くたびれたTシャツと、風の王冠
町起こしアンバサダー最終選考会の朝、真央はクローゼットの奥から、くたびれたTシャツを取り出した。
高校の文化祭で作った、白かったはずのTシャツ。
首元はよれ、プリントは薄れ、裾には小さな毛玉がある。
今日着る水色のワンピースとは、まるで似合わない。
それでも真央は、それをバッグに入れた。
商店街を盛り上げるコンテストに出場すると決めたのは、自分だった。
美容室を営む叔母に頼まれ、つい頷いてしまった。
駅前に大きなショッピングモールができてから、真央の育った商店街は少しずつ寂しくなっていた。
けれど、いざ当日になると怖かった。
人前に立つのは苦手だ。写真を撮られるのも苦手だ。
綺麗に笑うことも、堂々と歩くことも、自分には向いていない。
洗面所で髪を濡らし、叔母に借りたティファのドライヤーを手に取る。
「風が違うのよ、風が」
叔母はそう言っていた。
温かい風を当てながら、真央はゆっくり髪を整えた。
いつもなら適当に乾かす髪が、少しずつ落ち着いていく。
鏡の中の自分が、ほんの少しだけ前を向いたように見えた。
会場の市民ホールには、商店街の人たちが集まっていた。
コロッケ屋のおじさん、文房具屋のおばさん、花屋のお兄さん。
そして前列には叔母がいる。
真央はステージで、バッグからTシャツを取り出した。
「これは、私のお守りです」
客席が静かになる。
「高校生の頃の私は、人前で話すのが怖くて、でも文化祭でどうしても伝えたいことがあって、震えながら舞台に立ちました。終わったあと、友達が『ちゃんと伝わったよ』と言ってくれました」
真央はTシャツを胸に抱いた。
「この商店街も、少しくたびれています。でも、くたびれていることは終わりじゃないと思います。大切に使われてきた証拠でもあります。髪だって、丁寧に風を当てれば変わります。町も、人も、きっと同じです」
拍手が起きた。
結果発表で、真央はグランプリに選ばれた。
頭に載せられた小さなティアラは、思ったより軽かった。
けれど、その日の真央には、それが風でできた王冠のように思えた。
翌週、商店街には新しいポスターが貼られた。
水色のワンピース姿の真央が、くたびれたTシャツを手に笑っている。
添えられた言葉は、こうだった。
「大切にしてきたものに、もう一度、風を。」
その前を通るたび、真央は少しだけ背筋を伸ばす。
完璧じゃなくてもいい。
くたびれていても、また輝ける。
風は今日も、商店街をやさしく吹き抜けていた。
3000文字程度の同じタイトルの短編があります。
そちらは友人サイトに寄稿しました。




