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第18話 立てられた予定・お泊まり会の開会

図書室の席に座って、『現役女子高生1000人に聞いた! イマドキJKの現実』の本を囲む、映真とカナと万華。


映真は、高校生モデルの写真を指す。

「私、実はちょっと流行に疎くて……。ねぇ、なんでみんなは、こんなに前髪に気を遣ってるの?」

自分が時代遅れだと公表することを代償に、映真はそう呟いた。


カナは、思わず『何を聞いてるの?』と言わんばかりの顔をする。

「そりゃ、前髪が決まらなかったら、イマイチな感じになっちゃうからだよ。前髪で良い印象出したいからね」


そう言って、カナは自分の前髪を指先でつまんだ。


しかし、元男子の映真には、その感性が分かるはずもない。

映真は現在、前髪を作らない髪型にしてる(切ってない前髪が長くなってるためだ)し、姉妹2人とも前髪は至って普通だし、なおさら分からない。


「ふーん。でも、多くの男子は、『ずっと前髪ばかり気にしてるの変だな』って感じるだけだと思うよ? 『前髪にバーコードリーダーをかざしたら、読み込めそうだなー』って観己も言ってた」


映真のあまりの言い草に、カナは驚愕する。

「えーひどい! 別にウチらは、男子に見てもらうためだけに前髪を整えてるワケじゃないのに!

 メインは自分! 自分の気分を上げるためだよ! おしゃれって大体そういうもの!

 映真ちゃんも、もっとおしゃれに気を遣った方が良いよ!」


「…………」

カナの熱弁に、映真は圧倒されて言葉が出ない。


その様子を見て、万華はある提案をする。

「そうだ! 今週の日曜日、私たちでお出かけに行こうよ! 宝生さんに色んなことを布教するチャンスだよ!」


「ありあり!」

カナは、万華の意見にノリノリで賛成した。

「映真ちゃん、予定は空いてる?」


映真は、これからのスケジュールを思い返す。

「(日曜日か。これといって特に予定はないし……)

 空いてるよ。遊びに行こう」


「「やったぁ!」」


2人が喜んでいると、図書室に、とある人物がやって来た。

「週末に3人で外出か。良いじゃない。映真にとっては、助け舟な話だと思うよ」


その正体はもちろん、片鳥 観己だ。


入ってきた俺の姿を見て、カナは気まずそうに目を伏せる。

「アレッ、観己ッチ ダ……。ヤッホォ……。昼休ミ ハ ドコ ニ 行ッテタ ノ……?」


片言のカナ。


俺は、彼女の後ろを通り、机に置いてあった例の本を手に取る。

「昼は学級委員の用事があってね。

 だから、今朝カナが俺に寄越したあの怪しい本は、映真に任せてたんだけど……あの本の正体は、これか?

 『イマドキJKの現実』……?」


怪訝に思いながら、俺は、パラパラとページをめくる。


……なんか後半の方に生々しい内容が書いてあったような気がしたので、俺はすぐに本を閉じた。


「こんなものを俺に読ませようとして……どういうつもりだったの?」


俺が呆れた目つきで、カナと万華を見下すと、2人は冷や汗を流す。

「いやぁ……ちょっとしたイタズラというか……」「ほんの出来心でございまして……」


こんな計画的犯行に、出来心もクソもないだろ。

全く、この2人は相変わらずだな……。


「ちなみにだけど、映真はこれ読んだの?」


「う、うん」

俺が聞くと、映真は小さく頷いた。


それを見た俺は、例の本を机に置き直す。

「まあいいや。頼むから2人とも、こんな恥ずかしい真似をするのはもうやめてくれよ?」


「「は……はい」」


まるで、俺が2人を説教するみたいな形になってしまった。


よく見たら、万華は仏頂面だし。

「片鳥くんって……私やカナと話す時だけ、なんか冷たいよね」


「俺が2人に冷たいんじゃなくて、2人が俺を冷たくさせてるだけかと」


「わっ!屁理屈だっ!」

ムキになる万華。


カナは、彼女を落ち着けるために耳打ちをする。

「ちょっと万華。当初の目的を見失ったらダメ!

 あとはウチに任せて」


俺に聞き取れない声でそう言った後、カナはニコニコで俺の方を振り向いた。

「観己っちって、好きな人いるの?」


「「「……えっ?」」」

その場にいる3人が、同時に声を上げた。


特に万華は、慌てたような表情をしている。


脈絡も無くそんな質問をするなど、カナの考えはやっぱり理解できない。

「いやなんで、いきなりそんなことを俺に聞い……」


「いいから答えて」


カナに急かされたので、俺は仕方なく答える。

「あのねぇ、俺に好きな人なんて……」


その時だった。


ふと俺の脳裏に、()()()の顔がよぎった。


———『ありがと、片鳥君!』


あの、純真で優しい笑顔と眼差し。


……どうして今さら俺は、()()()のことを……


「……俺に好きな人なんていないよ」


俺がそう切り捨てると、カナは俺の顔を覗き込んでくる。

「ほんとにぃ~?」


「だから本当だってば」


「なるほど。なら……いいよね! 日曜日のお出かけに、観己っちのこと誘っても!」


「……え、俺も行くの?」

突拍子もないことを言われ、俺は唖然とした。


カナにとって、俺までを遊びに誘うメリットは一体どこに……?


