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第10話 避けては通れぬ道

8月23日。

映真が高校の試験を無事に終え、新学期までの準備を整えている頃。


映真にとって最大の受難の日がやってきた。


「おはよう」

朝7時。俺は目が覚め、隣にいる映真に声をかけた。

しかし映真の様子がおかしい。

明らかにしんどそうな顔をしている。

「……どうしたんだ?」


すると映真はゆっくりと俺の顔を見上げて言った。

「お腹が……痛い……」


下痢か?

いや違う。

これはまさか……


「俺、ちょっとトイレ行ってくる……」

映真はゆっくりと起き上がり、重い足取りで部屋を出ていった。


「おい映真大丈夫か? それはもしかしたら……」

俺は声をかけるが、映真は無視してトイレのドアを閉める。


この光景、俺には身に覚えがある。

希美や双葉でも似たことがあった。

映真も薄々分かっているはずだ。

女子になった以上、避けては通れない道、それは……


「うわあぁっ!」


突然トイレから叫び声が聞こえ、俺はドアを叩いた。

「おい映真!どうした?!」


すると、恐怖が混じった震えるような微かな声が聞こえてくる。


「血……血が……たくさん……」


……そう、映真の生理だ。



ーーーーーーーーーー



〜4日前〜



姉妹2人は再び俺の家へとやって来た。

「2人とも2週間ぶりだね!元気にしてた?」

「映真姉ちゃんテストおつかれ!これで高校に行けるね!」


俺と映真の検査結果と、映真が試験をパスした報告を受け、2人は来てくれたのだ。


「はーいピザだよー!」

双葉は、持って来たピザ箱を居間の机の上に広げる。

4人で食卓を囲むが少し狭い。


「ではカンパーイ!」

双葉の掛け声で、ピザパーティは始まった。

ピザなんて久しぶりだ。

ジャンクフード好きの双葉とは対照的に、俺は味の濃い食べ物はあまり食べてなかったしな。


「おいひい〜」

双葉は無我夢中になってピザを口に詰めている。


希美はコーラを飲みながら、例の検査について触れた。

「2人の検査結果は見させてもらったよ。まさかあそこまで遺伝子が酷似してるとは思わなかったけどね……」


俺と映真は苦笑いをする。

「やっぱ分身なんだなって思わされたよ……」

「でも不思議と男女の違いだけは明確なんだよね……」


すると、希美は思い出したかのように自分の鞄を漁り、あるものを取り出した。

「あっ、そうそう……これを2人にあげとこうと思って」


それは……

「「ナプキン?」」


初め、俺たちはなんでこれを渡されたのかピンと来なかった。

だがすぐに、『とある可能性』について気づいた。


「「まさか……生理?」」


希美は頷く。

「うん。今回の検査で、映真は生物学的には完全に女子だってことが判明したでしょ? 体の年齢は15歳なわけだし、生理が来る可能性も高いと思ったの」


「「まじか……!」」

俺たちに激震が走った。

今まで他人事だと思っていたことが、自らの身に襲いかかると言うのだから。


「下手したら、1週間以内にでも生理は来ると思うよ?」

希美はそう言うが、映真はまだ信じられない。

「いや、でもまだ『来る』と断言することは……」


「最近、気分が不安定になることとかない?」

希美の言葉は、映真の図星だった。

映真は動揺する。

「確かに、言われてみればそんな気も……。もしかしてその理由って、生理が近いから……?!」


希美の予想は恐らく当たるだろう。

女子になった映真に生理だけ来ないという、そんな都合のいい話なんてあるわけがない。

必ずそのXデーはやってくる。


だからこそ俺たちは焦った。

「待て!もし映真に生理が来たら、俺はどうすればいい?」

「生理になったらどんな気持ちに……?」


双葉はピザを頬張ったまま答えた。

「私たちが生理の時は、兄ちゃんは家事してくれたり、温かい飲み物用意してくれたり、色々してくれたでしょ? まあそういうのでいんじゃないかな」


希美も少し考えた後、意見してくれる。

「生理の時、周りの人にどうしてもらいたいかは、人それぞれだからね。『そっとしておいてほしい』って人もいれば、『甘えたい』と感じる人もいる。映真の場合はどうなるかは分かんないね」



