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絶え逝く灯火の傍観者

作者: ぐんそう


この世の最大の理。生けとし生ける者には分隔てなく必ず訪れる唯一の終着点。


「死」


生があるから死がありまた、死があるから生がある。

この二つは対立の位置にいながら同じ直線上にある事象。

どちらか一つかけることはない。

いや、どちらか一つがかけると、二つとも成り立たなくなる、と言ったほうが正しいか。

その理を理解することで生と死という概念から解脱し、悟りを開くことが出来る(らしい)。

だがそれは決して死なないということではない。生きていないということではない。

死は誰にも平等に訪れる。


「筈だった・・・」


そこには例外がないはずだった。だがその禁忌に触れた穢れしモノが存在した。

ソレはもはや人間と呼べない、生き物と呼ぶにもおこがましいモノだった。

生物学的に言えば確かに生き物というカテゴリに分類されるであろうが、しかし人間の抽象的な概念でいくところの彼は生き物ではなかった。

彼は、不死身だった。





「何故貴様は涙を流す。」


私の傍らで今にも息絶えそうな声で私に問いかけるものがあった。

私の祖父だ。

94にもなる彼は私の知る限り大きな病にもかからず幸せな人生を送っていた。

大往生である。


「何故貴方は涙を流さぬのですか・・・」


私は彼に問いかけた。


「俺はな、今から死ぬんだよ。死ぬものにはその先はない。だから悲しくないのだ。

だが残されたものはどうだ?悲しいか?」


悲しい。辛い。苦しい。

でも


「苦しいのは俺の方だ。いいか、お前は決して涙を枯らしてはいけない。だから、今は泣くな。」


祖父の最期の言葉は当時の私には理解できなかった。

それでも、私には重い一言だったことは分かった。分かっていた。






「何故お前は涙を流す。」


私に語りかけるのは私の父であった。

彼は大病にかかり、68でその人生に幕をおろそうとしていた。


「悲しい。でも、分からない・・・何故、涙が出るのか・・・」

「涙を流すことは良いことだ。それはお前が人間である証明だ。大切にしなさい。」


その日は一晩中泣いていた。

泣いて泣いて、どうしようもなくなった。


「私は、何故生きている。何故・・・何故・・・」


生きていくことには疑問はなかった。ただ、理解が出来なかった。






「何故泣いているのですか。」


病室で力なく私に問いかけるのは自らの息子であった。


「なんでだろうなぁ、なんで、私は、生きているのだろうなぁ・・・」

「それはきっと、貴方が・・・」


それ以上の言葉はなかった。最期には何も言わずにこの世を去った私の息子は87であった。







「あなたは何故生きておられるのです。」


次に訪れたのは孫の死だった。


「君には先がないかもしれない。だが、私には後がないのだよ。」


次に、弱々しいうめき声のような声で孫はこういった。


「ならば何故、貴方は涙を流さないのですか・・・」


私は泣かなかった




死に直面した。


幾度と無く死に目にあってきた。


その度に虚しくて堪らなくなる。


でも、私は死ななかった。




「君は化け物か何かなのかい?」


医者に言われることはもはや何も無かった。








一人の男がビルの屋上に立っている。

彼は自分の人生に絶望していた。

自らの命を絶とうとしていた。


「また私は死に目にあうのか?」

「・・・だれだ、君は。」

「私かい?ただの傍観者だ。」

「野次馬なら、あまり近づかないほうがいいぞ。」

「どうしてだ?」

「死にたくはないだろう。」

「いいや、


死んでみたいものだ・・・


あまりに無機質なその答えは男を困惑させた。


「逆に聞こう。生きていていいことがあったか?」


男は複雑そうに考え込み、やがてその顔は涙でいっぱいになった。


「俺はな、幸せだったよ。幸せだった。ついこの間まではな。」

「・・・いいな、まだ涙が流せて。」

「お前は涙が出ないって言うのかよ!お前だって、人間だろう!」

「私か?私はもう人間ではないかもしれないな。」


そういうと男は私の胸ぐらをつかんできた。


「てめぇ、ふざけるのもいい加減にしろよ!」


男の手にはナイフが握られていた。


「・・・刺せるものなら刺してみるんだな。」

「っのヤロ・・・


次の瞬間、私の腹部から赤い紅い鮮血が噴出した。

しかし私は顔色一つ変えなかった。変わらなかった。

男は動揺し、後ずさりをする。


「て、てめぇ・・・なんで、なんで、顔色一つ変えずに・・・平気でいられるんだよぉ!」

「さあな、私にも分からない。」

「何なんだよお前は!お前は、何モノなんだよ!」


少しずつ私は彼に近づいていく。


「よるな、よるなよ化け物!」


彼は私の視界から消えた。


「・・・私は、蓬莱とこよのくにの仙人。」


その声は男には届かなかった




一人残された彼は虚しくそこに佇むばかり。


その澱んだ瞳からはやはり涙は出なかった・・・


没にしようとしたけど折角だから投稿。

書いてるうちに自分でもよく分からなくなっちゃった。

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