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くたびれたTシャツと、風の王冠

作者: 春凪とおる
掲載日:2026/10/31

町起こしアンバサダー最終選考会の朝、真央はクローゼットの奥から、くたびれたTシャツを取り出した。

高校の文化祭で作った、白かったはずのTシャツ。

首元はよれ、プリントは薄れ、裾には小さな毛玉がある。


今日着る水色のワンピースとは、まるで似合わない。

それでも真央は、それをバッグに入れた。


商店街を盛り上げるコンテストに出場すると決めたのは、自分だった。

美容室を営む叔母に頼まれ、つい頷いてしまった。

駅前に大きなショッピングモールができてから、真央の育った商店街は少しずつ寂しくなっていた。


けれど、いざ当日になると怖かった。

人前に立つのは苦手だ。写真を撮られるのも苦手だ。

綺麗に笑うことも、堂々と歩くことも、自分には向いていない。


洗面所で髪を濡らし、叔母に借りたティファのドライヤーを手に取る。


「風が違うのよ、風が」


叔母はそう言っていた。

温かい風を当てながら、真央はゆっくり髪を整えた。

いつもなら適当に乾かす髪が、少しずつ落ち着いていく。

鏡の中の自分が、ほんの少しだけ前を向いたように見えた。


会場の市民ホールには、商店街の人たちが集まっていた。

コロッケ屋のおじさん、文房具屋のおばさん、花屋のお兄さん。

そして前列には叔母がいる。


真央はステージで、バッグからTシャツを取り出した。


「これは、私のお守りです」


客席が静かになる。


「高校生の頃の私は、人前で話すのが怖くて、でも文化祭でどうしても伝えたいことがあって、震えながら舞台に立ちました。終わったあと、友達が『ちゃんと伝わったよ』と言ってくれました」


真央はTシャツを胸に抱いた。


「この商店街も、少しくたびれています。でも、くたびれていることは終わりじゃないと思います。大切に使われてきた証拠でもあります。髪だって、丁寧に風を当てれば変わります。町も、人も、きっと同じです」


拍手が起きた。


結果発表で、真央はグランプリに選ばれた。

頭に載せられた小さなティアラは、思ったより軽かった。


けれど、その日の真央には、それが風でできた王冠のように思えた。


翌週、商店街には新しいポスターが貼られた。

水色のワンピース姿の真央が、くたびれたTシャツを手に笑っている。

添えられた言葉は、こうだった。


「大切にしてきたものに、もう一度、風を。」


その前を通るたび、真央は少しだけ背筋を伸ばす。


完璧じゃなくてもいい。

くたびれていても、また輝ける。


風は今日も、商店街をやさしく吹き抜けていた。


3000文字程度の同じタイトルの短編があります。

そちらは友人サイトに寄稿しました。

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