第14話 映真と女子会
「もし落とし物したら、ここの『落とし物ボックス』に来ると良いよ」
「宝生さん、理科室はここだよ!」
「あの人は天野先生。廊下を走ったらすぐ怒ってくるから、気をつけて」
「2学期は体育祭があるよ。なんか、例年めっちゃ盛り上がるらしくて。楽しみだね!」
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「鏡高校のことなんて全部知ってるっての!分かってるって!」
2日目の昼休み、食堂にて。
映真は、今日の出来事を、俺に話した。
どうやら、俺が映真から少し目を離している隙に、映真は色んな生徒から『鏡高校の教え』を受けたらしい。
もし映真が普通の転校生であるなら、それはとても助かることだ。
なんて親切な人が多いんだろう、と喜ぶに違いない。
ただ……映真の頭の中には、鏡高校で1学期間を過ごした記憶が存在しているわけであって。
申し訳ないが、現状の映真にとって、周囲の人の親切心は仇になってしまっている。
「『高校のことは観己に教えてもらった』って言ったのに。みんな親切すぎるんだよな……。相変わらず、『映真の役』は慣れない……。良い事と言えば、今のところは『席を観己の隣にしてもらった』ことくらいだな」
そうやって映真がへたっていると、純と柳井が食堂へ入って来た。
そして、俺たちのいる席を見つけてやって来る。
「お待たせ、観己と宝生さん」
「2人とも何の話してたの?」
柳井の質問に対して、俺たちは答えをはぐらかす。
「「まあ、学校について色々とね……」」
「へえ……」
柳井は、その言葉を『映真が学校について困っている』という意味だと解釈した。
映真と仲良くなりたい柳井にとって、これは好都合な状況である。
「そうだ、もし分かんないことがあれば、『友達』の俺らにも遠慮なく聞いて良いかr……」
柳井がそう働きかけようとしたところで、別の人物が乱入してきた。
「やっほー! 映真ちゃんを借りていい?」
……カナだ。
自分の言葉を彼女に遮られて、柳井はムッとした。
「おいカナ、どういう意味だ。いつもの陸上部女子連中は一緒じゃないの?」
「もちろん一緒だよ。みんなで女子会するために、映真ちゃんを呼びに来たんだ」
「女子会ねぇ……。でも、先に席に来たのは俺たちの方なんだけど。だから、宝生さんとご飯を食べる権限は俺たちにあるわけで……」
「でも、君たち4人は同じクラスなんだし、映真ちゃんと仲良くなる機会はいくらでもあるでしょ? ウチらは、休み時間か部活中しか時間がないの。だから良いよね?」
「っ……!」
カナと柳井の、敵意全開の視線が衝突する。
まさに一触即発……と言いたいところだが、別に2人の喧嘩など日常茶飯事。
映真にとっては、正直どうでもいいことだ。
しかし、昨日 希美に言われたことを踏まえると……
「あ、じゃあ私、カナの方に行こうかな……」
映真は、弁当を持って立ち上がった。
『女友達』を確立するためだ。
「やった、映真ちゃんナイス!」
「えっ、ちょ宝生さん……?!」
カナの顔はパッと輝き、柳井は顎が外れそうなくらい口をあんぐりと開けた。
純は、いつもの呆れ顔で黙りながら、映真の背中をじっと見ている。
「んじゃ、いってらっしゃい……」
俺は一抹の心配を抱えながら、映真に手を振った。
「またね」
作り笑顔のまま、映真は立ち去って行く。
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カナ、小枝、万華。
3人とも、陸上部に所属する女子たちだ。
いつも観己は、彼女らがワイワイしているのを、遠目で傍観していることが多かった。
しかし、女子となった映真は、ついにこの輪の中に入ることに。
カナは映真を連れ、女子会テーブルに到着する。
「映真ちゃんを呼んできたよ~」
カナの友達2人は、すぐに反応した。
「こんにちは、宝生さん。昨日の部活のミーティング以来ですね」
小枝 玄音。
有名会社の社長の娘で、ドライな性格。
鏡高校には、こういう富裕層の生徒も何人かいる。
その中でも小枝は、観己との交流が比較的ある人物だ。
「おっ、来た来た。片鳥くんの彼女!……っていうのは違ったんだっけ?」
夢咲 万華。
カナに負けず劣らずの陽人間で、2次元3次元に関わらずオタク気質がある女。
『恋愛脳』を拗らせている厄介な奴なので、観己はあまり万華とは関わっていない。
誰とでも分け隔てなく接することを心掛けている観己だが、この3人に対しては、色んな意味でいつも調子を狂わせてしまう。
距離感の近さや、ぶっ飛んだ性格の数々……
果たして大丈夫だろうか。
早速、万華は何やら1人でブツブツ呟いているし。
「で、でもちょっと待って……片鳥くんと宝生さんはいとこの関係で……!
親公認で同棲してて……!
お互いで鎬を削ってるけど確かな信頼関係があって……!
