振り払った。
『あぶねぇ~じゃねぇ~か!こんちきしょう!』
耳馴染んだ声と後頭部への衝撃で、私は目を覚ました。
カ~ン、カ~ン、カ~ン、カ~ンと言う踏切の音と
電車の走る振動と電車がクラクション鳴らして通り過ぎる音が
私を覚醒させる。
夜の闇の中、少年誌を片手に持ったアキラとコウちゃんがその場にいた。
『ここは・・・』
「ここは誰?私は何処?」的な事を言おうとしたが言葉は出てこなかった。
『ん~と・・・場所を知りたいうよね?
ここは数年前にナベさんとグッさんが案内してくれた踏切の一つだよ』
線路にへたり込んだ私にコウちゃんが笑顔で手を差し伸べてくれる
私は事態をあまり呑み込めてはいなかった。
『取敢えず、ずらかるぞ!人が来ると面倒だ』
アキラの提案で、私達は・・・
今は昔の懐かしのいつもの集合解散場所まで歩く事になった。
もう一つの踏切を越えた場所で、私は現在地と事態をやっと把握できた
自分の手が、人知れず震えているのにもやっと気が付いた。
そこから駅のある方向へ歩き・・・
少年誌を早売りしてくれる売店のおっちゃんに
アキラとコウちゃんが挨拶した
私もおっちゃんに会釈だけはしておいた
アキラは売店の前に停めていた自転車を押し歩き出す。
『あのオヤジさんは、お前と妹ちゃんの命の恩人の一人だぞ』
アキラが自転車を押しながら私の背中を叩き言葉を続ける
『今回も、あのオヤジさんが歩いているの見付けて
早売り雑誌を買いに来てた俺とコウヤに教えてくれたんだ・・・
オヤジさんの入荷即出し精神と機転に感謝しなきゃな』
いつになくアキラの顔は真剣だった・・・
コウちゃんも神妙な面持ちだった。
自室で寝ていた筈の自分が
服を着替え・・・どうやってあの場所まで行ったかは、不明だが・・・
『この近くに来た時は、恩を返す為にあの売店で買い物しなきゃな』
私は本気でそう思った。
『サンちゃんは、あれから大丈夫?』
コウちゃんの言葉で、私は思い返す。
数年前、自室で寝ていた筈の妹のチハが
アキラとコウちゃんに連れられて夜中家に帰ってきた事があったのだ。
あれからチハは引籠り、私とアキラがいないと絶対に家から外には出ない。
『大丈夫だと思う・・・今あいつ、御札や数珠やお守り常備してるから・・・
でもやっと、チハが引籠った理由が理解できた気がするよ』
夜の闇が明け、空が白みだす頃・・・・
私は二人に、さっきまで見ていた夢の話を話して聴かせた。
『妹ちゃんのグッさんがって、言ってたヤツの話と似てるな』
アキラは苦笑いしていた。
『これからどうする?ニィちゃんもサンちゃんみたいに引籠る?』
コウちゃんには考えがある様だった
『もし、引籠らないんだったら・・・
これから・・・そう!今からその夢の場所を特定しに行ってみないか?』
私はその意見に賛成した。
『もし、供えられた物とかが腐ってて誰かが助けを求めているのなら・・・
助けを求められた人間が助けに行くのが筋だよな・・・
でも、今からとかは許さないぞ!
行くとしたら暑くても人通りの多い時間だ』
コウちゃんの考えをアキラが代弁し、修正した。
『後・・・あの肝試しに行ったメンバー招集しよう
妹ちゃんから始まりオカちゃんにナツキって三人同じ事になってんだ
次は、ハマちゃんか・・・コウヤか・・・だよな』
アキラは自分を最後に指しにやりと笑った。
私はオカちゃんが同じ目に会っていた事を知らなかったので驚いた
訊き返すと、コウちゃんが答えてくれた。
最近、高校受験の為の「塾の夏季講習」の帰りに通りがかったハマちゃんが
同じ場所でオカちゃんを救出したそうだ。
私は少年の姿を思い出し・・・身震いした。