一方の万華は、目を輝かせている。

「うおー名案だよ、カナ! 宝生さんも、それに賛成だよね!」


万華は、映真に賛同を仰ぐ。


映真にとっては、女子2人だけと出かけるより、俺も参加した方が絶対に安心するだろう。


俺からしても、映真をあの2人だけに任せるのは、少しばかり心配だ。


「う、うん。観己がいた方が、楽しい……んじゃない?」


案の定 映真がそう答えたので、今この時をって、俺の日曜日が無くなることが決定した。



ーーーーーーーーーー



数日が過ぎ、金曜日の夕方。


映真が学校に通い始めてから、ようやく5日が経った。


この1週間を振り返って、映真がまず感じたのは、『意外と、女子としての生活は大変じゃない』ということ。


それは、『夏休みに1ヶ月間の練習期間を確保できた』ことが要因だろう。


だから、学校の知り合いと話す時も、映真らしい喋り方や所作を慌てずに維持できた。


トイレや着替え等の基礎に関しても、問題なくこなせている。


それとあと、もう1つ映真にとって大きかったのが、『観己本人が、まだこの世に存在してくれている』ということだった。


言い換えれば、『観己の人生を、観己がそのまま過ごしてくれている』という、分身ができたからこそ存在する事実。


これが意外と、映真に安心感を与えてくれている。


だから映真は、『女子の生活に慣れ、『映真』を演じ、宝石について調べる』という目標のみに集中することができていた。


あ、でも勿論、大変なことも多い。


それは、女子と関わる中で、五感が破壊されることだ。


同級生の着替えを見て『視覚』が逝く。

耳元での高いキャッキャ声で『聴覚』も。

色んな制汗剤と香水の匂いが混ざりまくって『嗅覚』も。

突然 抱きつかれて『触覚』も。

カナの脂っこい弁当を強制的にお裾分けされて『味覚』も逝く。


これに関しては、数日かけて耐性をつけていかなければ。



そんな映真の話を聞いた後、大きな声をあげたのは、双葉だった。

「……えぇ?! 映真姉ちゃんが悩んでるのは、たったそれだけ?!」


俺の家のソファに座り、ボリボリとポテチを食べている妹。


そしてキッチンで料理をしているのは、姉の希美。


なぜコイツらが、金曜日の夕方に、俺の家に居るのか……それはまた後で話すとしよう。


「『たったそれだけ』ってなんだよ。

 俺がちゃんと学校に通えてることに対して、何か文句でもあるのか?」


映真がそう聞くと、双葉は首を横に振った。


「断じてそういうことじゃないよ!

 

 妹である私にとって、映真姉ちゃんが大きな問題もなく生活できていることは良いこと!


 カナさんとも仲良くなって、女友達もできてるみたいだし……映真姉ちゃんは順調だよね。


……そう! 順調すぎるのがよくないの!」


映真は即座に聞き返す。

「は? なんで?」


双葉の表情は不服そうだった。

「だって、面白くないんだもん。


 私としてはですね……『女子の生活にどうやって慣れていこう』ってあたふたしながら頑張る、女体化兄貴の姿を、せっかくなら見てみたかったわけですよ。


 そんな兄に対して、姉妹で色んな知恵を貸したり、アドバイスを施したりしたいんですよ。


 普段 優等生ムーブをかましてる兄から、乙女のように助けを求められてみたかったんですよ。


 そこがTSで一番 面白いところなのに、映真姉ちゃんにはその過程がほとんど無い!」


「女体化した兄を、娯楽感覚で楽しもうとするなコラ」


「だって、思ってたTSとなんか違うんだもーん!


 ほんとはね、私、今までずっと言うの我慢してたんだ……だけど、もう無理です。言います。


 映真姉ちゃんは器用すぎ!」


「ありがとう、褒めてくれて」


「ちがーう! 別に褒めてなーい!」


フラストレーションに耐えきれず、双葉はじたばたする。


希美は、料理の手を止め、彼女をなだめ始めた。

「まあまあ、双葉 落ち着いて……。映真が闇堕ちして引きこもりになっちゃうよりかは、絶対にいいでしょ?」


『闇堕ち』て。


それを引き合いに出すのは、なんか違う気が……。


双葉もまだ、微妙に納得していないようだ。

「確かに、それはそうだけど……。

 あーあ、もっと面白い展開とかないのかなぁ。

 ……あ、そうだ。もういっそのこと、純さんに映真姉ちゃんの正体明かしちゃったら?」


映真はすぐ却下する。

「いや。ハナから、純に秘密を明かすつもりはない。友達だからこそ、要らぬ心配はかけるわけにはいかないから」


「俺もそう思う。流石に、純までは巻き込めない。家族の協力があれば十分」


俺がそう付け加えると、希美は呆れた。

「2人とも、相変わらずだねぇ」


「つまんないの」


双葉は残念そうな顔で、引き続きポテチを食うが……

そこで、何か閃いたようだ。


「まあいっか!

 もしかしたら、純さんと映真姉ちゃんのラブコメが見れるかもしれないし!」


「んなもん見せねぇよ!」

「『親友との禁断の恋!』とかしねぇから!」」


俺たちの叫び声が、部屋中に響く。



こうして、俺と映真と姉妹2人が参加する、『観己の自宅でのお泊まり会』が始まったのだった。

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