こんなに大量に立ってる恋愛フラグを、どうやったらへし折れるの……?!」
薄気味の悪い、変態じみた万華の顔。
しかも、なんかところどころ万華の想像による補完が入っているし、全く勘弁してほしいものだ。
万華はさらに身を乗り出し、映真に質問をぶつける。
「宝生さんはさ、ぶっちゃけ片鳥くんのことどう思ってるの?」
出た出た。結局、恋バナじゃないか。
「どう思ってるか、って言われても……まあ、観己は『心が通じ合うバディ』に近いかな」
映真は渋々答えた。
(どうだ。『バディ』なら、変な妄想が入る余地もないだろう。
金輪際、万華ワールドを展開するのはよしてくれ)
するとなぜか、万華の顔がぐちゃぐちゃになった。
「ば、ばでぃ……?!(それってもはや……結婚!?)」
(え、万華どうしたの?)
どうやら『バディ』という言葉は逆効果になっていたみたいだが、そんな万華の心の内など、今の映真には知る由がない。
小枝は微笑し、茶を口に運ぶ。
「転入早々に、カナと万華に絡まれるなんて……同情しますよ、宝生さん」
映真は、思わず引きつって笑った。
「あはは……」
それから、4人は昼ご飯を食べ始めることになった。
映真が弁当を開けると、カナがそれに興味を持った。
「うわっ、映真ちゃんのその弁当凄い! 手作りなの?」
「うん。観己が作ったやつだよ」
今日は牛丼風の弁当。
観己も映真も、料理スキルに違いはないので、弁当は交代制で作ることにしている。
肉でカロリー増やしたり、野菜を入れたりと、一応 栄養バランスには気を使っているので、周りの人にも引けを取らないレベルの弁当にはなってると思う。
「えっ、すごーい! 観己っちって料理もいけるのかぁ……。でも、ウチが作った弁当も負けてないから!」
カナも急いで、自分の弁当を取り出す。
(そういえば、カナたちの弁当はなんだかんだで見たことがないな。
陸上大会の時も、弁当を食べるタイミングはみんなバラバラだったし……。
一体どんな感じなんだろ……)
そう思って3人の弁当を見た映真は……言葉を失った。
からあげとカツと白米がギチギチに詰め込まれた弁当。←カナ
様々なキャラや動物を模した『何か』が犇めき合っている弁当。←万華
中心に伊勢海老がぶっ刺さってるおせちみたいな弁当。←小枝
……なんですかこれ。
「え、弁当……これ、どういう……」
映真が上手く言葉を発せずにいると、3人は口々に声をあげる。
「あっ、やば……ウチの弁当ちょっと量少ないかも。もっとからあげ入れてくれば良かったぁ~」
カナの弁当が……『少ない』?! 今のままでも十分、映真の弁当よりも多いと思うんだけど。
ていうか野菜足せや。
カナって毎日これなの?
よく太らずに済んでるよ、お前。
「『ダイヤ』くんかっこいい〜! 食べるのもったいなくなってきた……」
なるほど。
万華の弁当の真ん中に転がっているイケメンキャラの生首は、『ダイヤ』というのか。
多分、チーズの表面に、『ダイヤ』のイラスト画像がプリントしてあるんだろうけど……それ、誰が用意したの? まさか、万華が自分で?
「うーん……いつもより、海老の鮮度が少し落ちてますね。後でシェフに文句言わないと」
んで一番ヤバいのが、小枝、お前だわ。
豪華な弁当ってことは分かってたけど……伊勢海老?!
まるで、家にシェフがいるのが普通のことみたいに言ってやがる。
『裕福』のレベルを履き間違えてました。すみません。
やっぱりこの3人は、常識的な女子高生の範疇からかけ離れている……。
これじゃ、大した情報も集まらないぞ。
……いや、それはどうだろうか。
裏を返せば……この3人に慣れることさえできれば、大抵のことは網羅できそうでもある。
むしろ、これは好機なんじゃないか。
(よし、どうせならこのグループに入ってやろう!)
そう決意する映真の表情を、カナはチラッと見た。
そして、カナは声のトーンを少し落とす。
「ねぇねぇ映真ちゃん。鏡高校はもう慣れた?」
「え?……う、うん。過ごしやすくて良い学校だと思う」
「そっか、良かった〜! ウチの学校、ちょっと変わってるところもあるし……」
いや、変わってるのはお前らの方な。
「もしかしたら映真ちゃんに合わないかも、って思ってたけど、安心したよ!」
笑顔を見せるカナ。
カナって、もっと無礼な奴だと思っていたけど……映真のペースに合わせて話してくれるし、案外まともな人なのかもしれない。
それから映真は、3人と昼食を食べながら、いくらか会話を交わした。
『自分は映真』。
そう言い聞かせれば、コイツらとイチから関係を築くのは悪くない。
(よし、じゃあそろそろ、最近の流行について情報収集を……)
そう思って、映真はカナたちの会話に耳を傾けた。
「あっ、そういえば『WAKEMI』のTikT◯k見た?! 『ホエール』の新作のやつ! 『Double』の『カネキョー』が宣伝やってたよね! 激熱すぎてしぬ!」
「分かるー! 『三面師』の『古銅』のCV:『カネキョー』様……!」
……うーん、前言撤回。情報量過多です。
何を言ってるのか見当もつかない。
映真に、女子会はまだ早かった。




