第8話 水月大学
〈登場人物〉
・本庄 蘭・・・観己の母親である片鳥 明日花の友人。水月大学の医学の教授。
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東京都の水月大学。
科学・医学分野に精通している都内屈指の名門大学であり、俺の両親が長年、研究実績を積み上げてきた地でもある。
俺と映真は身体・遺伝子検査を行うため、その大学へと向かっていた。
「大学は何度か見に来たことがあったな。本庄さんに会うのは2年半ぶりか」
本庄 蘭。
母さんとは中学から大学までを共にし、現在は遺伝子学を中心とした医学の教授を勤めている人。
母さんはあの家族会議の直後、本庄に俺たちの事情を相談した。
すると本庄は、『どんな原理で分身が生まれたのか、調査する権利を独り占めできること』を条件に、俺たちの検査を秘密裏で行うと言ってくれたそうなのだ。
それもかなり食い気味だったらしい。
確かに、俺たちのような特異な存在について、学者の中で興味が湧かない人などいないだろう。
分身の存在を明るみにせずに調査してもらえる、というのは俺にとってはとてもありがたいので、これはWin-Winの交換条件ということである。
俺たちが大学敷地内に足を踏み入れると、すぐに本庄は現れた。
「久しぶりー!観己くんったら大っきくなったね〜」
そう。この近所のおばちゃんみたいなテンションの人が本庄だ。
「こちらこそお久しぶりです」
俺は挨拶を返す。
すると本庄は、俺の隣にいる映真に目を移した。
「もしかして、君が映真ちゃん?」
「は……はい。お久しぶりです、本庄さん」
本庄は最初、俺そっくりな映真に驚いたような顔をしていたが、すぐにいつもの笑顔になった。
「そっかー!明日花から話は聞いたよ。映真ちゃんの中身は観己くんと同じなんだよね?本当に不思議な現象だなぁ……さっ、ラボはこっちだよ。口実は色々と設けてるから、検査については誰にもバレないからね」
俺たちは本庄に引っ張られ、研究室の1つへと入って行った。
入り口のセキュリティは厳重に固められている。
まだ中には誰もいなかった。
真っ白な部屋にある様々な器具やコンピュータが、これぞ医学研究室という雰囲気を醸し出している。
「2人とも来るの早かったね。みんなが揃うまでまだちょっとかかりそうだから、雑談でもしとこうか」
時間潰しとして、本庄は話題を出してくれた。
「映真ちゃんが女子になってから今日で3日目だよね? その間で何か大変だったこととかある?」
映真はこの2日間の生活を振り返る。
すると色々な記憶が蘇ってきた。
「そ……そりゃあたくさんありますよ。特に胸です。なんか思ったより重くてそこそこ肩に負荷がかかります。寝る時なんか意外と邪魔で、なかなか寝付けなくて……」
「なるほどねぇ〜」
「それに、髪を結ぶの難しすぎません? 初めなんか、しっかり結ぼうと髪を引っ張り過ぎて毛根が死んだかと思いましたよ。朝起きたら髪ボサボサで寝癖つくし……。髪長いとドライヤーで乾かすだけでもめっちゃ大変で……」
「分かるよ〜。髪は伸ばすとデメリットも多いもんね〜」
「それに、希美姉ちゃんに「スキンケアに気を遣え」って言われてるんですけど、正直あれめんどくさくないですか?! 一昨日なんか、化粧水使い過ぎて顔がべちょべちょになっちゃって!」
「美容って大切だけど煩雑だもんね〜」
「まだあとトイレも慣れないし、お風呂も大変……めっちゃ恥ずかしいですよ?!だって女子の体……!」
「映真ちゃんも元は男の子だしね〜」
「女子で生きていくと覚悟したとはいえ……正直ここまで苦労するとは思いませんでしたよ」
本庄の話しぶりに釣られて、映真は愚痴をこぼす。
女子としての悩みは数知れないだろう。
「観己くんも大変でしょ?」
本庄は、今度は俺に話を振る。
俺か……そういや俺も言いたいことあったな。
「ええ、まあそこそこ大変ですよ。寝る時は隣にいる映真が気になりますし、近寄られると胸が気になりますし、洗濯機回す時は下着が気になります」
俺の悩みを聞き、映真は少し引く。
「え……観己ってそんな下品な男だったっけ……? ちょっとショック……」
「映真も元男なんだから分かるだろ、男子高校生なんてだいたいそんなもんだ。っていうか映真こそ、昨日はめっちゃ自分の胸触ってなかったか?」
「これは俺の体なんだからいいだろ?どれだけ触ろうと俺の自由だ」
「俺と同じ人格の持ち主がそういうことやってると、ちょっと見てらんないんだよ!」
「こっちこそ、観己自身に胸を見られてるとか気持ち悪くて堪らないわ!」
軽く言い争う俺たちの様子を見て、本庄は微笑む。
「こうやって見てると、本当に君たち2人は分身なんだなって分かるな〜。なんでも言い合える相手なんて、そうそういないもの」
なんでも言い合える相手……。
それは何か違うような気がした。
言いたくない言葉、言われたくない言葉、言う必要のない言葉……俺と映真は、それらをお互いに理解している。
だから、俺は映真になんでも話しているというわけではない。
それは俺たち2人のために大切なことなのだ。
「あっ、本庄さん! もう来てたんですね!」
少しして、他の研究員の人が集まってきた。
そのうちの若い女の人が本庄に駆け寄る。
「その2人が、片鳥教授夫妻のお子さんですね?」
「はい。お知らせした通り、今回2人には検査を受けてもらう予定です。身体、指紋、虹彩、血液、遺伝子……たくさんありますよ?」
とうとう始まる。検査が。
ここにいるのは両親が選んだメンバーだけだから、まだ安心できる。
ただ、もしこれが危険人物だけで構成される闇の研究となると……。
俺は父さんの言葉がよぎった。
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検査は無事終わり、俺たちは1週間後に伝えられる結果を待つことになった。




