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第4話 分身の新たな名前

『新しい名前だよ。分身の観己につける、新しい名前』


新しい名前……。

それが決まった時。それは分身の観己の新しい出発点を意味する。


父さんは説明を続けた。

『……だがその前に、きちんと説明しておかなくちゃならないことがある。それは、『分身の存在は現代の科学を超越している』ということだ。これがどういうことか、賢い君たちなら分かるな?』


そんなこと、もちろん理解してる。

「……もし分身が実在することが世間にバレて広まれば、俺たちの身柄は必ず狙われる。そして、なんとしてでも分身を作る方法を解明しようと、俺たちは骨の髄まで研究されるに違いない……」

自分で言っていて背筋が凍った。

双葉も「ひっ」と声を上げる。


『そういうことだ。あらゆる会社、組織、政府が、金儲けや犯罪……更には軍事に利用しようと、きっと血眼で君を探しに来るだろうな』

父さんの言葉は重かった。

(そうなれば、俺たちはおろか、家族や周囲の人々の平穏な生活も完全に終わる……)


でも彼は、すぐにいつもの明るい顔に戻った。

『……とまあ、これらは最悪の場合の話だ。君たち2人は、容姿は似ているとはいえ性別の違いが存在する。余程のことが無い限り、科学的な証拠がなければ『分身』だと疑われることはまずないだろう。それにもしバレたとしても、父さんたちが全力で手を打つ。だから、気楽に過ごしてもらって大丈夫だ』


俺たちが安心して暮らせるよう、父さんは優しく力強く、そう言ってくれた。

最近はあまり連絡をとっていなかったけど、いざ話すと、本当に頼れる両親だと思う。


しかしまだ問題はある。

俺の分身は高校生活について指摘した。

「だけど俺、戸籍がないよな……。学校に通うにはどうすれば……」


それに対しては、母さんが答えてくれる。

『戸籍の偽造は正直言って厳しいわ。そこで、鏡高校の立見たつみ校長先生には分身のことを打ち明けて、相談してみようと思うの。2人の指紋、虹彩、DNA等の検査情報があれば、彼女も分身のことを信じてくれるはず。後は、分身の観己が試験等で相応の学力を示せば、『転入』というていで通学できるようにしてくれるはずよ』


俺の高校の立見校長。

彼女が優秀な校長であることは俺も知っている。

分身さえ信じて貰えば、融通を利かせてくれるだろうし、秘密も守ってくれるはずだ。


それから、俺たち家族は話し合いを進めた。

諸々の身体検査は、両親が赴任前に勤めていた「水月みづき大学」で秘密裏に行ってくれること。

分身は、『片鳥 観己と同棲しているいとこ』という形で高校に通うこと。

分身の転校前の高校は、希美が以前に通っていた『八咫やた高校』ということにしておくこと。

原則として、友達含め誰にも分身のことは明かさず、もし明かす必要性が生じれば家族内で相談をすること。

数ヶ月間、宝石を俺の家の中に置いて様子を見ること。

両親が、分身についての過去の例や資料がないか探してくれること。


両親は2人とも、親としてできるだけの手を打ってくれた。


そして……


「俺の新しい名前、何にしよう……」

分身は名前決めで頭を悩ませていた。

「何か良いアイディアは……。そうだ、希美と双葉、良いの思いつくか?」


「響きの可愛さ重視で、『一ノ瀬アリス』はどう?」

ラノベのヒロインか?


「『2人目の片鳥 観己』ってことで、『ミオツー』がいいと思う!」

エスパータイプの伝説ポ◯モンか?


2人は口々に案を出してくれたが、まるで話にならない。

「多少はまともなの考えてくれよ……俺の新しい名前だぞ。もっとこう単純だけど意味のある感じのやつで……」

単純だけど意味のある……俺は分身の考えを聞いてイメージが浮かんできた。


当然、俺も全く同じことを考えていたのだから。

「『宝石から生まれた俺そっくりの分身』って感じの意味合いがいいよな。それで、本当のことはバレないくらいの丁度良い塩梅の……」


分身はその俺の言葉を基に、1つの名前を導き出す。


「そうだ。たからぎ……『宝生たからぎ 映真えま』はどうだ?」

分身は、指で宙に漢字を書いた。

なるほど良いじゃないか。イメージぴったりだ。


「映真かぁ。あなた映真顔って感じではないけど……まあいいんじゃない?」

どうやら希美にはしっくりこなかったようだが、映真本人はかなり納得している様子だ。

「よし、今日から俺は『宝生 映真』になる!」


(俺と同じ人格を持つ人間が、新たな名前を……本当に不思議な感覚だ)