ーーーーーーーーーー



〜8月23日〜



ナプキンをつけた映真は、再び布団に潜った。

「あー生理かぁーやっぱりきたかぁ……まさかあんなに血が出るとは、恐ろしいな……」


「大丈夫なのか? 一応、希美に連絡して家まで来てもらった方が……」

俺は映真を心配する。

だが、彼女は親指を立てるだけ。

「俺は大丈夫だから、観己はいつも通り過ごしな。希美には、俺のスマホから報告メールだけ打っておく」


映真のタイプは明確だった。

『強がるタイプ』だった。


しんどいだろうにそれを一切言葉に出さず、ただいつも通り過ごせと俺に言う。


前にも、映真はそれと似たようなことをした。

「髪が長い」などの文句は言っても、「無理をしている」と認めたりはしない。


……そうだ。『片鳥 観己』は強がる人間だ。

表面的で分かりきった悩みや弱さは口にしたとしても、内心の悩みや弱さは決して外に見せない。


なぜなら、人に迷惑をかけたくないから。

弱さを見せることは負けだから。


『片鳥 観己』は信じているのだ。それが正しいことだと。


だから、俺は映真の「大丈夫」という言葉を受け入れる。


本当は映真をもっと励ましたいし、面倒を見たいし、代わりに色々やってあげたりしたいけど、そんな俺のエゴは出さない。


「分かった、俺はいつも通りでいさせてもらう。だが冷たいご飯は作らないようにするな。腹が空いたら好きな時に食べに来てくれ」

それだけ言って、俺は部屋を出た。



ーーーーーーーーーー



夕方。

映真はまた布団に入った。

一日ずっと下腹部が重いし、体が疲れるし、トイレのタイミングが気になる。

映真の想像を遥かに超える苦しさだった。

女の人は毎月のようにこれを経験しているのか……そう思うと、「凄い」以外の言葉が思い浮かばない。


(耐えなきゃ……女子として生きてくと決めたのは俺なんだ。弱音を吐いたら、観己が困るだろう……)


観己は、今日は『映真に対して特に何も気にかけない』でいてくれた。

映真の気持ちを汲んでくれてたからだ。


映真にとっては、それだけでありがたかった。


「……ん?」


その時、映真は違和感に気づいて顔を見上げた。


観己の部屋の窓際に置いてある宝石だ。


宝石には一切触ったりしていないのに、なぜか少しだけ光っている。


その光は、安らぎを与えるものとは少し違って見えた。


何かを訴えるような、必死の警告の光のような……。


「一体何に反応して……?」


だが、光はすぐに消えてしまった。



そして、映真の受難の日は、『何もしない』という方法で無事終わりを迎えた。


それが果たして何を意味するのか、それは宝石しか知らない……。



ーーーーーーーーーー



「なあ町嶋、『片鳥』ってどんな人なの? 鏡高で特待生なんでしょ?」

8月下旬の塾の帰り道。町嶋は、彼のクラスメイトの紐野にそう質問された。


きっかけは、塾の先生が片鳥に興味を示していたこと。

片鳥という人物に非常に強い好奇心をそそられた紐野は、つい先ほど、片鳥が町嶋と同じ高校に通っているということを知ったのだ。


町嶋は少し黙った後、紐野の問いに答えた。

「成績は学年一位。1学期の考査でもほとんど点を落としてなかった。

 足も速い。地区大会の5000mなら、一桁順位は取れる。

 それに、クラスの学級委員も彼が務めてる。リーダーシップもあって、仕事も迅速にこなす。ネガティブな言葉なんて一言も発さずに。

 人当たりも良い。初対面の人とでもコミュニケーションがとれるし、誰とでも分け隔てなく関われる。人と話す時はいつも笑顔だし、困ってる人がいたらすぐに手を差し伸べる。

 家族仲も良好。年下からも年上からも慕われてる。

 ……とまあこんなところだな」


紐野は驚いていた。

町嶋が片鳥の友人だということは聞いていた。だが、まさか町嶋がここまで片鳥のことをよく見ているとは思っていなかったからだ。

「す、すげえな、その片鳥ってやつ。非の打ち所がない超人じゃんか……。次元が違いすぎて嫉妬の気も起きねえよ」

紐野は思わず笑ってしまった。


しかし、町嶋はずっと真顔だった。

紐野はそれを不思議に思った。

「……どうしたんだ町嶋」


「いや……確かに、周りの人からすれば、観己は完全無欠に見えるだろうな。流石は観己だ」

そう呟く町嶋の顔は、少し悲しげに見えた。


紐野は尋ねる。

「それってつまり、超人片鳥にも欠点があるってことか?」


「……あるかもしれない。『見えない』ところに」

町嶋の声は暗かった。


「……ふーん?」

だが紐野は、町嶋の言葉を理解できなかった。

これにて序章 完結。

次回より高校生活編。

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