正直言って、一連の映真の覚悟がガンギマリ過ぎて俺はちょっと心配になったが、ひとまずこれで一件落着ということだろう。


さっき『ミオツー』とかほざいてた双葉も、この名前に賛同する。

「良い名前じゃん!じゃあ、今日から『映真姉ちゃん』って呼ぶね!」


映真は苦笑いをした。

「まさか俺が、妹に『姉ちゃん』呼びされる日が来るとは……」


『映真』という名前がついたことにより、一気に姉妹感が増した。

俺からすれば、まるで『映真』という双子ができたかのようだ。


父さんは、そんな俺たちの様子を見て、安心したような表情を浮かべる。

『『宝生 映真』だな、覚えておく。……では、決めておくべきことは大体決まっただろう。あとの細かいところは4人で決めてくれて構わない。父さんと母さんの方で必要な手続きは済ませておくから、検査などの日程は決まり次第、映真に連絡させてもらうぞ』


『もし何かあったら、すぐに母さんたちに教えてね!』


これにて家族会議は終了し、父さんと母さんは電話を切った。



ーーーーーーーーーー



そしてその後……俺の家では、双葉による指導が始まっていた。

「さて、これから映真姉ちゃんには、女子として暮らせるように様々なことを教えまーす!女子歴の大先輩、双葉先生の貴重な手ほどきなので、大切にしましょー!」


「「……それはどういうノリだ?」」

俺たちに冷ややかな目つきで見られ、双葉は頬を膨らませる。

「だから、私が映真姉ちゃんの先生になるんだよ! 2人とも、女子のことなんて右も左も分からないでしょ? もし映真姉ちゃんが女子のグループに入ったとしてもちゃんと馴染めるように、私がアドバイスしたげるの」


女子のことは女子に聞くのが一番。確かにそれは事実だ。

そう思って、映真は双葉に耳を貸した。

が、それは間違いだった。


「ということでまずは……映真姉ちゃんの『好きな男の子のタイプ』を決めておこう!」


「おい待てそれはいくつか段階を飛ばし過ぎだ」


「えーなんでー? 女子は絶対恋バナするよ?」


「俺が知りたいのはまだそういうことじゃねぇよ」


結果はこの通り。双葉に先生など務まるはずはなかった。


「とりあえず、映真は自分の『キャラ』を考えたらいいんじゃない?」

双葉の様子に呆れて、希美は先生役を代わってくれる。

さすがは希美。視点が的確だ。


「今の映真は、女子の身体で観己が喋ってるっていう変な状態。いわば、ミニーマ〇スの着ぐるみがドナルドダ〇クの口調で喋ってるみたいな感じだね」

「なんだシュールなその例えは」

その例えだと、俺があの何言ってるかよく分からんアヒルと同類であると言ってるようなものだぞ。


「だから、家族以外の人と話したりするときに意識する『映真のキャラ』を決めておいた方が、あとあと楽だと思うの」

希美の考えを聞き、映真は考える。

「俺のキャラか……。『陽キャギャル』は絶対できないし、かといって『清楚系お嬢様』も違うような……うわ、想像したらなんかキモい」

派手な格好と化粧ではしゃいだり、髪をなびかせて気高く上品な振る舞いをしたりする自分を思い浮かべ、映真は軽い自己嫌悪と吐き気を催した。


そんな映真の様子を見て、希美は苦笑いをする。

「別に、そんな極端なキャラにする必要はないと思うよ? 私が薦めてるのは、あくまでも『自分のキャラを言葉におこす』ことだからね」


「んー……それじゃあ『中性的で明るく優しい真面目女子』にしようかな。俺が違和感なく演じられるとしたらそういうのしかない」

結局、映真は観己本人と大して変わらない地味なキャラに落ち着いた。

だがそれを明確に決めたことにより、これから映真はより女子に近づいていくだろう。

俺は、俺と映真との間に段々と違いが生まれていくのを感じた。


映真のキャラが決まり、双葉はあまり面白くなさそうな顔をする。

「なんか……無駄に無難だなぁ。もっと尖ったやつでもいいんだよ?」


せっかくの決定事項を双葉に否定され、映真は眉をひそめる。

「言っとくけど、俺のキャラにいくら文句つけようが、もう俺は変えるつもりはないぞ」


「あーっ、はいピピー!『言葉遣い警察フタバ』でーす! 映真姉ちゃんは優しい真面目女子って設定なんでしょ? ならそんな乱暴な喋り方しません! 一人称は『俺』じゃなくて『私』でしょ?」


「お前いつになく生意気だな……。俺だって、女子になると認めたとはいえ、『私』って一人称を使うのにはまだ少し抵抗があるんだよ。少なくとも家族の前では女子とかそんなの気にしないから、いつもの俺でいさせてもらうぞ」


「えー! これじゃあダブル ドナルドダ〇クだよー!」


「「誰がだ」」


こうして、観己と映真の新たな生活は幕を開けることとなった。

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